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夢見る宝石
雨上がりの金色の午後 対面交尾と締め殺しを引っ提げて 男たちは凄まじく青いカランドリアの風を渡る 時に果てしなく痙攣し 時に蟹を食いながら 道々すれ違うのは 疣と脂肪瘤だらけの牛たち そして臍まで陰裂の捲れ上がった女たち 鋭い陰毛を機械油で左右に撫で付け 小柄な女たちは 剥き出しの粘膜を競い合う やがて岩の上にあぐらをかき 柔らかい裂け目から 乾いた垢を静かにこそげ取るのだ 男たちは中腰で精を垂らしながら赤い襞を探りあて 白い月が上るまでとりとめなく性交を繰り返す 東の森では大きな花々が静かに腐る バケツの水は動かず 共に震える蔓草も見当たらない ああ 蜉蝣が舞い上がる金色の午後 世界はそのようにして硬い石をいくつも分泌し そのようにして微かに酸味を蓄えていく 雨期の終わりの白い午後 長々と萎えた陰茎に濃い汗を滲ませながら 男たちは凄まじく透明なミクソリディアの野を渡る 時に腹を打ち 時に甘い草の根を掘り起こし 道々すれ違うのは 舌のない犬たち そして膝まで外性器の垂れ下がった女たち 鋭い陰毛を短く刈り込み 小柄な女たちは 剥き出しの襞を擦り続ける やがて病気の兎のように丸くなり 乾いた裂け目の奥から 黒い血塊を黙々と掻き出すのだ 男たちは膿を垂らしながらぬるい血溜まりに腰をおろし 白い月が上るまで果てしなく射精を繰り返す 東の森では原色の花々が音をたてて腐り始める ひび割れた岩の上で 女たちは片身だけ裏返しになる ああ 絶え間なく蜉蝣の羽が舞い落ちる白い午後 世界はそのようにして硬い石を溶かし そのようにして豊かに繁茂する 岩を砕く斧 砂丘を渡る筏 鋭い草の匂いから粘膜を守る 骨粉入りの嗅ぎ煙草 刈り入れの道具立てはこれで一揃い その朝 男たちは犬の声色で一斉に目覚め 野火の煙を左手に捉えながら走り続ける 四筋の川を跨ぎ越し 蟻塚を蹴り崩し あとはただ鼻水を啜りながら喚き続ける この手に力を 悪意を 死者の持久力を この顎に恵みを 充足を 熱い癒しを 白い宇宙塵が舞い降りる収穫の朝 男たちは夜半の闘いで硬直した腕を突き出しながら 牛の舌のような丘陵を幾度も巡る やがて屠られた土地を横切り 静まり返った家並を走り抜ける
夢見る宝石 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 923.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-04-07
コメント日時 2018-04-26
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
投稿有難う御座います。とてもダークでウィラードな気持ちになる作品で、個人的には好きな感触の作風です。が、しかし、ビーレビ公式選評では、残念ながらダークネス・荒廃的世界観な傾向を持つ作風があまり好評を得ていない感があります。当掲示板へ新しい風を入れて欲しいなあと期待しております。
0コメントありがとうございます。私としては、とくにダークなもの、荒廃的な世界観を意識したわけではありません。むしろルイス・キャロル的世界、昔の吉岡実氏の世界につながるものを、少し意識していたかもしれません。今後ともよろしくお願いします。
0正直なところ何が書いてあるのか、わからないところだらけです。 だから悪いというわけではなく、感じ入るところがあるので、なんとなくコメントを考えているのですが、とりあえず文章の流れが心地よいです。射精やセックスの持つ湿潤はなく、タイトルのような宝石のごとく、大地が深い地のマグマで宝石を生み出すように当たり前の循環が提示されているようにおもいます。 でも、どのような循環てあるか、というのはピンときていません。 男達は征服者みたいな感じがするし、女や家畜は蹂躙される相手のような気もします。ミクソリディアはヒントになりそうです。 もうちょい他の方のコメント読んでみたいです。
0わー、すごくかっこいいです!! なんというんだろう。椎名誠のSF、漫画なら弐瓶勉の昔の作品というところか。 いい意味で、意味があるんだかないんだか分からないカランドリア・ミクソリディアということばの魅力的な響き。 地球上の地名かと思えば、それぞれ化学・音楽の分野の単語という素敵なこと。 「青いカランドリア」なんてなんとなく、なぜかスペインかどこかの地名かと風景が浮かんできて、けれど単語を調べたら、機械の中に国があってそこでふしぎな人々が生活している様子が目に浮かんできました。「透明なミクソリディアの野」は宙に浮いた野原の風景でしたが、こちらも単語を調べたら音楽とともに一気に男たちが駆け抜けてゆくシーンに変換されました。 パッと拝読しただけで、貧しく荒廃した近未来的の閉鎖的な土地で、力強く異形の人々が生々しく生活するというな映画を観たようです。 吉岡実って知らなかったんですけれど、「視覚的な詩人」なんですねえ。椎名誠のSFも弐瓶勉の漫画作品もありありと生活が描かれていてすてきなんです。 すごくすごく面白かったです。 私はこういうの書けないなぁ。すごいなぁ、かっこいいなぁ、読めてよかったなぁ、の喜びの嵐です。
0コメントがついてよかったです。実は気になってました。 個人的にはこういった作風は苦手で読むのが大変でした。 ただ、 青いカランドリア 凄まじく透明なミクソリディア 牛の舌のような丘陵 etcetc こういった表現はなかなかなかできないです。 世界はそのようにして硬い石を溶かし そのようにして豊かに繁茂する この部分はこの詩の核なのかなと思いました。その前まで描いてきた荒廃した世界、男女の隷属関係、生殖が、実は循環的な世界の表現なのかなと。 勉強になりました。
0こんばんは。 イメージに二種類あるとしたら、(1)すでにあるものやわかっているものを心の中で思い浮かべること、(2)ないものを現実にあることのように形象化すること、だと思います。 前者はイメージの言語化として、多くのひとが試みていると思いますが、この作品のように後者の、言語によるイメージの創造はそう多くはないように思います。それほどこの作品では、言葉によってひとつの世界が、現実味をもって作りあげられていると感じました。 それを作りあげるのに、随所に配置されているディテールが活きていて、グロテスクともユーモラスともとれる生々しさが現れ、その奇怪さがかえって美しさとして映る。 例をあげればキリがないけれど、一見全体的にはグロテスクな雰囲気に包まれているけれど、実際なんじゃそらというような面白いところもあって、それがまたグロテスクさを増すように働いていますよね。最も気に入っているのは、《時に果てしなく痙攣し/時に蟹を食いながら》の詩行です。 ひとつひとつの動詞や、現在形の書き方も作品世界に動きを与えるのに一役買っていますね。 ご本人のコメントによる《吉岡実の世界に通じるもの》とありましたが、パッと思い浮かべたのは「僧侶」でした。
0「硬さ」にぶつかって、削るのは大変だ、と思いました。 男と女というのはやはり普遍的なモチーフなのですね。
0拝読していると、 スチームパンクな世界の造形物を やたら見たい衝動に かられました。そして、実際にいろいろ検索してしまいました。 SF映画を制作する前段階では、この詩のようなことを文字化したり絵にするような思索の時間が実際にも あるような気がします。 しかし、映画や造形物では得られない詩の醍醐味は ≫牛の舌のような丘陵を幾度も巡る というようなさまざまな言葉の仕掛けによって、全体の世界観自体を一つの獣のように 読者の心で感受できる点が、詩からいただける興奮と恍惚だなあと あらためて思いました。すばらしいです。
0しばらく出かけていたので、返信が遅れ失礼しました。たくさんの好意的なコメント、ありがとうございます。 自分の独りよがりで紡いだイメージが、果たして他人に読んでもらえるのだろうか、いささか心配だったので、すごく励まされ、勇気づけられた思いです。 夢見る宝石というタイトルはスタージョンの往年の名作からの借用。詩全体のイメージは、近未来というより、原始ないし原初性を意識したものです。グロテスクさと同時に諧謔味を感じていただければ幸いです。
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