別枠表示
鎖刻
灰色のサーカステントがぶら下がる 湾煙のふもとには、 くたびれた人形の群れ 大きな煙突から 水蒸気が噴き出している 「本当にあれは正しい煙なんですか?」 大人たちに教えられた言葉を工場の社員に質問する子供たちに 「ただの水だよ」 と苦笑いする大人の笑顔に 影が刺す * 「今日は神様にお祈りをする日でした」 と書かれた 絵日記を 氷点下の砂浜で拾った 白銀の山茶花、 凍て付いた海面の裂け目から、 無数の右腕が伸びている (利き腕をとっさに伸ばしたんだって) ささやき声の繋がれた (心霊スポット) カメラには何も映らない、 低い煙が画面の隅に映るばかり * 「私の娘は、 家族を代表して、 お祈りをしていました」 掃除されなかった暖炉の灰の上、 降り積もった過去の埃、 錆びた天秤に、 かけられた食べかけのパイ、 (あなたを含んでいるから、 こんなに重いのよ、 まるで、 透明な雨みたいね) 何よりも重たかった、 記憶は、私の向こう側へ、 誰も傾けはしなかった * 俎上に載せられました (私とお話してください) やらなければならない事があった (私を一人にしないでください) 埃を払わなければならなかった (私の声を聴いてください) 仕事をしなければならなった (私をなかった事にしないでください) この街を封鎖しなければならなかった (私を手放さないでください) 犯人を仕立て上げる事はできなかった (私は犯人になりました) 被害者は死んだ人間だけでよかった * 手を振ってくれる人がいる。 (誰に振っているのか分からない) * 「私とおしゃべりしてください」 * 壊れた水平線の先で 遠く腕の波が手をあげて、 幾つ引き抜いてあげれば、 氷河期は終わりますか? (終わらない 雪の積もった街路樹は どこまでもどこまでも続いているのでした 昔は国道と呼ばれた道 国を巡る血管に混ざり、暖かい血液になって) * 抱きしめる、 (ことができたら) 手をつなぐ (ことはできないから) 失われてしまったもの、 (を、抱きしめる (ことは、できるかな)) 「出来ないよ」 「出来ませんでした」 「海にながそう」 「ただの煙だよ」 「ただの人だよ」 「ただの朝焼けだ」 「ただの凍った海だよ」 「足跡がつかないね」 寒い砂浜に立っている あなたは、祈りを聞かせて 聞かせるふりをして 繋がれた一人の砂漠で あなたを待っている まっているあなたはどこにもいないことに きがつかなかった * 遠く歪んだ、 湾煙 の向こう。 側で、 ね、 誰かが、 手を振っていた 気が、 ね、 したから、 ね、 わたし、 は、 一度、 はなして、 しまった、 から、 ね、 煙突から落ちる 、人形、 の、 ね、 したから、 ね、一匹の ヤドカリが、ね 、顔を覗き込んで、きて ね、 見えた、 …気がしたのは、 私の方、 * 花火が綺麗で綺麗でね、 言葉を知らない私にはそれしか言えなくてね、 こどもの頃に見た切りの花火、 海面の上を踊るの、 星空の上を踊るの、 幾つもの光がみたしてくれるの、 指をさして、「サーカスだ、 あれはサーカスだね」って、 声を出して、周りに人が集まって来たわ それで良かったのだと、 誰かの声を聞かせて * 部屋に飾られた 花びら 真っ白い朝日が 白磁の花瓶を濡らして 冷蔵庫に入れっぱなしの、 鮮度の錆びた水道水を飲み干す、 空っぽになった洗濯槽に 氷を二粒落とした、 バス停でいつまでも私の事を、 待ってくれるあなたがいないことを、 ことを認めてしまったら、 認めてしまったから、 「もう祈る必要なないよ」と言われた手は、 震えました。 煙はどこまでも上がっていく。 私を包む鎖は離してくれない。 鎖が離してくれてもどこにも連れて行ってくれない。 震える右手を、左手で包みました、 包んだ両手は、 包み込んだ自分の顔 を、覆って覆って、 私は自分の顔を剥いで、 額縁に飾った(私の死体だ) * 女の死体が道路に転がっている。 誰かひき殺したらしいね。
鎖刻 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1614.6
お気に入り数: 0
投票数 : 3
ポイント数 : 9
作成日時 2021-11-15
コメント日時 2021-11-21
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 2 | 2 |
総合ポイント | 9 | 9 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1.5 | 1.5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0.5 | 0.5 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0.5 | 0.5 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 4.5 | 4.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
ここビーレビにきて数か月ですが、一番に感動しました。何のことを書いてらっしゃるか、リアルは分かりませんが、言葉に幻惑されて、今、泣いています。切なくて。どうもありがとう。詩をやってきてよかった。細やかな描写が勉強になります。あなたの詩句のようにけして大味にならない秘訣は何かなぁと思いました。行替えがスパイスになっていますね。灰色のサーカス、と失意を語った方が愛や涙を思い出すのなら人生はなんて切ないのでしょう。(私の場合は元気を出してカラフルで明るい詩を書くとお客が誰も来ないですから。( ´艸`))
1投票し忘れたのでもう一度。ごめんなさい。
0どうしてだろう、なにかとても胸に響きます。 理由はわからないのですが、刺さりました。
0レスありがとうございます。 そう言って頂けるのは嬉しいですね。特に「灰色のサーカス、と失意を語った方が愛や涙を思い出すのなら人生はなんて切ないのでしょう。」このコメントで逆に目が覚めた部分があって、教えてもらっちゃいましたね。本当に。やっぱり俺にとって書く事はそういう事で、読んでもらう事は何よりもうれしい事で、幸せな行為だよなと再認識させられましたね。素敵な言葉ありがとうございました。明日からまた頑張れます。 ありがとうございました。
1レスありがとうございます。 そういってくださるの嬉しいですね。この作品を投げた時に、どうなるのかわからないですし、色々思う所ありながら書いた所があったりなかったりしたので、言っちゃえば分かりにくい言葉で、分かりにくい事をかいているんですが、それが誰かに届いたのかなって思えました。本当にありがとうございました。
0まずタイトルがかっこいいですよね。鎖された刻(時間)。意味としては閉じた時間なんだけど、鎖って単語だし、なにかがんじがらめに絡まってる時間なのかなあという想像をしました。 > 灰色のサーカステントがぶら下がる は、その後の工場からの噴煙や作品の雰囲気として漂うどんよりとした雰囲気にマッチしています。 この次に人形の群れ、とありますのでこれは人の世とそれを囲む曇天/煙を遠くから俯瞰して描写しているような感じかしらん。 1連目の子供は自分の昔の話なのかな。作品を通して全体的に自分の過去を俯瞰して、まるでテレビの画面を眺めているような感じがあります。 そこから、あなた、という呼びかけになるぐらい過去の風景が近づいてきて、過去に鎖で縛られてるわたし。 そのわたしという物語/番組が、最後にはまた誰かに俯瞰されているような、そんな印象を受けます。 なんか建設的なこと全然書けなくて申し訳ないんだけど、とても好きな作品です。ありがとうございます。
0レスありがとうございます。 タイトルについてありがとうございます。なかたつさんの過去の作品から取ってきた部分もあるのですが、実は数年くらい温めてきた言葉で、なんかようやくタイトルに出来たなと思いました。ですので、本当にタイトルに見合う作品にできたのかは分からないのですが、なんかよかったなと思っています。全ての出会いに感謝だし、読んでくださってありがとう。 >1連目の子供は自分の昔の話なのかな。作品を通して全体的に自分の過去を俯瞰して、まるでテレビの画面を眺めているような感じがあります。 断片的な映像みたいのだけを残したくて、それを俯瞰で捉えたくて書いているところがあって、それは正にテレビに流れている映像に目が留まるのは、印象に残ったり、目についたからだと思います。そういったものを残してかきたかったなと思います。そういうものが因循さんの中にのこって、こうしてレスいただけたことが本当に嬉しいです。 過去というものに縛られている存在っていうのを、如何にして書くのかみたいな所はなんとなくこうして言葉にしてもらって俺の中にある書きたいテーマとかモチーフの1つなのかなと思いました。好きと言ってくださって本当に嬉しいです。 ありがとうございました。
0