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氷の少女
夢のように健気な女(ひと)だ―というのは僕が勝手に彼女に抱いている幻想なのだけど、たしかに彼女は儚げな瞳をしている。そして背丈が150ほどと、だいぶと小さく、またとても華奢だ。それでいながら、腰はかなりくびれているのがなんだか可笑しい。「少女」と「女」が交錯している。 ところで、僕が2年近く前に切られた元友人の女性は母性的な女(ひと)だった。洋画の女性のようにふっくらとした安産型の身体をしていた。そして彼女こそ、長らく僕にとっての女神だった。そんな彼女の「残照」から逃れるためにも、その対極に位置しているかのような前者の彼女へと、僕は進んで釣り込まれてゆく。 職場の靴箱のところで、入ってくる彼女が、外の作業場へと出ていく僕に、すれ違いざまに他人行儀の挨拶をしてきた時、僕はその可憐な頬をパチンと一張りしてやりたくなった。「傷つきながらも可憐さを失わない健気な少女」という夢幻が、その張り詰めた瞳の奥でメラメラと燃えているようだった。"おはようございま〜す"と彼女は言ったのだけどその、"ま〜す"の"〜"に込められていた小生意気さを、防弾ガラスにでも閉じ込めて1日中、360度眺め回したい―そんな欲望の込み上げてくるのを抑えることができなかった。 実に滑稽だなと自嘲しつつも僕は、力関係において自分の方が彼女より上だという事実にこの胸が高揚するのを抑えることができない。彼女が首を縦に振りさえすれば、彼女に対してそれこそ王のごとく振る舞えるのではないかという予期はしかし、自分というものの本質に迫る重要な経路でもあるという気がしてくる。 儚げな彼女は、そんな僕の前で仄かに哀しんでいるように見える。僕はそんな彼女を憐れんでいる。同時にまた、彼女を憐れんでいるそんな自分を仄かに誇っている感じがするのだけどその、「誇りが(あくまで)仄かであること」その事実をまた誇っている気がするのだ。自分は弱き者を憐れむことができるのだが、自分は憐れむということの孕む優越感にもまた敏感なのだという、ある種の道徳的優越感は僕において、しかしなぜ、ほかでもなく恋愛感情において、その中心を縁取るようにして現れてくるのだろうか? そうやって胡座をかいている自分を、逆に彼女の方から憐れんでほしいのかなと、ふと思う。 "あなたって貧しい人なのね"―彼女の瞳が軽蔑に染まる。「氷の少女」というフレーズが、僕の胸に閃いていた。
氷の少女 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1435.0
お気に入り数: 0
投票数 : 2
ポイント数 : 580
作成日時 2023-08-12
コメント日時 2023-08-19
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 100 | 100 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 100 | 100 |
エンタメ | 100 | 100 |
技巧 | 80 | 80 |
音韻 | 100 | 100 |
構成 | 100 | 100 |
総合ポイント | 580 | 580 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 100 | 100 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 100 | 100 |
エンタメ | 100 | 100 |
技巧 | 80 | 80 |
音韻 | 100 | 100 |
構成 | 100 | 100 |
総合 | 580 | 580 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
前作の方がまだ読めました。「まだ」です。今作は最後まで読んでも何が書いてあったかも思い出せませんでした。ご自身の作品、俯瞰して読む力が不足、、、いや、ここに参加された初めての方、だいたい同じです笑。ご自身の作品が他人の作品よりも優れていると、たくさんの方々に読んでもらえると、勘違いされてる方が多くてですね。すみません、辛辣な読者で。しかしながら、好意的に読まれる方もたくさんいらっしゃると思うので、どうぞ、ご期待ください。 すみません、今、このコメントを消してコメントしないでおこうとしたんですが、それこそ不誠実な気がしますので、コメントを送信ボタンを押します。べつに読んで不快になったわけではなくてですね、次回の投稿作品期待してますという意味です。何もない作品にはコメントすらしないです。
0僕自身は、手厳しいコメントはむしろ歓迎なので、三浦さんからコメントいただけるのは嬉しいです!(本当ですよ?笑) それこそ、自分を知るいい機会だと思っているし、単純に面白いとうのもあります。 今回の作品は、自分のなかで会心の作!でしたが、そんな自分の感慨とは真逆のコメントがドーンと来る―この意外性が、不謹慎かもしれませんが、なんだか面白い(笑) もちろん、僕という人間に誠実に向き合ってくれた三浦さんには、感謝してもしきれません。 次作がどんなものになるかは分からないし、三浦さんに評価していただけるかなど、もちろん分かりません。それでも全力で書きたいと、それだけを思うのです。誠意ってそういうことだと思うので。
1私は良いと思います。
あ、ポイント表記の仕方間違えました。すみません。
誰もが抱える問題、恋愛ですが、心理描写があって、スタンダールとかってこんな感じなのかな、と思いました。夢の女性が等身大的に描かれているのかな、と。展開がなく終わるのも、これはこれで一つの作品だなあと思いました。
0男女の内心に力関係の空想が含まれる、それはSM感情的で普遍性があるのでしょうか。そんなことをふとおもいました。それはなぜおこるのだろう。その根拠や意味、価値はどうだろう。など。
0「─というのは」、「なのだけど」「だいぶと」「しつつも」「するのだけど」 こういう文体が自分の中に「無い」ものだと感じつつ、非常に興味深く読ませて頂きました。 その、文体ですね、フェティッシュに、趣味性に訴えつつ、技巧、それがギミック? でもいいのだけれど、これを読んだのならば、それは女性、じっさい、僕の妻は 「綺麗」「巧すぎる」って興奮して読んでいたのですね。 あっ、この感覚が大切なのだな、と、妻に学んだのですけれど。 その、僕がさいしょに書こうとしたのは、二連目の、過去の女性を語るブリッジ いるのかな?と思ったのですよ。 その、印字してWORD一枚に収まるテキスト、小説というのはいいね、と思うのですけれど その、男性性のじぶんとして読んだ場合に 主体、ですね、「僕」の「貧しさ」の描写をもっと斬り込んで差し込むか 反対、その「彼女」の描写を書き込むか ってできると思ったのですよ。 非常に編集者目線?といいますか、まあアマチュア目線ですけれど。 この作品に於ては、そういう編集工学が働いているか?っていうところで 語りたかった。 ただ非常に興味深く作品と作者に興味を抱いている自分がおります。
0そうですね。散文詩であるならば、やはり散文詩でなければならない。 これが小説であるのか、詩であるのか、作者の明確意識というのは、問いたい。
0ありがとうございます!ここに投稿を始めて以来、初めてポイントを入れていただいたことになります。 しかし、前衛が0という部分に着目しないわけにはいきません(笑)他が100が四つ、80が一つとすごい得点を入れていただいているだけに、尚更です。 もしかすると、何も新しいものはない、という評価なのかなと、そう思わせていただきました。僕自身、紋切り型を組み合わせることで作品を作ったという自覚があります。「斬新な表現」や「意外な着眼点」といった部分については、それこそ中学生にも負けてしまうほどの実力だと思っているので、そこら辺についても伸ばしていけるよう、精進したいですね。
1いつかは詩的な短編小説を書きたいという夢があるのですが(いつになることやら笑)、僕はそれこそ筋を展開させるための技量を持っておらず、それゆえ内面で完結させるしかない、というのが正直なところなんです。 しかしその一方で、内面や、それこそ夢の世界に、明瞭な筋書きなどいらないだろうという開き直りもあります。そんな僕にとり、「これはこれで1つの作品」との評はうれしいものでした。
0この作品は、ずーっとSでいきながら、その実Mだった!?と最後でひっくり返すところが肝だと、自分では思っています。SのようなMという。 ただ自分でも、正直病的だとは思っていて、実際彼女が付き合ってくれても上手く行かないという予感があるんです(笑)ベタな発想かもしれませんが、やはり対等に近い関係でないと、少なくとも長続きはしないでしょうね。 ただ、そんなある種の女性より上でいたいという感情も、自分というものを形作るたしかな特質の1つではあると思うので、それを表現できた(と思っています)ことについては良かったですし、満足していますね。
1そこら辺の文体は、いわば胸から自然に出てくるものという感じでしょうか。それこそ、ほとんど無意識に書いているというのが正直なところです。日常でもちょくちょく使うのですが、回りくどいなどと言われることがあり、また相手が焦れったそうにしているのが分かるので、かかる癖(というのが適当なのでしょう)には抑制をかけている日々です(笑) 「貧しいのね」というセリフは、優越感込みでしか女性を愛せない(かのような)「僕」への非難として「彼女」に語らせたものですが、それはしかし、最後の方にポツリと置かれることで、いわば意味深なメッセージとして機能してしまったようなところがあるように思います。実質はとくに大したものでないにも関わらず、です。その意味では、悪い意味で誘惑的であるとして退けられるべき表現だったのかもしれませんが、そこは僕の、普段から漠然と、感性における豊かさ(貧しさ)とは何かを考えている僕の、それこそ無意識的なものが出たのかなぁと、そう思う次第です。 それにしても奥さんに、「綺麗」「巧すぎる」とまで言っていただいたのですね。小躍りして悦んでいるとお伝えください(笑)
0常々、「詩的な小説」を引き写したかのような詩が書きたいと思っていましたが、「小説の劣化としての散文詩」というフレーズを見て、ハッとさせられました。僕はそれこそ、"そのまま"引き写そうとしていたのかもしれない。少なくとも、"小説にないもの"を加えようとしていたかというと、していなかったというほかない。 感覚としては、"縮めること"において技量―絵画的なものも映像的なものも含めて―というものは発揮されるのであり、そしてそうして文になった作品は(当然)一定の評価を受けるに値するだろう―そんな認識の上に、僕はそれこそ胡座をかいていたのかもしれない…… 考えさせられることの多いご指摘、感謝致します。しかしながら、制限がかかってしまい投稿できずにいる次作の(やはり)散文詩は、さらに飛躍が少なく、逆に丁寧さをガチガチに追求した固い作品になってしまっている僕です(笑)
0あっ、なにか、その妻が興奮して読んでいたことを気にかけつつも(笑) 雪月さんに対してはレイモンド・カーヴァーの編集者じゃないけれども 非常に痛烈な、編集者ポジションで語りつつ、推したいと思いますけれども。 要は、男性性として僕が読んだときに、その、確かに最後、ポンと「貧しい」という 語を置くと、光るというのはありつつ この話者、主体ですね、「僕」、あまりにその在り方として、確かにそんなこと言われたら 厭ですけれども、それだけでは、「僕」のダメージが足らないような気がするのです。 いや、私小説として僕は人格を否定せよ、みたいな話しているかと言ったら違って その、作品中僕の貧しさを具体的に語らない、心理描写はあるけれども・・・。 ディフェンスできている意味でも「僕」がかっこよすぎるのです。
0テクニックに関してより、どちらかというと叙述の方向性というか、そういったものに違和感を感じました 僕にとってこの作品は不快感を呼び起こす以外のなにものでもなかった訳ですが、それは既存の社会構造の歪んだ権威構造を考察なく受け入れまたそのことによって人称的な存在を人形的に操作することで二次加害しているように読めてしまったからです。この作品が当該対象のカリカチュアライズであったとしても、安易な「少女」性に依存している部分に批評性を感じることはできず、やはり価値や共感を得ることはできませんでした。 なに言ってるか分かんないですよね、申し訳ない 技術的な部分においていうと、主体と客体の距離感が分かりにくいというのが難点であると思います。それは「僕」と「彼女」の描写にのみ注力しているからで、この作品のドラマは格差から起き得るものなので、同一のもの(オブジェクト)を見た時の描写の違いなどを挿入すれば、より伝わりやすくなるのではないかと思ったりもします 先行する文体を一旦押しとどめ、関係性をより明確にするために、丁寧な描写を入れてみるのも、また面白いかもしれません
0長めの返信をさせていただいたのですが、今朝見ると削除されていました。もうお読みになられたなら申し訳ないのですが、あらためて、感謝の意を伝えさせていただきます。不快な思いをされながらも真摯にアドバイスまでしていただき、本当に感謝しております。
0公式アナウンスがされていないみたいですが、どうやら一昨日から昨日にかけてサイトのサーバートラブルが起きたみたいで、いくつかのコメントが消えてしまったようです。人為的なコメント削除とかは行われていないみたいです。
0ご指摘、ご丁寧にありがとうございます! 当方、ネットのシステム的なものには無知蒙昧も同然で、サーバートラブルがあったことも知っていた(現に何回もアクセスして入れなかった)にもかかわらず、ーなんということでしょうーサーバートラブルによってコメントが消えたかもしれないという、その可能性を、露とも疑っておりませんでした(汗) 学習させていただいたこと、感謝いたします。そして、運営の方々の悪評に繋がりかねない発言をしてしまったこと、大変申し訳なく思います。
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