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冬のお花
洗濯物を取り込んだ。 コップの水を一口飲んだ。 いつか貰ったコートを着た。 靴紐をよく結び直した。 エレベーターの定期点検が行われていた。 昔友達の家にあったのと同じような車が通った。 太陽の位置の変化を道路標識で確かめた。 固い靴底に釘付けにされたみたいな左足が、ペダルの触覚を妨害して、重い歯車を回す感覚がむしろ体全体で感じられる。油が切れて、知らない小傷がいくつも付いた自転車は、時折きしむ走りの中で、肋骨を撫でるような路面の感触をそのまま伝える。 風の音がよく聞こえた。それと同じくらい、人の声もよく響く。寒気をいっそう感じるけれど、体はぐんと暖まる。 慣れたはずの道を、こうしてまた、走っている。 私には、それが不思議だった。 砂埃か何かが目に入り、停止する。 ふと気がつくと、アスファルトの色が変わっていた。 それで少し、辺りを見てみようと思った。 鍵もかけずに、ただ降りる。 コートの前を開けた。 手袋を外した。 その場にひざまずき、靴紐を再び直す。 その時に、 昔なら名前を言えたはずの花が、 そこにまだ咲いているのを、 見付けた。
冬のお花 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1752.7
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 24
作成日時 2019-12-22
コメント日時 2019-12-28
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 13 | 13 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 4 | 4 |
エンタメ | 3 | 3 |
技巧 | 3 | 3 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 24 | 24 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 2.2 | 2.5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0.7 | 0.5 |
エンタメ | 0.5 | 0.5 |
技巧 | 0.5 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0.2 | 0 |
総合 | 4 | 3 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
読み終えた最初の感想として、すごくいいなあ、と感じました。 屈まないと見つからないような小さな花をふと見つけた嬉しさ、でしょうか、そういったようななにか「気づき」をこの詩は詠んでいて、最後のその気づきに向けて普段でもしているような何気ない行動を一つ一つを丁寧に詠み、最後の気づきを際立たせているように感じます。 また、 >慣れたはずの道を〜 からの二文で、何か主人公の境遇に変化があり、それで主人公は何気ない一つ一つの行動がいつもと違うように感じているのかな、とも思いました。 小さな気づきを大切にして生きていきたいものですね。
0いすきさん、こんにちは。 確かに日常は些事でできていて、その些事が強固に世界の骨組を支えています。 言葉は世界から出てきているのか、それとも世界は言葉でできているのか。 もはや陳腐な設問だけど、言葉が不断に世界を解釈していて、羅生門の下人みたいに「どうにもならないことをどうにかしようとして」あがいているのだろうと僕は思っています。 存在の本質はバラバラで不機嫌に黙りこくっているのかもしれない、とこの作品を読んでそんなふうに考えました。 この作品では、出来事の描写はちゃんと主体に回収されているのに変ですね。
0磁界の中心さん 丁寧に読んで頂けたようで、書いた甲斐がありました。ぬるいことを言ってしまってこの場にふさわしくないかもしれませんが、褒められると嬉しいですね。構成についてのご指摘はほぼ正解で、「楽屋裏」の話をすると、最初の一行と最後の一行がまず最初に決まりました。物語調にしたくて、私には力不足ですが、詩のテーマと相性が比較的よくて、割とごまかせたかもしれません。 右肩ヒサシさん こんにちは、丁寧に読んで頂けたようで、嬉しいです。 言語哲学的な話については、センター試験現代文のお勉強で簡単に見かけただけですが、興味深いです。「言葉で世界を切り取って認識している」などの標語を耳にした事はありますが、メタファーの存在はむしろ非言語的思考の存在を示唆しているように思うときがあり、これがどう否定されているのか、来年はそういうことを勉強しようと思っています。「存在の本質はバラバラで不機嫌に黙りこくっているのかもしれない」この一文は大変素敵で、知りたいという思いが一層強まります。 この詩は過去との距離や自分自身の不一致をすこし意識しました。名前を忘れた花はその代表ですが、いつの間に誰かに汲まれているコップの水や、いつの間に誰かが結んだ靴紐などの小物は、そういうことを言いたかったから登場させました。
0いすきさん、こんにちは、冬のお花 題名から可愛くて好きです。 >洗濯物を〜 などと同じような語調で「見付けた」と語るのも、めちゃかわいいと思います。 ただ、第三連だけ突然散文調になり、比喩を多用するのは何故なのでしょうか。文体の違いに少し違和感を感じてしまいました。
0夢うつつさん ありがとうございます。書いたあとになって、僕もだいたい同じことを思っていたのですが、他人からの見え方が確かめられて良かったです。 実はこの詩を書く上でテキトーにやったところが2箇所あり、ひとつは一番最後の一行を独立したことで、もう一つがご指摘の第三連です。最後はオチなので何か間みたいなものがほしくて色々いじっていたとき、改行しちゃうのが一番いいかなと思ってやりました。第三連には物語としてもっと動いて欲しい気持ちがあり、第二連まで書いて、この調子かな~と思ったとき、文末「た」で統一するのもいいけど、なんかすごいダルいな、というのが第一感でした。花を見つけるストーリーは決めていたので、丁度良くキャラに動いてもらうことで、お話的にも動きが感じられるようになれば良いなと思い、こんな風にしました。しかし比喩をどれくらい使うかなどについては、なんにも考えずにやりました。 それから詩の形式的なところでいくと、散文詩のつもりで書いていたのですが、そうすると最初らへんがずいぶん寂しいなと思ったので、適当にパートを分けました。ということで適当にやったところが結局3箇所になってしまいましたが、よろしくお願いいたします。
0一挙動ごとの記述、見て聴いて感じたことの描写……この作中主体は身の回りの情報を、取り込み過ぎなほど丁寧に取り込んでいるように感じました。一方で昔なら名前を言えたはずの花(=現在は名を思い出せない?)、その名前の欠落に叙情を見出すようでした。
0この詩の主の目線が、読者の目線にすり替わってゆくような感覚を味わえた点、そして、最終的に目線を一番低い位置にあるものに落とした点はおもしろいと思います。三連目はアクセントとしての位置づけなのかもしれませんが、もう少し工夫の余地があると思います。そして、なによりもタイトルでネタばらししてしまっているのが残念です。「花」にオチがある、と思いながら読み進めてしまうと、最後の「見付けた」の詩情が薄まってしまうと感じました。
0ひいらぎさん コメントありがとうございます。名前を思い出せない、その通りです。記憶にないほどの過去の自分と今の自分との同一性みたいな、ありきたりですが、僕はそういうのが結構好きで、この詩もすこしだけそんな感じにしました。 舞浜さん ご指摘ありがとうございます。以前の夢うつつさんのコメントでも少し触れたのですが、実際三連目はテキトーにやってしまった感があり、なんとなくこんなもんでいいか、でやってしまいました。色んな詩を読んで勉強したいと思います。それからご指摘いただいてようやく思い出したのですが、タイトルも投稿に際して適当にさっとやってしまったのでした。ネタバレ、その通りかもしれません。ネタバレ、前振り、伏線などの書き味の違いを計算できるようになりたいです。コメントいただくまですっかり忘れていました。ありがとうございました。
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