入院した病院で 幻覚を見る - B-REVIEW
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ことば

ことばという幻想

純粋な疑問が織りなす美しさ。答えを探す途中に見た景色。

花骸

大人用おむつの中で

すごい

これ好きです 世界はどう終わっていくのだろうという現代の不安感を感じます。



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入院した病院で 幻覚を見る    

病院に手術のため入院する その際 病院側から多数の書面を渡された そのなかには サイんを求めるものも幾枚かあった ところが それらのなかに 妙な一枚があった その表題は 「ご家族に知っていただきたいこと(せん妄)」とあり これにも 患者自身のサインを求めていた しかし 表題の言葉からすると サインの相手は 家族の誰かのような気がするが 書面では 患者自身のサインを要求していた 妙な要求もあるものだと せん妄に罹った患者の オロオロする姿を思い浮かべながら 苦笑したことだった   ところが である 入院したその日の深夜 私は幻覚を見た 十人部屋の天井いっぱいに 色付きの幻覚が映し出された それは乾燥し切った荒野の 人気のない 茶一色の世界だった それが何を意味するのか 私にはまったく判らないが それでいて 不安な気持ちはまったくなかった 遠い昔 小学生の頃でもあろうか 場末の映画館で 独り こうした光景を見ていたような気がする…… ところが その後に 場面がにわかに一変した どういうつもりか たたみ一畳はあろうかと思う 縦長の バカでかい ブロマイドのようなものが出現したのだ 何とも奇妙な話だが 事実だ それは確かにブロマイドで 男女がほぼ交互に出て来た しかも 登場人物はすべて外人と来てる こちらとしては 何が何だか分からず ただアホのようになって見ていたが なかに 思わず 私の眼を奪うものがあった それは 女性の唇にぬられたルージュで その深紅が強烈なだけではなく 唇に現れた 縦の数本の黒い線までもが くっきりと鮮やかに見えたことだった そうした奇怪なブロマイドが幾枚か続いた後 突然幻覚が消滅した そおときの私は 正直言って 不安にとらわれるどころか 興味をそそられて どこか憩ってさえいた それについて その後 いろいろと考えて見たが その結論は 自分でも意外に思える地点に落着した それは 私の無意識的部分が急遽出現したのではないかということだ それにしても なぜいま…… そのとき 私に思われたことは この私ではなく 私のからだが反応しているのではないかということだった これを機会に 私のからだが露出したのではないか それは 私にはまったく与り知らぬことだ からだがからだを案じるあまり 無意識が直接行動に出たのではないか つまり からだがいのちにまで通じて  独自の活動を開始した 私にはそんな気がした いま 私はいのちといったが 私の考えるところでは そのいのちは生死を意味しない それでは 個体の有限のいのちを意味するビオスになってしまう からだはおのずからの世界に生きているものであって そこに みずからが食い入る余地はない そうではなく いまいういのちは 個体の分離を超えて連続するいのち ゾーエーのことだ 物言わぬからだは もっともゾーエーに近い存在ではないか そのゾーエーへの道が いま・ここ・自己において切り開かれつつある ーーそう私には思えたことだった          


入院した病院で 幻覚を見る ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 4
P V 数 : 649.6
お気に入り数: 0
投票数   : 1
ポイント数 : 0

作成日時 2025-02-10
コメント日時 2025-02-12
#現代詩
項目全期間(2025/04/23現在)投稿後10日間
叙情性00
前衛性00
可読性00
エンタメ00
技巧00
音韻00
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叙情性00
前衛性00
可読性00
 エンタメ00
技巧00
音韻00
構成00
総合00
閲覧指数:649.6
2025/04/23 16時57分03秒現在
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    作品に書かれた推薦文

入院した病院で 幻覚を見る コメントセクション

コメント数(4)
黒髪
作品へ
(2025-02-12)

ビオスとゾーエーという言葉は、読みかけて止めたアガンベン「ホモ・サケル」で見かけたことが あります。この詩は、思考がしっかりと為されており、きちんと論理的に展開していくので、 安心して読めて、読みごたえがあります。なかなか経験しがたいようなことが経験されていて、 興味をそそられました。実際、病院というのは、非日常的空間ですし、生と死についての 考えが起こるのも、自然なことですね。体験談は強い。

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レモン
レモン
作品へ
(2025-02-12)

初めまして。 文中の概念は難しく、疲れるので読み飛ばしましたが、 ゾーエー。 ZAのことかな?と思いました。 あと、文章後の空白を読むのが面白いです。

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浅川宏紀
浅川宏紀
黒髪さんへ
(2025-02-12)

お読みいただき、ありがとうございます。私は昨日で八十四歳を迎えた老人ですが、先日黒髪さまの詩「悟り」を読ませていただき、仰天しているものです。  私はギリシャ語のビオスとゾーエーを精神分析の書物で知りました。古代のギリシャ語には、「特定の個体の有限の生命」を意味するビオスに対して、もう一つゾーエーという、「個体の分離を超えて連続する生命」「個々のビオスをそれとして実現する可能態としての生命」という言葉が存在したと。これは華厳哲学の「理」に通ずる、それも日常的言葉として存在していたとなると、驚き桃の木山椒の木です。日本語でいうと、ややみずからに対するおのずからに近いと言えるでしょうか。ありがとうございました。

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浅川宏紀
浅川宏紀
レモンさんへ
(2025-02-12)

お読みいただき、ありがとうございました。それと、お疲れさまでした。今後も、よろしくお願い致します。

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投稿作品数: 1