別枠表示
海底二万海里奇譚
沈め、沈め、沈め! 沈み続けてはや数日、辿り着いたここはなんとまあ空虚な土地だろうか! 意気揚々と征服宣言をしようにも、私の話を聞く原住民どころか一寸先すら見えぬ! 音も無く、冷たい水が私にのし掛かる! ここは地獄か、それとも悪夢か! いいやここは深海なのだ、光に見捨てられた者どもの冷たい住処よ じきに目が慣れるだろう、なれば見渡してみろ、そこかしこに蠢く捩じくれた命を そこかしこに見える街灯のごとき光は提灯鮟鱇の誘蛾灯であろう 今右を泳ぐ黒い影は大口開いた風船鰻 足下の岩とも見紛うものは具足虫 好きに歩きたまえ、竜宮使が案内してくれるだろう 箕作鮫に気を付けろ、迂闊に近づくと頭を呑まれるぞ 串海月の七色に光るダンスホールで花髭空穂の踊りを見ていくといい 間違っても鬼磯目を踏まぬように 花笠海月の帽子は土産物にうってつけの筈だ 戻ってきたか、ならば海底火山へ行こう 抹香鯨の背に乗れば半日もかからない 迂闊に身を乗り出すな、蓬莱鱠に噛まれるぞ 左手に見えるは大口海鞘の群生地よ 景色に飽きたら、しばし黄泉阿代を愛でると良い ようやく着いたぞ、あちらに見えるが海底火山だ 近付き過ぎるな、深海で焼け死にたくはないだろう あちらこちらを漂う赤い帯は面蛸と夢笠子よ 周りをよく見ておけ、鸚鵡貝が当たらぬように さあ見ろ、火山が静かに噴火するぞ 素晴らしい見せ物であったろう もうすぐ帰りの時間だ、ゆっくり歩いていこう 長杖鱠が道標となってくれるだろう 道を外れたら海蜘蛛が導いてくれるはずだ 歩き疲れたら鰻鮫の背に掴まって帰ると良い ああ、何と奇怪で耽美な世界であったか! 初めは黒と灰色の沙漠たる平野であった! しかし今や朧げながら美しい光と舞い踊る生き物で満たされている! 惜しむらくは、ここで別れの時である! これにて終幕、各々潜水病に注意して浮上せよ!
海底二万海里奇譚 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1855.4
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 13
作成日時 2020-03-03
コメント日時 2020-03-24
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 3 | 1 |
エンタメ | 4 | 1 |
技巧 | 3 | 1 |
音韻 | 2 | 0 |
構成 | 1 | 0 |
総合ポイント | 13 | 3 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1.5 | 1.5 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 1.5 | 1.5 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 0.5 | 0.5 |
総合 | 6.5 | 6.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
沙一 さん コメントありがとうございます。 漢字で今回書いたのは、おっしゃる通り、文字に対する嗜好の部分が強いです。 提灯鮟鱇、という字を見た時に、何か心をくすぐるものがあると思い、書いてみました。
0中盤、誰が話しているのでしょう?沈めといった人とは違う誰かのような気がします。
0最初と最後は「沈め」と言っている人で、 それ以外の部分は違う人ですね。
0冒頭の感嘆符が効果的ですね! 初めからワクワクしながら読み進めることができました。 ぼくはハワイで潜水艦に乗ったことがあり、その時見た光景を思い出しました。 > いいやここは深海なのだ、光に見捨てられた者どもの冷たい住処よ 太陽の光が届かない海底30mの世界では色を失うのです。が、本作では様々な生き物が登場するたびに色が蘇るような感じがしたのです。 海底火山の静かな噴火、見たかったなぁ。。楽しい作品をありがとうございました。
0afterglow様 コメントありがとうございます。 おっしゃる通り、ここでは暗い、色のない深海をカラフルに書けないかと思い書いたものなので、そう言っていただけると幸いです。
0