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タイムカプセル
3月9日、 運動会をするために私たちは生まれる 1993年、 破り捨てられた手帳の切れ端を分けて 3巻くらいまでしか読んでいないマンガの 吹き出しから君たちが聴こえる 日曜日、 3番目の彗星になれなかった夜を輝かせるため ふたりでお守りの代わりとして胸に入れた 燃やされた短冊がこわい 全ての物語の始まりは、 色や音で変身をする市営団地の黴の生えたシンク下の物入れ 白線を引く手押し車みたいな装置 白い粉がたくさん入っているかんかんを蹴り飛ばして 校庭に描いたナスカの地上絵 濡れ衣を着せられた心地よさに胸を熱くして 夕方5時に聴こえてくる音を採譜した 卒業式の筒を鳴らして 泣きながら楽しんでいる リコーダーを振って帰った 次の日に、 放送部員が喉を枯らしながら叫んだ点数が雨雲に跳ね その歌声のいくつかが埋められて欲しいと落っこちて プールの水は避け切れなかった 星座の背中に爆弾を仕掛けてさようならとあわく砕かれた氷のように変わってしまったね 給食が大好きだと笑う 白線の内側ぎりぎりを狙ってカーヴしていくのが上手かった 友達を忘れたくなかった 忘れるくらいなら 私の手の届かない所で泣いてよ 君は声が聴こえない所で、泣き声を見つめなよ 結局、プールには大きな穴が開いた 躓きながら走る奥歯と 躓きながら書いた文字を録音する 同級生という名のうそつきがこぼした涙を蒸留させた湯気が滑らかに揺れていて シャーレの船を見つめるように 君の名前に、私のいちもじは宛がわれていく 君が傷付いたとき、そのはからいが美しいかどうかなんて 花野の海へ飛び込んでごらん としか言ってあげられないことだってある 死ぬと嘘が本当になるか 駆けだしてからじゃないと分からない、渡せないバトンリレーの 続かないしじまを、美しさと勘違いしないでおくれ もっと、 ずっと複雑な終わり方をしたいと望んでいたわけではなく 今朝は土曜日の雨が降る金曜日 黒板に書かれたおめでとうの文字の隣に傘の絵を置き 冬のプールに飛び込んでいく後ろ姿を笑う君たちの背中にある星座の梯子をのぼり 校舎の時計を少し進めた 聴くだけで気がふれていた音楽を血でできた魔法瓶に詰めて 人質にされた悲しみでさえ見つけようと必死になった さいごのさいごにどんでん返しにされた点数を見て 優勝したいという気持ちが冷えていくみたいに 星の多い公園で夜通し天体望遠鏡を耳あてにしたように 寒かったのは 夏じゃなかった、 3月9日は 足跡で埋め尽くされる 殺したい気持ちをぶん殴って、 たった1人の妹だからと2人3脚の紐をくすねる みんな死んでくれって思う、でもお前らと一緒は嫌だから 先に死なせたくない 授業中の眠っている頬に書かれた落書きは教室中にあふれて夜になると白い棒と棚引く胸を笑って突き飛ばした星霜は思い出のまま 運動会が始まったら、両手を繋いで見る 目の前は光で埋め尽くされて 血を速くして走る地面の内側を蹴り、 生まれ変わっても おさがりの制服を着て 再び、薄く張った唇の境界線に立ち 君の姉として生きたい 産声は、 とても綺麗で。 拙い感動を一冊の紙と綴じ 水をこぼさないと浮かべない文字みたいに 6年生のときに埋めた約束のことなんて みんな忘れているから 友達が校舎を壊している 重機で掘り起こされた土塊が泣きながら描く 作業靴の上に透き通った微粒子を逃がすようなみちすじ あの日、 黒板の端に見つけた下手くそな傘の絵 コックリさんが静まらせた教室を沸かせた黴パン 紙の切れ端を使って行われたメールみたいなこと 隠し読みをしていた9つのマンガ 窓から見える総合病院で ほとんど同時に生を享けたこと 記憶を打ち消すような出来事がこれからも続いていくだろうけど、もうそれは誰かが記録してくれることではなくなって、私たちが見たり聴いたり匂ったり心で感じたりして手を握りそれを輪に広げ体に染み込ませていく 殴り書きの手紙。 星のない、 夜に聴こえるのも星だよ。 騎馬戦で破り殺された古い手帳 小さく分解されて水のないプールの底で たちどまり、 私たちの産声は 抜け落ちた歯の順に 飾り付けられている
タイムカプセル ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 651.1
お気に入り数: 0
投票数 : 3
ポイント数 : 0
作成日時 2024-07-29
コメント日時 2024-08-01
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
誰もいない放課後の教室で好きだった女の子のリコーダーをペロペロ(リコペロ)したという記述があればボクの中では100点だった。途中、同じパターンの修辞の繰り返しにもめげず、あえて表現を貫くという姿勢がアートだと思った。即興のマシンガントークのようで、実際、どのことばの使用にもセンスの良さが感じられ、やはりリコペロはやらないタイプの人なんだなと確信した。
0行分けしてしまったことで前後でかかれた意味を取りこぼす。なんのために行分けするのか、書いた言葉たちに対してどう置けば一番適切なのか。つなげると言葉としてはおかしくもなるのだけど、詩としてはまったく違和感がないと思う。最初から行で書いたのか、後で切ったのかにもよるのだが、言葉として読ませるのか、視界として踏み進むのか。思いとして広がるのか。突き抜けて長い行があるところを見ると句読点が配置されていないので、わざとなのだろうか。ざっと書いて区切ってから増やしたように見えました。たしかにいままでの1.5Aさんの作品とはずいぶん違うけれども、この作品、読める ので、行分けし一語ずつ置く必要も、行間を含ませる必要も感じないとおもった。
0やはり傑出したものが感じられますが、よくもわるくも精読が必要な作品。そして再読するのにも、けっこう覚悟が必要...優等生の「人のわるさ」みたいな部分が滲み出てて、いいと思います。
0音楽の授業はからきしだめだったので、そういったフラグを立てられた(立てた?)みたいな世界に生きることはできなかったのですが、今まで何ごともなく生きてこられたのは、その分、周りの人たちがしっかりしていたということなのだと思います。よく分からないのですが、周りの人たちに感謝をしてしまいました。そんなタイプの人間ではないのに! お読み頂き、ありがとうございました。
0これは少し前に書いたもので、以前A・O・Iさんにお読み頂きましたが、更にずっと昔の、多分詩のような文章を書き始めた頃の感じを思い浮かべながら、作ろうとしていました。それが背景にあり、初めから行分けの形式で書いていきました。表題にも、それが自然に出てきていると感じます。 呼吸するように読める文章というところに自信がなかったので、「。」は場面を区切るために、「、」はちょっと休憩をして欲しいところに(当たり前かもしれませんが)、補足的な意味として書き足しました。コメントを読ませて頂きましたが、そういったものを含め “無くても読める”と書いて下さり、本当は無かった(しなかった)方が自然なのだと思います。 行の見せ方、文字の選別、言葉のリズム。胸の芯を打つ作品は、一文を研ぎ澄まし、追及していくことで生み出されている気がします。作品全体を見てコメントをお書き頂き、ありがとうございます。とても嬉しいです。
0おまるたろうさんのコメントは、いつも面白いなと思いながら拝見させて頂いております。作品も面白い。コメントを書ける作品とむむむとなってしまう作品もあって、意図されているのかもしれませんが、ふり幅が魅力的ですね。またコメントを書かせて下さい。 僕は詩の垣根みたいなものを越えようと頑張りたいと思います。その先に何があるのか、この目で見られたらいいなと思います。お読み頂き、ありがとうございました。
0>私たちの産声は 抜け落ちた歯の順に 飾り付けられている うつくし! この作品自体が一つのタイムカプセルになっていてとても好きです。タイムカプセル開く場にいたことがないのですが、開いて中身を見たら、この詩のように怒涛の思い出ラッシュになるんでしょうか。羨ましい。思い出のzipファイルみたいな作品です。ただ、この思い出のなかにいる人たちの顔は見えて来ないなと。思い出の概念が日々を生きてきた記録みたいだと思いました。綺麗です。
0小学生のときに、未来の自分へみたいな手紙を書いて、タイムカプセルに入れた記憶が今も薄っすらと頭のどこかに残っています。ハツさんと状況は異なるかもしれませんが、実は僕も開けるときにその場に行った覚えがなくて、思い出のなかにいる人たちの顔は見えて来ない、というお言葉がそのまま答えなのだと思いました。ちょっとハッとしました。お読み頂き、ありがとうございました。
1詰め込みすぎかな。
0ありがとうございます。そのお言葉を頂けて、逆に自分凄いとなりました。めげずに頑張ります。
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