この世界をずっとピントの合わない視界で生きている。
望遠鏡の目で地上に生活していてうまく生きられるはずがないよね。
書類に印を押さなきゃいけないのに木星の縞模様を見ていたりするから失敗ばかり。
そもそも地球が小さいだろ。
小さすぎて何も見えないし、僕がいるスペースすらない。
そうだよ、こんなことを言えるのは本来死んだ人に向かってだけだけど。
今日、よく匂う菊の花に囲まれた骨壷に会ってきた。
空は晴れている。青天井が張られて地表を覆っている。
優しくていい方でした、ってこの世の人には言っていた。
死んだ人にかける言葉の方は銀河になって渦巻くだけで、意味も何もないんだよ。
死んだ人の返事は渦巻いて流れる銀河の音だった。
そうだよ、宇宙空間は無音だから死んだ人の声はどこにも伝わらない。
そこにあるっていうだけで、ただただ鼓膜が痙攣して震わせられるんだ。
生前の彼女と交わした言葉はみんな忘れてしまったし、
写真の顔にはピントを合わせられないし、
僕は僕にすら確たる関心がない。
でも、火星と木星の間をちぎれた菊の花びらが虫のように飛び交っている。
おかしなリズムに踊らされる数かぎりない虫となっている花びら。
畳に敷かれた座布団に座って焼香している僕は一方ではそんなドラマになっていた。
だからどうっていうことないけれど。
そうやって会話していた。
詩的に生きることは僕にとって、このように無意味乾燥した苦しさなんだって。
生きている人にはその外側しか言葉にできない内容を話していた。
ただ、
今日はどういうわけか何処かで生きている他人、つまりこれを読む誰かにそんなことを書いてみたくなった。
センチメンタルに見えたら申し訳ないな。
気取って聞こえたらなおのことすまないな。
でも、そうじゃないんだ。
作品データ
コメント数 : 5
P V 数 : 1505.8
お気に入り数: 1
投票数 : 2
ポイント数 : 4
作成日時 2021-12-05
コメント日時 2021-12-18
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 4 | 4 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0.5 | 0.5 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0.5 | 0.5 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 2 | 2 |
閲覧指数:1505.8
2024/11/21 23時35分01秒現在
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生きている人に対して、無意味乾燥した苦しさの外側しか言葉にできない。だから内側を描いた、という事だと受け取りました。気取っていたり、センチメンタルなわけでないということが、とても難しかったのですが、詩的ということを言っているのかな、死者との向き合い方の事を言っているのかな、などと思いました。ずっと増長してきた自分を考え、あらゆることに対して申し訳ない気持ちになりました。悪い人間と言うのは、他人を思えない人間だと。 菊の花の美しさと良い香りを思わせられました。宇宙に対して、新しい見方ができて、少し安心を感じました。
1でも、そうじゃないんだ。 が、切実で胸に迫ってきました。 少し前に亡くなった大好きだった上司のことを思い出しました。 だからどうっていうことないんだけれど、 センチメンタルになりました。 素敵な詩をありがとうございます。
1返信遅くなりました。 黒髪さん、尾崎さん、コメントありがとうございます。 先日逝去された知人の方のことを出来るだけ正直に、平明にと心掛けて書きました。読んで頂けて嬉しかったです。
0「詩人」「死」「残された者たち」の関係性が訥々と語られているように思いました。亡くなった人の言葉は至るところに残されてはいるけれど、亡くなった人はその同じ言葉を全て持ち去るように感じることがあります。 この感覚はよくは分かりませんが大切にしていきたいものです。
1紅茶猫さんコメントありがとうございます。 返信、遅いですね。ごめんなさい。 亡くなった方のこと、人の死のこと、どうしても考えてしまうのですが、遺骸や遺骨を見る度に紅茶猫さんがご指摘下さったような、存在の異質性を痛感してしまいます。人と強く繋がりながら、ある意味では切れてしまった存在ですね。でも、それが「死」の本質なんだろうな。 どうしようもない異質性にこそ、悲しくも美しい「事実」の重みがありますね。
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