「ねぇ聞こえる?」
「ねぇ聞こえる?」
「ねえ!ねえ!ねぇ、、、」
はじめて伸ばした頃の腕は
次の瞬間を求めただけの
それだけの腕でした
傍らにあるそれが
まぎれもないそれであることを
知り得ない
遠い過去の少女が
いま
ここ
この一瞬にある
すべてのものに
薄く均一に溶け込み
海の向こうまで広がっている
世界が丸ごと美しく
ポロポロポロと
散っていく予感がいつも走っていた
視野角に広がる風景の隅から
四角形の欠片として散っていく感覚
その予感が夜明けとともに広く走る晴れた朝には
それでも青空が広がっている
天井へと伸ばした腕と
伸びた手先のその先で
つながる
先端の接続は希望だった
叶ったその瞬間
味のしない涙が頬を伝い
色合いが変化する
なにもかもが
ただ変化する
そこに意味合いはなく
意味合いは
なく
しかしその無意味な一瞬こそが
あの摩擦の根底
その要因ではないかとささやく声が
過去の隙間から聞こえる
耳の先にそっと冷えた針が刺さっていた
針の先にさえ
少女は溶けていた
極彩色の半透明に
眼前の風景が
四角く散っていく予感は
いつも
連続したイメージを呼び起こす
散っていった欠片は
四角い平板として
地面から積み上がっていく
その欠片の集積は
散り散りからの再構成として
背景に広がる色とりどりなのだ
無機質な
黒黒とした無色さを
塗りつぶす
実際だ
無限の色を放つ
現実の豊かさだ
色素から放たれた鮮やかな七本が
それぞれの色の持つイメージを
具象化して
肌に刺さる
暖かに
さめやかに
柔らかく
おごそかに
それぞれが肌を通過する
実際だ
半透明の少女が
平板へさらなる色をこぼしていく
こぼす色は少しずつ少しずつ増えていく
伸ばした掌の
その交点から
命がひねられていた
肉体がひねられていた
精神がひねられていた
包み込む空気は
ただそこにあった
極彩色の
豊かな平板を背景としてなお
首筋へ与えられるべき
回転の方向すら
決めることができずに
積まれていく
平板の集積へ転写する像は
ゆがんでいた
全体のひねりが強化され
眼前の
全てがねじられていく
それでも通り過ぎていく酸素と窒素と
その他のいくつかの気体の全ての粒子は
ひねりすらねじりすらも
受け止めて
積みあがる平板は
いつか
いくつかの塔となり
床のきしむきわで
いくつもの色彩が
重ねられていく
自分自身から剥がれ
向かってくる孤独と
溶けていく命と
伸ばされる腕と
ねじられていく肉体と
一度砕けた自意識と
再構成されて混じった欠片の
たったひとつとして
あらゆるものと共に在るところの主題
君の見る実像のシニフィエ
目覚めると身体が散っていた
ねじられた末に
やわらかく
さらさらと散っていた
確かにそれは霧のように
一人起きる朝だった
たしかに肉体はたった一つだった
そしてそれと同時に無数だった
ただひとつの現象として
肉体が散る朝だった
それはしばしば起こることであり
同時にたった一度のきっかけだった
平板の積み上がった
無数の塔は
美しい背景だった
ひねられた一瞬前の過去を
手放しほどけていくさまは
紛れもない静けさだった
欠けることなく
そして
磨き上げられた平板は
集合として
水平線を指し示す
ひねられ散っていった
ただなかで
それは美しい背景として
七色を放っていた
肉体をかき集めるための象徴として
水平線の向こうに広がっていた
神経網全体の拡張感覚は
光り輝く圧迫感を伴って
地平線への伸長こそが腕だった
引き伸ばしたものの名こそが
腕だった
腕こそが腕だった
溶けていった腕は
それでも伸びていた
腕と名付けたそれこそが腕だった
伸びることで
ひねられる
その背景と
肉体の先端こそが腕だった
ひねられていく輪が
直線を照らす
巻き付いてくる事物が
眼前を形成する
視野が歪み
歪み歪む
過去の隙間から少女が言った
「ねえ君は君のことばかりだね」
あの日
否認した肉体が混じっていく
確かにここにあることが
今ここにある
これとこれ以外の
コミュニケーションで
あるところの
あの否認こそがすべての
はじまりだった
たしかにつながって
なんて
いなかった
たしかに通じあって
なんて
いなかった
孤独な魂は
共鳴なんて
していない
孤独は
引き合わない
その双方の接続への
否定感情と
否定への同意の形成が
少数接続の否認こそが
はじまりだった
ガラス張りのアトリエにこもる
呼吸音の反響だけが
外側へ向かう
藍色の言語は
内臓の色をしていた
延長した肌の色が腕だった
静かに透明だった
そしてそれぞれの発した反響は
それぞれに帰っていく
思い出話は
例え話に繋がり
そして少女が御伽話を響かせる
ガラス張りのアトリエにて
「題目はヒトナギ」
ヒとナギと呼ばれるふたつがあった
ヒとナギは二つの背景だった
二つの泡だった
そして二つのルールだった
ヒ
と
ナギ
続けて読まない二つの
燃え盛りと
静けさと
その共通点としての
過激は
ひりひりと素肌をむしばむ
背景だった
ひとなぎという音感から
ふとよぎる一瞬の断絶
絡み合って穴をあけあって
ヒとナギは二つの泡だった
気中を漂い破裂する
ヒとナギの予感
を受けたある表面は
燃えあるいは沈み
それは源泉だった
予感を受けたモノは
交じり合わない共有の末に
呼吸が毀損する
それは静けさの戒めだった
ヒ
と
ナギ
に
一薙ぎのもとで
毀損された肉体の
分裂した精神に宿る
燃え盛る大地のその静けさは
柔らかく触れた肌だった
燃える肌は陶器だった
灼熱に耐える白だった
物言わぬ涙が頬に散り
肉体にヒとナギが混じっていた
二つの泡がはじけた
走るいななきは心臓に還る純真を追いかけて
ヒとナギの予感が
大気に満ちていた
朝起きると肉体が散っていた
それはしばしば起きる現象である
静謐な夜を超え
それはただ散っていくだけの現象だった
水面に浮かぶたったひとつの美意識が
すらりと離れるさまを見る
分解だった
散り散りは美しく
耐え難く
守り難く
手離し難く
現実の存在であるからには
肉体をまとめあげるほかなく
あつめて再度構成し
否認した千夜一夜の朝のこと
精神が腕を伸ばし
伸ばした腕が
肉体を捻り
ねじられた肉体が
原因となり
肉体は
夜を超えて
散っていった
散ることで肉体はひねりを解消したのだった
ふと
少女が言った
「精神は肉体を毀損する」
「渇望は身体を汚していく」
「さみしさが肉体を傷付ける」
少女の目は
肉体の散った理由を求めていた
その理由が黒々としていることを
求めていた
響き合うことを求める精神が
肉体を毀損した瞬間を
少女は過剰に敏感に察知する
そして散っていく
朝に気が付いた反乱
そして混じり再構成される
内部で確かに共鳴している
物質として
実際として
自分自身への侵入は
たった一度のオルタナティブな
伸長だった
肌を撫でる乾燥が想起させた渇望は
肌の湿度そのものである
ことを
しかと
悟った
あの昼の
十二時間の邂逅もまた
まさに腕の
たった一度のオルタナティブな伸長だった
肉体の
飛び散るをただ眺めていた
朝に
透明な世界を生きていた少女の目線の
生まれついての確かさを宿して
回復しつつある肉体の
凝集をただ眺めていた
乱雑な世界を生きる少女の目線の
その確かさをもって
自分自身をしっかりと眺めると
気が付くはずだ
汚れて
など
いない
消え去る準備としての
透けていく当事者意識の欠乏を
裏返された地平線の
結ぶ共有を伸ばした手でもって
ひねられていく声と
その根本を
ネジ切れることのない
しなやかさが担保する
そう
しなやかさが担保する
ネジ切れる
ことのない
その根本を
しなやかさこそ
守っている
空を引き裂くためにあった人差し指が
爪の先に光る球体を携えて
余韻の色が
歪む
大いに語るところの
なまぬるい声色が
薄く縁取られる
景色が藍色に見えた
風がそよぐ
肌を震わせる室温が
つかむ髪の毛を
濡らすぬるま湯の
刺激が表面だけに
さざめいている
朝起きたら
身体が散っていた
しばしば起きることである
ふと気がつき
かき集めるほかなく
散っていた
それらしい残骸を
かき集めた自分自身のばらばらの
再構築の末は
わたしだけではなかった
混じっていた
朝おきて
しばしば起きる
美しい分裂の
中に混じる
燃え盛る予感と
静けさへの期待に
一切の疑いの余地はなかった
ただ先の一点だけを見つめられた
突き進む腕の
広がる腕が腕だった
地平線への伸長こそが
届く腕の腕だった
広がる精神が肉体を汚しかけた朝に
肉体は美しく生きていた
妄想としての孤独と毀損は
静かに平板の塔に溶けていった
街中に立つ
肉体は実際の重みのその確かさをもって
既存されてなどいない
肉体は
ひねられ散ってもなお
毀損されえないと
手のひらの
叫ぶところの腕の
腕が腕だった
少女は虚ろさを手放すことができる
叫ぶ先端が叫んでいた
先端を守る全体こそがいなないていた
突き刺さる視線に
しゃがみ込まない全身が
高く笑う
声の上機嫌が響く
一人歩く街中ですら
否応もなく
生きていた
すっくりと立つ統合としてすら
否応もなく
繋がっていた
いちばんはじめの爆発の
その瞬間から
いななき生きる象徴として
捻じ曲げられた呼吸の底面で
たしかに単純に
否応なく
包まれていた
包み込んでいた
すでにただそこにある
ものだった
生成し消滅する
泡だった
実際に存在する
確かさの
液体だった
全肯定し得る実際だった
抱き寄せ抱きしめる
激しさを燃やし
統合された腕は
すでに
腕だけではなかった
捻り上げられた宇宙は
その開放の一瞬を
糧にして
叫ぶ掌と
等価だった
そういつも
手を伸ばすと
青空がひねり上がる
ひねり上げられた青空は
実際の存在として
肉体を
保証する
手を伸ばす精神は
その渇望は
肉体を汚し得ない
ひねられた行く末も
しなやかな全体が
受け止め
受け入れ
腹に落とす
肉体は確かな価値をもって
そこにいつも
積みあがる平板に
きしむ床のきわで
いくつもの質量が通り過ぎていく
質量から剥がれ
向かってくる孤独と
溶けていく命と
伸ばされる腕と
ねじられていく肉体と
一度砕けた自意識と
再構成されて混じった欠片の
たったひとつとして
あらゆるものと共に在るところの主題
君の見る実像のシニフィエ
作品データ
コメント数 : 6
P V 数 : 1939.0
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2021-10-07
コメント日時 2021-10-23
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
閲覧指数:1939.0
2024/11/21 23時17分37秒現在
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哲学の方向が見えました。
0なんか、すげぇ、頑張ってるなぁと感じる。いや、実際はどうかわかんないけどね。前の作品でもみたような詩句があるので引き続き、何かを描こうと継続してるのかな?と思う。ヒ、とナギの辺りだけでも作品になりそうな気もする。
0コメントありがとうございます。 方向性、自分自身でも迷っている部分がありますがそれでも逃げずに向かっていこうと考えています。
0通読するのに時間を要しましたが、"現在"美術の文脈にも目配せをしつつ、何が問われているのか、また何が探求されようとしているのか哲学的な吟味を行いたい、と強く思わせられました。力作と考えます。
0コメントありがとうございます。 一区切りさせるつもりで長い詩を書いてみました。 必要なだけの長さなのかはよくわかりません。 ただ頑張っているんでしょうね、きっと。
0お久しぶりです。 なんか色々酷評ギルドがなんだと言ってほっぽってしまってすいませんでした… 正直に言ってしまうと、白川さんの作品全然読めなかったんですよね。 という所から、この作品を読んで少しだけ書ける箇所が見つかってきたので、 その内容を感想としてお伝えしようと思います。 >「ねぇ聞こえる?」 >「ねぇ聞こえる?」 >「ねえ!ねえ!ねぇ、、、」 > >はじめて伸ばした頃の腕は >次の瞬間を求めただけの >それだけの腕でした > >傍らにあるそれが >まぎれもないそれであることを >知り得ない >遠い過去の少女が >いま >ここ >この一瞬にある >すべてのものに >薄く均一に溶け込み >海の向こうまで広がっている この作品を読んだ時に、切れている部分っていうのはここだと思いました。 切れていると思った理由について書きます。 >「ねぇ聞こえる?」 >「ねぇ聞こえる?」 >「ねえ!ねえ!ねぇ、、、」 > >はじめて伸ばした頃の腕は >次の瞬間を求めただけの >それだけの腕でした 切れている部分も二つに分けられると思っています。 そのうちの1つとして、これは語りての中の体験であろうと思われます。 「はじめて伸ばした頃の腕」は「次の瞬間を求めただけ」の「それだけの腕」でした。 という事を知ったのは、もうはじめて伸ばした頃ではないからだ。という事だと思います。 ただ、この体験の描き方として面白いのは、求める行為だけが切り抜かれている事です。 聞こえる?という事は、聞こえてほしい対象の誰かがいて、聞いてほしい内容があるはず。 でも、その内容や誰に聞いてほしいのかという事は書かれていません。 言って仕舞えば、求めているその行為が求めているのは、「次の瞬間だった」というだけで、 それ以外の要素(話の内容や、話を聞いてほしい誰か)をその腕は求めていなかったという事なのだろうと思います。 その行為に対する希求というのを了解しているのは、 今の語り手なのですが、はじめて伸ばした頃の腕はそれを知りようがなかった。 という事が最初の部分だと思います。 また更に言って仕舞えば、この腕というのは衝動的に伸ばしたという意味合いの方が強いのかもしれない。 意識の方では、誰かに今語りてが聞いている事を聞かせたかった事が主題になっているのかもしれないですが、腕が伸びてしまったのはその意識とは異なるという事です。 自分が考えている事とは別の論理で腕が伸びてしまった事の考察が、 腕の行為を「次の瞬間を求めただけ」の「それだけの腕」と定義して意識と切り離して考えるようになったのではないかという事です。脳みその命令ではなく、腕そのものが語りての意思ではない所で、衝動的に動作した事の衝撃。それが、さらに言って仕舞えば語りてにそういう考察をさせたのかなと。 >傍らにあるそれが >まぎれもないそれであることを >知り得ない >遠い過去の少女が >いま >ここ >この一瞬にある >すべてのものに >薄く均一に溶け込み >海の向こうまで広がっている なぜ腕が伸びたのか、という事が分からないもので全てにおいて溢れている。 そういう意味でここに出てくる少女というのは、伸びた腕の意味が分からない思念的な象徴。 そういう意味での無垢性みたいな物だとか、少女性みたいな部分もあるのかもしれない。 過去の自分にはわからなかったなぜ腕が伸びたのか、 その、、、ある意味意味に苦しめられている存在の象徴としての少女が、 いたるところに散らばっていて、その状態を言って仕舞えば、腕が伸びた理由を掴むと所まで持っていこうとする詩行がこれからの始まりなのかなというのと、その少女とは何かというのを多分書いているのかなと思いました。 という所で、これから多分ある出来事と、それに付随する腕のような出来事と、 それに困っている少女について書かれて行って、それが一応の解決がなされるまでの工程が、 全てのものに均一して溶け込んでいるから一個一個解決して少女を「君」と呼び、 対象化された物から、卑近な目の前存在まで引き上げ、 >一度砕けた自意識と >再構成されて混じった欠片の >たったひとつとして >あらゆるものと共に在るところの主題 >君の見る実像のシニフィエ 最期こう結論付ける作品なのかなと思います。 そういう意味でいうと、僕は作品の中の部分っていうのは、ちょっと読めなかったというのは、 内的な世界の話という事で、その話について行けるような速度みたいな部分を持っていなかったですね。 という訳で、時間かければ中身読めるかもしれないんですが、一応の感想としておいておきます。
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