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「びーれびしろねこ社賞」 応募スレッド
日ごろからB-Reviewをご愛顧いただきありがとうございます。 この度、詩集を出版されているしろねこ社さんとコラボ企画で、 「びーれびしろねこ社賞」を開催します! 大賞受賞者にはなんと無料で詩集の出版権! この度しろねこ社さんのご厚意で開催にいたりました。 大変太っ腹なクリスマス企画なのでぜひ皆さまの渾身の作品でご参加ください。 ---------------------------------------------- 応募はこの投稿のコメント欄から! 作品名と作品を投稿ください~ ※1人2作品まで。 ---------------------------------------------- 賞品 大賞受賞作品1作品 しろねこ社より無料の詩集出版権獲得、しろねこ社既刊全詩集の贈呈 優秀賞1作品 しろねこ社既刊全詩集の贈呈 開催期間 応募期間 12/1-12/20 受賞作発表 12/24 応募方法 運営でびーれびしろねこ社賞用のこのスレッドにコメントをする形で、作品名と作品を投稿ください。 そこに投稿された作品を審査対象とします。 ※応募方法の都合上、横書きとなります。 主な注意事項(必ずお読みください!) – 投稿は1人2作までとします。それ以上投稿した場合は該当ユーザーを選考対象から外すこともありますのでご注意ください。 – 感想や議論など、作品投稿以外のコメントは禁止します。 – 受賞した場合は、B-reviewにご登録のメールアドレスをしろねこ社さんに共有する可能性があります。ただし、個人情報となりますので、これに同意されない方は応募されないようにお願いいたします。またこれはあくまで特例となりますので、この件に関して、運営がメールアドレスを他の第三者に開示することはありません。 – なりすましなどを防ぐため、受賞後の連絡先は登録しているメールアドレスか、ご応募のアカウントに紐づいているtwitterアカウントのみとなります。ご注意ください。 – 既に発表している作品の投稿はお避け下さい。また投稿された作品は、個人情報に関わるなど、一部悪質な投稿の削除以外では削除は行いません。投稿される際は誤投稿などにお気を付けください。 作品ジャンル ご自身が詩と思うものであれば、特にジャンルやテーマは問いません。 選考方法 以下2名の審査員による審査を行います。 B-review運営も補助として選定のお手伝いなどを行います。 ※投稿された作品のみで判断します。応募者の普段の投稿作品やお気に入り数などは選考に関係ありません。 審査員 しろねこ社 Painter Kuroさん 百均さん その他条件 – 作品が商業未契約の状態で、作品の著作権が明確に投稿者本人に帰属するものであることが必須です。盗作などは絶対になさらないようよろしくお願いいたします。 – 作品内容に権利侵害などの問題を生じ、第三者に損害を与えた場合は、すべて応募者様ご本人の責任とさせていただきます。 – 出版に関係する著作権などはしろねこ社さんと受賞後にやりとりください。 – 複数アカウントでの投稿はお避け下さい。判明次第レッドカード処分とします。 – 応募作品は通常のびーれび大賞の選考対象にはなりませんのでご注意ください。 ※通常のびーれび大賞も12月は並行して行います。 – 受賞者は、しろねこ社さんと賞品のやりとりが発生します。最後までやり取りする責任とマナーのある方のみご応募ください。
「びーれびしろねこ社賞」 応募スレッド ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 16680.7
お気に入り数: 5
投票数 : 0
ポイント数 : 142
作成日時 2021-12-01
コメント日時 2021-12-21
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 6 | 6 |
前衛性 | 40 | 9 |
可読性 | 11 | 11 |
エンタメ | 15 | 15 |
技巧 | 8 | 8 |
音韻 | 4 | 4 |
構成 | 58 | 8 |
総合ポイント | 142 | 61 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 20 | 20 |
可読性 | 5.5 | 5.5 |
エンタメ | 7.5 | 7.5 |
技巧 | 4 | 4 |
音韻 | 2 | 2 |
構成 | 29 | 29 |
総合 | 71 | 71 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
作品投稿はここからお願いいたします!
2『鋭利な梢に傷ついて』 鋭利な梢に傷ついて いよいよ喚く御天道様 一陣の風に煽られるのは枯葉の一枚や二枚 痛みによって目を覚ますのは僕も一緒 物音や光で我に返るよりは自然なこと 嗚呼、でも幾度、目覚めを繰り返せば幸福に近づけるのだろう 年月を経ても得るものは賢さばかり 再会を演出することなどやめておけばよかった 怒りと嘲りを浴びるだけだったから みんな成長することに一心なのに僕だけ 過去に向かって細い腕を伸ばそうとしていた ねえ、本気なの? 言われて初めて気づいた己の幼さ 彼女は現在に深く根づいていたのに 僕にはそれができていなかった 純粋で清潔な過去があったことを 彼女にも思い出させたかった ねえ、これからどこかに行くの? どこか どこでもよかった どこかなんて僕にも分からなかった もっと長く彼女と一緒にいたかっただけ いい加減にしてあのまま二人別々の方向へ 数多の枝と同じように 分かれてゆくのが自然なことであったのに 鋭利な梢の枝に突かれて 今日も僕は目を覚ます
1『融通』 風が吹いている。カモメの群れが灯台を目指して飛ぶ時の恍惚たる遊宴を見よ。灯台の灯りがそろそろ灯る。爪切りで爪を切る。ティッシュペーパーの上に散乱した摩耗した破片。古代史の本は1000ページの重力を抱えながら軽やかなシンフォニーを奏でている。個と個の集合体を尊重する一つの割れた球体のガラス瓶。
1たむける花を 1 たむける花を 黙食のさなかに 果てを見て もう果てに着いている ときの果てに 意味を捜して 見つけ噛んで 口中、飽和して あふれ無味する の 痴、もふりゆく中で たむける花を 意識はいつも不安定──あれは幽霊だとおもってたのに もう石だと考えている から よれる よれて、絡む から むしろ坐って 丹田づくり──中心づくりの 脳内 惑星づくり 絞めころすようにいちじるしく よろしい、よろしい 祝祭の果て また 果てに来ているから 着いているから で、一旦まとめ 物をかるく 揺さぶるように歩む 命令が嫌いで しかしマゾっぽく受け入れて 使い勝手の良い人となり ひととなり 竹に似て それは茂り過ぎて不気味で でも覚えておいて 浅い川に 「どうだ 俺の方が早いだろう」 花をながしていた かつて 友達と 2 痴、痴、チッ と舌打ちするが 憤怒の仮面は見当たらず もう私は 怒ることができなくなってしまって いつも神経過敏で 君は? 君? 誰? 遠く、ほんとうのじぶんとは? 歴史上 哲学不要な時代に生きた人は うつくしい 死人のうつくしさとは 花をたむける その程度のものだけど 死人の言葉に安心してしまうの? 本当に? ポンッ、 とシャンパンは開けられ放流・・・ 冴えないワトソン君に何か「伝える」為に 語っているのでない じぶんのことであっぷあっぷ。 精一杯──生きて──生きて──セルフ! エゴ、 エゴの権化 好きなことしかしないし、できないのか・・・ 搾取され続け だから、一方で生活の 大切さばかり繰り言のように呟かれ イイネされ ねぇ、ほんとうに怖いことはないの? たむける花を 黙食のさなかに 果てを見て もう果てに着いている ときの果て 冬陽がさしている
1『無色透明』 悲しみは 無色透明 だから、 誰の心にも はりついて 悲しみは 無色透明 見えぬけれども 確かにあって 悲しみは 無色透明 だから 気がつかぬふりも 出来るのです 悲しみは 無色透明 だからこそ 生きていけるのです 悲しみに色がつくと するのなら それこそが わたし色で あなたの色なのかも しれません けれども 悲しみは無色透明 時々涙になりかわり 落ちてくるから そっとすくい取り 度々言葉に重なって だから気がついたら 誰のそれにも 寄り添いたいと 思うのです 悲しみは無色透明 誰の悲しみも ひゃくぱーせんと 平等に 悲しみだから 無色透明 今日も誰もが 笑って見せても 悲しみは
1『好きの地平』 好きの何処かに地平があると聞いて やって来た静かな町 炭鉱のある町 偲びの煙突 枯れた浴場に 聞き分けの無い兄弟 泣きべその跡がそこかしこに 好きの期待に答えて散った 難しい過去がある町 港に浮かぶ町 肉屋のテーマが流れ 勇敢な少年団が結成される 彼等は年頃の消防団と競う 終われば漁に駆り出され 好きが帰ると口にした思い出の 明るい三叉路の町 アイドルの住む町 呟きが高値で取り引きされ 懐かしい食器が積み上がる ゴールを揺らした少女の膝が つっかえながら通り過ぎ 好きの地平に木霊する まだ匂いの残る町 高利貸しの応接間に獣 木彫りの薬剤まで染みて おお好きと同じくらいの 町よ町 追い詰められた強盗の 偽名を使って請う許し またあくる日は 変な名前のパンが流行る
1『空気コーヒー(最高濃度ver.)』 「21年間も、遅刻して、ごめん」 遅れてきた恐怖の大王が、 謝罪しながら、世界を終わらせる。 演技でイったフリしてる、不思議の国のアリス。 スワイプしまくって、世界を吹っ飛ばす。 眼球の受信料、払い忘れて、 視界全部に、 スクランブルが、かかってる。 味覚障害のミシュランは、 ドッグフードに五つ星を付ける。 テレパシー使える、温泉芸者が、 宛先不明の郵便物を、相手の脳に直接、宅配。 心がまだ、君を好きなまま、フリーズドライしてる。 本当は、 シャボン玉になるはずだった私は、 誰かに触れられただけで、 弾けて潰れる。 何もしないで、今日が終わった、 命の節約家。 季節を食べる、虫たちのせいで、四季が消滅した後の世界。 シザーハンズと、同じ博士に作られた、 全ての指が、ハサミの女の子。 全身を埋め尽くす、QRコード。 全てが怪しい、出会い系サイトに繋がる。 銀河鉄道で発生した痴漢事件。 外に逃げ出した加害者は、 たまたま横切った、隕石にしがみつく。 プーさんが、いつも上に着てる、 赤いシャツ脱ぐほどの熱帯夜。 肉眼で、見えるようになった永遠は、 空気コーヒーのような、水色をしていた。 捜査一課に配属された、天才バカボンの本官は、 繋がった眼球から、ビームを出して、 全ての雲を、クリーム色のピストルに変える。 人類全員が、 楽器に変身できるようになった世界で、 私は三絃しかない、 アコースティックギターに変わる。
3『幽霊地球』 終電逃した神様が始発待つ間に作った、 新しい生き物は、エレキギター片手に、 世界一悲しい歌を歌う。 月の裏側にある街で、 マッチングアプリ起動したら、 ものすごい数の、リトルグリーンメン。 迎えに来るUFOは、アダムスキー型。 幽体離脱して、空から自分の後ろ姿を見たら、 あんな所に寝癖ついてる。 スキップ機能付きの走馬灯で、 飛ばしまくった学生時代の全部。 ペットボトルロケット MADE IN NASAで、 たどり着いてた惑星は、幽霊になった地球。 エイプリルフールについたウソ全部、 現実に起こる世界で、 「ママは生きてる」って言ったら、 生き返ったママが、 後ろから私を抱きしめてくれた。
2『あなたはどうですか?』 辞めた野球部の声が六畳一間に響いてくる。 桜は周回して二度は散ったし、 僕はその散り際を友だちと一度も仰ぐことはなかった。 卒業アルバムに僕の姿はないし、 背丈の高い集合団地の影だけが僕を覆い隠していく。 地図はあったが使い勝手が分からず、ただ日めくりが剥がれるのを待つだけの日々。 心のシリアルキラー。 体育祭も、 文化祭も、 修学旅行も、 僕から遠のいては僕を立ち尽くさせる。 数学は正しいから嫌いだ。 文学は嘘をつくから好きだ。 僕も決して正直者ではないからね。これでイーブンだろ? 一瞬だけ掠めるのは、幼い頃の沖縄。国際通りの匂い。 ハイビスカスの色が彼女の手首の血よりも、 こうも胸を突いてくるとは、思いもしなかった。 故郷は大好きかい? お前(故郷)は俺(僕)のことが好きかい? 俺はお前のことが死ぬほど嫌いだ。 だからお前も俺を嫌っていいんだぜ? オアイコだろ。そんな恨みがましい目でこっちを見んな。 高校も、多分行かないんだろう。 またどこかで誰かが戦争やってるのが聴こえる。 俺と一緒であいつらもドンパチが好きだからな。 今日も今日とて、 殺し合う。 弱者救済? 今さら何を言ってるんだ? 俺を一度も助けてくれなかったのに。向こうへ行け。目障りだから。 グルグルと頭を回転するのは、 毎日毎日飽きもせず、 文字で痛めつけ合う、 戦闘機。 辞めた野球部の声は今でも、 30年を隔てた今でもやけに耳にまとわりついてくる。 俺は孤独じゃなかったかい? 失うものを、最小限に食い留めることが出来たかい? 桜は両手で数えられないほど散ったし。 周回。 どれだけの人間がその散り様を僕(俺)と共有出来ただろう。 この二文字を使うのがもし許されるのなら、 僕は「幸せ」だったかい? 斜めに傾けた頬で弾けるのは赤い水飛沫。 声も、息も、 切れ切れ。 ぜえぜえ、 喘鳴を吐き出して、 最後にたどり着くのは、 損得なしの、 さようなら。 あんたはどうだい?
1見るかぎり、くそだ。きみはかれらにおしろいをかけてもらってるいるだけの畜生だ。しろねこ社 Painter Kuro、百均なんか信じるな。不貞であれ、不成立であれ、不文であれ、人生のまちがったところにしか詩はない。
2十二月にて 爆弾低気圧で幕を開けた十二月 いつだってこんな結果だと雨のなか 笑っていたのか 泣いていたのか 雨は上がった 体は体自体を縛りつづけている 体が魂を縛っているんじゃなかった こんな気づきも 向こう側の世界に持っていけたら、とか ウイルスが流行していなくとも 僕はいつもじぶん、というウイルスを 培養していたさ、とか なんだろ ほんとうに厳しい時間が訪れないので 町の街燈はぼうっとしている 突っ立っている 突っ立っている だけ 突っ立っている だけの仕事 悔しいけどそれしかないんだ 夢を見るよ ほんとうのじぶんになれると 夢を思いかえすよ という 乾いた言の葉の裏で 麻婆豆腐をいただいて 「美味しい」とうなずいている 蜂蜜を足らしたような生活は 唯一の誇りで でも こっちの方が いつか覚めてしまう夢かも知れない 鏡を見ないよう歯を磨く いっしょうけんめい歯を磨く これは母に教わったこと ああ 書いてしまった 母に「わたしのことを詩にしないで」と かたく言われていたが破ってしまった 心散らかって 救ってくれるのはいつでも妻で 僕もあなただけを救わせて 乞うてる 助けを求めている どうかあなたを救わせてください 僕が道を行くとき いつもあなたの背中があって ああ 俺、脚悪いやんけ と 病気を意識する レディ・ファーストでごまかすけど 来年は体鍛えようと考えている コンクリート割るよ かかとで 詩も含めて やり残したことはないと信じたかった 今 世界がぼやけて見える代わり やり残したことだらけだと感じる 考える のでなく ゾクッ っと感じる 罪の意識のよう 罰に叱られたときのよう 発見した物 発見したこと すべてを書かない内は 死ねないなと感じたが そのスピードの加速についていけない 代わり 今日も炬燵で欠伸している
1『ゆりかご 揺れる』 砲音 響き ゆりかご 揺れる 人知れず 森の中 砲を 銃を 火器を 運び 携え 撃発する 地面が揺れる その時 ここにいると 時に伝わる 多くは知られる事もない 闇を歩き 雨に打たれ 山に潜む 銃声は掻き消され 誰も気づかない それがいい 忘れられた重荷を 背負い 硬い戦闘靴が 地面を揺らす ゆりかごよ 揺れろ 我らが護る
1横に居る犬は地響きを立てて揺れるのも気にしない。安心しているのだ。守るから。安心しているのだ。鳩時計は時を告げる。告げるのは時だけではない。三角と丸と四角それらの共有その輝き合わさるを見よ。狭間には海と空とが同化する。宇宙と自然と窓際のコップとは同じもの。カクタスの棘は刺さらない。痛くも痒くもないのだ。
1『相談雨』 まだ濡れそぼる雨の話をしよう 二人どうしていいのかわからない時 何も出て来なくて笑うしかなかった 舗道の消火器をくるり避けて くるくる回って 傘もくるくる ビルの窓硝子が昨日より少ない光を映して 素敵な答えがもうすぐやって来るだろうか? 二人とも手放しで賛成しちゃうような そんな素敵な答えが パッと現れるだろうか? 風見鶏、空を見た 始める気だな それがある場所を知っている こっそり行く気だな (教えるつもりは無いらしい) まだ濡れてさえいない肩先の話をしよう 誰も守れないのに僕たち 目鼻があって手足があって 愛もある その髪型が僕のためだけにあると言うなら 今夜は花を買って帰ろう 花屋はどこだ? 教えてくれよ 花屋はどこだ? か細い手を引いて、道行く人に尋ねて回る 花屋はどこだ? 何処なんだ? 風見鶏、うなずいてさ ねえ、まだ晴れてさえいない今の話をしよう そんな君の声も届かない
1『 _/ 』 .. . . 営靴福追求撃発射為日裏苦憂的幸絶賛痛 / .. ¦ 丨 + 艹 ◆ ◆ + ・・ 艹 ◆ ..louvosndrtesk + 艹 + 艹 ◆ _ + 艹 ・・ 艹 \ 丨 . . 撃夢落眠覚毒火死醒当下発迫意蠱傘下鋭亡 .. . \ agitaromasemenvos
3『下校』 マスクしろ! マスクしろ! マスクしろ! マスクしろ! マスクしろ! うるさい! 女の気持ち考えたことある⁉︎ たけっち なんか、死んでほしいよな わかる おれ何もしてないのに あいつがおれのせいにしたんよ だからおれさ、鎌かけてさ あいつのせいにしたった 背負われてゆくランドセルたちへ メリークリスマス
5きらぴか わたしは交通事故現場 傘を開いてゼリーを食べましょう わかってしまった長嶋茂雄 不気味に笑う岸部一徳 あるよね人名には力が 雨が 降っている かどうかはこの際どうでもよく だってもう始まってしまったから 和のエレクトリカルパレード ぞろぞろと百鬼夜行かな どんぐり撒いちゃお 後援会は強いんだよ うかつなこと言うと消されちゃうんだから アハ! わしもしもしもわしーもー♪ 重体だ すぐにLEDの準備を! 少ない消費電力で明るく点灯 これで長寿命だね カラフルに照らされて 死んだ…… 発狂院のどぐろ 享年29歳 発狂院家の葬儀は 華やかに執り行われ 遺影はプリクラ お棺はラメラメ 参列者は思い思いの短詩を吟じ 相互に批評し これが文化というものだ 参ったか マイッタマイッタ もう何も言うな 確かに雨が降っている 傘を閉じて コロッケを買いに行こう
1『 ひまわりのひと 』 きみのすべてを知らない だけど きみという花が、 ほんのり冷たく 心地よい風に吹かれて 青空の大地に 凛と立っていたのを ぼくは、知っている きみのココロは、 太陽にも 負けない! 無限のほほえみを 湛えて 歌をうたっていたから 木々や、野辺の草花たちも 楽しそうに 揺れていたんだよ 夏の終わり、数えきれないほどの嵐が、 きみに 押し寄せた 花は、憔悴し切った顔で "モウワタシ、オワリナノ?" と言って 涙のような 種を、地面に落とした いのちを分けた、きみの 無限のほほえみを その大地の土を、ぼくは、 そっと 手のひらで 掬った きみを 胸に抱き寄せたら もう涙が、 止まらなかった...
2シュールって何? ⚠これは、一部我の妄想あり シュールの辞書的意味 【形動】 (「シュールレアリスム」の略」) 超現実的なさま シュールって何? 腹巻きと下着だけの女性2人の広告がど真ん中に鎮座し Enjoy talking with your friends. シュールって何? 雪の日に、家族とスーパーに行き、エントランスをなんとか突破するも、野菜売り場でこけ野次馬kidsにさらされたこと シュールって何? 英語の授業中、一人風にさらわれ、紙の毛がさらわれ、teacherにがんみされたこと Oh my goodness. シュールって何? テーマパークにいったら、キャラクターが脇をすごい勢いで脇を通り抜け「やべー、遅刻だー」 以上、終了である
1『カナリアの告白』 僕は君と会うたびに告白する 好きとか、愛してるとか 一端の詩人を気取り 直喩と暗喩で恋心を綴った 永遠に続く長いラブレターや 甘いラブソングを捧げる 林檎クッキーのプレゼントも贈る 君は子供のような瞳で受け取り 不思議そうに首をかしげて 「どうして告白するの?私たちは もう付き合っているじゃない? 何か後ろめたいことでもあるの?」と尋ねる 僕は上手く答えることができない 口説いてる訳じゃないんだ 優しいキスをしながら考える、例えば 歌わなくなったカナリアは きっと歌を忘れてしまうんだよ 砂浜にうちあげられた 魚はひとりでは海に戻れない 地上に落ちた天使も同じことさ 僕が「好きだ」というのは 口癖なんかじゃないんだ 告白ではなくて祈りなのかもしれない 告白ではなくて呪いなのかもしれない 人生とは血の繋がってない家族を探す旅だ 霧に隠れて色褪せてゆき 透明になってゆくのが怖い 君がいなくちゃ生きていけない
2人工調律 抒情の翳、 華という疑問符を経巡る鱗翅類の舞踏より 窒息する肺腑に 開く多翼果種の幹に 逃亡を遂げた幽霊 葦小舟から流され、 臍帯の痕を蓼の花が軋む 望遠鏡より蒼穹を跨ぐ群像 尖鋭と退廃の咽喉が全く等しい構造を呈す オクターブの群蝶である事実が、 何物をも意味しない時 展覧会は機関、船舶への暴風雨を抱え 非在の鏡へと滴る 存在の不均衡な事情 つまり他者を生きる自己の 一見 無矛盾にも把握されるがごとき、相貌、或は靴底は 形而下の比いなき現象体を白痴とも蔑み 微粒子の結実、 架空とも表現し得る、骨格が 終極に遺伝された機序が 人工の概念に因ってしか在り得ない、精神など、を 洞察下に置く、その衰滅を宣告する迄、 それ迄は、 想像の俘虜達に 投壜と婚姻の倣いを 教授する、偶像曰く 孤絶は記述にあり、群衆はその紙片である、と 貧窮を、死までの糊口を凌ぐためには、鳥はその想像よりも高く飛ばなければならない
2『それぞれに王国の花園』 室町の武士からして往来人が自分を笑った笑わないの問答の末に人を斬ったりしているのだから、我々が駅までの道のりを歩くときに何かしら気にかかるのは当然である。 夜中の空は昏すぎてどうしても見上げていられないから代わりに蛍光灯の白い光の部屋で布団をかぶっている。 そもそも、そのために蛍光灯は開発されたと言って良いし、夜の電車にもおそろしい昼間の漂白したような光彩は蔓衍している。 貴君らは記憶を貶めてはならないだろうし、それ以上に自らを呑み込ませようとしてはならないだろう。時間は最も透明な高貴さの意味を含んでいるだろうから、大人とか子どもとかいう強烈に他者を表現した言葉がある。時間差の作用で我々には常に他者が棲んでいる。他人の気持ちなんかわからないで、世界中の時計は同様な一回転をする。そうしている。美しいものは大抵乱暴なんだが、だから不完全な質量のある乱暴さというのは見るに耐えぬものだ。
2『2021/11/27/14:00〜20:00グループホーム勤務』 ワンタンでた てんし入ってる ドアあけてる おにいさん はこんでる 箱はこんでる テレビつけてる 8つけてる 4つけてる いっつも2みてる あくしゅしよー あくしゅー あれはこんでる おかあさんおしっこ行ってる ここでんち入ってる いえーいする あくしゅしよー あくしゅー こっちも あくしゅー てつだってる はこんでる がんばってる 字かいてる そこにペンある 丸かいてる 順番が回ってきて時間なので、お風呂に入りましょうか パンツ ほしい それちがう 赤とって 星ほしい ほかの柄 もって かごもって はいる あれない 青ほしい ちがう 赤 きいてなー よいしょー よいしょー あけるドア 体あらって いえーいする 今日いえーいする あらって あらって のんでるお茶 かんぱいしてる 3じに のんでる、あったかい コップで のぼせてしまうので、そろそろお風呂から上がりましょうか あがる かんぱいしてる コップもってる おかあさんと 3じに あったかい お茶 のんでるー おにいさん ここかゆい ぬってな はい、わかりました、薬塗りますね おにいさん かゆい うでかゆい 大丈夫ですよ、薬塗りますから、痒みも治ります おにいさん おにいさん わかりましたから、はい おにいさん、あくしゅする あくしゅー こっちも あくしゅー 君さ、あれやな、幸せなんやな うん それから服を着させ、夕御飯を食べる介助をし、薬を飲ませて歯磨きの手伝い、更にその他諸々の雑務を終え、最後に次の職員への引き継ぎも完了させて、それで今こうして歩いて帰ってるねんけど、なんかおれ、なんでやろ『戦場のメリークリスマス』が分かってきたかもしれん、え、うわ、この道から見上げたら星が奇麗に見えるわ、なー、おれも星欲しいけねんけどなー、うん
8お散歩日和 和紙のような手触りの白い月が、ぽっかりと穴の空いた青空にうかんでいる。大きな工場が建ち並ぶ埋め立て地を歩く。ここからは海が見えない。橋から見える川の緩慢な流れだけが海の近さを知らせてくれる。椎の木の並木道にどんぐりがいくつも落ちていて、意図せずに何個か踏み潰していた。冷たく強い風の中を一羽のモンシロチョウがよろよろと飛ぶ。 なにもかも内部構造は脆い。瓦解しないうちに息絶えるものもいる。駆け回ってた幼年時、転んだ時の土の味。口いっぱいの苦味を思い起こしながら、植え込みに生い茂った雑草を一本引っこ抜く。そして、放り投げる。いつの間にか白い月は隠れ、モンシロチョウもいなくなっていた。ずいぶんと遠くまで歩いてきた気がする。空腹でお腹がきゅるきゅると鳴る。まだ少し幼さの残る顔をした冬の日差しが柔らかい日のこと、ぱきりとひとつどんぐりを踏み潰して……。
2「輝ける月はどこ?」 時計の針が、 文字盤と最後の交接を遂げた 日 は苔むす石碑の伝承に、 天空、水でも大地でもなく、 透きとおった 子宮は、 なお眩く、鼓動。 翼 は ほむら、 服たちは晴れ空、人の形象は画一な、 有機テキなコトは 粘菌巣喰う 森の中、 言葉が カトラリーでなくなり インクが色から解放され 久しい、 鳥の羽 が 燃える。 羽 搏きは光を縫い 止める。 ひとみは 満ち 引き する ? 輝ける月はどこ? なにもかも 忘れて、輝きに満ちて、 影は寄り添うもの、瞬きはだめよ。
1「光に希望を見てしまふこの条件反射的な思考法は誤謬である」 視覚がものいふ世界の把捉の仕方において 当然、光が尊ばれるのはいふに及ばぬが、 だからといって例へば闇の中で光に希望を見てしまふ この条件反射的なる思考法は誤謬である。 闇の中においては仮令、光が差し込まふが 光に背を向けて闇の奥へと突き進むのが正しい姿勢である。 それは、闇の中に光が差し込むことで、 それまで闇の中でぢっと黙考してきたことが断絶し、 いとも簡単にそれが棄てられてしまふのであるが、 無心に光を信ずるこの条件反射的な思考法が 正しいと保証するものが何にもないことに 少し立ち止まって考へれば、 誰もが気付く筈である。 それにも拘はらず光=希望と看做す条件反射はなくならぬどころか、 益益堅牢な記号として此の世に幅を利かせてゐるが、 この条件反射に従順に反応してしまふことは 泰然たる自己肯定に安住する世界が仕掛けた罠であることに やがて自縄自縛に陥る二進も三進もゆかぬ吾の状態を見れば、 火を見るよりも明らかである。 白日の下では吾は逃げ場を失ひStripper(ストリッパー)よろしく、 吾を晒さずば吾の存在証明足らざるを得ぬ光の世界の残酷さに 吾はまもなく打ちのめされる。 さうして吾は内部の闇に閉ぢ籠もるのであるが、 その居心地の悪さは非情である。 ならば、初めから光に釣られることなく 闇に留まるべきなのだ。 さうして黙考に耽溺し、 残酷な光から逃れながら、 懐深い闇の中で、 自由に溺れる悦楽を満喫すべきなのだ。 さうして吾は狡猾な光の罠にかかることなく、 分け入っても分け入っても闇の中で、 自己解放する醜悪なる頽廃に 身を委ねるのも乙なものなのである。
2「往復を繰り返す渾沌の時間が未来を切り拓くか」 固有時の内実を見れば その内部で固有時は絶えず過去と現在の「私」といふ意識の往還であり、 その往還が時折、ヒョンとあらぬ方向へと飛んで、 思ひもかけぬ未来が拓ける事があるのは、 主体と呼ばれるものであれば何ものも経験済みの事だらう。 確かにデカルトのいふ通り吾は絶えず考へてゐて、 その考へ方が絶え間なき「私」の過去、現在、未来、つまり、去来現(こらいげん)の往復であり、 考へれば考へるほどに吾は「私」の内部に無限に拓けてゐて宇宙をも呑み込み 其処では虚空が映える滅茶苦茶な時空間が存在してゐるのは、 これまた、誰もが認識してゐて、 その時空間があるお陰で吾は考えてゐる時、 不可思議な自在感に囚はれるものなのだ。 その時空間ではそもそも時間が一筋縄では流れず、 去来現がある種平面上に俎上されたかのやうな具合で、 それはポップコーンが爆(は)ぜるやうにして 出来事の事象が「私」に迫って来て、 その出来事の迫り来る仕方は ポップコーンの唐黍(もろこし)の種のどれが爆ぜるのかは予測不可能なやうに 蓋然性を持って過去に吾に起きた或る出来事が時間軸から解放され 突然、現在の吾に迫り来て、 考への進む方向の暗示を与へてくれたり、生き方に多大な影響を与へたり 過去といふ時間軸の串刺しから解き放たれた記憶は、 時間の連続性を気にせずに 時系列としては全く正しくないのであるが、 出来事はガラガラポンとかき混ぜられて 出来事は一度超主観的な判断で腑分けされるやうに 或る親和性で以て纏められるものなのだ。 これがもし行はれないとするならば、 独創性など生まれる筈もなく、 つまり、「私」の内部の時間は正(まさ)しく渾沌でしかなく、 また、渾沌としてゐなければ、 未来を知る由もなかったであらう。 詰まる所、渾沌が多様な生の坩堝なのだ。 そして、吾は内部に渾沌を抱へてゐるものなのだ。 一刻を生き延びるために。
2『アダージェット』 瑠璃 銀河のせせらぎが遠く流れ去り 白亜の扉が開くとき 差し出されたま新しい園に 素足はかけ出していく 常緑樹の葉から滴る透明な雫 紅薔薇のまだ少し眠い目蓋 煌めきに縁取られて 蒸発する諸々の翳たち 桃色に染まり始めた空を 鳥たちが流星のように 飛んでは消えていく 銀に彩られた枝々に実る赤紫の果実 捥いで齧れば 甘く熟れた香りが鼻腔に広がり 未来は眼裏に甦える 透明な指先が頁を捲り 悲しみは きのうの物語に変わる 天体が美しく回転するたびに 何度でも立ち現れる光の地平 その遥かな遠近法の上に 暁は自らの姿を描いていく
3「夢の中の夢に落ち、夢に目覚めて夢でまた」 1度目。 語りかけてくる男がいる。 「お前の血縁は光が多い故に陰もまた多い。末裔よ、最期はお前が決めろ。」 そして、見たことのないビスマス以上に気色悪い色をしている金属の刀を渡された。 私はそれを。喉に刺した。血も流れず、流れたのは虹色の液体ですぐにその後に気化した後、どこかへ消えてしまった。 2度目。 鴉が居た。 正確には鴉天狗のような大きい鳥が居た。 「お前、こっちに来たのか。そうか。」 鴉天狗の胸にはどこかで見た紋章があり、その紋章は刀に付いていたものと同じだった。 「貴方は誰ですか?」 私は問うた。 「何故、喉に刃を刺したのに話せるのか?」 「夢のまた夢に居るからです。」 当たり前の話をした。 「お前はまた潜るのか?」 「潜るも何も戻り方もわからないし、それよりもただ私は平和に眠りたいだけなのです。」 そう訴えたものの鴉天狗に理解されるわけでもなく、ただ啼き声だけが響いた。 3度目。 窓辺で一人で眠っていた。 どこかのアパートの一室に閉じ込められているようだった。部屋は植物のプランターで埋め尽くされていた。色とりどりの花や季節や国などお構いなしに植えられており、鼻が千切れかけた。その植物たちをよく見ると面白い虫たちが葉を食っていた。私が普段飲んでいる薬と同じ色の芋虫や蝶々が植物を食い散らし、飛び回っていた。あまりに美しく冒涜的な光景にその場を通り過ぎようとした。すると部屋のラフレシアが見たこともない叫びをあげ、小蝿が私を追いかけた。私は小蝿に囲まれ、皮膚を食われながら部屋を出た。 4度目。 語りかけてくる男がいる。 「お前の血縁は光が多い故に陰もまた多い。末裔よ、最期はお前が決めろ。」 そして、見たことのないビスマス以上に気色悪い色をしている金属の刀を渡された。 私はそれを。 何もせずに見ていた。 「ただ繰り返すだけでしょう。でもこの世界に逃げてたら、いつか何処にも帰れなくなる。そうでしょう。」 「私は生きてみせます。」 「そうか。」 度目。 目を覚ましたら、自分の部屋だった。 いつもの薬を飲んでゆっくりと立ち上がる。 息をするだけ、それだけで良いのなら。 また会いましょう。白い服の私はどこかへ通り過ぎて行った。 N回目。ただ、その螺旋を私たちはずっと眺めていた。
1『小鳥』 脳内に 一羽の小鳥が鳴いている 空気を震わせて かき混ぜられる記憶のコップ 広がっては消えていく波紋 水面ではあの日の骨が燃えている やがて 一羽の小鳥は羽広げ 跡形もなく飛び去った 静寂の淵に取り残されて 思い出す 愛しい人の 上下する喉仏
1皆様、作品投稿ありがとうございます。びーれび運営です。過去作品を投稿している方がいらっしゃるようなので、改めて注意させてください。ここへの投稿は完全新作オンリーとなります。以前どこかで発表した過去作品は全て投稿対象外となるのでよろしくお願いいたします。運営の注意喚起が甘い部分もあるので、特に今までの投稿者に関してはペナルティはありませんが、投稿時、改めて作品をご確認いただけますようお願いいたします。
7「やまいだれ」 やまいだれを 道行く人たちが 服の上に羽織って 通り過ぎていく 風に煽られて コートの裾のように ひらひらと翻る どうしようもなく やまいだれを 身に着けたくなる この胸の痛みを 喉の奥の嗚咽を 整えられた用語で 誤魔化してしまいたい 脱ぎ捨てられた やまいだれが 古着屋の店先で 僕を手招きする 一度袖を通せば もう抜け出せない 誰にも責められることなく 冬の風に怯えなくて済む くしゃみを一つ わざとしてみた 風邪なんか 引いていないのに 心に効く 鎮痛剤が あればいいのに やまいだれは 容赦なく 僕を睨みつける お前はまだ立てるだろうと 治まらない微熱 火照った身体を 引き摺りながら 青と赤の境界線を 虚ろな眼で探す 空がまた高くなった 僕の背は 子供に戻りつつある
1「人工呼吸」 小学生くらいの 男の子が蹲って ケースから取り出した 青色のピアニカに 息を吹き込んでいた 呼吸をしていないよ 男の子は顔を真っ赤にして 白いパイプを咥え 頬を膨らませて 泣きじゃくっていた 僕は近寄って ピアニカの鍵盤を 叩いてみせた 勢いよく吐き出された 青緑色の海水 ピアニカは溺れていた 雑音ばかりの大海に その喘ぎ声は 音階を昇っていき 男の子の笑い声と重なり 美しい和音になった 僕は楽器店で ピアニカのパイプを買った 自分の胸に挿し込み 思い切り息を吹き込む この身体に隠された 朱色の鍵盤を探す 鉛色の空と街の狭間で 僕は溺死している 黒く濁った肺の中で 小さな魚が一匹 優雅に泳いでいる 僕は毎晩 誰もいない暗い浜辺に 打ち上げられる 呼吸を忘れたまま
1『経過観察』 鮭の座礁、虚空の出来事だと言わせない烙印。 窪地で育んだ粘膜 悠長な善玉菌を一掃して腫れた視界を 大地のアルゴリズムで結びつける。 低体温症になれどなれど、 倒置法が救うのは自意識だけ。 吊革の循環器を全うすることに意味があり 砂嚢とは利害関係で居続ける たったそれだけの出力変換が、 二小節の間に不法投棄されて除け者にされる。 泥濘を露呈する迄 サイケデリックは天井に張りついて 卵子の甲斐性を否定する 憂さ晴らしは痕跡を残して添加 僕達は怠惰を主食に自滅しようとしている なんて笑いながら、月を膝の上で 大事そうに、飼い慣らす。 低体温症になれどなれど、 聴診器は肺で閊えた蛋白質を探れない。 有機物としてカメリアを授け 霙を腐海に沈めた日を境として 備蓄した褐色矮星の親不孝を眺める 緩やかな塩基性は侵食して改造機 自尊心に褐色を、辟易する記憶の余韻を、 詰るバラッドから酸素だけを選り好みする。 語尾は衛星の下働きを続けて 四つの示指に麻痺した世迷言を捧げる 通過点に数えられて、逸らした刹那で いつかの私と、幻を着せる。 香水みたいな半音階先の憂い、それが。
1『殄滅』 右手の共有を頼りに 懐中時計が軋む音で貴女の眠りを数えた。 肌寒い ぼやけた冬のはなし 歪んだ 信仰の記録 硝子玉に転写させた光が最後の景色というすべて。 色素を明け渡すように飽和する線香と 修繕前の避雷針と、世迷言。 十二畳が気触れを訴えるまでもなく 黒海に揺られた水夫は僅かに嗤う 嗚咽を主食に添えて晩餐会を開く気だ 後退り、は、花鶏に啄まれて、微睡み。 悪い夢から覚めてもわたしの気管支は空っぽだ。 金槌を打つ。金槌を打つ。金槌を打つ。 美化された着眼点を愛しています という同素体は、決まって鮮血に飢えている。 正方形の願いを掻き消すアルコールに 能動的を植え付けられる二桁の初動 背中に住処を移した倦怠感が いっしょに燃えて、ばらばらばらばら。 さよなら さようなら かみさま 右手に抱えた毒素を異種と据えるなら 破裂音は鎮魂歌の添加物になる 飾り気のない夜を借りて 手繰り寄せの真似事に償いを孕ませる 欠乏症はわたしと、ぼくの贖罪。 残影を栄養に育った言葉が たった一つ残された、都合のいい痕跡。
1「抱擁」 外は真夜中だ。静かで無人で、燭台の灯だけが長椅子を照らす。 名前も歴史もある神の像が正面に燦然と輝いている。 この世にはもう救われるべき絶望がなくなって久しく、 像は遠く過ぎ去った日の栄光の影だったけれど、 それでも迷う子羊たちの目には随分と頼もしく見えた。 いつからそこへ通うようになったか分からない。 気が付くと重たい扉を一人叩いて、長椅子に座るのが日課になった。 木材で出来た椅子はとても冷たく、硬いので長居は出来ない。 そこで目を閉じ、訪れるはずのないひとを待つ。 待っている、ということも忘れるまで一人待ち続ける。 若く、時間が不可逆だということも分からない自分だ。 暇潰しと称して目を閉じていると、世界から切り放された気分になれた。 和やかな笑顔を湛えてこちらを見ていた月も陰り、太陽は遠く。 待ち人が誰なのかも分からないままで、夜は孤独に更けていく。 神のみ前に姿を現せない種族がいるということを、いつ知っただろう。 彼らは夜に溶け込む才能があり、神に追放された身の上も気にしない。 享楽と狂乱と時に訪れる沈黙。沈黙にこそ価値があるのだが、それも彼らは気にしない。 おおむね日の光の下が苦手で、神の威光ともなれば猶更だった。 夜闇に紛れて食って、飲んで、殺して、吐いて、一切の妥協を許さず罪を重ねる。 彼は吸血鬼だった。それほど狡猾でもなければ、残虐な訳でもなかった。 ただ血を受け継いでいるだけで、人間よりもよっぽど人間らしく働いた。 だが体質として人間の血を好んで飲むことだけは止められず、 明るい日の下を歩くこともすすんでしようはとしない。 大体それぐらいのことしか思い出せないが、どうにも心に引っ掛かるのだ。 目を閉じてあの赤い瞳を思い出してみると、心の底まで見透かされると思った。 神は人の血を啜る魔物を許すのだろうか。この小さな聖堂に入ることを。 目を瞑って毎日何時間も物思いに耽り、結局それが知りたいだけだったのかもしれないと思った。 この世には、生きていてはいけない者が存在するのだろうか? 幸福を許されない者がいるのだろうか? 次第に自分の沈黙が祈りの姿に変わっていくことも、誰も知らなかった。 決して来る筈のない影、決して消えることのない炎、交わらない者同士の契り。 ここにいれば邪悪に会うことはないだろう。これは人間として正しい行いだ。 待ち続けることは、つまりあのひとへの神の許しを私が望んでいるということでもあるが、 許されたあなたはもうあなたではない。 私は私の祈りがどれだけ救われないかも、気付いていなかった。 たった一度でいいから、もう一度会えれば良かった。
1「赤色、ズキン」 わたし、あなたに恋をしちゃいました。その強そうな身体にふかふかの羽衣。 わたし、あたまにずきんときちゃいました。その目に光の点が見えてチラリチラリ。ぐらりぐらりと世界はメリーゴーランド。 わたし、これからお使いへ行ってきます。あなたが好きそうな赤いコスモスを持っていきます。せっかくだから好物のお肉も持っていくわ。 「ねぇ、どうしてあたまがそんなにおおきいの?」 「ねぇ、どうしてからだがふさふさしているの?」 「ねぇ、その大きいお口を見せて?」 私、あなたに恋をしました。 だから、私をもっとズキンとさせて? 持っていた銃で祖母を撃っちゃいました。だって、あなたが好きすぎて祖母が邪魔だったんですもの。 ねぇ、大好きなひと。 どうして頭から血を流しているの?今聞こえた音は私たちを歓迎してくれる花火の音?ああ、お前が撃ったのね。ズキンズキン。止まぬ心臓の音。 ああ、せっかくの頭巾が真っ赤になっちゃった。あとで川で洗わなくちゃ。もう私以外誰もいないのね。全部真っ赤に染まって何も見えないわ。みんなみんな真っ赤。 ねぇ、大好きなひと。 わたし、お薬を飲まなくちゃ。 そして、死体だけが残った。
0『looseな関係 loseな僕』 言いたい 云いたい この想い 言えない 癒えない 君の心 最短ルートを検索してみても 何が正解がわからず延々ループ 君が好きになった人 僕じゃない人 僕が好きになった人 僕じゃないと思う君 ルール違反を犯してloseは嫌なんだ だからlooseにまだこの関係をもう少し続けていたい 隣合った2つの【o】loose、 1つ抜ければ負けのlose、 君の心は留守 まるで今のこの関係 皮肉だね 悔しい苦しい きちんと言えないチキンな僕 言いたい 云いたい この想い 言えない 癒えない 君の心 最短ルートを検索してみても 何が正解がわからず延々ループ 結局君の笑顔にlooseでloseな僕
0作品タイトル:『ジュウセイ』 一発の銃声が 音速を超える 幼き手から 放たれた 残酷で 未加工の それを オトナが 寄ってたかって 咎めようとする オトナがコドモの真横目掛けて杭を打つ杭を打つオトナが杭と杭を首吊りロープで結ぼうとする縮小する安全地帯ただ無力に縮小してゆく足場拡大する真空世界崩壊と滑落を繰り返す首吊りロープは役に立たない首を絞める役割だけに固執している アンタらだって そうだったじゃないか 時と時と時とを 罪重ねて やっと 反省の二文字を知る 獣性を 止めるなんて できやしない 諦めちまえ どうせ イヤでも 失われてゆくのだから えっ 厨二病は不治の病じゃないんですか?
0『カーテン』 幾重にも重ねたのは 雨を憂鬱と感じたせいか 糸のように心層まで降り注ぎ 蒼い心に浮かぶ小舟 銀のスプーンをオールに 涙の滴の波紋で押し流されながら 漕いでも漕いでも 幾重にも重ねたのは 陽射しが痛く感じたせいか 氷片よりも鋭く体に突き刺さり 涙の結晶が溶けて行く 誰にも知られたくはない想い 溢れ流れてしまわぬよう 堪えて堪えて
0「捨てられた靴の詩」 道のはずれに時折女の人の靴が落ちていることがある ヒールの高い靴だったり、海用のサンダルだったり、ときどきエスキモーの履くみたいなブーツ それは一つの歴史だ あるひと時の、人間の、感情の、歴史の、終わりだ 匿名の靴たちについての物語がやがて語られなければならない 脱ぎ捨てられたひと揃いの女の靴が、夜な夜な宙を飛んでいくのだ、まだ履かれていた頃の記憶と感情を宿して飛んでいくのだ。そりゃ靴だから全員が全員お出かけ気分なわけだけど、片方の靴がもう片方の靴に文句言ったりもする。本当は帰りたくなかった実家について文句をたれたりする。それで喧嘩別れした靴がふてくされて街に降りていくと、「片方だけの靴」が道のはずれに発見されるというわけだ。こうしてあの、脱ぎ捨てられた片方だけの靴の謎は明らかにされる このように語られる靴たちの話 人間よりもずっと雄弁な靴について人はあまりに語らなかった そこで私がその靴たちの代わりに語るんだ 歴史について 一つの人間の、感情の、歴史の、終わりについて 捨てられた靴の怨念だってある 捨てられた靴の幽霊だっている 捨てられた靴にだって言い分があるんだ ことばよりももっと雄弁な靴たち これからそんな話を、長い長ーい話をあなたに聞かせたい
2『マンデルブロ集合』 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 悲・怒 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 怒・悲 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 悲・怒 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 怒・悲 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 悲・怒 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 激昂 哀哭 「論理的に温かくあれ。」
1・ 無を刻印する 植物由来の朝の セルフレジにて精算する 白鳥的祝福 について
1『誰も聞いていない』 俺は不意に咳をした けれども私は独りでいたから 私は咳をしていない 俺は外で電話を掛けた けれども誰も見てはいないので 私は外では話していない 人がいなけりゃマスクを外す 人がいるならマスクを付ける けれども、それを知るのは俺だけだから、 ですので、私はマスクをしている人です 俺は独りで鼻唄歌う 私に必要はないのだけれど 俺は独りで口ずさみ 私の無意味な、飛沫が溶けていく 生きる意義なんて考える 無意味に意義を見いだしながら 今日も無言で飯を食う 今日も無言で食事する
1お母さん あの日から 17年 私はあなたのように 一生懸命生きてるかな お母さん 私はあなたのように あなたのように 頑張れてるかな お母さん いつか会えたら 抱きしめてくれないかな
1「人間やめてもギターやめるな」 生活保護で鬱に縋りつき 自殺未遂を繰り返友達も 今年の春は職を探している ゆっくりでいい 焦らなくても 生きられずには いられないのだから 深刻なバス停を通り過ぎた エンドロールの先で深呼吸 景色は桜色に揺れて 橋の上で 誰か手を振っている 愛理、ロクな返事も出来ずに悪いな 東京の空は青いかい 僕の町は雲一つない快晴です トンネルを抜ければ 海が見えるよ
1cat!! 僕が猫である夢を見た。 尻尾をぐるりと巻いて 地面に溶けていた。 なんだか心地よい気持ちで、 あなたの横にいる。 君の家など知らないが、 君のニオイはわかるのだ。 あぁ、春の匂いだ。 あなたの猫である夢を見た 幸せと君を共有していた。 瞳孔を細めて君を見る ザラザラの舌で キミを舐めずる キャッと驚く君を想像する あぁ。いい気持ちだ。
0愛揺れ死ね 心臓が地面を揺らす モザイクの視界も君にピントをアテる 怠惰も哀愁も全て咲いた感情 愛の初速は何よりも速く 恋の距離はまだまだ遠く まるで、アキレスとカメです。 苛立つ波も抑えず、白波が多々。 無固形な癖に酷く滑稽だ。腹が立つ。 人生は二つあるとでさえ思える キミとボクのだ。 左目だけが眠気を感じる。
0私を思い出してほしい 人生が苦痛に思えたら 私を思い出してほしい もう生きられないと思えたら 私との日々を思い出してほしい ビルの屋上から飛び降りる前に 私の言葉を思い出してほしい あなたがどれだけ懸命に 生きたのか私は知っている それでも命を絶とうとしたら 私がいつでもかけつける たとえ誰にも認められなくとも 私が認めている 何万人に喝采を受けようと あなたを理解しているのは私一人 夢破れ転落しようとも あなたの体を受け止める だから何もおそれず 立ち上がれ はつ恋の人 中学校のアルバムを見ると 君はあの時のままだ そして時間だけが経っている 時間が僕を変えたように 時間は君も変えただろう 同窓会の葉書を今回も破く 君に会いたくて仕方ないけど 僕は君が思っている人になっていないんだ 僕は栄光を掴んで君の前に現れたかった 僕はそれができるものと思っていたからね でも僕はいつまで経っても芽が出ないんだ 芽が出ないんじゃ栄光の花は咲かないだろう 僕はそれを待っているうちに何十年と経ってしまった つまり君に会わせる顔がないんだ 君も変わったかもしれないよ でも君は僕の中であの時のままなんだ 夢を壊しに行けないよ それは愛のない言い方だったね 君も成長して僕と同じ歳になったんだ 何とかして会えればいいのだけれど どうしても無理だ 僕は相反する気持ちに引き裂かれそうだ そんな時、君が亡くなったという知らせが届いた 僕の心の痛みを想像できないだろう 僕は君のお墓に行く車に乗っている時、倒れそうだった そして今お墓の前にいる みよじが変わったんだね 当たり前さ、僕は何を考えている 君の写真が少女の頃と今と二つ並べられた 僕はもう涙で何も見えなかった 君の生活も子供たちも何も知らなかった 栄光などという虚像に惹かれ僕は人生を滅茶苦茶にした プライドも何も全部捨てて会いに行ければよかったんだ そうすれば穏やかな幸せな生活が送れたかもしれない でもこれが運命だったような気がする 後から考えるとみんな運命だったように感じるようにね でもその運命を打ち砕く言葉が一つだけあったんだ それは「勇気」だ。全てを曝け出す勇気だ 僕にはそれがなかったために君に会えなかったんだ 僕は泣きながらその言葉を思った 君にお線香をあげる時 涙で滲んだ写真を顔を上げて見た 君は時を経ても変わらなかったじゃないか 変わったのは僕の方だった ごめん、と言いながら冥福を祈った
0『孫』 孫が家を飛び出して、俺んとこに来たんだ どこに行ったか娘と電話してたら俺んとこに来たんだ 夜、新幹線に乗って、俺んとこに来たんだ あのかわいかった孫が、俺んとこに来たんだ あのかわいかった孫が俺の娘をばかにするんだ 電話の向こうで泣いている俺の娘をばかにするんだ 俺のかわいい娘をここで泣きながら非難するんだ 産んでくれた俺の娘のことを、ここで泣きながら非難するんだ かわいかった孫が高校をやめると言って泣いているんだ 俺たちが築いたこの日本をこき下ろすんだ 恵まれているくせに何も知らずに日本に悪態をつくんだ 覚えたての難しい言葉で日本を非難するんだ もうかわいくなんかねえ! このへなちょこ野郎! 俺のかわいい娘をばかにしやがって! 親の愛情ってもんが分からないのか! 俺たちが作ったこの立派な日本をばかにしてるのか! 何の苦労も知らねえで! 生意気なんだよ! 出て行け! 帰れ! 俺の娘に謝罪しろ!
2これは詩だ 加藤万結子 加藤万結子として最近生まれた 出生名でもなく、婚姻後のファミリーネームでもなく 加藤万結子として生まれた 物書き、詩人、歌人の加藤万結子 自分自身が名づけて生み出した 歌人である加藤治郎によれば 歌人は職業ではない、概念だという 実際に文筆だけでメシを食っている人以外も 歌人にも詩人にもなれるんだと思えば それは実に力強い言葉ではないだろうか 雑多な小文を投稿しているときに 主婦のお遊びなんて辛辣なことを書かれたことがある 結社にも俗さず年齢的に遅いと ほっといてくれ、あなたはあなたわたしはわたしだ 煮物を煮ながら本を読むわたし 洗濯をする間に文を編むわたし 自転車で大根と切手を買いに行くわたし 静かな夜に詩を書くわたし それはわたしが物書きだからだ 物書きには国家資格も学歴も必要ない 当然、免許もいらない 年齢制限もないし体重制限もない 容姿や振る舞いなどなど面接もない 自分で今日から名乗ることができる わたしは加藤万結子として第二の人生を歩む 母でも妻でも嫁でもそれは一瞬置いておく 書いている時は加藤万結子なのだ スマホからパソコンから万年筆から 加藤万結子は放たれていく はじめまして どうかよろしく なお、この散文に見えるものは詩だ なぜならわたしが詩だと定義したからだ
2『空っぽの手のひら』 この手のひらには 何も持っていなくて 空っぽだけれども 空っぽだからこそ 手と手を合わせて 誰かの幸せを祈ることが出来る 空っぽだからこそ 誰かに手を差し伸べることが出来る 空っぽだからこそ 誰かから受け取れるものがある 空っぽだからこそ 誰かと手を繋ぐことが出来る 空っぽだからこそ 幸せを手に入れることが出来る 繋いだ手と手 結ばれる心 あたたかく満たされていく 何もない 空っぽだと嘆く必要はない 手放して 手に入れて かなしみとよろこび 繰り返して 広がって つくられていく心の器 空っぽだからこそ この手のひらには掴めるものがあるのだ
1グラデーションスカイ 雲一つ無い空を 何層も色違いの ミルフィーユ 紺色 群青 水色 透明色 茜色 のグラデーション 何かのカクテルを ひっくり変えしたかのように 山にかかっている 夕方だけの 不思議な空模様
1「熱病」 愚かなのは、死にたいことではなく、 死にたいと訴えて、安易に世界を変えようと試みることだ。 この世の流行り廃りがある。運命と言い換えてもいい。 どんなに善悪を盛んに祭り上げたとしても、 時が来れば過ぎ去りもう戻ってこない。 それは一種の熱病のようなものじゃないか? 無駄とは言わないが、限りある人生の大事な時を費やすような課目か? 死にたい気持ちを誰も問題にしていないのなら、 読書でもしている方が賢明のように思う。 画期的な解決策が見つかる時まで、 静寂を守って待つくらいのことは許されていい筈だ。 死の予感がするほどの悲しみを放置して 同じ理由であがく者の足元を掬う 己の中にある悲しみが 彼らによって顕在化してしまうことを恐れて 喉を潰し 目を潰し 耳を破り 手をもいで 何もかもを壊されたと狂った言葉を吐く者を この世の悪だと表通りに磔にする 自分は正しく生きたと神の如く叫びながら 生きていたいとはどういうことなのだろう? 誰かに愛されたのだろうか? 朝起きても惨めを感じないのだろうか? 私にはよく分からない。 人を憎んでも生きられることが。 勝手気ままに人を傷付けても罪悪感を持たないことが。 そうやって死ぬまで自分の思い通りに行くと思い込んで、 生きていられることが。 傲慢が、愛情と呼ばれるものの正体だと思う。
1カシスオレンジ 女が羞恥を跳び越す前に 彼の左手の薬指と首筋に 何もないことを確認して安堵する だけどそれだけでは確証が得られないから まだ落ち着きを取り戻せぬ女もいて 彼のウーロンハイのグラスの 外側についた結露が滑り落ちるのを ぼんやりと数えたり 彼に酌をするとき 傾ける徳利の角度が これでいいのかと気がかりになったり 猥談に興じる彼の 好きな女優やシチュエーションの話に 聞き耳を立てたり 好きな人はいるのと唐突に言われて 前歯の裏まで出かかった女を ノンアルコールの梅酒なんかで流し込んだり そんなことをしたって 彼の中のわたしは唐揚げにはなれやしないのに よくもまあ塩キャベツの分際で 女々しいことができたもんだ 最後にため息を引き連れて出てきたゲップは カシスオレンジの香りがした
0『座して亘る』 ガラスに可視化された雫が遊泳した しかし、 ときは後ずさり 物忘れに暖流を適し目撃する ただれた味を占める、 もはや、薄暑 飲みつぶれるほどかき混ぜる。巌窟を潜る蛟 いい加減な説明で、生贄に抱きつく 暁光を頂く台所の隅から匂い立つのは、まるで過去の産物 そこにはまたいつの日かあらためる 手足があり、 嫋やかな凪がいる。 山裾に降り注ぐ先入観を、日常の誤りを、 少し開かれた小窓が震えても 優美な落ち着きがあり、 見知らぬ未来に飛び込んでしまった 飛蚊症 弛緩する泥沼に架かる それはわたしではなく、あなたの未熟児 山襞から吹き込む風は冷たく、この部屋は陽だまりに過ぎ征く ビルの谷間から前貸しする せせこましい老若男女の執着心、 霧の中に濛々と人影が水面下に寄せて 荷台に転がる 柿と布の面が擦れて、奇病を作り出していた おのれは あなたの 記憶の一部に過ぎない。 熔けた暦の端を床に敷いて、指ですくう さながら絵のようだと書見を称する 化石のひらはあなたのもので、私はどこ吹く風になる、 あたりを見回して、やはり 我が身なのですか 長い参道の向こうには、きっと明日が見えるはずで これらを掠り、人工の川とうたえば 窓にうつる僕は居間で首を吊り、 ひとつの扉は頑として いきもしない キミは今、突然咲くであろう 枝垂れ桜の老墨のことを考えていたのだろうが
1『脱力』 空を見よ、夕焼けを。その仄赤い鈍い円環は、地球の蚊に刺され 土を見よ、地を這う蟻を。その働き様は、まるでお前自身 瞳を見よ、ひとの目を。それは世界の反射 そしてもう一度 空を見よ、朝焼けを。その眩しさは、「おはよう」と声かける 勇気を持たぬ太陽の恥じらいだ そういうことにして日々過ごす それでいいんじゃないか
1「石は、ことばの内臓としての、デフォルメのテジール、石としての言語の意味のてかり、割れることを避ける偬(わたし)自身の海そのものだ。 ノートと白い紙、こう云う邃の屋に有る字。字は、字としての深いまばらな光線を、落下するめのつま先を、其の思いに依って破裂する様な白、い紙に、彦星、金脇、包括する闇も、偬の机に乗って、尖り、 燠(おき)てをやぶりながら夢中でかきむしるように光らせ、プラスチックばかりに触れた指先を思うものだ。 静かにお前ばかりを見るようなことばの数々を、偬に漂着した枯渇の草にあざむく。 蝶とは、錬金されたのだ。もともと無表情な「偬」と云うのろいに故って。 だから蝶とは、釈迦としての偬だ、その髑髏(すかる)の指輪で有り、しっこくの貝としての偬の夫婦像。」(言葉のノート) 於! 折り紙のように繊細な音楽だ、鼻上にしたたる粒だ、 それらを伸ばして、カップヌードルを食うの美ほしさを知る。何事も選べない雨に為って。 私として、「俺」として…、 ぷらちなに浸かってしまった春を、おこるお前にたいして未だに舌を出して居るのです。 どうしても動かせない縁のようにやさしいから、るるると、揺れたままでどこにも行けぬ。 此アザムキを止め、苦能としての様々な私の影、私のフレームとしてのお前が砕けたことの、此のハートとしての実像を魚(な)に映し、此吸いこむ目を、隠す。ぼこぼこの月だ。 邪気とたたかい自分の、どうしようも無く絡まって苦しんで居る子犬のような莱音(あのひと、おまえ)が、たとえば思い込みであっても、 私を忘れられないものだとして、なら、紅梅付き合ってあげても良いかなあ、と、化け物の様に白いかおと桃のリボンを、莱音の口へ垂らして、 ダイヤモンドと新聞紙を見比べながら、果てしなく哀しい心中物語と、眠気で頭を凍らせ、いたませ、それをさするように花生けを練習して、要は知らず知らず買う憎しみのつどにたいして、 私は純粋を守って、離せない目の冷たい、目と目の、皺の醜さに依っていつまでもそれを、指でなぞり合うような愛、すきでもきらいも無い青いきらめきとしての愛を、くるめる。 しゃらんしゃらんと為(し)た煙。 約束の美しさを指から奏でるような、光をみるのに自ずを決して届かせないとても性格のわるい人。 付き合うことの、是非を他言するにも、夢としても償えないようなか細い奥の小道で、「あなたが悪いのだ。」と思う。二三、の小言で表す月のような小枝。 於、二人は立ち往生。(邦画でキャタピラーが有る)ひたすら安定した、莱音と云う世間の運動のなかで、手も足も千切れたひとと、お相手になり、暗い、暗い、罵倒と性の水。たらいを扱(しご)く、長屋では。
1漆黒の天使 夜の闇を照らす天使 惹かれる引力に 誘う恋心 共有する時の長さ以上に キミを想う 暗黒の衣を身に纏い 心はおおらかで明るい そんなキミは 夜に瞬く灯火 暗闇で輝き 僕はその光に手を近づける 届きそうで まだ届かない 歯痒さに その距離を縮めようと 夜の刻を分かち合う ねぇ 今日は何を話そうか?
0火の鳥とみずうみ 晴れた日のこと 西の向こうで 空と山とが出会うところに 火の鳥がうまれた 火の鳥は 山吹色から橙色に 橙色から茜色に きらきらと育つ。 火の鳥は 雲でできた羽を拡げて 父なる山を見下ろしながら ふらふらと踊る。 だけど火の鳥は つめたく凪いだみずうみに 羽をもがれてしまつたようで あつという間に沈んでしまった。 火の鳥が溺れ死んでしまった場所に これからわたしは帰るのだ。
0Public poet Google lensの認識アルゴリズムは、露天風呂で背泳ぎをする大学生の股間をナゲキバトとして認識している。行儀の悪さをとがめるヒトも、持ち込まれたスマホをいぶかしげに見るヒトも、ここにはいない。 ぬっ、と見知らぬ手から突然に差し出されたストローは、ぶるぶると震えている。 波間に映り込んだアサヒスーパードライ、その塗装の冷たさ。 「あんちゃん、フルタブ開けて、口にストロー刺してくんねえか、このまま飲むと前歯がカンカン当たって敵わねえからよ」 だいたい水なのに、ヒトは不定形ではない。いつもは人類の隙間だけがぼくだけれど、たとえば、いま、ここ、Hと2とOのあいだにも、ぼくはいる。 気道になったストロー、呼吸のオノマトペを内包した缶ビール。 舞い落ちる紅葉はマグネシウムとして湯に溶け出し、さながら不安定なままの掌。 「あんちゃんも飲むか? やらねえけどな」 ————見て、深夜の西友でえのきを持っている真顔の私笑。 スマホを掲げた若い女が、しゃべる。透過度90%のまま、湯船のへりにすわって。 青いワンピースの毛管がぬるい湯を吸い上げていく。 彼女のまつ毛には電線の妖精が住み着いていて、スマホの画面はダイドーの自販機が佇んでいた夜と同じ色をしている。 「俺だって、目いっぱい歩いてきたんだ。点字ブロックが金木犀だったから、ここまで迷わずこれたんだ」 おじさんはすっかり震えのおさまった手を握りこんで、悔しそうに、でもどこかやり切ったような顔で、泣いた。 電線をかすめて走るのは蝉の遺灰、涼風に巻き上げられて、湯気のように薄まる. 蝉の遺灰はおじさんの表皮から生じている。 蝉の遺灰を追って、エンドロールの端点を見つめる。 「プロローグは日記の中盤にあるんだ、それを知らなかったんだ」 薄まった遺灰に飲まれていく、群鳥。エンドロールとしての、群鳥. 消えていく文字列の中にぼくはいないし、金木犀の花びらなんかないし、Googleの気配すらない。 でも、点字ブロックの香りだけが生ぬるく漂っている。
4「ねじの、王国」 ある日、ある夜、机の下に 見たことがないような、あるような、ねじ。 爪先にあたって、くるり、弧をかいた つまんで持ち上げ フッとひと吹き、ほこりを飛ばし とりあえず、ひきだしの隅にしまうのは ぽっかり空いたねじ穴を探して 見回し、覗き込んだ、十数秒の後のこと 世の中は、 しまわれたねじで一杯になって わたしは暖まり、眠くなる ねじはいつしか弛み、はずれ落ちてしまった。けれどもそのために、音を立てて崩れ去る王国はなかった。長らくまみれていた床のホコリが請け合ったように。あの懐かしいねじ穴にふたたび呼ばれる日を待って、ねじは乾いた夢をみる。世界の中心にあるひきだしの、隅で。 歯をみがき、寝じたくを整え 寝室のとびらを開けて、閉めた。 灯りをしぼり 部屋の壁の一つの角に ぴたりと寄せたベッドに横になり くるり、綿のようにやわらかな 毛布にくるまって、 眠った。 うたかたの ねむりにつくまでの みちすがら
1『風葬』 やわらかな猫にほおずりしても 子どもらの弾む肢体とふざけてみても 風呂上がり、ひととき満ちた湿潤は 珪藻土のマットに吸われた 暮れてゆくほどにとっぷりと、 誰かに寄りかかりたい夜があり 骨がきしむ 家族といれば、 母であれば、夜、 何も告げずに外に出ることもできない 身体を連れて窓辺に立って やがて名のない海岸へ、行き着く 暗すぎて、海がみえない 立ち続けようと足を 足首まで砂に捩じ込んだら バランスを失って 地べたについた両手の 手のひらが、つめたい 窓をひらく 水を奪う風に骨までさらして パウダーのようにほどいてしまいたい ひとり、コンビニに向かう あなたの鼻腔をくすぐり、遠く 冷えきった夜にまぎれて
0伝説と歌、あるいは『ふたたび殺戮の時代』の余白に 「自画像のある自画像」 ひとりは階段をのぼりきって 屋上が地面より空に近いかどうか確かめている その手を決してつかみ返せない位置から 鑑賞者がたったいま立ち去る ひとりは砂浜に立ち尽くして 水平線の彼方から届く壜を探している その手に何ひとつ手渡せない位置から 鑑賞者がたったいま立ち去る ひとりは完全な犯罪を企てている ひとりは画布から消える ひとりは鏡のなかの鑑賞者と永遠に別れる ひとりは消しゴムで白紙を描く 最後に休符の絶叫がはじまる あなたが口いっぱいに音楽を頬張っている 「遡行」 後手でドアを閉めると この眼は はるかな海へとつながってしまうのか 振り返るよりも速く 溶けた黄金の 炉のなかへと落ちていくのは鳥の影 ついておいで 波のうえを歩いておいでとすら言わずに 渡されるのは光の橋 誰が何を言っているのか少しも聴き取れないで 瞬きもしないうちに すべてこぼれだしそうになるから まぶたはただすぐに閉じられるためだけに ある 「愛は後ろから回された手の影」 空をひとつに閉じたのは誰 影踏みに熱くなりすぎて 寒さを忘れた子どものために 時を歌いはじめるのは誰 海を泣き尽くしたのは誰 千に砕けた金の滴を 眼から飲む恋人のために 一日を涙に沈めるのは誰 幕を引き剥がしたのは誰 ひとびとを背後から包み その水仙はあなただとささやくのは誰 水晶体のなかの幻と 別れるよう呼びかけるのは誰 振り返るといなくなるのは 誰 「不可能な画家」 一羽の鳥を思い描こうとすれば 空が広がるだけ 誰であれこの無限に耐えきれない だからうたったのだ きみは 砂漠をゆく影を塗ろうとすれば 旋律が流れ出すだけ 誰ももとの歌詞を思い出せない だからさらわれゆく砂粒のように ただ思いつく言葉を乗せれば 愛している そうくりかえすだけ くりかえすほどに 手をのばして 風の傷口をふさごうとすれば 見えない鳥は 愛しているよ 愛しているよとくりかえすだけ 「『不可能な画家』の余白に」 埋めた場所を覚えているか まだ骨の際立たない小さな両手で そっと拾いあげたときの息遣いが その休息を遮ることはないかと 尋ねた相手を覚えているか 送り方どころか その問いかけ方も知らず ただこぼれそうな瞳いっぱいに 差し出した疑問符の向きを覚えているか いつまで眠っているのか なぜ 動かなくなったのか どこへ行って しまうのか いつか自分もたどりつくのか それでもどうしてあらそいあうのか その問いを 忘れたか 埋めた場所を 空と 小鳥と きみのこころ 「先に行った人」 晴れやかな青空のみを背にして立たせると その顔はやはり見えないが それでも微笑んでいるような気がするだろう ひとりぼっちで 懐かしい旋律が流れてくるのにまるで歌詞を思い出せないから 代わりにのどもとにこみあげるのは かつてそのひとから吸い尽くしてしまったあの母音なのだろう はちきれんばかりの ああとぎれがちに残された足跡をたどりつづければいつか 打ち寄せる時にさらわれたかなしみを うたわれていたはずのとおりにうたいなおせるだろうか それともわたしもまた晴れやかな青空のみを背にして立てば ふるい息をまあたらしく継げるだろうか この顔が翳り見えなくなるとしても 「先に行った人から聞いたソネット」 もう帰ることはない そう思っていた人の影がひたすらに伸びているのを そこの曲がり角で女は見つけた ここからあまり遠くない日 もの悲しいたたずまいで その復員を果たす男の目がひたむきに探ったのは あの船底から見えない未来 このわたしへ流れる今だ 天気雨、止む前に軒先から走り出した子どもの 高い声も群れる残像も遠く伸びてあの彼方へと かき消える幾筋もの運命線をほころびた靴で踏みたどり ばたばたと人の倒れゆく音を立てながらはためく旗、あるいは きみの手のひらに包まれたそのなかをいっぱいに満たす沈黙の零度を 一心に暖めようとする、冬の殺戮の時代がふたたび 「これはフクシマではない」 どれだけの地図を煙草の巻紙として 両の肺に吸い込んできたのか きみは 分断され気体化するふたつの社会を 血脈という無根拠な流れに取り込んで どれだけの論争を清涼な氷として 奥歯で噛み砕いてきたのか きみは どろどろと液体化する歴史記述を 自らの熱とともにただ排泄するために きみは爆発を抱いているのではない きみは爆発そのものだ 回りながら焼け落ちてゆくもうひとつの太陽 八千年前の貝塚の位置も思い出せない者たちが きみを地中深く埋める だが永遠の朝が来れば ああどれだけの時計を止めて回るだろう きみは 「これは比喩ではない」 ランナー あるいは破裂する風船 影をつかまれないよう夜明け前に 飛び立つ鳥たち その霧散よりも速く 夢見る少年にはまぶたがなかった 蜃気楼 あるいはパントマイムする手のひら 透明人間の存在に関する証言の 不可能性 その沈黙のさらに彼方で 明日が繰り返し思い出されている 重力 あるいは両手を縛られた巨人 一度も見たことのない壁の向こうを 描こうとする衝動 あるいは両眼を隠された恋人 あるいは不可視の帝国 あるいは砂に濡れた馬賊たち 帰るべき場所を探してさまよい 見つからないまま いつの間にか日没に溶けている影 あるいは きみ 「哲学者の共著者」 ファニー わたしはきみの隠語 ダンボール箱にぎっしり詰まった毎日の 隙間にも入らない一冊の書物 ファニー わたしはきみのはなうた 自転車で走りながら口ずさんでいても ひととすれちがいざまに訪れてしまう沈黙の裏側 暴れ出したい気持ちを抑えるためには どんなことを言い聞かせればいいの 呪文のことばを知っているのなら それをきみの敵にかければいいのに ファニー わたしはきみの物語に登場しない 側溝を流れていくいくつもの死体の行き先 ファニー 忘れな わたしは何も支えない きみが世界と呼んで押しつぶす非在のほかには ) 最大の帝国を夢見たのはあなただ。あなたの閉じた夜の眼のなかでその地図が広がるごとに、誰にも把握しきれない都市が、卵核のように分裂を繰り返しながら増殖していったのだ。それゆえ当然のように叛乱も起こりつづけたが、それは帝国にとってはむしろ望ましいことだった。たとえ侵略に抵抗する地域が外部と手を結びながら決起したとしても、それはいつも鎮圧されるものであって、そのたびごとに繰り返し領土が拡大されていくからだ。 問題は、誰が、いつ、どこから、この幻の帝国に君臨し、どのような権力によって支配しているかということだった。それが明らかになれば、謀反人たちは体制を瓦解させるために攻略すべき目標と適切な戦略を導きだせるはずだが、いっぽうで鎮圧者たちもまた体制を保持するために死守すべき地点と適切な防衛策を同じように導きだせるはずだった。 だからこそ、誰もが知られざる帝王の秘密を探ろうとして、先を争いながら冒険へと赴いたのだ。ある者は領海深くへ潜り、その底でいつしか溺れ死んでしまった。その過程でさまざまな資源が発見されたが、そのうち半分は侵略のための、もう半分は抵抗のための新たなエネルギーとなっていった。またある者は心理の森に分け入り、その奥でいつしか狂気という怪物にとらわれてしまった。その過程で欲動をめぐるさまざまな知識が得られたが、そのうち半分は民の行動を制御するための、もう半分は民の反抗心を扇動するための、新たな手法に結びついていった。そして事態はますます深刻になり、誰もが焦燥をきわめていったのだ。探せ、見つけ出せ! いったい帝王はいつ、どこにいて、どのような力を働かせているのか? この帝国の夢を受胎させ増殖させているのは、いかなる父、いかなる母なのか? その正体はついぞわたしにもわからないのだが、あなたでなかったことだけは確かだ。わたしがそうであるのと同じように、あなたもまた、帝国の民の夢を夢見る同じ帝国の民のひとりにすぎなかったのだから。最大の帝国を夢見たのは確かにあなただ。しかしそのあなたを夢見たのはわたしだった。隷従と解放を夢見たのはわたしだが、そのわたしを夢見たのはあなただったのだ。夢の夢、その夢のまた夢のなかで。 ( 「映画の後に」 頬杖をつきながら見ていた 塹壕のなかで兵士がスープ鍋のなかを覗いている 最後のひとかけらをすくうために杓子でその底をかくのを わたしは頬杖をつきながら聞いていた 頬杖をつきながら見ていた 部屋のなかで病人が液晶画面をにらみつけている 最後の一行を書きつけるためにためらいがちにキーを叩くのを わたしは頬杖をつきながら聞いていた わたしは瞳を閉じた 暗闇のなかから恋人がこちらへ不思議そうに耳をそばだてている 薄明りのなかで子どもが安らかに寝息をたてて 瞳を閉じたまま見ているのだ 日差しのなかへ誰かの手がたどりつこうとしていっぱいに伸びていく わたしは瞳を開き まっすぐに立ち上がる 「自由を、さもなければ死を」 しばられた手は いつも祈るかたちをする。前へ、 上へ、無を供物として差し出す者がたとえ もはや何も信じてはいなかったとしても。 うなだれた顔に 垂れる髪が隠す眼光。奥を、 闇を、白く睨みつける者がたとえ もはや一切の視力を失っていたとしても。 引き裂かれた空。疑問符を すべて垂直に引きばしていく狂気の 正午。断言のみだ。問いは許されていない、 ふさがれた口。砕かれた骨。破られた 皮膚。開かれた傷。にじみでる血。あふれだす 声。歌いはじめるきみ。たとえ嗄れた喉だとしても。 「後から来る人」 なきごえだ 聞こえないか そう きみもみどりごのころ 夢のあと世界に耐えきれず 母を探したろう 思い出せないか またなきごえだ 聞こえないか そう きみもおとなになり 目覚めてもなかずにいられるようになって 何を失ったろう 思い出せないか 決して帰らないものを待ち 決して行かないところを思い描き 一度も見たことのない壁の向こうを見通しながら 帰るべきところを探してさまよい 見つからずともいつのまにか帰りついてしまうと知った ああきみ いきもののうたごえだ 思い出したか 「後から来る人に聞かせるソネット」 来るな まずは離れて目を凝らしてくれ なぜならこの声がきみのもとに届くときには もはや本当に分からなくなっているだろうから わたしが生きた時代がどれほど暗かったか 確かにわたしも同じように話にはよく聞いていた かつてひどく暗い時代があったと あってはならないことばかりがはびこりながら すべてを一掃する暴動は起こらなかったと だが本当に知るべきだったのは 暗くなり始めてからではもう間に合わないことだ どうしてこの空中を沈降する塵埃を 見分けて吸い込まずにいられるだろうか 蒙を啓く光もなくここを渡り切ることはできない おいで 太陽に狂ったひまわりたちを探そう 「自画像のない自画像」 わたしが母になれるなら そのときこの乳房は どうか どこの国のことばでも 発音できない母音のかたちをしてほしい わたしが父になれるなら そのときこの腕は どうか 驚かせたりちからづけたりする どこからも見える感嘆符のかたちをしてほしい この胸ははるかな未来のために息のつける読点になってほしい わたしがこいびとになれるなら 果てない空色をした零のようにこの眼はひらいてほしい わたしが子どもになれるなら そう 答えのない疑問符の反りで愛撫してほしいこの手は もしも もしも わたしがわたしになれるなら 「肯定の教室」 雨ではない場所を作者が思うと 子どもたちはいっせいに軒下から駆け出した 手をはためかせ ランドセルに追いつかれないように速度を上げながら 濡れた赤や黄色を淡くエコーさせた 誰の声でもなかった ただいのちが響きわたった ここでわたしは何をいいたかったのか百字以内で記せ 鉛筆を転がしかけたが選択問題ではなかった いつからか いくら考えても答えのわからない空欄はすべて 肯定で埋めることにしていた YES それからあとは試験終了まで 窓の外を見つめて 雨ではない場所を思いつづけた 「個人的な旅」 右半身だけコートを着て、外を 駆け抜ける冷気から身を守り、 うずくまったまま半ば分け入る夢の森。 速度に脚をとられないよう、音を 聴いていた。ふたりでは未踏。 左手を預けて、何も描くつもり がなくとも像を結ぶガラスの曇り。 誰かがひとりで何度もなぞった跡を 見つめながら、イヤホンに夢中なふりをして ずっと静かな寝息を聴いていた。 運転手たちによって引かれる線、線、線。そして 交通情報から想像される未来の道を隠して、 はるかに立つきみの父に雪が降り始めていた。 左半身はきみと区別しがたくなっていた。 「韻律の教室」 それからきみはじっと黙っていた 風の吹き込む方角を向いて 目を開かないでいようとしていた 手をいっぱいにひろげて それからきみはずっと待っていた うたの聞こえてくる方角を向いて うたわれているのはきみではないのを認めていた 耳にはまぶたがなかったから すべてが閉ざされてしまっても 音楽に決して夜は来ない この心臓がこの生をひそかに叩きつづける限り うたわれているのはきみではないが 確かにきみの声も残響しているのだと知ったそれから きみはなおも手を伸ばすのだ 力の限り 「そして始まる」 風が終わり また風が終わった 過ぎゆくものをいっぱいに受けて 遙かな帝国の瓦礫に立ちつづけたあの支柱から とうに旗は奪われて ただはためきだけが残像する 歌が終わり また歌が終わった 生まれ来るものをひととき抱きしめ 近しい寝台の上へと運びつづけたあの夜の母から とうに声は失われて ただ息継ぎだけが残響する 刹那が終わり また刹那が終わった ここに両手を広げて、きみは 千年が終わり また千年が終わった ここに両手を広げたままで、 無限が終わり また無限が終わった きみはここに両手を広げたままで 愛している 「「「そしてまた始まる」」」 「去りゆくときには すべてをあげよう わたしのものではなかった空を わたしの風として」 「たったひとりのあなたに 吹くものとして」 「わたしの持たなかった孤独を あなたにあげよう」 「生まれ来たあとでは すべてを奪おう あなたのものであったひとを わたしの父として」 「ひとりになれないあなたに 吸いつくものとして」 「あなたの抱えた孤独を あなたから奪おう」 「水面をまなざすあなたを 背後から包み」 「そこに映る影はあなただと 耳元でささやこう そののちあなたの見るものすべてから」 「わたしのまなざしがあなたに届くだろう 去りゆくときには すべてを奪い」 「生まれ来たあとでは すべてをあげよう」 (二〇〇九年九月十五日~二〇二一年十二月十一日)
2作品名「後悔」 生まれ変わりなんて、そんな都合のいい話 あったらいいね って言ってやれば良かった
0作品名「散歩中のこと」 突然、何かに鼻先に乗り上げられた 視界の端で きらり 光る 蜘蛛の巣だ もがく私の鼻先で きらきら きらきら ぎんいろの糸は笑いながら踊る みぎ ひだり みぎ 頬を撫でて 指先に止まる 「もっと遊ぼう」とでも言うみたいに 私のことを茶化すみたいに 早くお帰りよ。家主がきっと困っているだろうから
1「血濡れた晩餐」 享楽のスープに溺れた高貴な男爵は 這いつくばる獣をみて笑う 子羊はまだか 子牛はまだか 拷問釜は今日も大忙し 地球を焼くのに大忙し ほら、どこからか悲鳴が聞こえる 鍋の中から悲鳴が聞こえる まっ白な羽をむしられて 全身が泡立つ鍋の中 冷や汗が、じわりと滲み出して 手向けられた野菜と絡み合う 彼らの虐殺は立ち上る湯気に隠された さあ、従順な貴婦人よ 獣たちの乳に浸されたパンをちぎろう 母牛はどこだ 母豚はどこだ 屠殺場は今日も大忙し 地球を汚すのに大忙し ほら、どこからか悲鳴が聞こえる 皿の上から悲鳴が聞こえる 傲慢なナイフに 無関心なフォークが踊る 血濡れた晩餐 差別のメニュー 「啓示」 さざめき 凍てついた風が木々の代弁者となる夜 花々は淫美な香りを放ち 僕を惹きつけた 暗がりの中 月は 満ちては欠け 満ちては欠け 神の言語で語りかける 大いなる 火と 水と 風と 大地の秩序 12匹の動物たちと 10の天体に 12の宮が形作る文法 風が呼ぶ あの場所に帰っておいでと あの場所を思い出してと 今 神殿への道を照らす 智慧のキャンドルに火を灯し 感覚の奥深く 埋もれた扉を開けるんだ 影となり揺らぐ思考を追い払い ノックの音に耳をすませる 内なる声 肉体は銀の星々を纏うベールにかき消され 意識だけが神の鼓動を聞く 内なる声 耳をすませて 母なる大地が広がる園へ 内なる声 真実を迎え入れる勇気 献身 そして愛 内なる声 あなたは幸せ? あなたは何を求める? あなたは誰? さざなみが僕を包む 緑の香り 黒い土 故郷 光、そして救いがやってきた
0「接名」 拝啓 ぼくの部屋に 佳代さんへの手紙が届いた そうか、ぼくは 佳代だった 「富士吉田市にふるさと納税しませんか?」 「いつまでも仮住まいしかできなくてね ふるさとを忘れてしまってね」 ぼくの部屋に 届くはずだった荷物が 隣の棟に届いてしまって ぼくの仮名がばれてしまった 「お名前に間違いはないですか」 「はい、たしかにそうです」 朝七時半に回収されていく段ボールを 見送った一階の住人が 慌てて部屋に戻っても トラックは待ってくれなかった 小声で交わした あの言葉がここに住んでからの 初めての挨拶だった 「おはようございます」 「おはようございます」 (ぼくは 佳代です 前に住んでいた人から いただいた名前です 佳代が ぼくに仮住まいしています) 「ほら、とんでいけよ」 窓の外に映る景色はスクリーンの上 部屋の中から照らす光が 街を彩って 「いいからさ、とんでいきなよ」 「ポストに入れれば届くと思ってるの っていうかさ 何を届けたいの」 「届く、届くんだよ、届けばいいんだよ」 (宛て名を忘れないようにね) 郵便受けに響くのはお金が落ちる音、あれは誰かが誰かに宛てたお金の音、配達員は、中身を知らず、ただただ、お金が落ちる音を届けることで、自らへとお金を落とす、名前から名前へと、迷った名前は廃棄せずに、誰かへと、仮住まいさせればいい、とにかく、落とせばいいんだ、ふるさと納税すれば、仮住まいが増えるだけ 「与えたものと与えられたもの、今までどっちが多いかな」 ぼくは今日も佳代だ 佳代として起きて、支度して、家を出れば 佳代ではなくなるはずだった 仮名で呼ばれるはずだったんだ (きみは佳代なんだよ、れっきとした佳代なんだからさ、佳代として生きなよ、さようなら、きみよ、かつてのきみはもうどこにもいない、また会うこともない、いやならば、佳代と別れて、新しい仮住まいを見つければいい、別れられるならばの話、そんな仮の話ではなくて、きみは、佳代なんだよ) (そうか、ぼくは佳代だった、それでも、二回目の挨拶を交わすことができるかもしれないから、月曜日、ぼくは、段ボールを捨てに行く、きみは、段ボールを出し忘れて、トラックを見送ったきみ、を見送るために) 「ところでさ、きみの名前は」 「わたしの名前は」 「いや、そうではなくて、誰からもらったの」 とんでいけって、佳代が、いや、ぼくが言っているんだ、窓の外にあるスクリーンを破っていけば、忘れた仮名を思い出せるかもしれないって、ぼくの顔に似てしまった両親に聞けるかもしれないって、さようなら、佳代、今までこの部屋で、ありがとう 敬具 (だからさ、ポストに入れれば届くと思ってるの) (届かなくてもいいんじゃないかなって)
2『みどりちゃん』 ボクが ずっと 片思いしてたきみは 少し小柄で ふわふわな髪 よく笑うけれど 実は いつでも 不機嫌で この世の全ては だいたい悪だと 決めつけていた 長めの前髪 いつも本音隠して 横顔が頼りない きみが すきだった みどり みどり みどりちゃん 一度も みどりなんて 呼べたこと ないけど みどりちゃん、 みどり みどり きみの小指の爪 かじってみたくて でもずっとカタオモイだった ボクが秘かに想ってたきみは 少し強気で 極度な内股 よく泣くけれど 忘れっぽくて 気分屋だった 傾げた小首 ななめ上見て 『何が言いたいの?』が 口癖で 全てに挑むよなきみが すきだった みどり みどり みどりちゃん 一度もまともに名前すら 呼べやしなかったけど みどりちゃん、みどりみどり 片想いのままでよかったな いつまでも可愛いままのきみが ボクにはしっかり描けるよ みどり みどり みどりちゃん
2『イチゴゼリー(無果汁、ゼロカロリー)』 高齢の母子が凍死していた アパートの一室を目がけ 放水車が生温いゼリー液をまいている 青空にキラキラと イチゴフレーバーはキラキラと 少し固まりながら落ちてくる ゼリーに辺りは満たされ 野次馬はスマホを構えたまま ねっとりと個性を失い平らかになる そして街灯は鼻炎に悩み 低い方の路地はイレウスを疑われている しかし止まれの標識は難聴だった 放水車は未だゼリー液をまいている
1星の星. みていろ 空の色は かわらないのにもう次の日になった ――0時に くらやみのなかで われらはいつも欲望をまちがう 海のない町に住む 電車は夜半までごとごとうたう 渇いたのどは色水でなくとも潤うのに 星のような自販機に ひきよせられてみたりする またあなたでなくとも ――1時42分に 夜眠ると あなたがいて 星霜のうちの たったひとつのことだけ唇に 載せようとする それはもう言訳みたいには響かない 眠る そのからだの 深みに触れてひとつ星が逃げていくいつだったか夢を 捏造したとき いつもどこか悲しい予感が 玄関が開けっ放しなのが 外で みえない山向こうの空の下で起こることが後になって知らされる気がした ――5時17分に 恥ずかしいことがいくつあるだろう 煙突掃除夫のあたまのうえ.まだきらめいている朝の星 はなれたところにも いろんなものを残してきた 故里ではつきまとうように 波のおとが つくづくあれは薄紗を被ったろうか はだしで けもののようだったのに すべて幻想だ もう呟きもしないでいたらいい もうこれ以上 ! ! みていたのは 幻想だったのに 知らない町にいても 痛かったことなんて忘れても 厚くなった皮に 瞳のうらがわに 品のない冗談に 逆光のように残っているよ 残っている ――7時半に 言葉が曙光ほど明らかに伝わることもあれば、あなたには絡まりきったテレビの裏のようにめんどうくさいこともある。どちらにしてもひどすぎる。わたしらは万能鍵を押し戴いたのではなかったか。いや、機能していないのはきっと、鍵を回す指のほうだな。あなたは、わたしは、どう斗ってもいいのに。 ――10時に あらゆる場所を旅したね 頁を繰って あらゆる人になって あらゆる人に恋して あらゆる人を殺して あらゆる人として死んだ 形も文字も液晶もくそくらえ そのどこにもない時間が 事実が血になって躰のうちを滴る おまえといっしょにいた 生まれ変わってひとつになろうと口約束をした 契約にならない唇でおした判 約束を 人だけがしている ――真昼に 少しずつ生活は生活になる 自分をさいごは土に埋めることを 思ってるの? まだ朱い夏にあって このまとわりつくような静けさは? 昨日に託す、 おとといに託す しわのよった制服に黄色かった通学鞄に忘れることのできない幼い過ちに .託す.託す.託す 一億年まえの ひょっこりとした昼下りの出遭いに 遠いと思っていたどこでもない土地は 象をとろうとしてる 掻き混ぜてできた島みたいに 保険や年金の封筒と 毛虫のように更新される社会網に なんの準備をしているんだろう内側で なにかがとろけ それは 音もたてない ――14時33分に 砂浜のつめたい砂に独り臀を降ろして、いままで褒めてもらった譬喩をひとつまたひとつと海に棄てていく。その終わりになにが訪れるかを予感をいなんで。恥しさ貴さ卑しさ崇さぜんぶ引潮。 ――17時に 結婚式からかえるとき ひどくひとりがこたえた 話していれば気づかないとはおれもばかだよ 書店で買い込んだ本と漫画は 空虚などではなかったろうな? うちひしがれている として 何にだ? 新郎はむかしと変わらない 笑顔だった あれができるか? ひとのために、じぶんのために 救いの断片に思えたものは 木目町の路地で歌うギターひき 最後のひとりと別れてからの約百歩 大型書店の効きすぎた暖房なんかさ そして滓のように脳裏に残った 両手の組み方 ひかりの列車が からだをなじんだ町へと返す ひとえきひとえき近づくごとに 決意が鈍っていくのをおれは知ってる 雪に降られた路上駐車の去ったあとみたいに そのおおきさを測っている ――20時に いつからかしずかな 海へと下りてきてしまったね あやうくまぶしい季節がおわり 太陽も月も(海星もね) ひとしく来たるし ひとしく遷るとわかる ねえ 闇は 思っていたよりすこしあかるく ねがうよりもすこしだけくらいのだな これからさきの だいたい無限回くらいのながれ星を かくしたり ぬりつぶさなかったりする ――21時に 液化した思いあがりを海に流して バイバイ と 言おう ひとつかみの卑しさを今晩の あなたの枕の下へしのばせる いろいろなものがはずかしめなので きっと消えかけで気づいた虹に希望をだぶらせた. 打ち寄せる波.波..波にゆ.られて喪われたあなたの躰が帰って来る 妙につややかで りんごあめ いちごあめ ぶどうあめのしろじろと 長い便にゆられてわたしも忘れてしまった 何が裏通りの稚さで起こったか 攪乱されてる 秘密めいてる 昨日に昨日を重ねすぎてる かがやく冷蔵庫のなか. ときはとまってみえただけ ――22時50分に 冷たいのだ、鷺よ。脚を撫でさすり暖めてくれないか。 たかが一晩のこと。 そうとも。 しかしその一晩すらも差し上げたくないのです。 花が好きか? とても。 家族の絆は分かちがたいか? ええ。 おまえの生は祝がれてあったか? はい、そしてこれからも。 いや。 わたしは時を献げました。まだ献げねばならないのですか。 おまえのものは何一つない。 心は。 それは私の側からしか見えない。 明日をわたしの枕元に置いておいていただけませんか。朝に。 言葉はまったく傲慢きわまる。 わたしは言葉のほんの細い隙間を透って、透くとおくへ行きたかったのです。 行けばいい。できるなら。 さようなら。 明日。 明日に。 ――時計は見ずに 夜の果てるところを探しに いきたいといったのは口実だったね だってもうそのころには 待てば来るのがわかっていたから。 動かない星すら知らないで 厩に着けばなんて 国道の信号をいくつもくぐった。 夜の種類は 爪のかたちみたいに 電灯のない夜 それとも明るい夜 屋根のある夜と 風の夜 靴の中の爪先まで冷えきる夜と、 親しい涼しさの夜 ひとりの夜と 三人の夜がある なんでおまえを幸せにしないといけないの いつか示し合わせた朧に いま優しげにあらがって 答えまで歩いて取ってきて. 簡単そうに せせら笑ってみせて
2『子どもたち』 膨らんでいく頭に いずれ ぱちん、と弾ける実を持って 身籠って 鉛筆は走る 息を吐けば 二酸化炭素が 気道から白く立ち上り 景色に混ざる 指先が芽吹く わたしは生む 生み続ける わたしの胎内から産み落とされた たくさんの子どもたちよ 文字になって 薄い紙の上を歩いていけ 音になって ただまっすぐに蝸牛を目指せ 誰かの赤いひび割れに 届くまで
0個性とは むくんだ顔を窓の方に向けると 急に暗かった空が明るくなって にょきっと高層ビルが生えて 気づけば自分も成人になって スーツを着てそのビルの中に入っていった 中には唾を飛ばす大勢の僕と同じ生き物がいて よくわからないままもぞもぞと動いていた よく見るといろんな人がいるが 別々に見えてみんな一緒だった 自分より年上に何か言われたので よくわからないままみんなと一緒に もぞもぞ動くだけの日々を送っているうちに 自分の脳みそが肘を机において だらんとテレビを見るようになって 僕もその番組を楽しんでいて 気づけばビルから出ないといけない年齢になった 周りを見渡すと やっとこの状態になって 自分がどういう存在なのか どこからきて、どこへ行くのか そんなの考えてもわからないのに 急に焦ってみんなが考え出していて そろいもそろって同じことをしているから なんだかおかしくなってしまって ハハハ!と声をあげて笑ったら 全員が僕に銃口を向けて レンズを向けて 罵詈雑言を向けて 石を投げて 傷を作って どっか行ってしまった かくしてボロボロになった僕は 醜い化け物のように 這いずり回るしか能のない みんなと違う存在になったのだ
1『悲しみ』 悲しみは ひとひらの羽のように 肩の上に そっと舞い降りる 悲しみは 深まる夜のように 足元に 静かに忍び来る 悲しみは そうして知らぬ間に 友のように 傍らに佇んで 悲しみは 傷ついた心を慰める 世界に生まれた日に 初めてやって来た時の あの親しさで どこまでもやさしく包み込む
2命の音 ぽっちゃり ぽっちゃり 命の音がする ぽっちゃり ぽっちゃり 君の幼気な鼻腔に繋がれた管が 痛々しい ぽっちゃり ぽっちゃり 「この液体酸素の数値が10になったら……」 主治医は逡巡していった 「覚悟を決めてください」 34歳で肺癌を宣告されてから8カ月 手術をするには手遅れで 治療法もなく 死を待つだけの生活に ピリオドが打たれようとしている 数値は2から5になっている 命のカウントダウンは恐怖を突き付けてくるけど ぼくらはそんな無意味な数字に惑わされはしない 君は弥勒菩薩のような微笑で 面会するぼくを迎え 慈悲の眼差しで いつもぼくを見つめてくれた 日々は濃密に過ぎていき なにげない会話には重量があった 君の纏う後光はやすらぎに満ち溢れ 穏やかな空気が漂っていた病室 君の好物の モスバーガーのミネストローネスープ 差し入れると 口に運ぶ右手が愛おしい 1月 命の炎も尽きようかと緊張する日々のなか 眼いっぱいに涙を浮かべて ぼくにいってくれた言葉 「幸せを見守っているから」 2週間後 ぽっちゃり ぽっちゃり 数値は8 夜の病室に響く 命の音 命の音? こんなものが命の音であるわけがない 命の音は 君の人生にも確かにあった 情熱やトキメキや憧れや 健やかな肉体の鼓動や 生命の息吹のはずだ もっと瑞々しく もっと躍動的で もっと感覚的なものであるはずだ ぼくはがばっと立ち上がり 君の鼻から管を乱暴に引き抜いた 君は一瞬息を詰まらせる 窓を開け放つと 冷気が頬を突き刺した どうだ? 君の好きだった 草の匂いがするだろ? 星を見てごらん 竹富島で見た天の川が懐かしいね 風の音が聞こえるかい? 君は風は伝言屋さんだと いっていたよね 今日はなにを伝言してるのかな 寒いかい? そうだね ぼくは窓を閉める 君の両手が苦しそうに宙をい掻いている ぼくは管を君の鼻に通す それが最期の夜 次の朝日を見る前に 君の魂は昇天した やさしい死顔を見ていると 脳裏にショパンが鳴り響く 綺麗に見送ることができた この期に及んで顔を出す 自己満足 家に帰って髭を剃ってこよう 明日からのぼくの生き方次第で 君の一生の重みは変わっていく
1『フィラデルフィアの夜に XXⅧ』 フィラデルフィアの夜に、針金が飛びます。 空家、廃墟の一室。 夜の闇の中、空を見上げている。 天を睨みつけて。 もし灯りがあるのなら、その男については十分に知れる。 苦悩、苦痛、苦しみ。 それらが積み重なり続けたと。 人を避け、いつしか言葉も失った。 夜を、ずっと睨みつけている。 あの漆黒に怒りを溜込んでいる様な、顔で。 闇空に憎しみの楔を打ち付ける様な、心で。 バシン 音。 静寂だった一室に、音が弾けました。 月が照らし始めた壁に、針金が刻み込まれた如くめり込み、形を作り上げています。 “心よ イバラと化した わが心よ 世界に広がれ” そう書かれた文章は浮き上がり形を変え、羽ばたきました。 男が睨みつけていた、空に向かって。 そしてそれらは羽ばたきながら分裂し、ばらばらに飛んで行ったのです。 孤独に伏せる人 縮こまり震える人 うなだれ立ちつくす人 一人顔を覆う人 彼らの元に針金が降り立ち、壁に地面にあの文章が刻み込まれ広がる。 彼らは、その文章を見、手で触れ、感じました。 その日以来、男は針金を手にする。 苦痛、苦悩、苦しみのまま、折り曲げ綴る。 言葉を、心を、文章を。 それは不可思議にも形を変え、空を飛び、分裂し、誰かの元へ届く。 この世に捨てられたみんな、夜になると空を見上げ届いてくる文章を待ちわびるのでした。
1ぼくらの チキチキマシン猛レースのケンケンの笑い方のモノマネが異常に上手い架空の友達のありもしない思い出話で盛り上がり、過ぎ去った歳月の数だけ失くしたものが増えて、失くしたことを誇らしげに語るのに慣れてしまった全校集会が終わった時のような帰り道で、「聞き慣れない声で鳴くね、きみは」「お腹がすいてるのよ」「それはそれは」。 端からやりだしたパズルの絵はまだわからない、もしかしたら真っ白なのかもしれない、そんなことを誰かが言った気がして、いっせいにぼくらは振り向いてみせた、おかげで、ちょっと寄り道と言って一人消えたことに誰一人として気づかなかったのに、 「疲れたりしないのかい?」「人並にはね」「それはそれは」。 架空の友達と消えてってたやつ、どちらも不在であることでぼくらを駆り立て、みんな堰を切ったように喋らざるを得ない、嵐が去った静寂の体育館裏できみたちはまだ凍えているのか、どうしてらいい?ぼくらは待ってる、ぼくらの来ることのないバスを、再配達依頼の音声ガイダンスに従って、不在票に記載された伝票番号を入力している、午前二時、またろくにねむれずにネオテニー、 「 」。
0『雪』 一面の車窓に雪が張り付いたように、これまでのお話は未完に終わってしまったようだ。それでも、冷やかしのために現れた小鹿の息はみごとに真っ白だった。 呼吸が直線であるために磨かれた技術があると聞いて、雪降る国の図書館を燃やした。燃え残った詩集に書かれた文字列はあどけない横書きで、ためらいの跡に涙が流れた。わたしは生き物だと信じることができる筆者であって欲しいと祈りたくて、ぼくがまだ生きていることを祈った。 まっさらな行間に波打つ抒情を雪に例えて、読み終えては溶けていく水を流氷の上に流し続けた。動物を燃やすと食べられること。動物を冷やすと腐らないこと。書くべきでないことは書くべき時にしか書かなくていいこと。そんな言葉はぐるぐると旋回する遺伝子のいたずらだと疑わなかった。 ぼくはずっと、汚い自分の字が嫌いだったんだ。だいじょうぶだよ。白い国に降る雪には、あの結晶の形だけがなんの干渉もなく描かれてることを、わたしだけは知っているから。
0『声』 ピアノを弾く恋人の指を競売にかけて、生活を乱調に崩しては整える。悩んでは選べるモノトーンに目が眩み、その音律は窓の外の電線に止まる小鳥の位置に依存していた。 時に、雪虫だけが聞き取れる波長だけを弾きたい。枯葉が道に凍みる国では、太く短い指だけが生き残ると聞いて、南を目指す渡り鳥と知り合う機会をしばし眺めた。彼の声は、僕の鼓膜を破る強さを持つだろうか。 秋服をゆっくりと脱ぎ終わった枯れ木が並ぶ雪空の下で、言の葉は全滅を経験しては冬休みを楽しんでいた。風の匂いの、変化。春の指に流れる血がいつしか通うなら、言い訳のようにあなたの口に人差し指を挿しこみたい。そうして、暖かな指と冷たい舌の摩擦が、少しのあいだ忘れられたアイスクリームのような歌になっていく。 きっと、誰もがあなたを指差さない時ですら、舌先で語れる語源もあるだろう。南の国では、指だけで愛し合うこともあると噂に聞いたから。 「ありがとう。もしもそれが、みんな壊れてしまった夜の話であるならば」
0『冬の底』 素知らぬ顔で夜が明けて 空からこぼれ落ちた青い光が 大地をかたく閉ざしていく 朝の小鳥たちが木の実をわけあって きらきらと鳴き交わす しお枯れた冬のくゆる歩みが 波紋のように 草木を黒く焦がしていくから ここは日の底、冬の底 渦巻く風と光の底だ 森が泡立つ 凍てつく湖面に 足を囚われた少年の周りを 仔犬が無邪気に駆けている 遠くで海の音がする 思い出したように降りはじめた雪が 高い空の光をたぐって 大地を白く閉ざしていく 星を散らすような声で 小鳥が鳴き交わす 〈ほらお前にも神の恵みだ〉 〈ほらあなたにも神の恵みを〉
1『日々の轍』 暗い場所で冬をこす 町に鉛のように降りつもる 雪の透明な夢にみられて 魚は海で溶けていく あれは擦りきれた星のつわぶき 君は僕の秘密を知っていたのか 山猫の熱い吐息に 片っ端からぬかるんでいく 冷たい土のまどろみのなかで 仏頂面の春が 風船みたいに膨らんで割れる 何もかも色褪せて馬鹿みたいだよ 今日も白い呪いのような雪だな 誰か無人の道を駆けていく 町角で青く破れながら 冬の張りつめた鼓膜に 花を打ちつけて笑う あれも巻き戻された春のつわぶき 思いだすたび年老いていく 僕は胸を貫いてどこまでも伸びていく 日々の透明なわだちを抱きしめて眠る 魚の遠い消滅を聞きながら ひとり暗い星の底で夢をみている 春は焼け焦げた雪のまどろみに笑い 走りだすたび青く破れる
1撞着 鏡像を連ねて 馥郁たる斃死の方途を差す、雛罌粟の花殻 程良く調味された香草に縁取られた一切の現実よ 現在を惜しむ 銑鉄の膚より影像より離れて 糾明の浅慮に灼き附いた市街跡地に棲む 有棘の植物卵よ 工場排水は極彩の天蓋にそそぐ 露悪趣味を責め立てる平均、 実に平均的な臣民であれ 固執創造の偶然すらも忌避に捉え、 枷鎖に繋がれ 枷鎖を哂う、 砂塵に在り乍ら 彼等は屡々海峡の停泊船等を記す、 普く収穫は その様な序列に基き執刀を肯う 果実を滴る卵黄の 涙液を 酸蝕の石礎へ湛えて 猶昏き昼の磨硝子 待合室に渇いた暗喩の鉢植を置く 分裂と偏執が同一の症候を喚起せしめるのは何故か 普く死とは生存の目的に 相違無く 人体‐環境 循環系の細微に亙る永続への 不可能性は明瞭であると謂うに 水際は、はつかに揺らぎ 砂に棄てられた 乳母車の、 老朽化に開かれた廃工場の、 誕生日時や 繁栄は何処へ続いていき、途絶えたのかを 尚更知るべき由縁等無く、 喉頭に拠り紡がれるならば、死を誤ることばなど、と
1「愛など知らない」 朝が来れば目を覚まし 暗くなれば布団で眠る 意見を持たず流されて 毎日息を吸っては吐く そんな日々に見つけた 可憐な君美しく咲く花 守りたいと唯一願った 只それだけの話なんだ 僕は、愛など知らない
1「終活」 肉塊が炭火に炙られ 脂が落ちて アスファルト 浮かび上がったレインボウ 杜の都とホンジュラス 虹が掛かって瞬間移動 草を喰む貧しい牛に 迷うことなくキスをして 軽いガス 肺いっぱいに吸い込んだなら 僕は膨らみ 四方に弾けて散り散りで 全部集めて燃やしたら 入道雲にかわってさ 温かい雨が降り注ぐ 君が蒸気を吸い込んで 身体の一部になれたなら ずっと一緒にいられるだろうか
1甘いコーヒー 北極星なんてもう全然話にならないんよ マスク越しのフェイスシールドなんて もう笑っちゃうくらい曇ってね 滲んだ光がどこかリアリティを失って バックミラーに並んでるそれをみると 灯籠流しみたいに幻想的でさ 自分の命を左右してることなんて忘れちゃってね 実際危ないんよ 50ccなんて蟻みたいなもんだし けど二段階右折なんて面倒じゃん 別に客の飯なんて冷めていいんよ なんか現実感忘れてるって言えばいいのかな 別に死んだら死んだでコスパいいし 確かに警察だけはダルいな ビストロスマップ出たらなに頼むか考えててさ 俺は昔からそういうのはちゃんと考えるタイプやん ただ考えても考えてもよく分からなくてさ 高いものが食べたいとか言うゲストなんてダメでしょ いや、寿司は運ぶの大変なんよ すぐバラバラになるからな ああ ビストロスマップの話か 結局俺が出る前に終わっちゃったな そもそもデビューする以前にオリジナル曲一個も作ってないもんな でもある意味惜しかったよな ほら 天才と凡人は紙一重って言うじゃん 10時くらいになると鳴らなくなるから そのままスタンド行って缶コーヒー買ってさ 普段甘いコーヒーなんて飲まんのにね その時だけは甘いコーヒーが美味いと思うんよ そんでまだこのエリア始めたてだから 自分が何処らへんにいるかも分かってなくてさ しばらく星とか眺めたりしてな このまま星をあてにしてどこまでも行ければいいなとか思ったり ただまあスマホの充電もギリギリだし 大人しくグーグルマップに導かれていくんよ 夜は眠るための時間だって あの頃は思いもよらんかったよな
3「あめ玉」 あめ玉一粒で どうしてこんなに 幸せな気分になれるんだろう 綺麗な色が隣り合って まるで手毬のようなあめ玉 見ているだけで楽しくなる 可愛いからと飾ってみたり するとくっついて それを手で取るのが楽しい 最近あめ玉がいくつあっても足りない 誰かにあげてるわけじゃない 口に入れるとガリッとかじる癖がついた きっとそのせいかもしれない 友達からのメールが途絶えて 青い空の時も何故か傘が必要で 気がついたら地球の裏側まで穴を掘って トンネルの中を行き来してるだけの日々 自分の心がどんどんどんどん離れて 朝目が覚めた 悲しみがまた一粒 これが最後でありますように
0剃り残しの髭 緊張すると手のひらから汗ではなく火が出た だから手を振って消さなければならない 幼稚園のキリスト生誕劇の天使の役 初めて手のひらから火が出た 天使は舞台の上でずっと手を振り続けていた いつ火が出るかわからずいつも緊張していたので いつも火が出た 私は思いっきり手を振り続けた 火が出ていないという人が多かった 火が出ていると言ってくれた人は一人だった その子に抱き着いた ありがとうと何度も言って背中に手を回した その子はビクッと不思議な顔をした 私は恐くなって逃げた その子をそれから見ていない 転校したとみんな言った 本当はきっと燃えたんだ 私は小学生で人を殺した 触らぬように生きた 物にももちろん人にも 私は怠け者と言われた 私は頭の悪い者と言われた 私は変人と呼ばれた 手のひらを無くせば 火が出ないかもしれないと思った ナイフで何回も抉り取った 何も変わらなかった アイスノンを握り続けた 凍傷で指先が壊死した 何も変わらなかった 死んだものが好きだ 死んだものは触れる撫でられる 抱きしめることができる 私は死んだものを探して歩いた 死んだ鴉を死んだ犬を猫を死んだ鹿を 死んだアザラシを 見つけ抱きしめ荼毘に付した 私は初めて人を愛した 周到な準備をした 私は彼をじっと見つめ続けた あの人が死んだら抱きしめよう そして一緒に燃えてしまおう * 手のひらの熾火をあの人の背中に押し付けた 死体は困った顔をして尖った顎を上げた 剃り残しの髭が何本かあった 形の無くなった指先を顎に当て 硬い髭を触った その剃り残しの髭が燃えるまで撫で続けた
2バナナの足裏 バナナみたいな足でしょと言った どういう意味か分かんなかったけど 適当にうんと言った 嬉しそうに 今 魚が入ったんです と足裏を見せる 思いのほか白く美しい足裏が 本当にバナナみたいで 嘘をつかなくてよかったと思った それからどうなるのと聞くと 魚が太るという そんな話聞いたことがあると言うと 毎日写真送る?と言う それから毎日 彼が足の写真を送ってくる 見ても見なくてもよかったけど いつ足裏の魚が太るか心配になり 些細な変化を見逃さないようにしている 毎日毎日同じ足裏で きれいにつるんとしている 時々土踏まずを撫でてみる 画面がなぜか少し温かく 湿っている 彼の顔や声は忘れてしまったけど 膨大な彼のバナナに似た足裏の写真を 印刷して大事にしている もし もし写真が途絶えたら きっとバナナの前で私は泣くだろう いつまでも その時足裏の魚はとても太ったのだろう 彼を覆い隠すくらいに 彼の足裏のない世界に 私は存在していたくない 遠く遠く はるか遠く 銃声に似た音が聞こえる 空耳 きれいなバナナのような足裏の写真が きっと明日もまた送られてくるだろう 魚はまだ太ってはいない
3遥けき空 星が燃えそこねたような ちぎれ雲が浮かび 足を浸したくなる ブランコに乗る時 靴を履いていた 地面を蹴る時に まだ着く足 守られているようで 空の高さを知るために 風は昨日から吹くのだろうか 開いた指の間に屋根が咲く 散歩する人を収める 地を蹴れなくなる日は 忘れたふりをして いまも仰げる空があるなら 今日みたいな日 目を留めるため 犠牲となった 星を数えながら はだしになって空を混ぜた
1『道徳へ捧ぐ葬送曲』 ドラッグでもキメてみたいくらい もうどうでもよくなった 脱税した金持ちの豪邸に シロアリを流し込もう 偽札を刷れるだけ刷って バレるまで豪遊しよう 体罰教師や虐待する親を集めて 片っ端からぶん殴りたい 寺の屋根に十字架を突き刺し 教会に押し入って読経しよう ひたいに「どうでもいい」という タトゥーでも彫ろうかと思うくらい もうどうでもよくなった 異境の女と噛みつき合いながら 血だるまになってまぐわいたい 汚職や居眠りをした議員の 残りわずかな白髪をむしりつくそう ひり出したばかりの熱い大便を どうにか国会議事堂に送りつけたい などと真剣に考えるくらいには もうどうでもよくなった 反吐をまき散らす酔っ払いには 力ずくでその吐物を飲ませ 犬の糞を放置した飼い主には そのくそを無理やりぜんぶ食わせよう 最後はヤクザの事務所に飛び込んで 包丁一本でなんにん殺れるか試す そんな妄想をするくらいには もうどうでもよくなった
1『バースデーソングを求めて』 絵を描けなくなってずいぶん経つ 小説家をあきらめてずいぶん経つ 詩もいつか書けなくなるのだろうか 音楽をだんだん聴かなくなってきた 読書に集中できなくなってきた 映画を観ても心が動かなくなってきた そろそろ感性が終わるのかもしれない なりたくなかったおとなになって このままただただ老いてゆくのか まっさらな場所へと もと来た道を引き返すのだろう けっきょくなにも残らなかった…… ちくしょう、一回くらい産声を上げたい のどが破けるくらいおおきな声で よみがえるような産声を上げたい! だれもが生まれ変わるような そんな産声を上げて 日本中の鼓膜を破って誕生したい! 憤死しながら誕生して 常識を殺し、現実をあざ笑ってやる ……おれは死ぬほど生まれたいのだ
1双眸らじかる殺し愛 他人を貪りたいやつばっか 他人を貪りたいやつばっか だせぇ ちんぽだろうがまんこだろうが血だろうが肉だろうが涙だろうが汗だろうが鼻水だろうが涎だろうが 他人を貪りたいやつばっか まじだせぇ 目隠しと散弾銃 祈りと血 置き去りにされた海 肉の中に咲く花の腐臭によりて愛を知る時に寂しいあの子にでぃーぷきす発火、薄荷好きー、宇宙を殺して万物殺して祈ったら笑う無邪気 めいく まねーwww 何をやっても間違ってるから空の深度を体感ワクワク 何をやっても間違ってるからヤりたいこと ヤるの 皆殺し♥ (空と海の果てにあなたの肉体という小さな陸) (歪み捩れ壊れた地平にあなたの涙) 泣き叫べ いつか君に触れる
0『ハニーラスク』 いろいろあって右側の肺がなくなってしまったので、代わりにピアノの鍵盤を入れてみたのですが、呼吸のたびに素敵な音楽が聞こえてくるのかと思いきや、スーッ、スーッと空気の抜ける音しかせず、ときどき小鳥の鳴き声のようなものが聞こえます、私の胸から、ピアノは花を咲かせて、ピンク色のコスモスには蜂がとまる、蜜を差し込まれた鍵盤は互いに癒着して、私の口からはあまいろの呼気、お金に困ったら切り開いてどうぞ
1も
1みらいゆき ぬかるみにまどろんだ つきのはなしをしっているだろうか 雪はふりつづけ ものがたりをせがんだこどもたちは まだねむれずにいるというのに わたしたちの王国のはなし 夜空をのみこんだやもりのはなし 尽きることなくおそいおそいうたを しなやかに こんなにも やわらかく しにちかづいて いる てふてふとあるく ほこりまみれの部屋で 日記帳のようなたしなみは やがてきえていくもの あしあとのないあしおと なかったことにすることがとても かなしくて ひをつければ よるがひもとかれる ことばは かんたんにいいかえられて しまうから ゆっくり雪がふるように 忘れてはいけないひかりがある だから だれにもわからないことばで わたしたちは話さざるを得なかった 暖炉に薪はつきて さむさがはいのぼってくるのを どうすることもできなかった 門におおきな閂をかけ どこへも逃げられないように 沈黙をはじめる かぎりなく透明な目配せの中 包帯に巻かれた夜篭りが気球をあげる ああ 画用紙に描いた熱が月を回るよ わたしたちは遠く塩の湖をとぶ たくさんの知らない言葉が埋まっている地平で ただ訥々と笑みをこぼす水仙 うつくしい歯並びで空を噛む塩の柱 ひとつひとつと数える事しかできなかった星の息 差し出された宛て所不明の手紙 かすれて読めなくなった消印に虫がしがみついて わたしたちは ただ枯葉になりたかっただけなのかもしれない すり切れた毛羽立ちを揚力にかえて けしてわすれてはいけない それでも追いかけてくる正しい風の中で どれだけほんとうの事をつたえられるだろうか ものがたりが 雪が ほほをかすめ 雪だけが かすめ あかいめのこどもたちは ねむることなくおとなになった ぬかるみにまどろんだ つきをみている
2"排他的恋愛水域" 空とアーキテクチュアを隔てている 稀薄で曖昧な境界線は 排他的に後者を際立たせるため 必要以上に空は虚ろで孤独に見える 空は時折 2010年の春から約10ヶ月間存在していた 寡黙で美しい彼女と重なる 僕は時折 空に向かって「愛している」 と叫んでみるが 言葉は迷子になった毳(むくげ)みたいに 稀薄で曖昧な境界線を越えて 空にフワフワ浮かび 直ちにバラバラに飛散してしまう 彼女の美しさは排他的にその他の存在を 際立たせるため 2010年の春から約10ヶ月間存在していた 僕以外には 彼女を理解しようとする者はいなかった ショパンのスコアを一緒に眺め 1つのアイスクリームを2人で舐めた 彼女の美しい脚に 腕に手を這わせた 彼女の輪郭は稀薄で曖昧だった 彼女は僕が隣に座ることを許していたが 自身の尊厳を排他的に守っていた ずっと後になって分かったことだが 「綺麗だね」 と伝えると 彼女は遠慮しがちに美しく微笑んだが それ以上の言葉は 僕の喉から発生される直前に 頭の辞書から消え 言語化されなかった 「ちょっと、まって」 と僕は混乱し 哀願するように叫ぶと 彼女は優しく微笑んだ 何処かで見落としてしまったのか おそらくそれが正しくて 1年のうち僅か数日しかない 穏やかで澄んだ秋晴れの正午を 当たり前のように見逃してしまう 現代人のように 孤独で虚ろな彼女の 愛のささめきを 空に向かって「愛している」 と叫んでみるが 言葉が 稀薄で曖昧な境界線を越えることは 許されていない
1swan song 山茶花が咲くようになり、やがてその花は首を落とすように落ち、死を、こんなにもいじましい冬を、冬だというのに白鳥は死んだのだった。彼女の背には黒い染がこびりつき、雅楽の静けさに震え、羽毛は風に吹かれるのであった。無惨に火ぶくれになり、水の匂いを留めた足先で、私たちとは違う言葉を試みている。弟はもう南に旅立ってしまった。鈴の根のような言葉を首に下げながら最後の歌を歌う。雪がその汚れた少女を隠していく。水の形容がとりどりに変わり沈む。深く。最終列車の通り過ぎたような灯り。深く。これは季節の祝祭でもある。そこのない冷たさのような季節が肺に薄まっていくのが冬であり、それは狩人の季節でもある。少女は狩りの対象ではなかったが狩りの厳しさを知っていた。私たちは黙って死んでいた。黄金色に透き通る産毛が乳房を浮き上がらせ、まだ色の薄い陰唇が言葉を覚えるより先に弟と性器に触れる。温もりに剥がされていく牛の角に、互いの自慰を知る。それは詩にはならない歌として白鳥の長く苦しい首に残響する。詩人は首を傾げる。贄の灯り。蝋燭のか細い火に唆されて差出人の分からない手紙は焚べられる。水疱に浮かぶ予報。指し示す指は差し伸ばされた指と交差する。温もりは時に残酷で、残酷な季節がくる前に冬は繰り返される。牛に曳かれ畦道に残された農作業の手が痕を残した、刈り取られる前の姿が装置するのは雲に押し潰されるように建っているひとつの家であった。重さというのは機能であり、機能とは入り口であり、そこから逃れるためにどんどんと薄くなっていくのだった。あなたたちの肖像。私たちの自撮り。ちょうど弟が学生服を着るようになってから、スカートに指を滑り込ませる。その内側には雪が降っていた。春はあった。常に心にあった。心は常に雲の下であった。雲の上に冬がのしかかり、鳥や鳥の眷属、そうして嘴を埋めていく。火。火があればあるいは照らせたのかもしれない夜の寒さのいぶき。火葬されるべくして火葬される詩人と違い火葬されるべき時間の経過はまだ容赦されなかった。白鳥はそうして目を瞑る。攪拌を主に行う脱穀機の螺旋にひび割れた螺子が転がっている。それを知っている。星の音を立てて夜の旅団に足を踏み入れたのだ。そうして語られる接触部分と一過性の歌は闇を引き入れる一種の渇きでもある。引き抜かれていく気配を静かに受け止めて、恐れを纏う毛布の中に自らの体温を温める。ひざまづいてお前に花束を差し出す人もいただろう。春には薬指の骨をカラカラに乾燥させて、約束と運命というふしだらな婚姻に身を任せる。春はそうして吹き込んでまだ少女の死を知らない母親を蕩けさせる。牛に曳かれるように 母という春に追いつくまで、冬は不条理な清潔さで雪を降らせるのだろう。少女の亡骸は甘い匂いを立てながら静かに燃えていく、静かに透き通っていく、白鳥の歌さながらに
1「無題ー心象風景」 加藤万結子 生きるとはなんだろう 生きる意義とはなんだろう 生きているのか生かされているのか その辺りもよくわからない 世の中に業績や爪痕を残さなくても 結婚したりしてもしなくても 子供のあるなしで生産性とか言われなくても 障がいや病気があったとしても ひとしく生きていていいはずだ 死にたい時もあるだろう しかし自死することができるのは エネルギーがないとできない なにがなんでもどうにもならなくても 人は生への執着を断ち切り難い 日々を倦みながらも人生を厭いながらも なんとなくまだ生きているわたし わたしがそれでも生きるというのは かぞくのためにという側面もある そしてものを書く人間として この広い世界の片隅に小さい小さい いたずら書きをして そのうち誰かがみつけてくれることを 待っている 小さく生きているとたまに優しいことばをもらう そのもらった優しさにあたためられて いまをなんとか生き繋いでいる そして誰かにぬくもりをかえすことで 今は生きているのだ 目の前でごうごうと音を立てていく 東岡崎行きの特急に飛び込むのは 今のところはまだやめておこう まだぎりぎりのぬくもりがあるから もう少し生きてみようと思っている いつまでだかは約束できないけど
1「ピピッと、一人暮らし」 朝は 目覚まし時計に起こされ トースターでパンを焼き チンッ! 湯沸かし器で湯が沸くと レンジで昨夜のおかずを温めると 冷蔵庫に開けっ放しだと 知らされて 最後はスマホに もう出かける時間 だと 電子音が わたしを支えてる そして、 ピピっと 鳴らして 車に乗り込み さぁ 今日へ出発
1「打上花火」 指の隙間から 零れ落ちる 火薬は 指先を擦らせることで その声を聴き 握り締めたザラ感と 粒の大きさを知る 混ぜられ 転がし 転がされ そして 乾かし また 転がし育つ 何度も繰り返して キミは 黒い星になる 黒い星は 籾殻の中に 並べ詰め込まれ 柔らかい和紙は やさしく包み 強く押す 黒い星のままでは 華やかさはないから 輝く大輪も 可憐な花でも 淡いピンク 水色 レモン の組み合わせは あそこにいる人の 期待を 背負っているから それが重たい おぼつかないまま夜空へ ゆっくりと ゆっくりと 僕たちを 焦らすように 上がっていく ニョロ ニョロ ニョロ ニョロ 頼り無いからこそ ずっと 待っていた あのステージへ みんなが見ている あのステージで 精一杯に 輝けよな ダダダ ダ ダァーン
0・れいめい 夜空をみつめるひとみは うずを巻いて ひらこうとする 雨がかがみであれば くもがかんばすの染みであれば かがやきのひとつひとつを せいざとして編むあなたのての くうはくを 想うだろう かぜは綴となり 綴はたけるうねりとなり うねりは やがて氷河となる こごえることばとしての 焔のといきが といきではなく灰になり はいがあなたの輪郭となるとき、 それはきっとあさやけが あるひとつの旋律であるとき、 そのしゅんかんのがくぶちのそとに うちゅうがあるから うちゅうはこうして白んでいく そしてしろ としてのうちゅうの 中心の あなたのひとみのなかの わたしは、もう わたし、ではない I、でも 愛、でも 哀、でも あいああいあいいあいあ、でも いあいいああいあいあ、でもなく あい、でもない ただ、燃えるおととしての、 a. to i.
2「蛙一撃」 さて明治元年、池の蛙が茫々たる器なりし錦鯉を激しく打擲したときのこと、苔生した巌の尻より煙草の臭いうらうらと屋敷の天井へと昇り、主人の鼻面めがけて猫の尾の硬く鋭い一撃がぴしゃりと阿呆を釜戸へ叩っき落とし候へば、なんとはなしに肌寒くなってきたナァと独りごちて笑う親父の顔! ナントマァあの蛙そのものではありませんか。 ぢゃあ鯉の方はどうなったんでしょうね。
1『極楽浄土』 こんがらがったこんがらがった、 なんやかんやと言われはしますが、 お天道様も何やら機嫌は上向きで。 むかいのかみさん包丁研いで、 小銭稼ぎの浮浪者は、 カササギ落としてくしゃみを一つ。 てんであてにならない念仏唱えては、 路上で売られる葛飾北斎。 飛んだ時世になりやした、飛んだ世相になりやした。 荷馬車もとうぜん往路で迷い、 飛脚の足もいたんで使いものにはなりませぬ。 塵に塗れた祈りも床の上へと散らばって、 死人も生者もそこかしこにある、 通り道。 あっちの道には言霊が、 こっちの道には幽霊が、 雨ざらしの情念とやらも渦巻いて、 耳なし坊やはじゃらんとひとつかき鳴らし、 いっしょに遊んだ生霊も、 あーんと口を開けてはトン汁一杯平らげて、 四つ角曲がれば大乗ありて、 あちらにおはすは。
1title夕立のあと 正四面体に広がる水彩 かるく 軽く 揺らいでいく価値観は、まだ時間を進めていない けむり バス停 ・煙が上がる、雨上がりの住宅街 誰の顔も写さない河に、目を沈める 手についたインクは、現象を歪ませて 空気の味は、遺伝子に溶けてゆく 軽く 軽く 軽く 軽く 軽く 軽く 軽く 軽く 軽く 軽く 軽く 軽く さみしい つめたい 夢の 水晶は 抱えきれぬほどに けむり けむり けむり けむり けむり けむり けむり けむり けむり 木々の梢 靄がかかり 私は私の住む惑星を疑う お前はお前の命を疑う バス停 バス停 バス停 バス停 バス停 バス停 バス停 バス停 バス停 あの日、いく当てもなく乗った車両 たくさんの影だけが揺らされていて 私たちみんな、忘れ物はないような顔していたけど その中で、 涙を流していたのは?感情を押しつぶしていたのは? いのちを失っていたのは だれ? (降ります、の、ボタン、おす 人差し指、やわらかそうな、その 肉が離れる、音がする、風が 気持ちよく、入ってきて、バスの アナウンスは、行き先を、ようやく、告げた。)
0titleベットの上の赤子、スマートフォンを浴びる 群青を手のひらで、そのまま掴んでいそうな君のその 優しいような眼が怖い。 何者かのイニシャルを、秒針は掴んで離さない 腐りかけの果実は、気圧に滲んでゆく 海はそれらを気にしていない、気づいていない そして、屋根の上の眼球 (ドビュッシーの音楽) わたしは知っている。 壊れかけの永遠が路地裏に転がっている。 陽射しがすうっと、コンクリートに入り込む 勝手に巡る、何もかもが攫ってゆく (スクロールする右脳) 次の一瞬には カーテンが開く、あくびをする、長いまどろみのあと 長い気絶、あまりに深い静寂と鬱没とした月と街 木漏れ日は、 幼い頃のわたしを、まだ殺してくれない。
0「小春日和」 きのうまでの赤と黄が いっせいに飛びたってゆく さよならさよなら さよなら どうして 北から色を失うのでしょう どうして 南は何喰わぬ顔をしているのでしょう どうして 細密画のシルエットが浮かぶ 冬に なったのですね もう 眺めていたかった 響き合う彩り 触れていたかった 燃え立つ熱情 せめて風が 地球をひとめぐりする そのあいだくらい
1【韻出す文明】 ミドルテンポのスピードで進む 緑の店舗、スイートが並ぶ 青い空、ドライサワー、夏みたいな影を追う 割れた瓶の中、届かぬ便があり そこから退かぬ、神経過敏な心が 所々に根を生やし、感情混じった音を発し 勘定出来ない値を踏ませ、サクセスにアクセス 診断名の付かない病気の蔓延する社会 死んだ名の付かない釈迦いない世の中 仏が滅んでも見下ろすほっとけない何かが ゴミ箱の中の深淵を覗き込む、光を取り除き 狂気が繁栄、調理は歓迎、凶器とは無関係 召し上がれ、首は垂れたまま犬のように 乾いた膣からドライブベイビー 産道から表参道を突き抜けて へその緒、シートベルト、命綱、外しバンジー パンジー咲いてる海辺、チンパンジー鳴いてる昨夜から スタントマンが不在だから傷だらけのベイビー それでもスタンド、座らぬ首を揺らしながら 突き進むのは生死の溶けた臭いのする海へ 精子が泳ぎを静止しない洗われてる海へ 潤される、ミネラルにジェネラルが宿る 有り触れたモラルを奪う 気の触れたモデルのポージング サーチライト、未確認で飛んでいる 幸は要らんと許否はしないで 誰かを照らして、眩い光で隠してあげて 人差し指であなただけ穴だらけにならぬよう 無菌の病室、付近は高湿、湿り気のある外 この水達もやがて何処かへ消えていく この罪や血も嫌がって何処かへ消えていく ズタズタで傷だらけのチャンピオン スタスタと歩くキスまみれ巷のスター インベーダーは上から参ります エレベーターは下から参ります エスカレーターは回転を速める エスカレートし全てを飲み込もうとしている 大陸を横断や縦断の計画は無断で中断 色とりどりの鳥に取り囲まれた朝の囀り アルコールを引きずる我が身に取り憑き啄む アンコールが鳴り止まないもっともっと スパンコールの雨が反射を繰り返す モザイクなんて小細工で隠された庭の出来事 頼み事から生まれた秘め事はすくすく育ってる 意思なき石が黙って転がっている 風はどんなに冷えていても風邪をひかず 健康的な泳ぎで隙間を吹き抜ける透明なイルカ エレクトリックな恋をしたくなる コンセントのように混線した絡まりでも 流れるものは一直線な電流でありたい ヒステリックにカーテン破いてドレスにし ドメスティックバイオレンスなシーソーの上で踊りたい サディスティックな情報、解像度が上昇 情緒不安定から始まる序章は助走が肝心 天神様の御神籤、今日は中に凶だけしくじり 無政府だけど平和だからセーフだよね セーブもしたしやり直せるね チェルシーとテネシーはトレビアンなレズビアンで 芳しいし喧しいけど2人がいないのはちょっと寂しい 賽の目代わりに書かれている罪の名を振って セルフサービスで罰を受けてるのさきっと アンバランスな孤島でバカンスもしてる筈さ キスミー、キルミー、明日は我が身 曖昧マイマイの模様を毎毎見せられ催す吐き気 オートで嘔吐 、吐き出す運命 暴き出す不明、韻出す文明
1【BABY NAPORITANSを聴こう】 空の動きは流れ移るんじゃなくて とても緩やかな点滅だと知った日 だからって何か大きく私の世界が変わるってわけではないんだ どんな季節だって風を招き入れたいから少し窓は開けている テレパシーでセックスするエイリアンの気持ちいいヘルツについて考えたり 地球儀を回した熱で天使が産まれないかと考えてる バスタブに浮かべたボトルシップは今日も退屈な旅を濡れずにしていて 死んだ飼い犬の為に買い込んだフードを使って料理をしよう 出来ればあの風見鶏に雷が落ちて北京ダックみたいになれば楽なのに 私以外にも誰かが登って落っこちて死んでしまったら 間抜けなニュースで朝から笑えるだろうな 宇宙は花だって植物に詳しいどっかの博士が言っていたなぁ 今は何分咲きなんだか知らないけれど星は種らしい 私達の世代くたばってハイテクな時代から原始に逆行を繰り返す やがて宇宙が枯れだして冷たい真空に温い水で満たされるのかな とにかく私達の人生はドラマチックだけど無のように小さいんだね 水色のプールだらけの街で子供達が水中に落ちていく 大人になるに連れ分かってくるさ水が身体を包む軟らかさは 寝ている最中の夢だったり老いて感じる死と似ているって 今はそんなことを考えないで爆発したように毎日を生きなよ そんな歳で考えなくても時間はあるし考えちゃうなら心療内科が必要だ そういえば間違えて録画してしまった恋愛ドラマは風船みたいだったな 破裂してしまいそうなスリルとリアルが描かれていたと思う でも破裂もしないし空気が勢いよく抜けて飛んで行きもしない なんかフワフワと宛もなく漂うような終わりを迎えそうだな 今はどの情報も密度が濃いから多少の過激さを出してしまうと 心が溢れて騒いじゃう人たちがいるんだ 続きは気になるけれど録りはしないよどうせハッピーエンドだ 考えることが多すぎていつの間にかお昼になろうとしている 掃除や洗濯だとかやることが沢山あるのに どれもこれも価値の無い埃や汚れに塗れているんだ あぁこんな時は好きなバンドの曲を流しながらやると良いんだ BABY NAPORITANSを聞かなきゃ! カクテルアドレナリンを飲んで月でも割って波を遠ざけたい気分♪ カクテルドーパミンを飲んでこの世の概念とセックスで対話したい♪ カクテルセロトニンを飲んで最新型の日光そのものになりたい♪ こんなセンスの俺をお前らは理解出来ないし選べやしないだろう♪ いつだって教科書や説明書や聖書に書かれた文字に縛られてるから♪ ピエロの涙模様が零れる空中ブランコ♪ 誰よりも青い悲しみの味がしたんだ♪ 酔ったままでも踊りたいのさ潔癖なバレリーナだって♪ デタラメな線が何かの法則の答えを出したりしているのさ♪ 誰もそれには気付かないけど♪ 泥のような粘度の海で息苦しい魚を見た日♪ どの時間に行ってもブルースハーブを吹いてる人がいる酒場に行く♪ キスのように熱く柔らかい味の酒を飲みたくなった♪ 凍ったチョコレートを含みながら口の中で転がしていると♪ ボヤけたロックンロールが聴こえて来そうだ♪ 煙草が意識を締め上げて思考を加速させる♪ アハハハハハハハ♪ 笑わないと勿体ない日々だよ全く♪ アハハハハハハハ♪ 筆と紙があるなら詩にでもするしかないね取り敢えず♪ カクテルアドレナリンを飲んで名前の無い現象の名付け親になりたい♪ カクテルドーパミンを飲んで波打ち際に消える独白を書いて流したい♪ カクテルセロトニンを飲んで溶け出す棺桶ごと消えてしまいたい♪ いつか使われている全ての言語が過去の遺産に扱われてた時代に♪ 解明した末に意味を持たない芸術として扱われたいのさ♪ ヘイ♪ あ!やってしまったよ 歌いながらやってたら音符のオタマジャクシが口から零れてしまっていた 五線譜の川に避難させなきゃ ノイズを聴かせて肌に潤いを与えよう 蛙になったら綺麗な旋律を奏でてくれよ 磨いた床が五線譜だからけなんだから もう夕方になろうとしているね 人々の憎悪が黒い気体状の虫になって出てくる それは浮かんだ月を目指して飛んでいくんだ 夜がバラエティーで笑わせてくる頃 剥がされた虫達は救いを求めて飛んでいるのさ だけど今日は雨雲が張り巡らされている 救われないまま打ち落とされていくだろうね そう言えば神様のオシッコなんだってね それを浴びながら歴史は創られて来たんだと思うと文化とか下らないね あいつが好きだった缶詰めで今日はビーフカレーを作ろう 死んだ生き物は香りを食べて生きるらしいからさ とっても美味しいの作ってあげるから楽しみにしてて欲しいな 今日はどんなテレビがやっているのかな オシッコの音が家中を叩く音を聴くのは嫌いなんだ
1『 ひまわりのゆめ 』 草のベッドに横たわり 甘い土の匂いを胸に 草の葉に無数の光りを 見つめていた、ひまわりの丘 今朝は、どうしてこんなに眠いの? 俺、なんで原っぱに寝てんだっけ? さっさと起きて 仕事に行かなきゃだ さあ、飛び起きるぞ、KENZI! 白猫が、見事なアーチを描いて 草のベッドから 跳ね上がった! すぐに、驚きと恐怖の声が、 大地に 響き渡った "ギャオ〜! 何だ? 俺はニンゲンだ! 名前も ある! KENZI... そう、KENZIという名のニンゲン 何だ? このフサフサの ネコのような腕、足、胸... ああ、心臓が、バクバクして、爆発寸前! " 白猫は、野ネズミを狩り 転がし、いたぶるが如くに 狂ったように、鳴き叫びながら いたずらに跳ね回っている "夢だ! 夢だ! 夢だ!そうだ、 夢の中に決まってる! いつものように 鏡を見れば、きっと... " まるで白馬が駆けるような 美しいキャンターで 白猫は、一気に丘を 駆け下りていく、鏡を探して 大きな木の側に ニンゲンのクルマ? 俺も、クルマに乗れるんだよ あれ? サイドミラー、高いとこだな 白猫は、ミラーに姿を映そうと 大木の枝に 飛び移った そうして、その空色の瞳が、 やがて雨みたいに 濡れ出したとき 猫は、地に落ちた... 丘からの風が、 甘い匂いを含ませ土をはこぶ 大きな木の下で 俺は、ようやく目が覚めた その柔らかな土の中に ひまわりの種を見つけて 俺、思い出したんだよ きみを抱きしめて あの丘で、泣いていたこと こんな、へんてこな夢と、 俺たちの現実の... 意味も 大切なことは、一度しか言わない 書くのも、一回だけ! きみの夢は消えない しなやかに生きるきみは 太陽にも負けない 他の誰でもなく 他の誰も持たない、きみの輝きを ぼくは、知った 知っている どんなときも きみは、きみであれ ひまわりのきみ きみに、幸あれ (2021年 夏・秋・冬)
1額葬 あなたと話した夜はいつでも少しの罪悪感が産まれます。後悔と快楽の持つ矛盾な共通点を指でなぞれば、そこで初めて絵が描けるくらいに埃が溜まっていることに気づくはずです。路のような、河のようなその引きずられた指紋の轍に一人立ち、依然としてわたしは振り返りません。怖いのです。あなたの目を見て話すのが。心の底から嫌なのです。あなたに本当の姿を見せてしまうのが。月のない夜、わたしたちはどこよりも深く暗い影となり、柔らかい背骨をくっつけるように三角座りで語らうでしょう。互いに偽りのだと知ってなお、その声色にいつだって胸躍るのです。海はずっと凪いでいる。ここは絵の中の森で、傷んだ白馬を庇う少女の眼が、何よりも熱い青色の焔。静かに燃えるその視線は、たちまち周囲の絵具を溶かし白馬を焼き、最期はすべてが失くなって、少しの灰が残るでしょう。それを箒で掃くたびに、あなたはちりとりを持って来て、わたしのすぐ眼前で屈んでいる。わたしを受け止める、あなたのその無言のつむじに吸い込まれないよう、わたしは息を止めて、ひたすらに掃く。掃いては灰はあなたに入る。あなたが、あなたが、受け止めた灰が、灰がただの塵になる過程が、過程が過ぎて、過ぎて行きます。 やがてあなたは立ち上がり、集めた灰を裏門の植込みに捨てに行くでしょう。その瞬間がいつだってわたしを少し傷つけてしまうのも知らずに。あの植込みには、いつかわたしが殺したあなたがずっと、今でもずっと埋まったままなのです。
0「スパークル」 排水溝 に 円柱状 の暗闇 過不足なく 惑星は 宇宙 に並ぶ 前にも 前が 後ろにも 後ろが 横にも 横が ただ、ただ「在りますように」と “強くも 弱くもなく” 口角から しぶきを 吹き 上げて その 隅っこの 暗闇のかたまり の中に “はっとするような” 過不足 のない宇宙
1「私をわからないで」 わかられてたまるか そう簡単に 好きになられてたまるか 私を見出さないで 売り出さないで 既に私はここにいる おっとストップ 思ってもいないことなんか 言わせないから 聞きたくもないから 目がどっかいってる言葉なんか 上の空の言葉なんか 魂胆がすけすけの言葉なんか 私をひとくくらないで 私を分別しないで 中身を知りもしない郵便物を 投げながら仕分けするみたいに 私はもともとここにいる ふりそそぐ月光に心ふるわせながら いとしい人が描く世界に心酔わせながら 空の青さに心透かしながら
1『母乳』 電気つけるよ、の優しさを無下にしてきたことに、後悔はない 墓前 知らない人が供えた缶ビールを捨てる、花を挿す、手は合わせない 花の名前なんかひとつもわからないあの人のために 誰も求めていない線香に火をつけて これはタマシイの色なのだろうか もう私のところに来ないでね、一生さようなら。 お幸せに。
0「金色」 金色の匂いがする 春という透明な金粉がふりそそぐ くちびるにも 耳たぶにも まつげの先にも 細胞すべてでそれを浴びながら 私の体は春になってしまう 細胞のひとつひとつが蘇ってしまう 呼び覚まされてしまう あ 春じゃなくて 恋でした
1「影を頬に落とす」 昼の夜曲は物憂く 現行犯で逮捕された 銀の手錠に 息子の指紋 灰色の公営住宅の 開け放たれた窓から 投げ出された紙飛行機と 幾千のため息とため息 季節は太りすぎた緑色(裏返った) 喪服と白い洋傘(雑に丸めて) 細い目で、あれは 六本足の猫の祈りのような まだ歌を いちども歌ったことのない人の 声 たたみ掛けてくる 声 ああ。明日はきっと夕焼けがきれいだろう ああ。鼻梁の影を頬に落とすほどの光線 くしゃみの力で 主婦は我に返る くしゃみは今 行進曲に溶ける
0作品名:「獣」 強くて冷たい風が吹き 痺れる指は氷のようで 繋いだ手と手 ポッケに入れて暖める 永代橋の真ん中で 獣のように抱き合って 貪る唇 瞳は溶けてしまいそう 山鯨の幼子とブリュッセルズスプラウト 若い命が身体の内で暴れ出す 神社のベンチ 寄りそうふたり ぜんぶ抱きしめ壊したい 逢いたいな 傍にいるのに 口から出たのは 前世の私が 逢えない未来を 知っているから
0あるいは、序章 例えば、四季報の中に道標はない。 同様に、歳時記の中に墓標がある。 今考えるに、 二酸化炭素が窒素と混和することを知ってしまったから、 星座は夜空から剥離できないのだと思う。 一昨日、古書を山積みにしてた古本屋が燃え崩れたので、 見覚えのない古アパートが見える。 足元で湿った砂利の上、 草書を知らないせいで、全集、しか読めない表紙を傘にして、 いろんな全集が霧のような雨に濡れている、 背骨から炭化したまま。 焚書は許されないことだけど、 自身に宿された意味から剥離して、 文字がめらめらと大気へ還っていく様は、 鮮血のように美しかっただろうと思う。 一昨日、薄っぺらいスーツを着たまま駅前で眺めた夕陽は、 やけに鮮やかだったように思う。 いま、冷たい毛細血管が焦げ臭い暗闇をいっそう研いでいる。 そう思う。 大気と個人は混和しない。 いまこの瞬間、それが許されている、その個人によって。 個人から道標が剥奪されることもまた、 許されようとしている、その個人によって。 あいまいに許されてしまっているから、 個人はたどるべき標を求めている、 墓標ではない目的地を求めている。 個人は焦げた空気を深く吸い、吐き出す。 二酸化炭素は窒素と、果てには夜空と混和する。 夜空は必死に皮膚から星座を引きはがそうとしている。 個人はただ、許されたままでいる。
1「最後の朝に」 せいたん、 という悔恨の記憶が 街中へ拡散する夜 アタシの中で澱んだ血は 不規則に点滅する光の中で 約束の経糸を 丹念に染めていく 顔を持たぬ者たちの望みは 狡猾に結晶化して 世界の裏側を びっしりと覆っている 人の形をしていながら 明らかに人ではない何かが すべての命の無念を 一息にあおり 闇の中へ吐き出された炎が 神の体温として 未来から観測される ヒリヒリする言葉が飛び交う 黒い海の全質量 それが道化師たちの遺産 凝縮と拡散を 呼吸のように繰り返す悪意 アタシは憐れみの表情で 広場に集う人々へ告げる 手に入れたものは ただ、それだけだったと (哀しみが また深度を増していく) 生き残るために握りしめた 冗談のように小さな手 まだ出会っていない アタシの子どもは けものの産声を呑みこんだまま 廃園の奥に匿われている さあ、それぞれの祈りと共に アタシを切り分けなさい 真夜中の日時計が 手遅れを示す前に そして慎重に摘出された おりものの残りの紅い糸を 傷だらけの手首に結び 理不尽な運命との婚姻を 高らかに宣言しなさい 祭壇の暗黒星雲へ 次々に捧げられる 音曲と生贄たち 永遠かと錯覚するほどの 不毛な狂騒の末 「聖なるかな」のリフが 唐突に、 終わり、 暗転。 そして砂の匂いがする夜明け アタシ以外は誰一人として 帰ってくることができなかった 最後の朝 、のあちらこちらに配置された 無数の白い椅子 中央にあるテーブルの上 無造作に置かれた聖骸布に浮かぶ 名も無きホームレスの死に顔 アタシはその傍らで 囁くように歌いながら いつまでも、いつまでも、 あの子の目覚めを待ち続ける
0「Calling You」 また 流星群を見逃したけど キミの吐息の方が ずっと大切だから 後悔はしていないよ たぶんボクはこうやって 少しずつ妥協して 内側から変質していくんだ そうして いつか自分自身が流れ星になって 誰かの祈りのための 寂しい供物となるかも知れないね ボクらの乗った列車は 真っ暗な時代を走り続ける 乗客はまばらで 誰もがうつむいたままだ 近づいては遠ざかる 遮断機のすすり泣き 黒い窓に一瞬だけ浮かび すぐに消える母の恐い顔 そうやって学んでいくんだ 諦めと祈りが同じであることを 人が死ぬために生まれてくるように 約束は破るために交わすもので キミがボクの耳へ吹き込む えいえん、という言葉も ボクの胸のふくらみをすべる ピアニストのような指も すべては神さまの冗談みたいに 歴史からスルーされちゃうんだ 本当は初めて二人で行った あの灰色の海辺で 心中すべきだったんだ ボクがもう少し優しければ そう提案していたはずさ でも こうやって生きながらえて 夜の中で揺られるのも 悪くはないよね どうせ行き先は同じだし 睡魔に抗うことはできないのだから キミの荒い息が 身勝手に途切れるとき ボクの中に小さな波が拡がる 窓の外は相変わらずの闇で ガラスに映るくすんだ車内に ボクらだけが存在していない きっと もう眠りの中なんだね ボクはキミの夢を、 キミはボクの夢を、 共食いのように見続けるんだ そうして何度も互いの名前を呼ぶ 合わせ鏡のようなエコーから いつか二人の子どもが生まれて ボクたちがたどり着けなかった 淡雪のような朝を目指すんだよ
0『花弁を磁針が追うのだ』 きっと針が指すだろう。白い黄色い赤い花弁が剥がれて一枚ずつ川面を流れていく方角を。この体をどうしろというのだろう。こいというのかい。何度も深煎りの真夜中を育ててここまできたからといって、車の窓から鳥を投げ捨てるな。もっと、見ていて。もっと、正しいことを喋る機械たちの、埠頭からの身投げを見ていて。もっと、安全なところから、もっと、想像しよう、四葉のクローバー一時半の群れ、もっと。手と歯と目がある、とは限らない、みんながそうとは限らない。遠くのさらさら白く薄い貝は別の国の優秀な学生だ。いっぽう近くのものほど頭痛を伴うあじさいのようで、花期が過ぎると汚らしいもん。風に吹かれているのはたぶん部品取りに生きながらえてる車の体躯だけではないのだ。あの日、友人の家を知った夕べ、狂った貂が、庭の奥のほうに繋がれていて、鎖がじゃらじゃら鳴って、涎と共に呪詛の唸りが漏れていて、手前のほうには何も考えてない小さなヒヤシンスの純血種が数匹いたのだ。どちらが哀れだというのだ。構われぬものと構われても気づかぬもの。私はショックだった。だから願い事をしよう。私は君を連れて楽器屋で万引きをしよう。だから願い事をしよう。ゲームセンターの偽物のパチンコ台の鍵を開けよう。だから願い事をしよう。墓石に歌を聴かせよう。匂わず、散らず、ただ監視下に置かれ、だけれどぽつんと火の咲く体になるまで。それまでに見損なったら捨ててほしい、金のあんまり掛からぬところに! 肩を抱きしめ背中から手を出せば、肩甲骨のひびが夢に顕現し、小指の爪の花びらの裏からは蜜蜂が出てきて光をたずさえて巣へ帰る。私も帰りたい。帰ってしまったら汚らしい服を脱いで、一枚ずつ洗濯機に浮かべて、流れるのを待つ。いや待つ暇もなくまた脱ぐ。また浮かべる。そして私はめしべとおしべだけになり、裸ん坊になる。ちょきっと茎を切られてしまって投げ捨てられる方角を、きっと針が指すだろう。私の体は乾いて、からからになって、萎れてしまって、春の七草にでも足されるのだろう。おいしい? と私が聞けば、いいや、と私が答えるだろう。めしべとおしべが両方ついた私と私がおかしいと君がいうのなら、あなたの目の前には二度と身体を晒さない。コーヒーを温めてバスに間に合うように走っていくよ。水筒は大きい。ほとんど中身が入らないくらいの断熱材。昔のだから。そのかわりほかほか。でもそれだって降りる時に忘れてしまう。昔を一個忘れてしまい、失ってしまう。街角を曲がるたびに約束すらも消えていく。街角で配られる甘いキャンディが歯にくっつく。噛むたびにその粘度が脳の冷えるところを冷えるところを冷えるところを冷えるところを冷えるところを冷えるところを各所に伝える。冬が来たよ。花が散るよ。そんなことも伝わる。こいというのかな。昔からずっとそういっていたのかな。のそのそしていたら泣かなくて、そわそわしてても泣かないよ。私が私を抱いたとき、泣くとしたならいつでもそうやって私が私に帰って来た時だ。花弁が首輪を作れる量の時だ。サンダルだと滑るなら、肉球をにゃあから借りてきてほしい。後ろ肢の二足でいいからね。傘を回してはジャンプする、テントの屋根に溜まった雨を下からついては笑いあう。朝の血管の青い特別な時間。昼に骨を燃やした特別な時間。夕方に工事現場で神経を抜いた特別な時間。夜に現れた私たちの特別な特別な時間。すべての体。そうですか。にゃあ、肢、返しときましたからね。秘密の冷凍庫は私専用。これからの季節、行き倒れの花たちをしまうのだ。もちろん貂もヒヤシンスの球根もにゃあも。庫内は氷臭くて敵わない。いつも満杯、洗う隙などない。磁針だけがただ一方向を指している。それが凍っているのかどうなのか
2『それでも手紙が届くなら』 もしも手紙がまちがって、君の元に届いたら、すべてを捨てて囚人になってほしい。僕は絶対、手紙は出さぬ。それでも僕から手紙が届くなら、それは君が純粋の罪人ということなんだ。昔、ちらしの裏は白かった。古来、シャボン玉の霊気は恋の伝導体だった。かつて、拙い歌は戦争のきっかけだった。アパートたちの睦まじい屋根々々はいつからか防音シートで広く覆われて、自分たちの発光のシルエットだけでいやらしいことをしているのが分かる。簡単にいえばキスよりも――。遥かに――。肉親の引っ越しを手伝ったことはあるか。病人の外套のボタンを通してあげたことは。僕からの手紙を受け取ったことは。いいや、なんでもないよ。忘れてほしい。いじめられっ子が脅されて授業中に外国人教師にふぁっく・ゆー!と叫んだ場に居合わせたことは。滑りやすい苔むした中庭、ジャンプしたらラジオ倒れて、グッピー三十匹、電池のとこから出てきたことは。それを夕餉に話したら、翌朝母の残したコーヒーメーカーにドジョウぐらぐら腹を見せて茹ってた。完成する前の友人の家の柱のいくつかに※尿とだけ書いたことは。今日の雪はすごいらしいと呟いてからトイレのドアを開けたことは。すごいって素晴らしいという意味ではない。そのうえで呟いたことは。もしも手紙がまちがって、君の牢に届いたら、こんな何でもないことたちをすべてを捨てて、数年ぶりに驟雨を浴びてほしい。あくまでその時だけでいい。僕は絶対手紙は出さぬ。それでももしも僕から手紙が届くなら、それは君の罪が少し許されたせいだと、生粋の囚人でなくなったと気付いてほしい。数年ぶりに驟雨を浴びたなら、風邪をひかずにいてほしい。風貌を変えたならもっと徹底的に!疲れたら目を閉じてそこがどこだかは忘れずに鼻唄は歌わずに!いくら寒いからといって、朝のグラタンはその日一日の口内炎を意識させるから食べぬよう!残したグラタンは犬には与えずに!写真は残すように!犬の写真も残すように!君をあなたと呼ぶ人の全員を全員、許しても、けっして信じてはいけない。と、と、とと、とととと、の、子らの歩く足を見てそのきらめきに叫ばぬように。汀の泥水の危うさに呼応する幻視。幻視の背中。それについて特定の誰かを想像することはたぶんできない。嵐が!やってきたとしても――
3凸凹な世界 雨が降っている 山々は緑を誇り 大地の渇望は満たされてゆく 少女はホッとしたように両手で柄杓を作る 人々は陰鬱を閉じ込めて あるいは口笛吹きながら 時の静寂をノックする 少女は宝箱を開ける前のトキメキで 「甘い水を手に入れたぞ」 男が叫ぶと 万物がぞろぞろとそぞろ寄り 舌と根を伸ばして奪い合う 少女の眼差しが少し曇る 砂漠の蜥蜴の眼の潤みが愛おしく 熱帯のシダ植物は贅沢な座布団に座る 少女は首をかしげながら両手の水を飲み干す 雪に変わった雨は 街を銀色に包み込み 野兎の俊敏さで 寒さが季節を超えてくる 少女はそのとき何も持っていないことに気づく 雪は来る日も来る日も降り続け 天と地の境目がわからない 山々の叫びも 大地の遠吠えも 今は届かない 少女は鉱物のように動かない 雲が切れ日光が射す 感謝と祈りに包まれた地上で ざわめきが蠢きだす 少女はそれでも動かない 人々は歌い踊り 山々は笑い転げ 大地の息吹は芳香に溢れ 空気は極彩色に染まる 誰かが少女に口づけをした 雨が降っている 蛙たちはこれでもかと我が世を謳歌し 田んぼの水面は幾何学模様を描いている 少女はひとつくしゃみをする 部屋でじっとする人々は雨垂れに過去を想い 傘をさして闊歩する人々は靴音に未来を託す 少女は火のある方へ歩きはじめる 「甘い水を手に入れたぞ」 男が叫んでも 誰も来はしない (みんな甘い水を手に入れたんだな) 少女は親切なおばあさんの家の暖炉の前で微睡む 凸凹な世界 不公平な世界 自由と不自由の狭間で 少女はあわいに生きることの意味を知る 美しき両性具有 二本の角を空に遊ばせ 白濁した道を作る 少女ははじめて恋を知る 虹には厚みがあり 海と山をたやすく結びつける そこに風が吹いていることなど 誰も想像できない
1「ファムタル」 手紙という体裁で描き綴られた長たらしい絵日記を片付ける、これは妹の呪いでしかなかった。まったく未だに棄てられやしない、見ず知らずのものたちの手垢のついた系譜でしかない。青空の移った手鏡が割れ、そこら中に散らばったゆめまぼろしのあとを反芻されたように、呑み込めず嘔吐を繰り返す長兄、罵声と嗚咽を想った胡蝶が舞う。ひどくふらついては、視界が安定するまでの間に駆け巡る衝動を再現する。脱輪したまま駆け出し、野畑を踏み荒らした後に咲いた曼殊沙華であれば、美しく想えたのに。首筋にそって足の先まで這ったあとが引き攣り、うまく生きれない私を作り上げたモビールの依り代たちが煌々と燃える夕景を映し出す。追追経てられる直筆の糸は拾いきれずもうすぐに跳躍を模様し拗れた按配が善く。それで書いた傍から抜かれてしまうほど、節々に罹り傷んだ実でしかない。下卑たスクリプトを磔に独り立たされた無垢な赤子の生涯を知っているか。14時06分、ひとみを閉じる。また生まれ死ぬ。墓碑銘に到らぬ汚物を垂れ流す覚悟という嬌声。どうせ私の姿は彼に捕らえられ勝手に生れては消えていくのだからと落書き、ファムタルとつけられた遺書をまたひとり孕み出す。
0「記憶装置」 久しぶりにカメラを持って外に出ました。一瞬ごとに姿を変えていく、あなたの知らない景色の姿をとどめておくために。今この時を焼きつけておこうと思うのです。そしてあなたにおくる写真を撮ろうと思ったのです。 幼い頃から写真を撮るのが好きだったのです。父のフィルムカメラは魔法の小道具のようで、仄暗い画面の少したわんだ陰翳の虜でした。焼きあがるまではわからない表情の意外さや、通り過ぎる景色の一瞬をを切り取ることは、少し前の自分との待ちどおしい対話のようであり、アンティークの万華鏡を覗く懐かしい喜びに似ています。 今はすぐに出来不出来がわかるようになり、その間合いの狭さに生きづらさを感じていたものですが、間違ったと思ったら何度でもやり直せるのもまた、悪くはないのかもしれません。 人が当然にできているように見えることも、同じようにするにはひどく時間のかかる私です。曲がったり、ぼやけたり、これと思うような一枚には、なかなか仕上がらないものですね。ままならないと思うから、気づけばやり直しの連続で続けているのかもしれません。 蔦は冬には赤くなるというのはほんとうでしょうか。真っ赤に染まった蔦が、雪に埋もれた石壁を這う写真を、見たことがあるようにも思うのですが、私の知っている蔦はいつだって、エバーグリーンのままなのです。 銀杏はそのかわり、つい先日まで競うようにして、天を突くように燃えていました。それが今日はがさりとしたプラタナスの上に一斉に降り注いで、造り物の舗道に小さな季節の終わりを描いていたのです。昨日の雨の水たまりに沈んだ、まだ鮮やかな葉は、オフィーリアの亡骸のように美しく、けれども通行人の靴はそんなことには見向きもしないで、路面に張りついた葉を踏みしだいて行きました。かえるにかえれない葉たちは、やがて風に乗って、蝶のように舞い上がるのでしょうか。魂の故郷はどこだろうかと、見送りました。 今、どうしていますか。 1日1日がとても長く、同時にものすごい速さで過ぎ去っていきます。これからの景色を、これからの季節を、眺め、享けとめるのはいつまで続くのでしょう。1人では抱えきれないこのうつろいと感動を、あなたにもいつの日か分かち合いたくて、今日も明日も生きていきます。またいつか会えるその時まで、カメラを片手に。
1『春の音』 春 命を育む季節 そんな季節が 事もあろうに 命を見捨てた まだ羽毛も生えていない 淡い桃色の雛が 巣から真っ逆さまに落下し 地面に叩きつけられた 内耳で反芻する音 皮の軋む音 皮の軋む音 肉の千切れる音 肉の千切れる音 骨が砕ける音 骨が砕ける音 命が潰える音 命が潰える音 悶え苦しむ様もなく 暖かな陽光に包まれた公園の片隅で 私だけに看取られながら ひっそりと命の終わりを迎える せめてもの餞に 涙を拭うふりをすると やけに冷えた指先が 思わず唇に触れた ぬるりとした感覚に 私はふと 昼食に食べた から揚げを思い出す 皮の軋む音 皮の軋む音 肉の千切れる音 肉の千切れる音 骨が砕ける音 骨が砕ける音 命が潰える音 命が潰える音
1『融解』 脳が中心から溶けてゆく感覚は 生まれてくるときに感じた温もりとよく似ていた 瞳に映る景色の色さえわからないまま 私は腐り落ちてゆく 化学物質に汚染された体は 土に還ることすら儘ならない 我らは 絶滅危惧種「人間」 化石になっても価値はない 愛とか 夢とか 希望とか 月並みな言葉を並べても 冥王星には届かない さて 行方不明の足をどうやって見つけよう
1『弔い』 顔も知らない、私の顔によく似た、あなたを弔って、たった7人で、席についた。もう広すぎるよ此処は。かつて14人がいて、今は7人だった。まるで花弁をちぎるように、回数を重ねながら、物事は小さくなっていく。どれほど抱き合っても語り合っても混ざりあうことはできない、2という数から上はその寂しさを数えることしかできないのに、私たちは、必死に、あつまった人数を数えている。私たちが持っているものを数えてしまう。1から上を。私たちはかつてあなたでした、あなたから生まれました、そしてあなたではなくなりました。世界が凍っていく中で私たちはただ祈っているのです。そして恐れているのです。かつて14でした、そしては今は7。あなたは私たちの顔も知らない、それでもあなたによく似た顔を持つ私たちをおいて、あなたは1人で悲しくなって、数えなくなって、あとは私たちが、うろたえながら、おびえながら、泣きながら、数えているのです。 よく凍った床の上では、ひとしく凍えることしかできず、良く通った鐘の音の中では、ひとしく聞き入ることしかできず、胎内にいるときのように私たちは、喪ったあなたとわたしたちを想いながら、しわくちゃの頬を濡らしているのです。
1『お笑いが苦手』 終わらないので…。
0『ダ・ミン』 襖を隔てて向こう側から 今朝も父の声が漂ってくる 「粉ものはやはり儲かるらしい タコ焼き屋の店長に私はなりたい もしくは クラフトコーラを振る舞う 古本屋の店長に私はなりたい」 僕は僕を殺していそいそと ガソリンスタンドのバイトに出掛ける バイトから帰ってきたら 今夜も父の声が漂ってくる 「有名店のフランチャイズなら儲かるらしい ラーメン屋の店長に私はなりたい もしくは 讃岐うどんを振る舞う 古本屋の店長に私はなりたい」 僕は息を潜めてもぐもぐと スーパーで半額で買った唐揚げ弁当を食べる 翌日の朝、いつものように襖の向こうから いつものような父の声が漂ってくる 「焼鳥屋が儲かるらしい 酒も出せば なおのこと儲かるらしい もしくは 月の出る夜にだけ店を開ける 古本屋の店長に私はなりたい」 僕は息を殺してゆらゆらと バイトは今日で辞めにして自分の布団に 潜って、やがて「ダ眠をむさぼる」の 「ダ眠」の「ダ」ってどんな漢字だったかと 考えながら微睡んで 蒲団に潜っていると 僕は、僕こそが あと、また父も含めて 僕らは ダミン、駄民、堕罠だ そう思った すると襖の向こうから 父の声がまた漂ってきた 「少なくとも 私はダミンでは無い 何故なら 私には夢があるから」 ……つかの間の沈黙から 「しーん」と呟く父のつまらない台詞と やはり僕は僕を殺して蒲団から起き出して 身支度をして それからバイトへ向かう
1『くろいかげ』 いえ もうきょうはあがります わたしはもうくたくたです あしたもあさからかいぎがあってきついので きょうはかえらせてください などと もういいかげんしんやざんぎょうきりあげて まだせんぱいこうはいどうきたちが ガヤガヤはたらくオフィスをするっとぬけて たいしゃ もういい たいしゃするのだ はたらきかたかいかくもなにもない エレベーターでエントランスまでおりたらば とたんに ヤなかんじ でいりぐちのガラスドアのそとがわに くろいかげがたっている なにあれ こわい わたしはそとにでられない オフィスにもどるのもいやなので そのばにたちつくす くろいかげはゆらめいている ほのおのよう これじゃ いえにかえれない かんべんして きょうはもう これいじょうはたらけないよ ざいたくきんむとかいって ねてあそんですごしてはたらくふりする そんなひとたち(クライアント)のぶんまで わたしはもう これいじょうはたらけないよ わたしとくろいかげはじっとたいじする くろいかげにたちのくけはいなし オフィスにもどってだれかをつれてくるか いややめておこうみんないそがしい スマホでかぞくをよぶか いやもうみんなねてるじかん そこで わたしはうらぐちをおもいだした ひじょうかいだんのうらてにうらぐちがある わたしはうらぐちにむかってはしった おもたいてつのとびらをあける すると あたりいちめんにひろがるやみ わたしはあっというまに やみにつつまれる きづいたときには わたしはオフィスにいる じぶんのせきにすわってパソコンをきどうし まどのそとではとりのさえずり とけいはもうすぐかいぎのじかんをさして わたしもう にんげんやめていいですか?
1「割腹とチェインソー」 刑法条文に断絶した言葉としてあなたは殺人者という言葉を使うから、再構成された電子音声は震え、分解する。 王国に歓喜のうちの斬首を あるいは戦争を 神々に供物と祝福を あるいは、あるいは創造を 「割腹自殺」という言葉、それについてドストエフスキーは切腹は自殺なんかではないと言った、切腹は恥の洗浄であるからすなわち、あまさず贖罪であること。それが神への贖罪でなく他者への贖罪であること、切腹は動作に於いてかなり能動的で実に実に受動的であるが、日本では能動と受動とが神に於いて克服されていないから、自殺とは一体能動であるか受動であるか私には十分に理解できていない、割腹自殺をした小説家について説明的に話したときに彼女は「その人はなにか悪いことをしたのか?」と私に聞き返したことである。 戦争が終わり、焦土が残る。王国の革命は信用しない、王はただ隠れるだけだから。無限の創造だけが赦される焼け落ちた街で、死人は青くひかるだろう。 バルコニーで何を殺そうとしたのか。 殺人者の話しだ、った。彼の小説はきっと殺人者の話しだった。 焦土から許しを願う、焦土は隠れ、王も隠れるさ、焦土は実にいろいろな幻想を醸したが、私はもう視たことがない時代の人間だから。 司法に断絶した殺人者には武人や野侍、それは司法以前か、司法の源泉である王に因る、権力とは極めてパーソナルで、実に革命家はパーソナルである。 名前を破壊して名前を建設するだろう、こうして一つ一つ潰していくとが若い奴には必要だ、ああ。 プロレタリアートは事実殺人者でも君主でもない。プロレタリアートの国には王も殺人者もいない。 ああいう名前は色々忘れているんだ 名前は忘れるためにあるんだ 良いことでもあるし悲しいことでもあるよ 事実、忘れるというのは悲しいことだよ、思い出すという以上にきっと。 悲しさは空を隔てる月の上、黄色い光を放つ土の上 父親は祖父の幽霊に苦しんで夜中に覚きて直ぐにまた眠る 祈りには終わりがあるのでしょうか、祈りの終わりは物語に、詩に、小説に、古典に神話に還元するでしょうか。
1『Nihilism』 おはよう。 今日も夢を見たよ、いつもと同じ夢 私は祖父から赤色のランドセルをもらって みんなから祝福されて、力強く抱きしめられる 逆行して心臓は悲鳴を上げながら渇いた音を立てて、水面を勢いよく叩きつけている 解放された心臓は今でもしわくちゃのまま まわりは同じ表情をした大人たちばかりだから 耳を塞いで、ベットの上、温かい布団の中に静かに沈んでいく 仮面だらけのこの世界で 恋愛漫画に胸を打たれている自分のことが嫌いで 喉元を掻きむしりたくなるから 見える景色に無意識に擬態することを覚えた 日常に転がっている仮面たちは 誰の手にも取られることがないまま 真っ赤に染まったナイフを突きつけられて 雨に晒され、風に吹かれながら 街から街へ/雲から雲へ/星から星へと浮遊していく 夜空に広がる光は塵だから ブラックホールへ吸い込まれていけ!!! 半透明になって、形を変えながら、あるべき地面戻ればいい 少年少女の形をした子供が無邪気に手を振っている これは現実なのかそれとも幻想なのか、 私は手を振りかえしていいのかと一瞬考えて 首を傾けてゆっくり手を振った --------------✂︎ キリトリセン ✂︎-------------- おはよう。 今日も夢を見たよ、いつもと同じ夢 内容はよく覚えてないけど、 あなたが笑顔でいてくれるのなら、 私は息を止めて真っ暗な深海へと潜り続けてもいい
11 矛盾に目をふせて息をつなぐせかいに なにひとつ できないまま 無力さにうちひしがれたよるが ぼくをまた 連れてゆこうとしている 2 胸には下弦の月のネックレス 耳には愛のささやきを ゆびに星のきらめきを 夜のヴェールをかさねてひそやかに 永くふかい くちづけを あなたの腕に抱(いだ)かれて せかいを薔薇色に染めあげる そんな 夢を みたのです そんな 夢を みたのです...
1「ウルトラマリン」 ウルトラマリン て いいよね 虎と羊駝とマリとリン、 二頭と二人がいっしょに暮らしてる 大変は大変だろうけど いのちのやくどうがある でも それだと ウルトララママリリン、 うると ララ ママ リリン になってしまうから 虎と羊駝、 羊駝とマリ、 マリとリン、 二人と二頭たちの 血湧き肉躍る関係 をあきらめ スキャンダルの匂いも消して ウルトラマリン に戻した 今夜 ウルトラマリンの深い青は ひきはなされた者らそれぞれの 痛みを内包しているようだ 澄んだ大気の奥の きんきんの月明かり 浮かびあがる空の色を眺めては しくしくしみいるうつくしい音いろに ひとしきり 身をひたした
1作品名「誰がために」 作品 でいんどん でいんどん でいんどん 今宵の鐘はどうにも歯切れが悪い あゝあの小僧が撞いてゐるのだつたな ゆうべアンセルはいつちまつたよ 最後は故郷の教会の鐘を撞いて終わりたいのだと 生まれて此の方いちどだつてイエルビルから出なかつた事を 今更おれは悔やんでゐるのさ 誰かおれにもその刻を告げてお呉れよ でいんどん でいんどん でいんどん ベツドを出るなりコンロを焚いて 湯を沸かしつつ豆を挽く ケインは朝から不平たらたらだが 一杯干す頃にはもう上機嫌さ ポテトを揚げてパテイをうらがえす オブンではこんがりビスケツトが焼けてゐる おれは皿を洗いテーブルを磨く でいんどん でいんどん でいんどん 夕暮れてからくる客は口が重い おれが知る限りもう何年も町を離れたことがない 今日さいごの客がじやあまたなにもおれは返事を寄越さない 足元ではマグカツプが砕けてゐる それが男の仕事だつて言ふ奴もゐるが おれには何だか締まりのない話に聞こへるな 誰かおれにもその刻を告げてお呉れよ でいんどん でいんどん でいんどん あの小僧はそのうち踏ん切りの好い鐘を撞くだらう けれどそいつは俺の時間のうちじやあねえ でいんどん でいんどん でいんどん でいんどん でいんどん でいんどん
1「みちたりる」 一つ 目をとらえられず二のあしを踏み 話されない言葉の群れに 放されないようにと間合いをとって 三歩うしろ、あるいは四歩 連 な っ て 鳴く ひなどりの 五カイの窓から 飛 び 降 り る なんて 妄想ではいけないからだ もう走行距離は 瞑られて ーー左方向、衝突シマス 七曜行脚 託せないと 八方塞ぎ 戸を立てて 打ち砕く 心のままに 始終カラ 地を泣いた 攫っては また みちたりる
1わた 詩人に偽証されたうつくしいももどかしさも ずっと北国の凍土の下に蹄もつ獣の臼歯からやましい明日の夕食の献立に引き裂かれてはぬるむ さむいさむいひとりからしたたる肉汁のわけ わかるとしてもわかってやりたくはない だって月が出てるでしょう 日が周るでしょあんたが発かれた日も 諂い語の教条を捨てただけで 律法者みたいな顔して 誰がひみつを画してるの? 聞いたのに、答えがないのが答えでした。 塑像してごらんひとつひとつの機械を おまえひとつの詞も嘆られないぜ ずっとおくでどくどくいってる 胸郭も新月も敵でもいい ふるい箇条は忘れてもいい ぜらちんしつの後悔とかが 庭先にうちあげられ腹を晒される水槽とおなじに 意味を吝んだのだ。ゆめられない鍵笑うって自傷だ はんだんちゅうしなぞしてやらねえぞ 散大した熱がこの世に永続する わたしははじまりですと はぎれの裾に別けられる区などないように それもも恥じて幸せあったように わかっているよ誇張法でしか喋れないんだろう 蹄鉄も鐙もはるかとおく夢に埋めもどして あとには嫌いとだけいう余熱のかたわれ さよならわたしのわた 嘘つきのぶんの膨らみをいっしょになぞった 生物の進化が停まった夜の広告から 春占いにひとつまみ溶けていた 貨物列車のひかり 雨が上がるとあなたの頚筋を虹が抉っていた 知らない町の眺めかたを たぶん ずっと知らないままがいい
1「鏡上の海」 大陸の端まで旅をして海峡を眺めるとき、冷たい潮流が海峡の間を勢いよく流れて、水しぶきを上げて、何千トンもの青の塊が低く唸りをあげている。空模様は薄い青地に灰色の雲がこびりついていて、きっと南の海の青空から刷毛で薄く、何千キロも引き伸ばしてきたに違いない。北極の氷はウチからぼんやりと爽やかな青を発していて、きっと壁の向こうには宝石が融け込んでいる。 みぞれ混じりの黒い黒い海に身を投じる。夏の縁側で食べるかき氷はさぞ美味いのだろうと思いながら、鏡面のように静かな彼岸の海をゆく。 ずっと遠くで流氷の声が聞こえる、コリコリ、ゴリゴリ、というさざめき、ズーという低い通奏低音。 そうして島が見えた。円弧を描く小さな島。土壌の貧しいその島では、草原が北極風に吹かれているばかりでたまに低い枯れたような低木があるばかり。すっかり濡れた外套を脱ぎ捨てる。肌の色は寒さで脱色され、深海の暗青に染まっている。歩くたび指先から脆くこぼれていく気がする。末端から感覚がなくなっていき、荒れ地に点々と海の欠片が置いていかれる。 島の真ん中に石灰の一枚岩がある。葦原に半ば埋もれかけ、小枝と白茶けた土くれ、鳥の糞が見える。そこに腰掛けると、石の冷たさが硬く尻を突き刺してくる。錆びついた鼓動が度々不整脈を起こすのに不安を感じながら、鏡のような海を眺める。波もないその海面に映る薄い青空、その下に続く海溝を幻視する。たまに一迅の風がひょうと吹くと鏡はヴェールのように揺らめき、その襞の一つ一つを数えた。 ゴーン、ゴーン、カンカンゴーン。 鐘が聞こえ始めた。その響きに合わせて鏡面のあちらこちらで波紋が円を描く。青銅の鐘は訥々とお告げをつぶやき、コンパスの針を次々に突き刺しているようだ。方位磁石はおもむろに石灰岩の上で直立した。いつのまにか体は骨ばかりになり、石化している。波間に骨の結晶が散っていく。多重に相対反射を繰り返す鏡の海で骨は水葬され、星空を描く。そして一つの大きな影の輪郭を浮き彫る。 クジラが咆哮した。鐘の円弧に接するように海底から調和する。風にささやき鐘を告げる波の連鎖はその咆哮に回収され、海溝に帰るのだ。原糸の始まる点ににぎやかな長調はダル・セーニョまで戻り眠りにつく。 北の海は鏡面にして空を映す、またその像を空に映す。踏み入れば消却される空間。今日も凪いでいる。
1「地下道」 あ、俺、この曲すきなんだ なにこれ 主よ、人の望みの喜びよ へえ バッハの曲だね さあ うたうんだ さんびするんだ 最後のお願いがあるんだ なに 十秒だけ目をつむってくれないか 王様のアイディアで待ち合わせね え、それどこ え、ボタン押してなかっただけじゃん、うける え、しかも、ここ違う階じゃん、もう あのー、大丈夫ですか はははっ 芸能事務所の者ですが、芸能活動に興味ないですか あ、結構です そういえばさ、俺が去った後なにしてたの 普通に買い物してた 探してくれたの ちょっとだけ さあ あるくんだ さがすんだ 世界中のひとが敵になってもさ わかってるって 俺だけは 怒りを忘れないことが大切ですよ 怒りを忘れない? 吐き出すんですよ もし自分の葬式が開かれてさ まだはやいって 泣いてくれる人がいるって信じている なかないよ はかないね 先輩の手って、なんであったかいんですか いや、ねつがあるわけじゃなくてさ それにしても、あったかい たいしゃがいいんだよ さあ かんじょうを めぐらすんだ はしるんだ はしらせるんだ しらせるんだ あるいて あいして さがして ひろって 西武はどこですか 東口ですね おと して あるくほどに、おちるんだ、あのおとが、だからさ、ひろいつづける、この、うまれつき、きこえのわるい、みみで、つつみこむ、かんじょうを、めぐる、けつみゃく、ながれる、ひとは、かわに、つつまれて、みえないんだ、だからさ、みみで、ひろって、かく、かいている、いま、ひろった、おとを、くろく、そめて、 そういえばさ なに 地下道のあかりって消えるのかな ずっとついているんじゃない さあ こえを はんきょうさせるんだ どこに あなたの地下道に ひろったこえ は しらせて おと す る
1「変態」 十八歳の文化祭を欠席したので わたしはエプロンをつけなかった 出しものの喫茶店では 女の子がひとしくお給仕をさせられる 九月の家庭科はエプロン作りで 自らの腰を覆い隠すための布を 女の子たちは週に一度 ひと針ひと針縫いあわせた 女の子たちと 女の子たちのエプロンがお給仕に励むころ わたしのエプロンは教室の後ろ ロッカーのなかで紙ゴミに埋もれていた 扉にあいた空気穴の高さからはちょうど いそいそと動き回る女の子たちの尻が その上で白い布のリボンがはずむのが 見えただろう 幼虫はさなぎになると 体をどろどろのクリーム状に溶かし 成虫の体に作りかえるという エプロンは目撃する 女の子たちが一斉にリボンをほどくそのとき 尾てい骨から 肉でできた羽根が生え出すのを 全てが完了すると女の子たちはエプロンを投げすて はればれと背伸びをする その絶景を わたしは布団のなか 仮病のきまりわるさと本物の頭痛とを混同しながら エプロンの眼を通してながめていた どろどろに溶けたままの腹を撫でまわして 花嫁が あんまり熱心に食事をするので 親戚一同が笑う 事実ウエディングドレスは食事に向かず 呑みこむたびコルセットが胴をしめつける わたしは三層のテリーヌを食べ 白鳥を象ったパイを食べた コンソメスープを飲み干し 鮭と豚肉の燻製を食べ 紫芋のムースと赤蕪のサラダを食べ 舌びらめのムニエルをつるりと呑みこんだ 虫たちにとって一粒の雨は ときに溺れるほどの衝撃であるという 友だちが囲むテーブルの真ん中に 巨大な水のかたまりが落ちてくる テーブルは真っ二つに 金縁のお皿とグラスが飛び跳ねて割れる ドレスの友だちが悲鳴をあげて逃げ出す つぎつぎにテーブルが破壊され 花飾りは床にうちつけられ 司会者のマイクがハウリングする 子どもたちがあちらこちらで泣く 宴会場はたちまち水位を増し カメラマンの三脚が沈む 白いグランドピアノが沈む 三段のケーキと 上に乗っていた砂糖人形の男女が沈む 席次表やメッセージカードはぷかぷか浮かんでいる みなヒールや革靴をぬぎ ストールやジャケットを水のなかに捨てて 泳いで脱出をはかる ウエディングドレスが水を吸ったせいで わたしは一段高い席に座りつづけている 男は わたしの手を離さずに そこにいつづけてくれる ついに水面が天井に至るころ みんなもう逃げてしまった 巨大な直方体のなか ウエディングドレスは牡丹の咲くように浮かび上がり わたしたちの体も宙吊りになる ドレスの花びらに ふたり 丸ごと覆いかくされて どろ どろと 溶けはじめる ロッカーでエプロンが風化する わたしのクリームと 男のクリームと 手をつなぐようにおずおず混ざりあって 新しい体の 神経が つながる その絶景を わたしは虫の眼でながめ 熱心に食事をする 親戚一同はすでにあきれている パンをちぎっては口に放り込み ついでにバターまでいただく にんじんとビーツとアスパラガスのソテーを食べ マッシュポテトとバルサミコのソースをさらい 三口でステーキを平らげる 液状に噛みくだかれたごちそうで 胃のなかが波うち出す 新しい体よ、 一人分で お給仕もしない わたしの新しい体よ、 羽化が一度きりだとだれが言った? 更衣室でドレスを脱いでわたしは生まれるだろう そうしてもまたどろどろに死んで 別の日にまた新しく生まれるだろう クランベリーのアイスクリームを食べきったあと 口の端についた赤いジャムを手の甲で拭きとり その手の甲まできれいに舐めたら いっそ拍手喝采の親戚一同 小さなワンピースを着た女の子などは 真似してちょっと舌を出してみせた
2「食いちがう」 肉を食べる 切れ味の悪いナイフでねじ切って食べる 池のようなソースで食べる 男が帰ってくるまでには まだ時間がある 男が懇願したことがあった いわく わたしの食べている肉は腐っている においも口に運ぶ姿も耐えられない お願いだからその肉は捨ててくれ 他のちゃんとした肉を買ってきてあげるから そのとき食べていたのは鶏のもも肉で わたしはもう一、二切れ名残惜しく口につめ込んでから いわれるままゴミ箱へ入れた 三切れをいっぺんに頬張る 筋は手強いので歯で噛み切る 腐っている というほどではないのだ 多少色がくすんでいるだけで 男は なにを怖れているのだろう 荒野でインパラやシマウマの腐肉をすするわたしの姿が浮かぶのか それをディープ・キスで口移しされるように思えるのか わたしの体が内側から腐臭を放つことか 男自身がいつかどうしようもなく腐ることか それとも 「くさっている」という言葉自体が 男の優しい鼻をへし曲げる肉 わたしのおいしい肉の前にさらされると たちまち意味をなさない音のならびになってしまうことか ソースをさらにじゃぶじゃぶ足す 机にこぼれたかけらも拾って食べる もともと 意味のある言葉など ひとつでも交わせていたのか わたしたちの 飢えた二つのくちびるの間で 飛びたつ鳩の群れをみて きれいね! とわたしは喉を鳴らし きれい! と男のこたえた 光さす広場に居たときさえ わたしたちの舌は食いちがって なにもわかってはいなかった またひと切れ食べる 飲みこむ前にもうひと切れ足す 男は知っている 男のいない昼間に わたしがひとり腐った肉を食べることを 知っていてなにも言わない ただわたしの食べ終えた皿を洗ってくれ 冷蔵庫に腐った肉を見つけても わたしのために残しておいてくれる もうひと切れさらにひと切れ食べる 空中に男の両眼が浮かんでいる わたしもなにもいわない 肉を食べる フォークを逆手に持ち替え ソースを余さずすくいとって 最後のひと口まで食べる 太ももを胸を尻を背中を食べる くちびるを舌を言葉を食べる まるまる肥った怖れをひっつかんで食べる 男の骨を 腐った骨を余さずにしゃぶってやりたい わかるか これが わかるか
3こがね色の坂道 いつかあなたと歩きたかった道 優しい風が導くあの坂道はいつもこがね色に輝いていた きっとそれはあなたの笑顔の色 あの坂道は今も輝いているのだろうか あなたがいなくなっても変わらず輝いているのだろうか 果たせなかった想い きっとそれは僕らだけじゃない いつかあなたと歩きたかった道 あなたは隣にいないけど 月が照らすこがね道を僕は噛み締めながら歩いた 背負った人達の分まで噛み締めながら 感謝の気持ちを込めながら まだまだ先は長い 独りで歩くのは辛いけどあなたの笑顔と同じ暖かさがここにはある 明日も誰かを背負いながら輝くのだろう 月に照らされた坂道が あなたと同じこがね色に微笑みながら
1[スロータイム] 月が 雲に 隠れていても この時間になれば 僕は 二階の窓を開ける 柔らかいバラードは 温かいコーヒーを 一口飲んでから 恋人を 手招きするように スピーカーから 誘い出す そのうち ドレスで気取った 音色は 社内の形式的な理解者も 同期の独自の健康理論も 出し惜しみのパソコンスキルも ゆっくりと ゆっくりと それらを 吸い込みながら 呑気な湯気と共に 舞い踊る 二口目を飲んでから 僕も 三流ダンサーとなり 小さな高層ビルを そっと そっと 磨いていく
1誰にも言えない本当の気持ち 「ヒトの強さ」 重なり続ける胸の痛みが 蝕んで蝕んで 心を喰いつくす やがて拡がる痣のように 心から体へ 蝕んで蝕んでいく それでもなお たった一握りの暖かさを求め たった一握りの言葉を求めて ただひたすらに ただひたむきに 日々を足掻いていく その先に必ずあるであろう ヒトの強さを信じて
1『後夜祭、後』 一日しか日の目を見ない ぼくらの団結を謳う 極彩色の旗を 捨てながら 意味ある?とか 強がってみたりするのだ ごちゃごちゃした教室を片付けて ふとざわめきが遠のいて 真っ暗な校舎に残されて 昇降口へむかう渡り廊下の 鍵がかかっていることが この世のおわりみたいに感じて 息をひそめた校舎の窓に どこまでもどこまでも 夜は口を開けていて 薄いカーテンを通り抜け 廊下の向こうからやってきて ひたひたとからだにはりついて 孤独の予行演習が始まる ぼくは ぼくらは どうしたって まだこどもで 職員室のあかりがついていることに 死ぬほど安堵するのだ でも やっぱり 上履きで帰らなくてよかったねと 強がってみたりするのだ
1『そんな彼の日常』 包帯を解いて赤剥けた肌に 鱗を貼り付けてみる、 ミイラ男の日課は 魚になる、かもしれない、 電車待ちの無人のホーム、 真夜中に密かに煙草を吸った、 包帯が焼けていく、熱は肌に残る、 また包帯を巻いていく、人々が、 来る前に私はまたミイラ男に、 戻らなくてはいけなかった、 魚に憧れることの滑稽さに飽きれはて たまに包帯を引っ掛け首がしまっても ミイラ男はミイラ男として 生きる決まりだ 帰り道で買った魚の鱗をおとす 頭を断ち切り、内臓を掻き出し 洗いながして、水気をきり 塩をすり込み、包帯をまく 朝になり冷蔵庫をひらいてみたが なにも変わらなかったので、彼は 昼飯として腹におさめてしまった 包帯に染みた魚の匂いにつられて しばらく野良猫に付き纏われたが やはりミイラ男は魚ではなかった
1蓮の花 我在黑暗森林里闲逛的地方 天堂落红的声音 美丽生活在其中之一 Zh (Ng) Zh (Ng) Zh (Ng) Zh (An) sssssssssss ──百貨店。 それは神風を買う場所。 私は孤独な家なき子。数十年前には、ここは戦場だとして聞いたことがありますが、私はそれを嘘だと思っています(まるで、みんなと同じように) 。学生たちは口を揃えて文句ばかり花盛り。武力行使するのはそれを形作るものたちの夕暮れ。 政治的プッシュ──Ps Ps 〉〉〉〉懐に忍刀の穏やかさ。 あぁ、漢字。 私、漢字になりたいです。 誰にも共感されないことばかりが積み重なって私を私たらしめる空に、月と太陽の両方が浮かんでいるように、私は、私は、不確かな果実。 今にも破けてしまいそうな透明度。 潤って、12月は夏の墓場。 過去は現在よりも優れています。 (うわぁ) 「タイムマシンは素晴らしいです」 臙脂色の並木道、(その)風景 それは孤独な胎児に結ばれた 黒光りする重たい手錠。 冴え渡る脳内_“sychedelic pink”_温床 ・・・・白濁CYCLE! とろけた顔でヨガり集る秘密警察たちによる 無知蒙昧なHg、。 碧落に吐く翼Gravity ・ハリアッ! 特別な人種による暴行などの軽度の犯罪行為については、法務省は2/020.8√24現存HPにて、人権は泥だらけの灰と化して今や万全の砂の言葉を得ています。 (それ、すなわち)墓園は今や高級品の一つです。 野田氏はすぐテクノロジーに感動陶酔傾倒した後、熱狂的な信者によって射殺されました。 金こそが幸。コンビニの本棚に並べられた自己啓発本のどれもあの世には持っていけません。 私が何を言いたいか分かりますか? 察してください。それができないなら自身の愚かさを今、深刻に受け止めてください。 「喫煙所は突き当たりを左。執行室は突き当たりを右に行って一番奥の部屋。その向かいが死体安置所で、トイレは階段を登って一階と二階の間にあります。分からなかったら警備員さんに電話してください」 異常と正常の狭間で震えて眼球を夜に滑らせては己に潜む狂った虎を起こさぬようにして日々を消費しているのだろう、雪の白さが美しく感じる今だからこそ災いは弱い心に感染して夜な夜な痺れて侵食していくことでしょう。 不毛な戯言です。馬の耳です。念仏頂戴。いりません。は? もういいです。◯ね。 思想。念仏に著しく近い妄想です。 それらは順番に増加し、無症候性の子供ではより頻繁に増加します。 南に棲むあまびとにとっては生まれてこのかた浜辺の村こそが性欲を解放するためのダンスフロアで、そこには古像のイメージがひっきりなしに流れています(伝統とは、カルチャーとは、まさしくそういったものです)。 私は今。いや、この一分一秒でさえも、何かを無駄にしながら、世間の無知を求めています。 万歳! 眼が覚めるような桜吹雪は青を孕んで 機能:悪魔/獣は飛ぶように見え 謎は十字架として明らかになります。 地獄のイメージはただの弓です。 おっと。大正浪漫は微笑み、 優しい目尻のシワを作って、私と世界を交互に見つめていることでしょう。 1階で食事をした後、犬の頭の少女は原宿を回っては服を着替えます。 それは目の前の万札を求めて泳ぐ赤ちゃんのようでした。精子のなかでは幾億の命の種たちが生きているなんて思いたくない無情の空には、もう夏の風吹いて。 ただ、汗だけはかきたくないのは事実です。 ──今月で辞めてもいいですか? A.混沌 曲のコンビネーションは、祝いに馬鹿げた赤と白だけでなくとも一年中人気があります。 「なんだ、その話」 将来の生活は簡単です。 初めからわたしには失うものが何もないのだから──心臓のビート Zh Zh Mn Mn ×2×2×2×2×2…… クラウド業界で、デジタル時代のまったく新しい世界を切り開く仕事を見つける必要があります。 ある評論家はテレビで、模造船とコインロッカーの墓を買うことを余儀なくされたと言った。 デジタルスキャナーは高価であり、多くのユーザーが今年購入します。 (溜息)、AIと呼ばれる時代に戻りたい。 手遅れだと分かったとき、東北の詩人テペはついに筆を折り、僧Kの記憶が金閣寺を空中で燃やした。少しlittleした後、私は自分の影がまだ怖くて、ゆっくりと前進していることに気づいた──夜な夜な、研ぎ石の音に起こされる、と言っても誰にも共感されません、それが。 それが最近の一番の悩みですかね、
1『喪失』 ズボンの裾がほつれていた 祖母の匂いを忘れてかけている 私はぼろぼろになった裾上げの 糸を縫い直す術も知らない
1「よろめく蟻」 コックが丁寧で好ましいと ユダヤ教の導師であるラビは言う 歩が有れば勝てると言う ルールがはびこっていた頃だった あなたはボールとなって 飛んで居た その放物線を解くらしい蟻が 酢に落ちて隣にいた コックに気をとられていたのか ラビに気をとられていたのか 風呂の湯に居る頃に襲われ易く 湯は良くて酢では駄目な理由も よく分からなかったし 落ちて仕舞えば酢でも駄目だった そんな蟻が庭に居た 蛹を襲っていた 黒蟻の羽根蟻だった 酢に落ちてたじたじとなっていた よろめていた
1「美しい音」 ときどき まるで 深としたとき 鳴る音の美しさ でたらめの言葉を並べているときも うつむいたあなたの輪郭をなでる 冬の日射し 心の中に鳴る 美しい音 私達の一瞬がどれほどの愛に包まれて いるのか 知るすべもなく 窓の外 見下ろす 重たい色のコート 破れたビニール傘 川の流れ 置き去りにできない日常 幸せや楽しさを張り合うこともなく 悲しみや不安に淀むこともない ベッドの端に腰掛けた小さな老婆と 交わす小さな握手 心を置き去りにして 冬の日射し 見下ろす 僕らの一瞬を
1「はんぺんと断片と 冬のおでんとクラッカーの硝煙の匂い」 星辰は重心を隠し合っていた. 菌糸をともがらは連れていく. いつまでも三人称だった僕ら. 君達はそれを花と呼んでいる. 晴れの日の方角を風に聞く それが海鳥たちの意味 「 いつもようにゴミをだ(し洗て濯を機いのて駆動が音お洗濯や保水」道水か洗剤‰撹拌ゝされて泡立Ω回§転を※に変換∬て伝えくくれば)))振動を吸光てねね 夜の目指す場所を知っている。シランの根は抽出された。花に嵐とそう云うのだから。私たちの時間は出会ったことのない。私たちの時間と無期限に期限を区切られていた。過去へ未来へと去りゆく。栞を挟む。傲慢さは行為なのだと窘める。 彼の手はすべてを肯定するみたいに はじめから軽く握られていた 手のひらの内側は 区切ることのできないおおきなものや 空の一部と 属しているから 三歳の君はまだ「あーう」としか 発音できない しゃんしゃん ちぐさ みたまうつしの まっさかり さの葉は 囃し とんとん てーほへてほへ 雛罌粟の長押 魂フリ 尾長の花鶏の いつー むゆー たりー ななー 右に 千草 左に 笹の葉 五十鈴の 響き 祭りも 人も 死も 火も しのび手も みんな ひとしく 花 と呼ばれる 使われなくなって久しい小高い丘の上にずっとある給水塔の理由を、象徴以外に探すとするなら、正確に刻まれるこの町の時刻、駅の発車時間のダイヤを乱していた人身事故や24時間営業の西友が陳列している棚の、一番奥に置かれていた痛んで変色しているバナナなんかにあるんじゃないかと。 色から光を引用していた 花を取り合う蝶二匹 ヒトは殺し遇う生き物だから きれいに発色していられた 光が丘団地行きのバスは終点で 真鍮製のベンチになる これは比喩なんかじゃ無い 浅い眠りの循環に 乗客をまばらに運ぶ サクラクレパスと とかれた結び目 曲線の重なりと 駅舎の赤煉瓦 時刻表の「空間」から 「雑踏」だけが引かれていく 0:09 これからも これまでも 完璧なものなど 存在しない かのように LEDのイルミネーションが 光の胞子を飛ばしている
1「真夜中のボクサー」 真夜中のボクサーは 土曜日投句しているのに 選を忘れて 図書館へ行くのに四冊 家へ忘れて来たのを忘れて 父の「野菜の時間」を奪った 母がたまたま何時もと違って 普段は二冊しか借りないのに その日に限って三冊借りていた せいもあった 美しい雨は降っては来ない 風花が舞って居た 飲食店の駐車場 ダイヤモンドのくしゃみも出て来ずに オーク光年を前に 足の裏にせっせと光を注いで 立ち尽くした
1「る」 巻「る」き「る」髪「る」「る」/ エクラドゥア「る」ページュ/ のほのかな香料/ 盛れ「ル」の貸してょ/ はにゃ般若?/ 甘美に香「ル」ゎ/ 山の天狗も人気商売/ ひよって「ル」奴/ しか勝たん/ 「る」のパラリンピック/ 「る」のバーベキュー/ 「る」のマスク美人/ 「る」の自粛警察/ 「る」のまん防/ 「る」の3密/ 「あ」「た」「し」「ゃ」以外はぜんぶ「る」にするクッキーモンスター/ るるるるるるるるる"るるるる、るルる「ル」るるるるるるるャるる"しタるわるる゜・たるる゜。るアるるるるタタる「るるるる」る"シャシャるる"るる「ル」るャるるャるるルるー/ (禿げ同)。/ 。浅い野のよだれの湖畔の森の蔭゜から煙「ル」エクセ「る」parseペクティブ。二次元を。゜四次元的に満たす黒い跳ね帆に゜いろはに一条二・五次元 § アイド「る」炎上冷えピ゜タ品切れ。いっちをいっぬに誤変換、震え「ル」ゆびさき紅茶こぼしたスワイプ゜・タップ。の過ち瞬き「十中八九」がしゃしゃり出てく「ル」きゃんきゃんう「ル」せー/スポンジ・ボッブ←つっのだ☆ひっろ→しっくりひゃっくりぱ゜っくりポ゜ッキー☆サクサクいこうぜ?横隔膜!なのぜ!ナゾナゾ(怒)などな℃゜などナ(悲)↗/。 バッカ「る」コーンも/ びっくらぽ゜んも/ そもそもみんな同義異音語/ あたしゃもセカイも同義゜異音語。/ みんなおなじでみんな全滅/(^o^)\ うっふ/ 吃驚✳性的✳コロポック「る」の✳お天気オネェ✳さん?!時に土がついたら根暗だろうが!?/ 革新的な?/ 全地蔵!/ 千利休をゼッケンに/ 包んでょ/ 田んぼの中にょ/ 捨てててててょ/ 河原にゃ無限の/ 鬼にょにょにょ/ 冷たい視線の熱帯魚ろ/ 鷹の目/賽の目 念仏/ /好物 クニョー「る」/ からのクッ7・ドゥ!/ Viva La Vida!/ 美婆 裸 美駄?/ 拡散性ズッ友メロスはもう古い??/ 前生と死語は一緒だろうが?!/ 亀甲縛り/ 誤変換( >Д<;)/ 名無しのナナシは黒猫のウィズ/ 吃オン背開きうなごの河馬焼きウマ娘 / oDo- oDo- 鳥をチョンギリセンギリバリバリ別バラ/ あめゆじゅあまいゆとてちてちんちら/ 鳥寄せコキョウの試聴は湿原/ ゎズッ友だょ☆/ ぬっこもベスティばいばいゆー ノシ
1お世話になっております。びーれび運営です。応募投稿はここまでとなります。これ以降は無効となりますので、よろしくお願いいたします。
4皆さん、たくさんのご応募、ありがとうございました!
6死の山を ふみこえてゆく 死の山を ふみこえられてゆく 死の山を ふみこえてゆく 積み上げられた 石だ つぶやいている つぶやいている つぶやいている つぶやいている つぶやいている つぶやかれている 石だ つぶやかれている つぶやく ふみこえられてゆく 死の山を ふみこえてゆく 死の山を つぶやいている つぶやいている 死の山を ふみこえてゆく ふみこえてゆく 死の山を 死の山を ふみこえてゆく ふみこえられてゆく 死の山を
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