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あめふるよるに
屋根にあたる雨粒の音を 布団で聞いている 都市での暮らしにも 季節や天気はきちんとある 人は本能的に自然を求めると 聞いたことがある その自然とはどのぐらいを表すのか 指標はないが概念としては理解できる 都市で暮らすようになり 裸火が恋しいときがある 火など焚いてバーベキューをしたり 都市ではほとんど不可能だ 恋しいときはあれど 自然と暮らすことは全く容易ではない それを知るからこそ 都市生活からは戻れない わたしは剥き出しの自然の中で育った 山奥の一軒家が生家である 電気、ガスはあれど上水道はない 行政の手が届かないのだ 雪が降れば世間から隔絶される インフラなんかないに等しい 雨が降れば鉄砲水も出る 舗装された道路はない 両親が道路に繋がる砂利道を 雨が降るたびに流されないように カッパを着て溝を切る その間に風呂を沸かす 台風のたびに田んぼを見に行く 愚かだという人もいるが 一年の米がないことは 死活問題なのである 父の代からは兼業農家にしたのは 自然相手だけでは食えないから 現金収入を得るための 大切な手段だった 里山に暮らすご褒美は 自然のもたらす恵みである 山菜、山のきのこ、どじょう そんなことが喜ばしいささやかなものだ あの日までは そう、あの日までは 2011.3.11 あの日からは 父母が愛し 守ってきた里山や畑にも 容赦なくあいつらは 降り注いだのである わたしは当時、少し離れた町に 住んでいたが同じことだった 違うのは住宅地で暮らしていた それだけだ 厳しい自然と向き合う生活の ささやかなご褒美すらも 「採取禁止」のおふれが出た そんな馬鹿なことがあるものか 都市に暮らせばすぐに国が動く 計画停電もすぐに終わり 電車も走り 生活はすぐに取り戻された 食べ物、労働力、電気まで 差し出していた福島は フクシマと呼ばれ あっさり棄てられた あの日より前にはもう戻れない わたしたち一家も仕事の都合で 離れて暮らすことになった あの日にあいつが爆発したから 核の平和利用という言葉は 全くの嘘っぱちで 金にまみれていた原発も あっさり棄てられたのだ 靭くしなやかに今も 自然と生きているふるさとに 今年も雪が降ったようだなと インターネットで知った あめふるよるに 布団にくるまりながら ふるさとのゆきを 思っている ただひたすらに思うのみである
あめふるよるに ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1275.5
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2021-12-17
コメント日時 2021-12-20
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
詩というのは自分の感情を吐き出すものであり、その時代を切り取るものでもあります。後者の意味でいまの時代に最も詩のテーマにされているのは新型コロナや東日本大震災、それによる原発事故だと思います。どれも単なる事実の羅列や感情的になりすぎる作品が多く、本当の意味で私の心に残るものはそれほど多くありません。 この作品に関しては主題とはまったく関係ないと思われる内容からスタートして、それが途中で一気に変化する。原発事故の被害に関する描写にそれほど新鮮味はありませんが、最後の「あめふるよるに」からの流れがこの作品を詩として成立させていると思います。個人的には最終行は削るかもう少し違う表現にした方が良かった気がします。
1もとこさま 詳細な解説をいただきありがとうございます。 生かすも殺すも最終行ですね。 修業します。 現在、私たち一家は仕事で福島を離れ名古屋にいますが、なにかと歯がゆい気持ちでいます。 なんとも言えない独特な気持ちを言葉にできたとき、それが詩となるのかも知れないなと思いました。
0矢張り東北大震災の影響の甚大さを思います。死活問題。ただひたすら思う事の意味。詩が時事問題に向き合って居ると思いました。
1エイクピアさま コメントありがとうございます。 誤解を恐れずに言えば 留まる選択も外に出る選択も辛いです。 私たちは留まってから出ることになったのですが、沢山の差別やひいては子のいじめにまで発展しました。 正直、出たくはなかった。 でも食べていかなくてはいけません。 安心と安全によく似ています。 雪が降っても双方の親になにかあっても ただ思うだけなのが本当に歯がゆいです。
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