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【百物語】かわいい
「あなた、かわいい」 そんな声が聞こえてきた。 田舎の堆肥が臭う、一面のキャベツ畑で。 焼けつく様な昼間に、ここにいるのは私一人だ。 「あなた、あなた、かわいい」 やはり、声がする。 キャベツ畑からだ。 靴が土で汚れるのにも関わらず私は入っていく。 汚れてるのは元からだ。 人の畑だけど、もうどうでもいい。 「かわいい。こっち来るの?」 思ったより奥の方から聞こえてくる。 畑に足跡をつけながら進んでいく。 すると、いた。 土にほぼ埋まりながら、何かわずかに顔を覗かせている。 「かわいい。あなた」 そこから声が聞こえる。 掘り出すと。 「汚れてるけど、かわいい」 人形だった。 私みたいに傷つき汚れ切った、人形だ。 「ああ、かわいい」 人形は壊れたみたいに、同じ事しか言わない。 「そこまで言うなら、私を綺麗にしろ」 「うん」 すると、何かが私の髪を梳く。顔を、体に触れる。 まさか。 一瞬だった。 整形されたかの如くモデル同然の顔と体に変わっている。 ごわついてた髪は艶やかに光る。 見返してやる。 復讐だ。馬鹿にしたあいつら。家族。先公。学校。隣町のクソ。 この顔と体で。 「だめ」 「だめ」 人形が何か言った。 「だめ。かわいくない」 地面から何かが伸びる。 「かわいくない」 地面に転がる、人形からも。 髪だ。 真っ黒な髪だ。 それが、私に絡み、覆い被さり、這いずり出す。 「かわいくない」 動けない。 「かわいくない」 体の隅々、内部にも。のたうつ。蟲みたいに。 「かわいくない」 その一言ごとに。 「かわいくない」 壊れていく。 せっかくの顔が体が。髪が。 私自身が。 「だめ」 「だめ」 真っ黒な目の前。 体がなくなって、顔が地面に落っこちた。 纏わりつく髪が食いつくし、吸いつくす。 髪が飢えた様に私の脳を喰い始めている。 人形が、何よりも醜くなった私を、存在ごと消していく。 「かわいい。あの子かわいい」 畑の堆肥にされる途中の私。 最後にそんな声を聞く。 ああ、多分あの子だ。 キャベツの養分にされるのか、それとも。 私が知る事はなかった。
【百物語】かわいい ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 863.1
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2021-08-12
コメント日時 2021-08-12
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
さっきまで「かわいい」と言われていたのに「かわいくない」と繰り返し言われる。なぜか読んでいる私まで傷つきました... また、「頭が地面に落っこちた」の所は、テンポよく軽い響きなだけにとても怖かったです。 一つだけ、容姿が良くなる場面で、どうして自分の顔が良くなっていくのが分かったのかが読んでいて少し引っかかりました。
0単純に「手鏡を取り出し見る」という一節を入れるのを忘れていました。 うっかりしていました。すいません。 実は自作小説のゲスト的なキャラを元にしています。 https://ncode.syosetu.com/n1401fp/4/ ここに出てくる人形・ハナです。 微妙に会話が成り立っていない感が効果を出していた様に思います。 またテンポの良さもかえって怖さを出せるものみたいですね。 そこは正直予想外でした。
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