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直線幻想
ある昼下がり、白髪の混じるご婦人とコーヒーを飲んでいたときのこと。 黒黒としたカップの中身が喉を通る心地よさに目を伏せた私に、彼女は言った。 西暦2000年に生まれた人間は、 西暦3000年を生きることはできないのよ。 そんな至極当たり前のことを言われて、 なんでそんな当たり前のことを言うのかと聞いた。 彼女はただ笑って続けた。 西暦2000年を生きるあなたは、 西暦2100年を生きることは難しいでしょうね。 彼女が言った言葉は、さっきとほとんど変わらなかった。 でも、ぐっと縮んだ“その間”は、私の喉を狭くした。 彼女は笑った。 私の喉の狭さを、きっと彼女は知覚した。 彼女のその笑いは、私の動揺を尊ぶようだった。 私は西暦2050年を生きることも難しいでしょうね。 ねえ、私はあなたが羨ましい。 私が見ることのできない、西暦2050年を見ることができるあなたが。 コーヒーカップ二つを乗せた、テーブル一つ分の距離が遠く開いて、私と彼女を隔てた。 やがてそれは白いシーツになって、その上に横たわる彼女の手にはチューブが巻きついた。 一点の黒もないそこで、彼女は私に言った。 ねえ、私はあなたが羨ましい。 明日を生きるあなたが。 か細いその指を握って、握り返して、私は彼女に言った。今度は、喉は狭くならなかった。 西暦2000年を生きる私は、西暦1950年を知りません。 私はあなたが羨ましい、私が知らない過去を生きたあなたが。 横たわる彼女は笑った。 私も笑った。 彼女の葬列はやがて私になる。 私はコーヒーカップを置いた。 目の前には、ミルクティーに砂糖を入れる少女が一人。 ああ、うらやましいな。
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直線幻想 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 213.0
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2025-04-11
コメント日時 2025-04-12
項目 | 全期間(2025/04/17現在) |
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叙情性 | 0 |
前衛性 | 0 |
可読性 | 0 |
エンタメ | 0 |
技巧 | 0 |
音韻 | 0 |
構成 | 0 |
総合ポイント | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
巧いです。 会話文と交互に出てくる文章で情景を説明しているのですが、 「喉」の記述で感情を表現したり、 「動揺を尊ぶ」という表現には痺れました。 残念な点は、こんなに佳い詩なのに、 「タイトル」で、食いつきにくくなっている点です。 勿体無いです! これだけ佳い詩が書けるのですから、 「タイトル」も工夫していただきたいと思いました。 とても佳い詩です! ありがとうございます。
0白髪の混じるご婦人はご病気になったのでしょうか。砂糖を入れる少女は誰なのでしょう。ご婦人の孫だとか? 途中で場面転換があったような気がしましたが、違ってたらごめんなさい。誰もが生きれる時間が限られていて、ときどきそのときに切なさを感じるのは、自分が年老いたときを感じるときですね。
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