別枠表示
その本は、
その本は、鳥の死骸のように、開きっぱなしで背を上にして、無駄に広い部屋の中心にあった。題の無名詩集という、騎兵の如く強悍なフォントの文字は、閉め切っていないカーテンの隙間から射す、青白い光を受けて、黒光りしている。む、めい、し、しゅう、と彫るように発話してみる。四人の畸形児が目に浮かぶ。無論、部屋は美術館倉庫の忘れられた陶器のように、空っぽで 、外から這入った虫の他に生命がある筈がない。小供の泣き声が聞こえた訳でもないのに、何故、畸形児という連想に至ったのだろう。長い間、換気がされていなかったがために充牣している、埃と黴の臭い。無気味さと孤独が憐れな生誕と結びついた……。それとも、消えた彼が要因だろうか。彼は汎ゆる公共の美を貶み、純粋で、時には人々が賤劣だと呼んだものさえ抱擁した。この扉を最期に閉じたとき、彼は目を捨て、淳朴に馴れ親しむのを望んだ……。残された本に出掛かりがあるだろうか。のどを摘んで拾う。黄ばんだ紙に刷られた文字の上を、行間を裂く速さで、視線が奔る。「その本は、鳥の死骸のように、……
その本は、 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 602.5
お気に入り数: 1
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2024-05-25
コメント日時 2024-05-28
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
美への深い愛が感じられます。四人の畸形児というイメージは、美を補完しているのかもしれません。 鳥の死骸のように、おかれた本は、詩集が畸形の肩を持つというメッセージを発しているのかな、 と思いました。死への美、生への美、詩集は柔らかく、固形ではないという特徴があると思います。 昔、三上寛というアーティストのライブ演奏を生で見る機会があったのですが、かれは、 爆破すべき美術館とそうすべきではない美術館、と歌っていました。若者の新しい美術を 蒐集した美術館が、爆破すべきではない、と。
1海外小説の出だしみたいに好奇心がかき立てられました。下から4行目は出掛かりではなく手掛かりでしょうか。勝手な感想ですが話の続きが読みたくなるような作品でした。
1作者であり四人の畸形児であり/む、めい、し、しゅう/その物 を拓く者。通り過ぎた彼らすべて、夢命死囚。キレイに締められ綴じた空間を写し取る美文そのもの。エンドレスショートムービーに拍手
1お読み頂きありがとうございます。三上寛は知らなかったので、聴いてみたいと思います。美術館の話、プロテスタントソングの魅力を凝縮したような好い表現ですね。
1ご感想、ご指摘ありがとうございます。たしかにどう考えても、手掛かりですね。年齢的には老いてないのに、よくこういうタイプミス(理由のわからない間違い)をします。私は旧字体にこだわりがあったりして解りにくいと思いますが、間違いらしきものがあれば、ご指摘いただけますと幸いです。
0美しい解釈ありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。
1何も書いて居ないのに思わずコメント送信をしてしまったので再びコメントします。「無名詩集」と言うタイトルは奇異な感じがするのですが、詩的韜晦なのか、文芸的照れ隠しなのかもしれません。無駄に広い部屋の中心と聞いて、興味を抱きました。「黄ばんだ紙に刷られた文字の上を、行間を裂く速さで、視線が奔る。「その本は、鳥の死骸のように、……」。このような終わり方は自分の詩作の参考になるのかもしれないと思いました。
1いいっすね!「MYST」っていう名作ゲーム(セガサターン)を思い出しました。またやりたくなった。
1読んでランボーの『地獄の季節』の冒頭を思い出しました。 「ある宵のこと、私は美を膝のうえに座らせた。ー苦い味がすると思った。ーそこでそいつを罵倒してやった。私は正義に対して武装した。私は逃亡した」、このあたりとか
1