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感触
落としましたよって 一言いえばよかったのにさ 慌てていたら 隣の人が「ライター貸しましょうか」 って声を掛けてくれたのさ 「ありがとうございます」と言いながら 急いで火を付けて、煙草を中途半端に吸った後、 その場から逃げだしたんだ それは自分が恥ずかしかったからだ どんな自分が恥ずかしかったんだろうか 考えて、言葉にする前に逃げてしまったから 未だによくわからないんだ この前駅のホームで急に人が倒れたんだ 声を掛けようとしたんだ 「大丈夫ですか」と声を掛ける前に誰かが掛けてしまったんだ だから、もういいかと、逃げるようにその場を離れたんだ 仕事もあったし、今日は早く家に帰って明日返さないといけない本を読まないといけなかったんだ 帰りの電車の中でTwitterを見ていたら、 今朝、自分のいた駅のホームの映像が 飛び込んできたんだ 急いで、タイムラインを飛ばしてして みなかったことにしてしまった 昨日も今日も 薄暗いタコ部屋のような喫煙所で 吸っている人たちの目は スマートフォンの光に煌々と照らされて 何かを見つめていることだけ分かった 携帯灰皿がポケットから落ちた 落とした人は気が付かないまま 一緒に喫煙所に入った人と談笑していた 俺を含めた3人の大人が見ていたんだ 少しだけ間をおいて、その内一人が灰皿を拾い 「落としましたよ」と声を掛けたんだ さっきまで談笑していた笑い声が、何故か急に途切れて 沈黙が流れたんだ 灰皿の持ち主は申し訳なさそうに 恥ずかしそうに受け取った 短く「ありがとうございます」と感謝の言葉を述べたあと、 何事もなかったかのように談笑を再開したんだ 手渡す光景を見ていた俺ともう一人の目線は スマートフォンから一瞬だけ逸れて また元に戻った みなかったことにしたんだ でも、居心地が悪くなったんだ Twitterに流れる物騒な事件を見て こんなひどいことが世の中から消えればいいのにと 思っている 目の前の出来事すら手を差し伸べなかったのは 一体誰だ と語り掛けている俺は 一体何がしたいんだろうな 「落としましたよ」って 一言いえばよかったのにさ それが出来なかったこの手の感触だけが 今でも煙草の匂いみたいに 離れてくれないんだよ
感触 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1324.0
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 5
作成日時 2022-07-14
コメント日時 2022-07-18
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 5 | 5 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 5 | 5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
少し説明をし過ぎてしまったのかなという印象を持ちました。 分かる方には最後の一段が無くとも表現されたいと思った情感は伝わるかなあと。 あるいは最後の一段だけでも感じとることのできる方は感じると思います。
1コメントありがとうございます。 百均というHNが作品内部に登場する道具に影響することってあるんだなぁと思いました。HNの理由ってあんまりちゃんと答えられた事がない程度に、感覚的に付けた部分が大きいというのもあって、あんまりきちとんと答えた事ないんですが、しかし、言われると大量に清算され、消費されるものに対する価値の比重って低いもので、価値が低い物に対する向き合い方っていうのは、考えるべきだなと思いました。その点感謝申し上げます。 ありがとうございました。
0コメントありがとうございます。 どこまで言及するのかというのは悩んだ所でした。 最後の部分は蛇足かもしれないですね。どこまで何を信じて込めるべきかという点で、推敲をもう少しすべきだったのかもしれません。 コメントありがとうございます。
1社会の中で健康でジェントルなコミュニケーションがないことはお互いの首を絞めあう未来を創るでしょうね。昭和の地域社会の存在などが憧れとして残ります。そういうものを再構築しなきゃいけないんじゃないか、そう感じます。タバコ吸いはもう肩身が狭くて大変でしょう。私はやめましたが、他者を許容する心が試されていた気もします。
1こんばんは。 どうも、下敷きとして中島みゆきの「ファイト」があると思うんですね。 思ってしまって、思うとどうしようもなくてコメントしたんですけど いや、無意識的な引用か、オリジナルだったら凄いと思うんですけれど。 こういう書き方もありか、と。細部まで光っていますね。
1コメントありがとうございます。 同じ境遇であるという事を感じられる場所っていうのが、喫煙所という見える場所にしかないような感じがありますよね。 地域社会はその社会を保つための義務と責任なのかもしれないですね。それが相互作用的に上手く機能すれば、その恩恵も得られると思いますが、実際の所、押し付けられる部分であったり、理不尽さの方が目立つ所もあるのかなと思いながら、再構築したいみたいな希求は若干同意する所もあります。要は、肩身が狭い物同士で、手を差し伸べ合う事なのかもしれないですね。その難しさは、結局、肩身が狭い者同士ですら、差し伸べる事が難しいっていう現実があったりするみたいな所かもしれないですが。 ありがとうございました。
1コメントありがとうございます。 ファイトを初めて聞きました。確かに、被る部分があるなぁと思いました。中島みゆきは貰った手紙に対して出来る事をしたのかなと思ったりしました。アーティストが出来る事って、多分応援なのかなと。とはいえ、応援によって、手紙を出してくれた人がどこまで取り戻せるんだろうと思うと、その人が結局頑張るしかない部分もあって、難しいなと正直思う所もありましたが、しかし、彼女なりの回答として出来る事をやられたのかなと思いました。本作の場合は、多分そこまで振り切れなかったって感じですね。
1様々な《声》を感じることのできる面白い詩だと思いました。
0コメントありがとうございます。 様々な声を感じていただけた事、嬉しいです。 ありがとうございました。
0喫煙所にいる人達は不思議と温厚に見えるから好きだ。彼らのような人間は、ふつう温泉や観光地を訪れたときにだけ会える。 落とし物を拾う行為ってある意味とても子供っぽくて、大人はあまりしないですよね。そんな大人のひとがさまざまな出来事に心を痛めているということにリアリティを感じました。どう考えても私の周りではみんな、大人の人ほど悲しみに敏感だ。つい最近まで、これは逆だろうと思っていたことでした。
1コメントありがとうございます。 なんだか、読んで貰えた感じがして嬉しかったです。 本当にありがとう。
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