りんごがぼけていた
甘い砂がざりざりと
口の中に広がる
音もなく飲み下すと
灯りのない台所に立ったまま
包丁をとる
指が錆びた皮に沈む
焦がしたバターと砂糖が
びちびちと跳ねて
頬を火傷した
水ぶくれが割れて
心臓がやけに騒ぐ
水に焼けた肌が
ぴしぴしと裂けて
冷えた木の床に
骨がきしむ
燃え盛る肺と
沸騰する血液
洗いざらしの髪先が
凍っている
つっかけのまま
踏まれた雪に立つ
温度さえ
留まれない空には
果てがない
世界はやがて触れ合う
侵され合う円環は
互いを覗き込む
ただひとりは
ひとつでしかいられないことを
知るために
しわくちゃの柿に
粉が吹いている
吊るされた一個を
ぷつん、ともぎとって齧る
爪の間がじりじりと疼く
白い池の面の下に
黒い影
枯葉は動けない
土の下には鼓動がある
鍋が煮えている
一つ口に放り込む
呼吸が少し
できるような気がした
冬は 浅い眠りに似ている
作品データ
コメント数 : 6
P V 数 : 1272.3
お気に入り数: 0
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ポイント数 : 0
作成日時 2022-01-25
コメント日時 2022-01-27
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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技巧 | 0 | 0 |
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閲覧指数:1272.3
2024/11/21 23時34分17秒現在
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タイトルをが煮りんごとあり、煮りんごのあり様を >りんごがぼけていた という。読んで、様々な想像を誘発してくる表しだとおもう。ぼけてみえているのはみている側に因るのか、ほんとにりんごがぼけているのか。煮りんごなのだから実体のりんごがぼけているのだろう。けれど、その後の三連目では、人体の変化のあり様がある。で、人体の変化が煮りんごの隠喩だと単に表してお終いにしていない。 >世界はやがて触れ合う >侵され合う円環は >互いを覗き込む >ただひとりは >ひとつでしかいられないことを >知るために 煮りんご→人体の変化、それから一つの連で外界のリアリティがあった後、引用した連の飛躍がすごいと思う。煮りんごの主題から外れていやしないかと、少し違和感を覚える読者がいるかもしれない。私も一読のときは少し戸惑った。けれども、コンポートという料理の手法には、この連に書かれてある円環の思想があると思う。煮りんごとはたしかに侵されあう円環。 作者の過去作品は古くから読んできたけれども、この作品からフェーズが変わったように思った。私は以前、大衆性のある作品を望んだことがあったように思うが、ポピュラーには行かないで正解だったのかと、この作者と作品に思う。
1飛躍の中に確実な繋がりを作ることを心がけてみたりしています。
0情景が見えました。きれいですね。すみません。えらそうに。
1それがなによりです。
0りんごがぼけていた、という最初の言い回しと、鼻に抜ける砂糖の匂いが伝わってくるような描写が良いなあと思いました。 呼吸が「少し」できるような気がしたの辺りから、煮りんごの熱さと、冬の寒々しい空気の流れも、何だか想像できます。
1冬のきびしい、林檎のよく採れるところで育ちました。煮えたりんごの湯気が気管を温める時、一息つけるような気がします。
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