熱があるみたいだ。
熱帯夜、くじらに飲まれる夢を見た。
時計だけが中心に据えられた部屋で、
ぐるりぐるりと壁が、床が、天井が、回っている。
くじらは潮を吹いて大口を開いて、僕の部屋をつき破ると、
車やポスト、電信柱、はては東京タワーまで飲み込んで、
尾ひれをひるがえして、とろけるアスファルトに潜り込んだ。
僕はくじらの胃袋の中で、とろみのついた足を引きずりながら、
それでも前へ前へ進もうとしていた。
出口なんてなくて、もう心もついていかない。悲鳴。
遠くでは賑やかな声が聴こえる。
涙はバリバリと音を立てて壊れていく。
血は固まって流れようとさえしない。
溶けだした右腕を抱える僕を後押しするのは、
今は燃料切れの情熱。
地底をゆっくりと潜行するくじら。
何の望みもなく、僕の知らない場所に連れていく。
海原へとたどり着くと、くじらは上昇し水面をつき破った。
その影を映した月は真っ赤に染まっていて、
僕をひたすら陰うつへと、憂うつへと誘っていく。
カラカラの嗚咽もおさまり、
遠くのパーティーも終わったのに、
熱はさがらず、夢も覚めない。
作品データ
コメント数 : 6
P V 数 : 1602.8
お気に入り数: 0
投票数 : 2
ポイント数 : 5
作成日時 2022-01-02
コメント日時 2022-01-05
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 5 | 5 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 5 | 5 |
閲覧指数:1602.8
2024/11/21 22時48分51秒現在
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何となく外国っぽい感じがしました。熱帯夜、鯨、パーティーなどが洋画特有のウェットな空気感を漂わせています。異国情緒ですか、東京タワーが出てあっても、話者に異邦人の感じがします。
0大迫力の映画を見ているようでした。 ただもう少し、スクリーンから絶対こっちには飛び出してはこないだろうみたいな安心感は無い方が良かったかな?とも思いました。
0沙一さん、コメントありがとうございます。ですね、この詩は楽しかった出来事から離れられない、逃れられない苦を描いているので、楽の余韻が残っているというご指摘は、ある意味正解だし、鋭いかもしれません。ただこの詩を書いた時の心境から僕は今離れつつあるので真相は闇の中、と言ったところでしょうか。
0類さん、コメントありがとうございます。異国情緒。それを避けるためにも東京タワーを取り入れたのですが、どうだったのでしょう。東京タワーを持ってきても異国情緒が避けられなかった理由として、東京という街が既に日本人の心象風景からかなり離れた、ガチャガチャしたところにあるという点があるかもしれません。
0妻咲さん、コメントありがとうございます。スクリーンから飛び出すような恐怖感、欲しかったですか?取り入れても良かったんですが、この詩は沙一さんへの返信にも書いたように、楽しかった出来事から離れられない苦、を描いたので、内面的であり、壮大なファンタジーにまでたどり着かなかったのかもしれません。
0ねねむさん、コメントありがとうございます。完璧。ほぼ完璧な読解。100点ですね。読解に点数をつけるのもおかしな話ですが、僕が意図したところをほぼ完璧に捉えてらっしゃる。そうなんです。この詩は圧倒的絶望やそれをもたらした出来事は遠くに去ってしまったのに(カラカラの嗚咽もおさまり、遠くのパーティも終わったのに)その夢から覚めることはない、まさに悪夢的な状況を描いているんですね。この詩を書いた時は僕も打ち沈んでいて、この詩と大きくリンクするのを感じました。とても素直に自分の心情と向き合い、技巧に溺れなかったので僕にとってもとても思い出深い作品になりました。拙文なんてとんでもない。ありがとうございました。100点!!!笑
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