セミ - B-REVIEW
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ことば

ことばという幻想

純粋な疑問が織りなす美しさ。答えを探す途中に見た景色。

花骸

大人用おむつの中で

すごい

これ好きです 世界はどう終わっていくのだろうという現代の不安感を感じます。



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セミ    

猛烈に ダッシュして チャリンコを こいでいた そのとき とつぜん 何かが オデコにぶつかって来た イテテ! 見ると チャリンコの前のカゴに 一匹のセミが ひっくり返っていた 何だ セミとぶつかったのか わかってみると にわかにそのセミに興味をもった 捕まえようと 手を伸ばすと セミは 激しく抵抗した 甲高い鳴き声を 二三発すると 羽を激しくばたつかせ 奔放に暴れた どうやら よほど怒っているらしい お互い様などという私の意見には まるで 聞く耳をもたないかのようだ そのわけが 私にもわからないわけではない 何せ セミにとっての 生のタイム・リミットが迫っているのだろう  あと残り幾日か 具体的にはわからないが その間に まずデートをして それだけではない その上に 急ぎ子供をつくらなければならない  そのためには まず急務として 大木に しっかとしがみつくことであり  そこで求愛行動として 不断に鳴き続けることであり…… オー 忙しい忙しい 無為にときを過ごす暇など まったくない ところが  最前から 妙ちくりんな男に取っ捕まって それは 貴重な時間を浪費させられている ーーどうやら セミはそう思って イライラしている様子だった ところで セミの一生は俗に七年七日といわれる まず地下に潜って七年 その後は 思い出したように 地上に出没して七日 合わせて 七年七日間生きるとか セミに関する それ以上の細かい知識は持ち合わせていないが とにもかくにも その事実は 凄まじく 怖ろしい限りだ 言わば 地獄巡りの一生であることがよくわかる しかし 不思議というか 妙な気がするのは セミが その逆境を あたかも自らすすんで こなしているかのように見えることだ たとえ 他の選択肢がなく 仕方なくその生き方を選んでいるとしてもだ (どうしたことか 私はすでにセミを人間の仲間に加えている!) ところが ある俳人が表現世界において このセミの地獄巡りを それは見事に反転させて見せた それによると 鳴き声は岩にしみ入るというのだ この瞬間 セミの地獄巡りや求愛行動の労苦は 一挙に 幽玄にして神秘的な世界の出来事に変容された それを可能としたのは 日本の民の無意識の世界が 自ずからのこととして働いたためである それなくして どうして 日本列島の北から南の端に至るまでの すべての民によって この俳句がつつがなく暗唱されようか ところで アメリカでは 今年 素数セミが一兆匹ほど発生する見込みだという  しかし そのことにより 日本の場合のように にわかにアメリカの無意識が露呈するとか 何か異変事が起こるとかの気遣いは まったく無用だ せいぜい 一兆匹のセミの亡骸を 廃棄物として 特大のブルドーザーによって搔き集められ 処分されるというのが 唯一起こりうる事態であろう 欧米は 理性の国である どう転んでも 日本のように易々と 全土に渡り 無意識が伝播するような気づかいはない なぜなら 理性は今日 空気の層に似て 全地球を覆い尽くしているからだ ところが 日本には未だその理性を理性たら占めている 自然が息づいている いや息づいているかのように 自ずからが 自我に対する肉体が見える さて この夏 私たちはブラウン管上に アメリカの素数セミの どのような姿を目にするのだろうか ブルドーザーによって搔き集められ 廃棄される映像を見るのか それとも セミを両手にのせて悲しむ子供の映像を見るのか いずれにしても セミが人間に対する リトマス試験紙の役をかっている事実に 私はある痛快さと 愉快さとを覚えずにはいられない     


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作品データ

コメント数 : 4
P V 数 : 239.7
お気に入り数: 0
投票数   : 0
ポイント数 : 0

作成日時 2025-03-01
コメント日時 2025-03-01
#現代詩
項目全期間(2025/04/14現在)投稿後10日間
叙情性00
前衛性00
可読性00
エンタメ00
技巧00
音韻00
構成00
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叙情性00
前衛性00
可読性00
 エンタメ00
技巧00
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閲覧指数:239.7
2025/04/14 00時49分17秒現在
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    作品に書かれた推薦文

セミ コメントセクション

コメント数(4)
レモン
レモン
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(2025-03-01)

初めまして。 蝉ですか。 鳴いてる蝉も印象的なのですが、 私の蝉のイメージは、 マンションの踊り場や階段で、ひっくりかえっている方がリアルで、 毎年、30匹くらいは、ひっくりかえっている蝉を救出しております。 空白を読もうとしたのですが、難しくてムリでした。 あり

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浅川宏紀
浅川宏紀
レモンさんへ
(2025-03-01)

お読みいただき、ありがとうございます。レモンさんの『わたしたちの攻撃』を読ませていただきました。面白いなア、と思いました。

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レモン
レモン
レモンさんへ
(2025-03-01)

?私そんなん書きましたっけ。 書いた詩を余程気に入らない限り、 覚えてないのです。 ごめんなさい。

0
浅川宏紀
浅川宏紀
レモンさんへ
(2025-03-01)

大変失礼しました。私が他の方の作品と勘違いしていました。ごめんなさい、です。

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