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Lean On
曇りの日に海へ行った 空も海も灰色なのに 仲介者の努力も虚しく いまだに和解は成立しない その国境線は水平で 欠けた世界の端から端までを 頑なに切り分けようとしている 曖昧だが根深いライン 見せかけの直線への固執 アタシは砂浜に座って ぼんやりとそれを見ている 左横にはアナタがいる 見なくてもそれが分かる だからアタシは狡猾にも 海風に押されたふりをして 左横にいるアナタへ向かい ゆっくりと凭れかかる それに伴い水平のラインも ゆっくりと傾いていく それはアナタの肩で 固定化されるはずだった その角度こそが アタシにとって かけがえのない数値 だけどアナタの肩には いつまでたっても届かない アタシは恐ろしくて アナタの実存を確認できない 空と海のラインは 水平から垂直へと 急速に変化している (それなのに、 (なぜか、 (終わりがこない (ただ、 (ひたすらに、 (倒れていくだけ アナタの肩を求めて アタシは永遠に傾き続ける それは天国なのか あるいは地獄なのか 今のアタシには 分からないけれど きっと生誕の眩暈も こんな味だったのだろう そう確信できるほど 静寂の中で 傾き続ける世界は とても 寂しい匂いがした
Lean On ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1118.9
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-04-11
コメント日時 2017-05-04
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
詩の展開が面白い。はじめは厭う対象として書かれていた境界が、しかしそれはアナタを感じるために必要な指標にもなる。 水平が垂直へ変わっていくところは視覚的でわかりやすくそれ故感じやすい。
0近代国家によって(他国のエゴによって)勝手に国境線を引かれた痛み、怒り、絶望・・・についての、社会的な告発の詩なのだ、と思いながら読み始めて・・・ 存在の不安定さ、頼りたいのに頼ることのできない不安、垂直に落下していくような「あること」のオソロシサ、のようなものが、ひしひしと伝わってくる感じで・・・桐ケ谷さんも既に書いておられますが、「生誕の眩暈」・・・人が生まれた時から、既に始まっている「傾き」なのかな、と思いました。 どこまで行ったら、この「傾き」は止まるのか。そんな時代の空気感のようなもの。張りつめて行った緊張感に、堪えられなくなったとき、戦争が始まるのかもしれない。そんな怖さもあります。 あなた、と、あたし、を、カタカナで書くことに、私個人としては違和感があるのですが(この詩の場合、ひらがなの方が似合うような気が、ちょっとだけ、したのですが)押し寄せて来るような不安というのか、頼りなさというのか、在るという事の不確かさのような、なんとも言い難いものを「寂しい匂い」・・・これだけ出て来たら、なんとクサイ台詞!と思ってしまうのですが、静かに、明晰に積み重ねられた詩作品全体の厚みによって、まったく違和感なく納得してしまう・・・このひとことに静かに収斂させるところが、心に深く残りました。
0桐ヶ谷忍さんへ どうしよう、ここまで手放しで褒められると、何だか勘違いしてしまいそうです。いや真面目な話、自分で苦労した部分を的確に指摘された上で評価されると、本当に嬉しいです。この詩は「水平な海がゆっくり傾いて貴方の肩で固定化される」という短歌が元になっています。「NHK短歌」に投稿してボツだったんですが、私としては「ハァ? これって悪くないんじゃね!? せめて佳作掲載くらいしてくれよ」というくらい自信があったので、このまま埋もれさせるには惜しいと思い詩に変換しました。「生誕の眩暈」は、詩にすると決めた時にオチとして頭に浮かびました。あと、「最初の頃はもとこさんの詩にはあまりピンとこなかった」と正直に言ってくれたことも嬉しいです。読んでいただいて、どうもありがとうございました。 祝儀敷さんへ 以前にも他の作品のコメントで説明していますが、私は視覚的なイメージから詩を書くことが多いのです。ですから、その点を指摘していただけただけでもこの詩を書いて良かったと素直に思えるのであります。読んでいただいて、どうもありがとうございました。 まりもさんへ 短歌を元にして詩の形へ発展させる時に、例の「メキシコ国境の壁」を組み込みたいと思いました。「アタシ」や「アナタ」に関しては「もとこ」というキャラの設定上、どうしても譲れない部分なのです。私の詩は意図的に「クサイ台詞」を用いることが多いのですが、「生誕の眩暈」や「寂しい匂い」に関しても、絶対に譲れないフレーズでした。最終的にそれを認めていただき、ほっとしています。読んでいただいて、どうもありがとうございました。
0こんばんは。拙いコメント、お許しください。世界という極大とも呼べるものから、アタシやアナタという極小へと展開していくのが鮮やかであり、その対比によって、世界観が成り立っているように感じました。そして、短歌からの出発だからこそ、個人的な世界へと収束していくのかなと。視覚だけでなく、味覚や聴覚、それから寂しさは肌感、つまりは触覚、五感で楽しめる詩でございました。ありがとうございました。
0葛西佑也さんへ 人間はそれぞれが世界を構成する小さなパーツに過ぎなくて、世界の方は人間などというパーツがなくても別に困らないほど大きい存在。だから人間は特定の相手を世界よりも重要な存在とすることで、その寂しさから逃れようとしている。たまに、そんなことを考えることがあります。短歌の時と詩へ変換した時では読み手の想像力の必要量が変わりますし、それは長所でもあり短所でもあるようです。でも、この作品に関しては詩に変換して良かったかなと思っています。読んでいただいて、どうもありがとうございました。
0恋の詩であると同時に、一人間の存在の仕方についての詩であると思いました。 「それはアナタの肩で/固定化されるはずだったその角度こそが/アタシにとって/かけがえのない数値」 「アタシ」は海の、その先のどうしようもない世界を眺めつつ、「アナタの肩」に自分の居場所を、自分自身の在り方を求めようとする。 しかしそれは叶わない。 「だけどアナタの肩には/いつまでたっても届かない」「アナタの肩を求めて/アタシは永遠に傾き続ける」 これが「アタシ」の現状であり、存在の仕方であり、そうでしかあれないひとつの存在、その寂しい匂いを描いてると同時に、切なく相手(とそれによって得られる自分自身の在り方)を求める心情、切なさ、寂しさを綴っている時点で、これは紛れもなく恋の詩だと。。ゆえに、きゅんとしました。 また、「空も海も灰色なのに/仲介者の努力も虚しく/いまだに和解は成立しない」そんな世界を眺めつつ、「アタシは狡猾にも/海風に押されたふりをして」アナタに凭れかかろうとする。この視点の遠近感がすごいと思いました。 大抵の人はそんな風に生きている、どうしようもない世界をやるせなく眺めつつ、己自身の小さな欲望に沿って生きるしかない。ここに、人の存在の仕方を描いた詩という印象を受けました。 恋と、人の存在の仕方(そもそも恋自体が存在の仕方の重要なファクターなので、突き詰めていけば切り離せないのだろうけど)の両方を描いた、優れた、しかも好みの詩だと思いました。 きちんと寂しさ、虚しさのような感情を示せてるのも良い。 余談ですが、私の好きな時雨のTKさんの書いた歌詞の中に(TKTKうるさくてすみません)、「君に寄りかかり/世界の冷たさを感じ続けた」「当たり前の軌跡に/寄りかかった僕は」という部分があり(それぞれ別の曲ですが)非常に衝撃を受けたのを思い出しました。人と関わる中で、私は他人に寄りかかる、凭れるという行為が根本的に出来ない気がします。いや、誰にとっても、相手に身を委ねるというのは案外難しい行為なのかも。ゆえに、私にはとても蠱惑的な動作に思えます。 ただ、「水平から垂直」「生誕の眩暈」等、私には感覚的に掴めない部分がありました。また読み直してみます。
0引用した歌詞の部分「君に寄りかかる」「当たり前の奇跡」でした。。誤字失礼しました。長々とすみません!
0白犬さんへ 他の方々の考察も鋭かったのですが、ストレートに「恋の詩」だと言ってもらえたのは嬉しいです。恋愛感情とか他者や世界との交わりに関しては白犬さんの言葉に付け足す必要もないくらいで、逆に自分は本当にそこまでちゃんと描けたのかと不安になってきました。 凛として時雨は「傍観」とか「テレキャスターの真実」を聴いてけっこう興味が出かけたんですけど、それからなんやかんやあって(なんやかんやとは……なんやかんやです!)、「PSYCHO-PASS」で再会するまでブランクがあります(「Enigmatic Feeling」最高)。だからソロとかはほとんどカバーできていません。Aimerは「夏目友人帳 伍」のED曲である「茜さす」で気になって、けっこう聴きました。「us」は本当に神曲だと思います。読んでいただいて、どうもありがとうございました。
0空というのはどこからどこまでを空というのか、実は曖昧なものであったりしますが、通常は地上から上部を見上げた時に見えるものです。ただ、海に行くと、その空が地上の延長上に見えるという不思議、空が地上に見える場所であるというだけで海の存在価値はあるように思えます。その隣り合わせになった空と海は曇りの日で同じ灰色を纏っているのですが、あくまでも空は空であり、海は海であり、混じり合うことはありません。ただ、それは見る人によってものの見え方が違うように、空は空、海は海という境い目を持っていたいのでしょう。 第二連は意識が見ている景色から変わり、「ここで見える景色」から「ここにいること」の描写に切り替わります。書かれているとおりなので説明を省きますが、第三連とセットになっていますね。ここで不意にアタシの感情が浮き彫りになってしまいます。「アタシは恐ろしくて」と。何が恐ろしいのかと言えば、「アナタの実存を確認できない」ことです。さらに言えば、「見ること」に徹していたアタシは「見ること」を拒み、「触れること」によってアナタの実存を確認しようとするのですが、触れることができずに答えが出てしまいます。 でも、それがアナタの実存を確認することの終わりではなく、おそらくアナタの肩に辿りつけるまで凭れ続けるのでしょう。それがアタシの姿勢であり、決意なのか、それとも、「ひたすらに/倒れていくだけ」なので、私の意識とは無関係に起こる動作なのか。 いや、「アタシは永遠に傾き続ける」と、傾き続けることを受け入れているのです。それはアナタの肩に凭れるまで天国か地獄かわからないので、ここでアタシは想像します、生誕の眩暈の味を。その想像が確信できるというのはよっぽどの自信ですが、アナタの肩が見つかるまで傾き続けることと、生まれる前に母のお腹の中で傾き続けていたことという二つがここで不意に結びついているわけですね。まだ起きていないことに対して確信を持つためには、既に起きたことからの類推によって導くしかありません。 「見ること」や「触れること」によって、アナタの肩に凭れることはできないでその不安が描かれているのですが、「想うこと」によって、アタシはアナタという存在に凭れているのではないでしょうか。
0もとこさん、こんにちは。 とても良い詩ですね。世界と社会と私たちと私、それぞれの次元での境界線が、詩の中で重層的に語られ、お互いに融合していくようです。これも眩惑のうちでしょうか。 アナタの肩を求めて アタシは永遠に傾き続ける それは天国なのか あるいは地獄なのか 今のアタシには 分からないけれど このあたりの流れが官能的で僕の好みです。 肩のあたりから、暖かくて良い匂いがしました。
0官能的な朝を迎えるために完璧な部屋を探した 『株価急落が常態化へ』という記事に眼を通す不動産屋のひとり主人がアタシの音に気付いたようで 半口のまま止まった主人の顔には彼の本質—淫行が好きそう—がみえた それはアタシだからわかってしまったのか或いはオンナに対して無防備になった一瞬が今だったのか いづれにしても主人の鼻にしまりというものがなかった 好みかどうかと判別すればアタシが好きなタイプなんだろうけど一つだけ試してみたいことがある 「肩にもたれかかるオンナに、どこから、さわることを始めるのか、教えてもらえないかな」 「それで、その、私の答えで、あの部屋の契約を?」 「そう。砂浜と水平線が並行する眺めはいい。あとはアタシとあなたの相性の問題」 「・・・私の右横に坐っていただけますか」 左へと傾き落ちてゆく永遠の始まりにアタシは意識して瞬きをした もとこさん 毎度、投稿有難う御座います。本作『Lean On』のイントロダクション詩を書いてみました。失礼しました。
0なかたつさんへ 自分で書いたものでありながら、なかたつさんが指摘した内容で改めて認識したり気付いたりした部分がありました。「アタシ」の「アナタ」への凭れかかる姿勢は、ある意味で依存と言えるのかも知れませんが、まあ恋愛とは多かれ少なかれそういうものではないかなとも考えています。読んでいただいて、どうもありがとうございました。 Migikataさんへ 世界と個人、他者と自分の融合というのは、まあエヴァ以降の流行みたいなものですが、この詩は最終的な融合を永遠に先延ばしにされている感じです。元ネタの短歌では斜めになった水平線が恋人の肩で固定化されるというオチだったんですが、詩に変換する時に「パーマネント野ばら」という映画のクライマックスをイメージしていたので、こういうオチになりました。良い詩と言っていただけて、とても嬉しいです。読んでいただいて、どうもありがとうございました。 三浦果実さんへ 株価って、いつも小幅な値動きをしているイメージがありますよね。イントロダクション詩、素敵です。アタシは不動産屋主人にジュンときちゃったんですね(と、歳がw 読んでいただいて、どうもありがとうございました。
0アナタが出てきた所から一気に面白くなってくる。そこにラインが交錯してきて境界が生まれ、そらがじわじわと傾いていく。それが寂しさに結露して詩が終わっていくラストの情景。美しいです。 >きっと生誕の眩暈も >こんな味だったのだろう >そう確信できるほど >静寂の中で >傾き続ける世界は >とても >寂しい匂いがした いやぁ、もう職人芸の領域では? と思わされる絵力ですね。これを見事というほかに、僕に表現出来る語彙はない。味から匂いに跳躍していくその共感覚具合に舌を巻く。そこに傾きの意味が熟れ落ちて綺麗なラストを演出しています。見事だ。
0深夜に失礼します。自分的には、(百均さんが現在掘り起こしてくださっているゆえ、ものぐさな私にも読めたんですが、)もし朝顔賞(ねぇよ・笑)があればこれが四月のベストです。 何だろう。生まれてくることって、誰かに特に母親に依存することなんですよね。赤ん坊は、母親がないと生きて行けません。だから「生誕の眩暈」。 でも、たぶん作者にはそれは最初から剝ぎ取られたもので、だから「アナタ(=貴男、でよろしいのでしょうか?)」を求め続ける。 でも誰もおそらくは母親の替わりにはなれない。その渇きを書いた詩だと思いました。
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