生まれ変わり、死に変わりなんて起こり得なくて、
人は死んだら密室の片隅で立ち尽くすしかない。
遠い星なんて本当は存在しなくて、
部屋を照らすための小さな電球でしかない。
だとしたら、僕らはこの瞬間だけでも、
命を噛みしめるだけだ。枯れるまで。
後ろを振り返ると、そこには百の模様に染まる僕がいて、
踏みとどまれなかったことを悔やんでいた。
でも恐らく、鏡を割ったのは、
自分を毛嫌いする僕ではなく、
僕の背中を刺した君の方だ。
互いに醜い獣を見ずにすむのなら、
鏡なんていっそのことない方がいい。
遥か遠方では、今も黒い弾丸が飛び交っているのに、
こんな小さいことで僕らはまだ、
迷い、戸惑っている。
日照りのもと、水をやらなくなったガーベラのように、
僕らはいずれ新しい時代に貪られる球根。
けれど決して滅びない何かがあるとするならば、
それは、
強き者であろうとした、
確かなあの日。あの頃の自分自身。
電話が鳴る。認知症が始まった伯母の旦那からだ。もう両親もその親族も齢80を超えて、いつ亡くなってもおかしくはない。消えていくもの、失われていくものに囲まれながら、僕らはそれでも、
命を食む。
軌道から外れた彗星が、
今日も誰かに恋をしている。
作品データ
コメント数 : 2
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作成日時 2022-05-25
コメント日時 2022-05-28
#現代詩
#縦書き
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2024/11/21 23時17分35秒現在
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香港映画【恋する惑星】を彷彿とさせますね。 あの極彩色の世界観から比べると、御詩はモノクロフィルムの日本映画のようなワビサビ、ドラスティックで刹那的な印象を受けます。 お互いの個我を押し殺しながら、先へ進む意志。それでも周りへのいたわりを忘れずに進もうとするヒューマニズムが受け取れました。 惜しいかな、表題でもある天文的要素を全体に散りばめればそこはかとなさが出たのではないかと個人的に思う次第です。
0州末州さん、コメントありがとうございます。ワビサビ、ドラスティックで刹那的な印象。それはとても意外で、書き手の意思とは別に複合的な要素が、この詩にあったんだなと嬉しく思います。確かに「僕の背中を刺した君の方だ」などのフレーズには乾きがあり、訴求力がありましたね。格別に。ちなみにこの詩における「君」は、一瞬イメージした実在の女性がいましたが、もっと敷衍して、あまねく存在し得る女性の一人として書いています。だから特定の誰かを直接指すものではありません。それが引いてはこの詩の結語で表されているように、このようなシチュエーション、悲しみまたある種の絶望は、ボーイミーツガール的によくあることなんだよ、とのメッセージに繋がってると思います。 天文的要素を散りばめたらとのご指摘ですが、この詩は天文的要素は最小限に留めようと最初から決めていたのです。効果的にラストを引き立てるためにも。
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