我が家には犬がいる
シェルティとビーグルのミックス
つまりは牧羊犬と狩猟犬の雑種だ
性格はビーグルで毛皮だけシェルティという
なかなか面倒な仕様の犬だ
こいつを迎えたのは故郷を離れるときに
中学生になる息子の懇願だった
知らない土地で友達がいないのは
その時期の子供には耐え難かったのだろう
世話は彼がするということにした
実にありふれた「子の懇願」という理由で
間抜け顔の子犬を迎えた
本当は保護犬を迎える予定が
マンションのオーナーからダメ出しがでた
素性が知れないというのだ
人間だって素性なんかよくわかりませんよ
お互いどっかの馬の骨ですよねと
言いたいところだったが
もちろんググッと飲み込んだ
借上げ社宅ですからね、はい
そんなわけでペットショップに行った
実はペットショップが大好きで大嫌いだ
ガラス箱で懸命にお愛想する動物が
哀しくて哀しくて仕方ない
そこに憮然とした一匹の犬がいた
3ヵ月にしてはでかい毛むくじゃらの犬
どうも人気がないようで
人生…犬生を諦めたような
醒めた目をしている犬だった
「殺処分」という単語が脳裏を走った
聞いてみると一件も問い合わせがないという
かわいい顔立ちにしては損なヤツだ
わたしはその犬を抱かせてもらった
すると初めて下界に降りたように
わたしによじのぼりキョロキョロした
多分わたしが買わないとこの犬は
哀しい末路を迎えるように思えて
その場で内金を払った
育てるのは息子だが勝手に決めた
どうにも見放せなかったんだよ
そして家族になった犬である
無芸大食愛想なし大飯食らいで
やたらとデカいウンコをして
水をがぶ飲みする
散歩はちょっとすれば満足する
どうも横着でちゃっかりしていて
お世辞にもかわいいと言われる犬ではないが
我が家族にはこの気まぐれな毛むくじゃらは
なかなか面白いヤツで
手を焼きながらかわいがっている
牧羊犬の忠誠心も
狩猟犬の情熱も
全くどこかにやってしまった駄犬は
お座敷犬としていつもいびきをかいている
腹出してゴロゴロするのみだ
飼い主である息子に対する信頼だけは厚い
なんなら犬にとって息子は宗教だ
彼が帰宅するだけでたまにおしっこを漏らす
彼は犬より友達が大事だが
犬の友達は息子だけである
割を食うのは息子と歳の離れた娘である
娘は犬が大好きだが犬は娘をチビとみなす
兄が放り出した犬の世話を
献身的にしたところで
犬には相手にもされないのだ
わたしがこの退屈な詩を書いている今
犬は私の傍で寝袋に寝ている
キャンプ用のを気に入ってしまったらしい
2980円だから諦めて犬に貸している
もちろん枕で高いびきだ
犬と暮らして5年が経つ
ドラマティックなことはなにもない
ただ日々は続いていき少しずつ
家族のかたちが変容している
犬はわたしたち夫婦と年を取るのみだ
退屈な日常、話す人もない日常の
傍に我が駄犬は寄り添っている
トイレを外した、おかずを盗んだ
そんな他愛もない話題だけがある
平凡な暮らしを共にしている
犬よ、おまえは退屈じゃないのかい
作品データ
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作成日時 2022-02-07
コメント日時 2022-03-14
#現代詩
#縦書き
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2024/11/21 23時34分45秒現在
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少し長いかなと思いましたが、出会いから犬を迎えた家族の様子や葛藤などを巡り、宗教や退屈な詩などの語句が現れて読ませるように工夫された作品のように思いました。
1可愛いわんちゃん。感動しました。平凡な生活こそが、幸せなんだと思います。良い詩を拝読させて頂きありがとうございました。
1お読みいただきありがとうございます。 そう、長く退屈で中身はあまりないのです。しかしその日々を犬は毎日居眠りしながらやり過ごしている。 君はつまらなくないかい?と毎日訪ねますが答えはありません。 犬は健気に息子を待つ日々です。
1励みになるお言葉ありがとうございます。毎日人間は色々ありますが、犬には関係なさそうです。 ビビりの犬氏、昨日は月に一度のトリミング(トリミングスクールのモデル犬でお安く)の日で、送迎の車が来た瞬間、布団に大の字になってイヤイヤしていました。今もわたしにべったりです…
1「退屈な詩」ですか。前々そうは見えないのですが、やはり殺処分は悲しい。犬を買ったものにしか分からぬ悲しみが完膚なきまで描写された詩だと思いました。
1あえて時系列にダラダラと書いた詩なのです。その日常を犬と共有しています。 確かに純血種は特性が分かりやすく飼いやすい部分もあります。しかし人間の身勝手で失われる命があるなら…とも思います。 実は雑種は成犬時のサイズがわからないからという事情だそうですね。 確かに中型犬を飼える賃貸がないことも悩みの一つです。
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