別枠表示
しもしんめい
下神明駅は、東京都品川区西品川一丁目にある、東急電鉄大井町線の駅である。2022年度の1日平均乗降人員は8289人である。大井町駅から徒歩圏内(約10分)にあるためか、利用客はそれ程多くなく、東急大井町線の駅では北千束駅の次に少ない。 私が検索エンジンに「しもしんめい」と打ち込むとウィンドウに、上記テキストと、昔懐かしい下神明駅の改札のフォトが表示された。 15年前、確かに私はこの駅の近く、月7万円で六畳半の木造アパートに住んでいたのだった。しかし、記憶は15年前の「悲惨さ」に蓋をしてしまったようで、「しもナントカ駅」としか思い出せないでいた。 思い出した! あった、あった、この駅の近くに煙草屋が。今はもう手に入らない「ダンヒル」という銘柄の煙草を好んでそこで買っていた。 「タスポは持ってるかい?写真を撮ってあげるよ」 煙草屋の婦人は毎朝、そう言っていたような気がする。結局写真は撮らなかった。 (タスポ?タスポって何?) 当時僕はテレビもパソコンも持っていなかった。東に窓がついていた部屋には、あの娘の飼っていたハムスターが、一晩中車輪を回していたような気がする。 炬燵、があって蒲団が二枚あって。彼女の蒲団がせんべい蒲団で、うっかりその蒲団で寝てしまうと、背中が痛くなったことを思いだす。思い出す。思い出す。ただ、「しもしんめい」という言葉を思い出しただけで。 彼女は友人たちと飲み会に行っていて、私はその夜、近く公園で幽霊たちの相手をしていた。逆立ちすると、眼前のビルも倒立して。 でもなぜか、その倒立したビルこそ正しいんだよ、と幽霊たちは話していた。雨に濡れた花がきれいだった。私もびっしょり濡れていて、ティーシャツを脱ごうか迷う、夏だった。 今、私はそれを脳病だと言えるけれど、はじめて脳病になったのだ。なかなか思うようにいかないものですね、はじめて、っていう事は。 ついに泣き出して、ブラックのチープな携帯電話で、悪い、と思いながら、彼女の助けを求めた。 彼女がやってきた。彼女はお酒に酔っていて愉快そうだったことを覚えている。 彼女は笑いながら「何してるんだよ、バカスケ」と言った。 もう私は東京で生活していけない事がわかった。友だちが一人、新幹線に乗るに見送りに来てくれた。今思えば、わたしたちはどれだけ暇だったのだろうか。彼女は地元まで僕を送ってくれる事になった。 ひとえにパソコンによるネットワークが、スマートフォンが、通知が、Yahooニュースが、わたしたちの時間をぼろぼろにしている側面もあるんだ。 わたしたちが新幹線に乗って東海へ向かっているさなかも、あの部屋で彼女のハムスターはただガタガタと一生懸命、時、に抗い、車輪を回しつづけていたのだろうか。 駅について、そこに私の家族がいて、すぐに病院に向かった。自動ドアを開けると、待合室の男が大きな声で僕に 「おかえりー」 と、言った。私はこの病院から東京に向かい、この病院に帰ってきたわけではない。 それでも、ずっと、あるステージから、他のステージへ行って、また戻ってきたっ・・・ そんな妄想に、15年間苛まれてきた。 それはある時は「輪廻」という言葉を使って表現した。 今ふと、脳のシナプスの数が、銀河のどれほどの数あるかなんて考えるとき ──私はなぜ私なのだろう という宇宙的郷愁、に近いインスピレーションと共に思い そして今、「しもしんめい」と打たれた、パソコンのウィンドウを閉じ、ちょっと泣いてもいいかな、と思うんだ。
しもしんめい ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 642.2
お気に入り数: 0
投票数 : 3
ポイント数 : 0
作成日時 2024-02-01
コメント日時 2024-02-03
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
×>駅について、そこに私の家族がいて、すぐに病院に向かった。自動ドアを開けると、待合室の男が大きな声で僕に 〇>駅について、そこに私の家族がいて、すぐに病院に向かった。自動ドアを開けると、待合室の男が大きな声で私に すいません、主語、ミスっています。
0脈絡のない記憶が立て続けに思い出される瞬間を表現するということ、私はとても好きです。 シナプスの数は多いが、結局同じ思考、同じ悲しみ、同じものを探求して何も得られない。そういう無力感って確かにありますよね。
2説明文から始まって、しもしんめいって駅の名前なんだーと思った、徐々に語りかけてくるような文体に変身し、そのあたりの言葉の紡ぎ方が新鮮で好きでした、そしてちょっと不思議な情景が顔を覗かせながら、読み手を作品の世界に惹き込んでいく。 もう少し加筆された方が良かったかなと思うところ、例えば「今、私はそれを脳病だと言えるけれど~はじめて、っていう事は。」と「ついに泣き出して~」の繋ぎ(泣き出すに至る理由)の滑らかさが、荒い(唐突)かなと思ったり、「彼女は笑いながら「何してるんだよ、バカスケ」と言った。」以降の文章展開が、以前のそれとは別物に読めて(見えて)しまって、端的に言うとここを思い切って飛び越えなかった方が良かった、そう思えるくらいの大きな境目(文章展開の性急さと強度の弱さ)があると思いました。 だから終わり方の素敵さについて、15年前(?)には泣いていた自分が、今は「ちょっと泣いてもいいかな」という回顧に近い感覚を身に付けていて、過去の自分と、それを思い出にした(泣かなくなった)自分との対比や流れた月日を思うみたいな感じがあって、だからこそこのラストに着地させるための導線(境目を飛び越えた先)には、加筆が必要なのではないかと思いました。気になった作品でした。
1鮮明な思い出話、といったかんじ。〝私〟がこの作品に透写してある。見えること思うことを無駄も余計もなく書ききっている。カッコつけるわけでもなく読ませようという気合いもなく、サラッと書いてる、過去はもうきっと精算されているからこそラストに、ちょっと泣いてもいいかなと思うんだと、書いちゃうセンスだな、よいわるいではなく後悔していない感じがよくでてます。中だるみもせず落ち着いてきちんと完結してるので、ふつーに文章としてよく読めました。はなまる
1かなり好きです。読めてよかった。読んでる時に、少し混乱があり、しかしこの混乱は心地よくて、旅に似ていました。
1こんばんは。 コメントありがとうございます。 ちょっとさかたけおさんには緊張しいしい、書きますね。。。 その書籍に「ダイヤモンド社」って出版社の書いてある本をよく最近読むのですけれど 結局、いろいろな科学的エビデンスを元に、ビジネスパーソンに新しい生活習慣を 提供する本たちだとして、その多くは自己啓発書系なのかな?と。 何が言いたいかと言うと、その本の中には読書体験でもって、脳のシナプスの運動を 活性化せよ、とか書いてあるのですけれど。。。結局、「いつもの自分」であり続ける といいますか。。。無力感あります。結局、この品でも過去は財産以上の事は 訴えられていない?のかな?と思います。ありがとうございます!!
1こんばんは。 コメントありがとうございます。 さかたけおさんに続く、1.5Aさんでまた緊張しいしい、書くのですが。 凄いですね!なんでそんな手品の種全部わかるんですかwという印象ですね。 その、最近、スマフォとデスクトップ上を断捨離しまして そうしてメモ機能と、チャットとしか主に使っていないので あれ?散文詩といいますか、テキストってどうやって書くんだっけ? といった手ぶらでGO!してしまったので、Wordでも紙でもなくて 書き直しのままならない、チャット的な記述方法が、構造的に弱さを生んでいますね。 五年・・・キリのいい20年後くらいになったら、またリライトしてみたいと思います。 感謝です。
1おわっ。A・O・Iさん、ありがとうございます。恐縮です。 1.5Aさんの所で少し書きましたが、個人的にスマフォとかデスクトップとか 周辺機器の変化によって、何かテキストを変えるだろうか?って意識はありましたね。 はまなる貰えてありがたし、なのですが、ちょっと自分の中で 先の評価との落差、まあ、品にはいいとこと、悪いとことあるので 一概には言えないですけれど、はなまるにはっぱつけて貰えるにはどうすればいいか 貴重な意見、ありがとうございます!
0ハツさん。 こんばんは。掲示板上でははじめてになると思います。名前伏せてすいません。 なんか昭和の純文学作家とか、途中、私も意味分からなくなる事とかあるんですね。 でもそれがいいっていう事、めちゃくちゃわかります! ただ、書き手の中では筋が通っていて、読み手にある種混乱を与える、って 一体何が起きているといいますか、わたしたちは起こしているのでしょうか。 きっと難しく考えれば、編集する過程で、書き手が駄目してるんでしょう。 もっと、うまくなりたいです。 旅っていう事はこの作品のテーマでもあったので嬉しいです。 ただ、ちょっと過去に固執しすぎていたかなと。ありがとうございます。
0誰が書かれたのだろう?と想像することに意味はないと思いますが、それが全く分からなかった場合、新鮮な驚きがあることを知りました。ご返信を受けての追記でした。
1こんばんは。 返信遅れてすいません。 暴露すると、私は「田中恭平 new」です。 1.5Aさんの作品にはとても感銘を受けておりまして 今も緊張しいしい、返信しております。 しかし、もう、投稿して日も経ちますし、伏せた筆者名を公開してもいいだろうと。 話しは変わって、1.5Aさんが大賞を獲得されて、そのビーレビュー大賞には 個別にフォーラムで特集を組みたいと。 熱心に投稿して下さる方でもありますし、運営として微力ながら応援の意味も込めて。 最近は多忙でなかなかコメント付けできていませんが できる範囲でやっていこうという事で また、このコメントを読まれた他のユーザー様に関しましても 「詩を巧くなりたい」、、、又「自己表現、発露したい」でもいいですね。 皆様の力になれるように精進したいと思います。 いつもありがとうございます。再度のコメントありがとうございました。
1一度目の返信を頂いたとき、田中さんだ!と分かりました。残念ではないのですが、作品からでは分らなかったです。 >話しは変わって、1.5Aさんが大賞を獲得されて、そのビーレビュー大賞には 個別にフォーラムで特集を組みたいと。 熱心に投稿して下さる方でもありますし、運営として微力ながら応援の意味も込めて。 最近は多忙でなかなかコメント付けできていませんが できる範囲でやっていこうという事で ありがとうございます。僕が田中さんをはじめ運営の方々に伝えられることがあるとすれば、無理せずに続けていって下さいということですね。僕は選考に参加する形で投稿をさせて頂いておりますが、選ばれるということにもう関心は薄くて、読むということに重きを置いている感じです。だからぞんざいに扱って頂いて構いませんし、運営者としてどこに時間を割くかと考えた際、僕の作品についてではなく、こういった投稿サイトにも隆盛があると思いますので、その起伏を均しつつ、新たな書き手の方を呼び込む、そういったことに時間を使って頂きたいと願っています。田中さんの仰る通りで、できる範囲で、できることを発信していかれれば良いと思います。
1しもしんめい駅をめぐって、蘇ると記憶と言うのか、悲喜こもごも。輪廻と言う概念。私が私であると言う自同律の不思議。宇宙的郷愁に我々は戦慄してしまうのかもしれません。
0