別枠表示
夏の夢 〜人魚の詩(うた)へ〜
白いワンピースの袖口が、綿雲の下に可憐にひらひらと揺れていた。けれどなんて純白だったろう!君の二の腕はもっともっと白かった…春の朝を船はゆるやかに出航していた。桟橋を息を弾ませ駆けてきていた君の、発熱した頬の、その薔薇色が雪原に一輪で咲いているよう。 君はいったい、どんな明日を歩いていくんだろうーそうなんとはなしに不安になっていたから、あるいはそんな情景が浮かんだのかもしれない。 今度は、君は黎明のさなか静かに町角に佇んで、有明の月に吸い込まれるように見入っている。涼気のわたる夏の日に。 君は石畳に裸足になって、夢を見る。それは浜辺の巻き貝の夢で、風の渦巻く洞に君は、すっぽりと体育座りなんかしてるんだ。君を包む壁の銀が鈍く光っていて、君はどこでもないようなどこかを見ている。 "君はどこを見ているの?"と、僕はこのいま夢中の君へと問いかけたくって仕方がない。それがもしも叶ったならば、君はやはりじっと黙ったままでいて、頬はそっと翳ることでしょう。 髪は肩口から背へと流れ、あさへと儚く溶け入っていた。水色が澄みわたり始めると、唇は切ない夢を象るように開かれた。 なにか歌を口ずさみながら君は、まるで小指で水をかくように繊細に、その小さな手を左右に仄かに揺らし出すーああ僕はその手を取ってその指の、淡雪のようにか弱くもたしかなその腹の、しおらしいやわらかさだけを、この胸にしかと抱き続けていきたいのに… 君が歩むところ、大気がほんのりと薄い青緑色に染まりゆく情景を僕は見ている。マリンブルーの青の、そのうんと幼子の頃のような、アオバハゴロモのような薄い青緑色に染まるんだ。みなには見えなくともたしかに、君は静かに目を瞑るように、青緑の風を連れて人々の合間をすり抜けてゆく。まるで数百年後の未来から、そっと振り返られているかのような淡さで。 初秋のさわやかな夜には月の光に揺蕩うように、悩ましげな自分にちょっぴり酔ってしまったり、冬には吐息のはんなりとした白色の魔法に、ただただ甘やかなゆめの飴を舌で転がしてみたりと、君が細やかで尽きることのない"きみ"を、遥かなる空の下、切なくも逞しく描いてゆく明日が響いている。このいま胸に、響いている。 そうしてまた夏が来るーああ僕は、君とともにはるかなる夏の夢が見たい…震えるようにしとやかな、人魚の詩(うた)へと向かってゆく君と。 消え入りそうな白い月を、君はその瞳を細めてしんなりと抱く。そうして遠のきゆく少女時代を胸に焚べて、透き通るような桃色の火をひっそりと灯すんだ。昨日ですらもう遠い、と、そのちょっぴり物哀しくもあるような香りで、永遠のようで一瞬のようでもあるような今日という日を、灯された火の小ささで、可憐さで、純真さで、ただひたむきに染め抜くように。 昼下がりには、君はまるで妖精のように、石畳の上を優美に腰をくゆらせ歩き行く。凛、と。そして苺のように色づき始めた唇をゆるやかに開いて、あまやかなせつなさを溢れ落としては、海風に孕まれた青へと、艷やかで輝ける青へとしなだれる予感を、腰にそっと手を当て迎えるんだ。幾万もの煌めく青の粒子に洗われる夢幻を、氷のような青い星々に口づけする夢幻を、しとやかに口腔に染みわたらせる君の、憧れが欲しい。それだけが、君の、やさしくもせつない憧れだけが、僕は欲しい。
ログインしてコメントを書く
夏の夢 〜人魚の詩(うた)へ〜 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 557.3
お気に入り数: 1
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2025-01-01
コメント日時 2025-01-04
項目 | 全期間(2025/01/07現在) |
---|---|
叙情性 | 0 |
前衛性 | 0 |
可読性 | 0 |
エンタメ | 0 |
技巧 | 0 |
音韻 | 0 |
構成 | 0 |
総合ポイント | 0 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
君は女性なんでしょうか?
1コメントどうもです。そのつもりで書きましたが、髪の長い少年と読むことも、たしかにできますね(笑)新たな視点を提供してくださり、ありがとうございます♪
0此の度は、歌誌「帆」自由詩掲載欄へとご投稿を賜りまして、允に有り難うございます。 此処で、重要なお報せなのでございますが、 第四号始動期間に大幅な変更がございます。然るに、皆様に於かれましてもご傾聴を賜りますと嬉しく存じ上げます。 第四号用草稿に附きましては、本年夏季-初秋季より始動、着手とのご意向へ遵いまして、募集をさせて頂きたく存じ上げます (つまり、当初予定より一箇年弱程猶予を置きましての募集と為ります)。 多くの皆様のご応募を賜りまして、允喜ばしく、感謝も頻りなのでございますが、投稿を為される地点にて、 上記の事情の斟酌の程を、何卒宜しくお願い申し上げます。 御作を、拝読させて頂きました。 叙述に危なげもなく、現代散文詩、或は小-小説と致しまして佳く出来ていらっしゃると存じ上げます。 今様の時代の散文意識に、種々古今東西の要素が翻訳され、上手く取り入れられていらっしゃると。 一定の水準の言語-美をも附帯しつつ、可読性の方向へ梶を取られました文体である、とは存じ上げますが、 何処か、稍も致しますと実験性の、つまりは詩の言語の要でございます 「言葉に拠る言葉の再定義、ひいては事物そのものへ肉迫せんとする言葉の営み」の側面に於きましては弱いのでは、と感受を致して仕舞いました次第でございます。 実力は存分に在られるとも存じますので、 次回作に於きましては「実験性」、或は「言葉の再現不可能性」へと挑戦を為されてみて下さいますと、嬉しく存じ上げます。 それでは、復のご挑戦をお待ち申し上げております。 此の度は、ご応募ご投稿を賜り、允に有り難うございました。
1美的に書くことに賭けていたので、そう言っていただきうれしいです。ただ自分としては、さらに、ゆめの飴を舌で転がす、といった表現や、そしてクライマックスの凝縮した記法によって、それこそまさに"事物そのものに肉薄"したつもりだったりするのです(汗) 鷹枕可さんのコメント読ませていただき、やはり詩の世界は厳しいなと、そう実感している次第です(笑)あとはやはり、散文で詩的なものを表現するには、よほどの技巧がいるんだろうな、と。自分で見直してみても、やはりどこか弛緩した感じが否めません。 とはいえトータルとしては、絵画的かつ音楽的に流れるように書く、という目標を一応は達成できた感があって、満足していたりするんです。2週間かけて、細かい部分まで含めると計100回くらい手直しした作品なので(笑)、思い入れはひとしおで(笑)。 ただここはやはり厳しい。ほとんどコメントがつかない。そんななか、応募したからであるとはいえ、こうして鷹枕可さんからご丁寧なコメントいただきほんとうにうれしかったです。上記のコメントを、鷹枕可さんからいただいた努力賞だと胸に抱き、また今日から、詩作を含めた生活を頑張っていきたいと思います。 プロフィールに書かせてもらったのですが、ここに投稿させていただくことはもうないかもしれません。でも詩作は続けていきます。そうして研鑽の果てに、ここで評価され得る作品が書けるとの確信が得られたなら、その折りはまた、みなさんに、鷹枕可さんに、お世話になることがあるかもしれません。 何度も拙い作品をお読みくださり、毎回ご丁寧なコメントをくださり、感謝しかありません。ありがとうございました☆♪
1夏の爽やかな港と海の青さ、華奢で可愛らしい少女が脳内で再生されました。 映像化すると物凄く綺麗に映るだろうなぁ(*´ω`*)
1ありがとうございます!♪まさしく、華奢で可憐な女の子をイメージして"描き"ました。華奢な、とは一言も書かずに、 "ああ僕はその手を取ってその指の、淡雪のようにか弱くもたしかなその腹の、そのやわらかさを、この胸にしかと抱き続けていきたいのに…" みたいに、その周辺を周るようにして、いわば「華奢な感じ」を浮かび上がらせるような描き方ができたところが、自分的には満足だったり(笑) 引用した手指の箇所をはじめ、臨場感にこだわった作品なので、「再生された」というのはホントありがたい褒め言葉です♪ ちなみに、女の子は特定の誰かではありません。自分の胸のなかの理想の女の子をずっと見つめ続けながら(笑)(笑)、その折りの感覚をなるだけそのままに言葉に置き換えること、それだけを考えて描きました。それだけに、「物凄く綺麗に映るだろうなぁ」とまで言っていただき、ほんとうに感無量です☆♪ それはそうと、田代ひなのさんの作品には流れるような滑らかさを感じていました。そして色彩も豊かで、ほんとうに読んでいて心が洗われる思いを感じていました。じつはこの作品は、明確に田代さんのようなものを書くと意識していたわけではないですが(そもそも無理だし 汗)、滑らかさや色彩への意識に関しては、田代さんの作品群から影響を受けていたりします。とくにラストの神秘的な青のイメージなんかは、明確に田代さんの作品から連想して描いたもので(汗)、田代さんに足を向けて寝られないなぁと(笑) 比較的平易な言葉や表現で胸に響く田代さんの作品群は、一つの模範のようなものとして、これからも僕の胸に存在し続けると思います。少なくともしばらくのあいだは、BーREVIEWを見るのは控えるつもりなんですが、田代さんの作品は、学びのためにも読ませていただこうと思います。もしかすると、コメントさせてもらうこともあるかもしれません。読解力の低い僕のこと、ちょっとズレたことを書いてしまうかもしれませんが、大目に見てもらえるとうれしいです(苦笑)。 温かいコメント、どうもでした♪♪
1良いものは持っていると感じます。ただ、きみの存在がぼやけて見えます。油断していると、時折、鋭いフレーズが現れて驚きます。 >氷のような青い星々に口づけする夢幻を 美しい詩句です。余談ですが、Bを辞められるのは惜しいですね。継続していただきたい書き手さんです。
1このあいだはお騒がせしてしまい、申し訳なかったです(汗)とにかく人に見せたい見せたいが先行して、コメント欄に延々と書き込んでしまいました。着々と閲覧数の増えていくのにニンマリしちゃってましたね(笑) 類さんに注意していただくことがなければ、それこそ延々と書き続けていたかもしれません(苦笑)しかし、もしそうしていたとしても、おそらく、出来上がる作品はいまとはだいぶ違っていたと、そう思うのです。一言でいってより不完全(燃焼)な作品になっていた、と思います。 類さんに注意していただき、僕はいわば胸のうちに籠もることができたのだと思います。実際、そんな感覚を感じていました。ありきたりな例えであれですが、大切な人への手紙をひっそりとしたためているような、そんな感覚を。 ご存知だったか分かりませんが、それでも「詩人たちの小部屋」のプロフィールにて(改稿するたび)upし続けていたのですが、多分に感覚的な話ながら、ここで投稿し続けるのに比べると、いわば" 一つ中に入って" いる。そのひっそりとした静寂感が僕にこの作品を描かせてくれたと、繰り返しになりますが実感していたんです。その意味では、僕は類さんにも足を向けて寝られないですね(笑) ぼやけているとの指摘については、正直あまり考えてなかったので、少し意表を突かれた思いがしています。描き切れたと感じていましたが、じつは多分に自己満足的で、評価されないのは、いわゆる紋切り型だからとか詩の言葉自体が弱いといった理由からだけではなくて、端的に僕自身の切なるものが伝わっていないのかもしれない…そんな風に自省している次第です。 とはいえ、リズムや凝縮性等汲みするなら、足し算のように単純な発想で考えるわけにはいかず、つまるところ語り方そのものから考え直さないといけないのかな、と。鷹枕可さんへの返信でも書かせてもらったことと重なりますが、散文を詩として成り立たせる、ということの困難をビシビシと感じています(苦笑) 惜しいと言ってくださり、正直なんだか気恥ずかしいですね(笑)そう言われ名残り惜しい気持ちもしています。 当然の発言だったとはいえ、注意されたままに去るのと、こうして温かい言葉をかけていただいた上で去るのとでは、後々に胸に残っていく情感の質がかなり違うと思うのです。去り際の類さんの心遣いが、やさしい雲のように胸にたなびいているのを、遠い明日の僕は感じているはずです。 長くなりましたが、ぼやけているとのご指摘を踏まえ、詩的に凝縮された表現を模索し、またいつか、「胸のなかの理想の女の子」(笑)について描くことができればと思います。 感謝☆♪
0すいません、上のコメントは類さん宛てです(苦笑)ありがとうございました♪♪
0作中の君の存在よりも、君の存在を取り巻く装飾が多すぎる余りに、かえって君の存在が見えにくくなっている感じですかね。はちみつさんは、作中の君の存在を表現したいのか、はたまた美しい表現を見せたいだけなのか判断に困るのです。それではまたどこかではちみつさんのお作を拝見させていただく日を心待ちにしております。
1告ってやんわり断られたい系ポエムの名手にして、個性も癖もドカ盛りな、はちみつさん。 ああいう状況で独特すぎる投稿スタイルを頑なに続けられてたのはリスペクトします(まわり全員ドン引きやんか?...) 去ってしまうのは寂しいけれど、 はちみつさんなら、なんどでも蘇るさ、たぶん。
1(笑) 穴があったら入りたい状況のはずが逆に裸になって踊ってるみたいな、唖然とする状況だったかと思います。それは分かっているつもりでしたが、さらに恥ずかしいことを言うなら、次こそは最高傑作が書けるんじゃないかと、毎度毎度思ってましたね(笑)結果は見てのとおりですが、自分のなかで漠然とした感覚が次々形になっていく運動に、身を任せたい、任せなければならないと、必死ながらに楽しんでいました(苦笑) それにしたってあの折りはまだ"意識的"で、これまた(あるいは、より)迷惑をかけた愛果の"物語"(笑)に関しては、それこそ勝手に言葉が生成されていく感じがありました。それもあって、「才能あるんじゃね?」と勘違いしてしまった。最初どう書き出すかを決めれば、後はほとんど何も考えずにペンを走らせる(僕はいつもまずノートに青いフリクションで下書きするんです)だけで、歪ながらも物語が出来上がっていく。しかし結果は見てのとおり、一応綺麗に閉じてはいるけれど(と、僕は思ったのですが)、なんとも"小さい"、物語未満のささやかな体系にすぎなかった。 これじゃ単に幼稚で病的な文章にすぎないと思ったのですが、いかんせん「自動的な生成」の魅惑には抗えず、またその果てにどこかたしかな場所にたどり着けるんじゃないか、高みに昇れるんじゃないかとの思いがあり、そんななかでの、類さんに注意されるまでの連続コメントだったーまとめると、そんな感じですね。 愛果ではないですが、自分もエビリファイを毎朝6mg服用してる身で、メンタルというか神経に問題を抱えています。その意味でも、勝手に生成された文章を見つめることを通して、新たな自分が分かるかもしれないとワクワクしていましたが、もちろんコメント欄でやっていいことではない(上に来ることで他の人の作品が下がり迷惑)。完全に甘えてたとしか言えない(笑) すいませんせっかく、軽やかなコメントいただいたのに重い自分語りになっちゃいましたね(苦笑)ユーモアの足りない生真面目な人間ゆえ、こんな返信しかできず申し訳ない。でもほんとう、おまるたろうさんにハッキリ「まわり全員ドン引き」と指摘していただき、なんだかホッとしています。曖昧模糊としていた関係性がしっかりとした言葉になり、安心できたというか。 あんまり気負ってもあれですが、僕はもう38歳です。"自分らしさ"と"まっとうさ"を両立した「大人」になれるよう、襟を正して頑張っていきたい。頑張らないと、です(笑) どうもでした☆♪
0上記、おまるたろうさんへ。学習能力ないなぁ>自分
0返信読ませて頂きました★ "じつはこの作品は、明確に田代さんのようなものを書くと意識していたわけではないですが(そもそも無理だし 汗)、滑らかさや色彩への意識に関しては、田代さんの作品群から影響を受けていたりします。とくにラストの神秘的な青のイメージなんかは、明確に田代さんの作品から連想して描いたもので(汗)、田代さんに足を向けて寝られないなぁと(笑)" ↑えー(ノ゚0゚)ノ~!?本当ですか! めちゃくちゃ嬉しいです!まさか私の作品を参考に書いて頂けるとは! 私の作品がはちみつ様の詩作のアイデアの役に立っているとのことで嬉しい限りです★ これからも素晴らしい作品が描けるよう精進したいと考えております★
1