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眞島脈搏


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眞島脈搏の記録 ON_B-REVIEW・・・・

swan song 山茶花が咲くようになり、やがてその花は首を落とすように落ち、死を、こんなにもいじましい冬を、冬だというのに白鳥は死んだのだった。彼女の背には黒い染がこびりつき、雅楽の静けさに震え、羽毛は風に吹かれるのであった。無惨に火ぶくれになり、水の匂いを留めた足先で、私たちとは違う言葉を試みている。弟はもう南に旅立ってしまった。鈴の根のような言葉を首に下げながら最後の歌を歌う。雪がその汚れた少女を隠していく。水の形容がとりどりに変わり沈む。深く。最終列車の通り過ぎたような灯り。深く。これは季節の祝祭でもある。そこのない冷たさのような季節が肺に薄まっていくのが冬であり、それは狩人の季節でもある。少女は狩りの対象ではなかったが狩りの厳しさを知っていた。私たちは黙って死んでいた。黄金色に透き通る産毛が乳房を浮き上がらせ、まだ色の薄い陰唇が言葉を覚えるより先に弟と性器に触れる。温もりに剥がされていく牛の角に、互いの自慰を知る。それは詩にはならない歌として白鳥の長く苦しい首に残響する。詩人は首を傾げる。贄の灯り。蝋燭のか細い火に唆されて差出人の分からない手紙は焚べられる。水疱に浮かぶ予報。指し示す指は差し伸ばされた指と交差する。温もりは時に残酷で、残酷な季節がくる前に冬は繰り返される。牛に曳かれ畦道に残された農作業の手が痕を残した、刈り取られる前の姿が装置するのは雲に押し潰されるように建っているひとつの家であった。重さというのは機能であり、機能とは入り口であり、そこから逃れるためにどんどんと薄くなっていくのだった。あなたたちの肖像。私たちの自撮り。ちょうど弟が学生服を着るようになってから、スカートに指を滑り込ませる。その内側には雪が降っていた。春はあった。常に心にあった。心は常に雲の下であった。雲の上に冬がのしかかり、鳥や鳥の眷属、そうして嘴を埋めていく。火。火があればあるいは照らせたのかもしれない夜の寒さのいぶき。火葬されるべくして火葬される詩人と違い火葬されるべき時間の経過はまだ容赦されなかった。白鳥はそうして目を瞑る。攪拌を主に行う脱穀機の螺旋にひび割れた螺子が転がっている。それを知っている。星の音を立てて夜の旅団に足を踏み入れたのだ。そうして語られる接触部分と一過性の歌は闇を引き入れる一種の渇きでもある。引き抜かれていく気配を静かに受け止めて、恐れを纏う毛布の中に自らの体温を温める。ひざまづいてお前に花束を差し出す人もいただろう。春には薬指の骨をカラカラに乾燥させて、約束と運命というふしだらな婚姻に身を任せる。春はそうして吹き込んでまだ少女の死を知らない母親を蕩けさせる。牛に曳かれるように 母という春に追いつくまで、冬は不条理な清潔さで雪を降らせるのだろう。少女の亡骸は甘い匂いを立てながら静かに燃えていく、静かに透き通っていく、白鳥の歌さながらに (「びーれびしろねこ社賞」 応募スレッド)

2021-12-16

みらいゆき ぬかるみにまどろんだ つきのはなしをしっているだろうか 雪はふりつづけ ものがたりをせがんだこどもたちは まだねむれずにいるというのに わたしたちの王国のはなし 夜空をのみこんだやもりのはなし 尽きることなくおそいおそいうたを しなやかに こんなにも やわらかく しにちかづいて いる てふてふとあるく ほこりまみれの部屋で 日記帳のようなたしなみは やがてきえていくもの あしあとのないあしおと なかったことにすることがとても かなしくて ひをつければ よるがひもとかれる ことばは かんたんにいいかえられて しまうから ゆっくり雪がふるように 忘れてはいけないひかりがある だから だれにもわからないことばで わたしたちは話さざるを得なかった 暖炉に薪はつきて さむさがはいのぼってくるのを どうすることもできなかった 門におおきな閂をかけ どこへも逃げられないように 沈黙をはじめる かぎりなく透明な目配せの中 包帯に巻かれた夜篭りが気球をあげる ああ 画用紙に描いた熱が月を回るよ わたしたちは遠く塩の湖をとぶ たくさんの知らない言葉が埋まっている地平で ただ訥々と笑みをこぼす水仙 うつくしい歯並びで空を噛む塩の柱 ひとつひとつと数える事しかできなかった星の息 差し出された宛て所不明の手紙 かすれて読めなくなった消印に虫がしがみついて わたしたちは ただ枯葉になりたかっただけなのかもしれない すり切れた毛羽立ちを揚力にかえて けしてわすれてはいけない それでも追いかけてくる正しい風の中で どれだけほんとうの事をつたえられるだろうか ものがたりが 雪が ほほをかすめ 雪だけが かすめ あかいめのこどもたちは ねむることなくおとなになった ぬかるみにまどろんだ つきをみている (「びーれびしろねこ社賞」 応募スレッド)

2021-12-16