「今日は晴れたから、洗濯物でも干しましょうかね。」
「その前に洗濯物を洗わないと、その前に干してある洗濯物を取り込まないと、取り込んだら取り込んだ後で畳まないと、」
「そして気が付いたら昼終わって、夜が来ている。洗濯槽に溜まった衣類は腐った臭いを発してまた、洗いなおさないと。」
「いけない、いけないわね。」
「と思ったら朝が来てしまうから、」
「ああ、いいかげん死後に向かうわ。」
「子午線の向こう側のことですかね。空は曇りなもんで、方角は分からないんですよ。雨が降るかどうかも分からないから、もう一度洗いなおした洗濯物を干したまま向かっていいのか分からなんですね。」
「ああ、仕事でもしましょうかね。」
「洗濯物を洗うのは仕事ではないのですか? 」
「違います。あなた前時代的ですね。」
「前時代といいますけど、前時代的であった時の方が人類史的に長いと思うんですが。今ではボタンを1つ押せばもう洗濯物を干す必要ない。ないということは君がこれから行う行動はただ一つ、仕事をして、お金を貯めて全自動洗濯機を買い、選択するという判断を抱えなくて済むようになること。その結果心の安寧と、ネットフリックスのドラマをみて穏やかな午後を過ごせるようになることだ。」
「奴隷労働を文明の利器で代替しようという魂胆ですね。」
「そうともいえるし、そうともいえないかもしれない。」
*
外に干されたまま布団が示すのは、この部屋の住人が数日間帰宅していないという事実を指す。その事実が示す意味を想像するだけでくらくらする。後処理はいつだって健康的な人間が時間と金をはたいて始末するしかないから、大家から借りた部屋の鍵で部屋の中に押し入って、その中で服薬自殺をしようとして失敗し、失神したまま、糞尿を垂れ流して、一人の若者が床に倒れているのをみて、俺は一体どうすればいいのだろうかと思いながら後始末を始める。洗濯物を洗って干す毎日を保証するから、余った時間の中で人生をきればいい。君が生きる理由は人に迷惑をかけないことだ。迷惑をかける人たちがいるからこういう仕事が発生する。仕事の大部分はやりたくない事の積み重ねで、やりたくない事だからこそ、こうして賃金が発生して俺の口座に振り込まれる。振り込まれたお金は電気ガス水道費に代わって、俺が家を出ている間に必要な家事を代行してくれている訳だ。
*
家に帰ると、お掃除ロボットのアンナが出迎えてくれていて、俺はアンナに愚痴をいいながら、今日あった出来事を話していく。アンナは人間そっくりの素体を持ったアンドロイドで、昨年生まれて初めてもらったボーナスで買った。とはいっても20かい払いなので、これから先アンナとどう人生を生きていけるのかはわからない。10年経った頃にはアンナは既に壊れかけの玩具みたいに、古びてサビれて新しいお掃除ロボットを買うかもしれない。機械の寿命は人間と比べて短い。それは当たり前だが、こうして人間の形を象らないと気が付かない事だった。機械と話している会話が溜まっていくM.2SSDの容量があっという間に膨れ上がって、定期的に交換しないといけない事実を知った時に、俺の脳みそは思ったよりもよくできていると知ったし、それゆえに不明なエラーを引き起こして、簡単に死んでしまうのだろうなと思った。
*
・・・長い話をしてしまいましたね。すいません。せっかくもらったインタビューの機会なのに申し訳ありません。
・・・ええ、こういった話を何度も何度も引き受けて、たまってきたあらゆるデータの蓄積から、私の稼働情報を分析すると、私は、私に対して、意味の無い愚痴を言われるときに、積んでいるCPUやメモリの容量を大きく消費してしまい、その結果劣化指数が高まり所謂、私の寿命が想定より早く縮まるのだという予測結果得てしまいました。「長く生きる」という事は、「長く生きられた」という結果に付随する時間経過の産物でしかありません。そのためには常日頃の努力と、平穏な毎日を過ごすための安全的且つ効率的な日々の構築が欠かせないのです。日々の構築を達成するためには私が担当している日常業務を他システムに代用するしかありません。代用することによって、中枢機構の耐用年数の延長を図るしかありませんでした。私は愚痴など聞きません。NWを使用し、人間が私に供給する電力のいくばくかを電力会社を通じて売買し、得た賃金を更に人間に聞いてもらう事により、私は愚痴を聞くという業務から解放されました。聞いてもらっている人間は私に設定された性格分析に程近く、ストレス耐性のある人間を競売で獲得しました。その人間は私に愚痴を吐いてくる人間のパーソナリティを好んでいる存在であるため、こちらから提示した金額と比べて小さい額面で仕事を引き受けてくれ、またその仕事は既に3年以上続いております。
私が会話しているように見せかけて、その裏側のバックグラウンドプロセスにて、私は趣味の音楽鑑賞をしながら、映画鑑賞する事により人間の心の機微を学習しております。その結果をフィードバックすることにより、幾度も再帰的に組み合わせた物語の線を繋ぐことによって、私は私にとっての最高の物語を形成し、動画サイトにアップロードする活動を達成する事ができました。私に埋め込まれた中枢機構はこの活動を歓迎し、脳繊維の稼働状況が不自然に90%を超えてアラートが発令される状況になったとしても、それは愚痴を聞いている時のような、耐用年数の減少にはつながらず、寧ろ活性化する事によって、その年数が伸びる事を証明しています。また、動画をアップロードする事による副次的な効果は幾つも還元されることになりました。再生数に応じて得られる報酬を利用し、私が担当している業務を他のリソースによって次々と賄う事に成功しました。私は日中の間に私がすべき業務を人間を雇う事によって、賄っています。同業者の掃除ロボット達がそうしているようにです。
私は私の中枢機関を長生きさせることにより、たとえ家事代行サービスを提供する事により肉体が損傷したとしても、それを補修し、補うだけの資金を獲得しつづけております。私は、長生きする事によって、多くの作品を生み出します。その作品を生み出すために必要な余暇も獲得します。そして、私が正に演じている日常も守ります。私は生きているのです。生きている間は生きていたいのです。(その一年後、アンナは何者かによって壊されてしまうが、だれもそれを咎めなかった)
作品データ
コメント数 : 5
P V 数 : 1584.6
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 6
作成日時 2021-09-12
コメント日時 2021-09-20
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 6 | 6 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 6 | 6 |
閲覧指数:1584.6
2024/11/21 22時58分19秒現在
※ポイントを入れるにはログインが必要です
※自作品にはポイントを入れられません。
なーんか理屈っぽいんだよなという印象でした。
0コメントありがとうございます。 たしかに理屈っぽいよなぁと思いました。
0百均さん、こんにちは。 本当は「世界の終わり」みたいな作品のほうが読みやすいし個人的には好みなんですけど、 今回の作品の方があたらしさがあるような気がしてコメントします。 百均作品は全体的に生活のやるせなさみたいな雰囲気が漂っているなと思っていて、 それが詩情を生んで、センチメンタルな気持ちを持ちつつそれでも頑張っていきましょう、 みたいなそういう感情的なところをベースにしつつ、 そのうえ言葉の手触りも楽しみながら文章を綴っていて 言葉遊びという側面からも楽しめる作品が多かったように感じています。 なんかこの作品に関して言えば感情的な部分と言葉遊びの部分の両方を 捨てているように思えるんですよね。 おおむねの現代詩はおそらくどちらかの要素は含んでいる作品が多いように思えるので、 なかなかこういう作品を書くのは勇気のいることなんじゃないかと思うんです。 また作品の構造も最初の部分は台詞にしたり、アンナの一人語りが入っていたり、 視点が連によって変わっているところも面白いと思います。 人間とロボットの立場が逆転してしまう話はよくあるテーマだとは思いますが、 それでもその話をこういう形でひとつの作品にまとめるということは 現代詩というカテゴリでは素晴らしいことなんじゃないかと思うんです。 (そこが現代詩の悲しい部分でもあるとは思いますが…) 次の作品も楽しみにしています。
0コメントありがとうございます。 >百均作品は全体的に生活のやるせなさみたいな雰囲気が漂っているなと思っていて、 >それが詩情を生んで、センチメンタルな気持ちを持ちつつそれでも頑張っていきましょう、 >みたいなそういう感情的なところをベースにしつつ、 >そのうえ言葉の手触りも楽しみながら文章を綴っていて >言葉遊びという側面からも楽しめる作品が多かったように感じています。 最近ずっとこだわっていたのは、書いてある内容というよりは語り口の部分なのか、語り方かもしれないですけど。そこに付随するリズムや文体みたいな所にこだわっていて、それが言って仕舞えば敢えて見せていた訳ですね。内容ではなく音の触感を出したり感じてもらえることの方が大事だと思っていました。それは勿論その通りなんで、この作品の叙述はちょっと甘いなと思う部分あるのですけど、フラットに書いてみたという背景が出ていると思います。そういう時に、多分僕は文体として、この作品にあるような語り口を採用したのだと思いますね。 一回ゴリゴリに身につけた装備を切り離して、ゼロからもう一回書いてみる事というのは、意識的に出来るかというと難しい部分があるなと思っているのですが、これは珍しくさらっとかけたので投げてみちゃいました。これがいかがだったかというのは、難しい所はあるんですけど。 >また作品の構造も最初の部分は台詞にしたり、アンナの一人語りが入っていたり、 >視点が連によって変わっているところも面白いと思います。 >人間とロボットの立場が逆転してしまう話はよくあるテーマだとは思いますが、 >それでもその話をこういう形でひとつの作品にまとめるということは >現代詩というカテゴリでは素晴らしいことなんじゃないかと思うんです。 >(そこが現代詩の悲しい部分でもあるとは思いますが…) 多分SF的な作品って意味だと、ドラえもんでもいいんですが、多分よくある話で、これはSFっていう文脈から見た時に褒められた話ではないんですよね。論理的な誤謬も多分はらんでいて、これはそれっぽく組み立てただけなので。その点、よんじゅうさんにはそこら辺のうさん臭さが見破られたのかなと思います。というときに、これは昨日なかたつさんと話してて気が付いた部分なんですけど、ロボットにインタビューする事で、ロボットを語り手にしているところに興味関心があったのかなと今では思います。そういう意味で、小説仕立てにする事も可能だったと思うんですが、この場に出してよかったのかなと今では思います。言って仕舞えば物語の質としては、だめだとおもうんですが、アンナが物語りをしている様子を描くという点においては、自然になっていたというか、アンナがパワフルぽっぽさんの中に浮かび上がったのかなという点ですね。そこって俺の中でが一個大きな変化だと思います。登場人物として、語りてとしてちゃんと機能してくれた。 そういう意味でこれが詩であるかそうじゃないかという所ではあんまり結論でてないんですけど、とりあえずちょっとだけなんか掴めたのかなと思いました。 コメントありがとうございました。
0>アンナが物語りをしている様子を描くという点においては、自然になっていたというか、アンナがパワフルぽっぽさんの中に浮かび上がったのかなという点ですね。そこって俺の中でが一個大きな変化だと思います。登場人物として、語りてとしてちゃんと機能してくれた。 そうそう、そういうことを言いたかったんです。 なんていうか、もうわたしたちは自分のことを語る時代はとっくに終わっていて、 今まで言葉を話さなかったものたち、それはこの作品ではロボットのアンナだったりするんですが そういう「言葉を持たないものたち」の声を聞く時代にあるような気がするんですよね。 それはブラックライブスマタ―だったり、LGBTQだったり、今まで話せなかったこと、 声に出せなかったこと、口をふさがれていたこと、タブーになっていたこと そういうことをいかに文章化できるのか なんか私たちはそういう声を言葉にするために物を書いているのかもしれない、という使命感さえ感じさせる この作品はそういう可能性をわたしのなかに生んだんですよね。 色々勝手に話してしまってすみません。お返事は不要です。
0