吐く息の音
以外
何も聞こえない部屋で
眼を閉じて耳を塞ぐと
心臓の音が聴こえる
とても静かに とてもゆっくりと
目を開くと
そこには
私じゃない
もう一人の女が
彼女は
机の上に開かれたノートへ
貴方が書いた恋の詩を丁寧に書き写す
貴方が五年前に書いた詩を
丁寧に一字一句 間違いなく
貴方がいつかいなくなる日がきたとして
それでも多分私は変わらず
貴方を好きなんだろうけど
私には追いかける理由なんて一つもなくて
呼び止める理由なんて一つも与えられていなくて
その時のために
少しずつ
少しずつ
別の居場所作りをしているつもり
いつか来る
その時のために
私は一人じゃないのに
ただただ泣いてる
渇きうえたみなしごで
そう頭ではわかっているのに
子宮の底から
ゴミみたいな気持ちは溢れ出てくる
えずくように
喉元を奥からつつくように
まだ私と出逢う前の貴方の詩は
とても純粋な恋の詩だったから
余計に
誰もいない部屋で
トットットッと音を刻む
脈を見ていると
今は
自分に不安定さなんて
微塵も感じないし
ダメになる予感なんて
少しもないけれど
それだからか
余計に
いつか 誰も知らないところで
たった一人で
一人きりで壊れてしまう日が来るんだろうか
そんな気持ちが
私の背に手をかける
買ったばかりのセーフティーガードのカミソリで
規則的に
トットットッと
規則的に
刻まれる脈をそっとなぞると
手首の線から少しずつ血が滲み
私の心の奥に隠れ潜んだ感情が
少しずつ昇華されていく
昇華 そう それは昇華
どこにも売っていない
売られていない私の感情を
得がたいものに変える
血はゆっくりと
袖を朱に染めていく
手首に
穢れた手首に残る
この傷が治る頃
私は
きっとまた貴方に逢いにいく
電源をオフにしていたスマホの履歴が映すのは
貴方からのL I N E
今日はまだ繋がっていられたと
安堵しながら
胸に手をあてると
聴こえるのは貴方の心音
ノートを開かせた
私じゃないもう一人の女は去り
誰もいない
何も聞こえない部屋に
私は
心臓の音だけ
あの確かな鼓動だけを残して
いるべき場所へ
帰るべき場所へと帰る
滲んだ血を伏せて帰る
秘めごとのように
手首の傷痕を隠しながら
作品データ
コメント数 : 2
P V 数 : 1494.2
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作成日時 2021-06-04
コメント日時 2021-06-07
#現代詩
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可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
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2024/11/21 23時31分45秒現在
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これがどれほどの実感を込められて書かれた詩か分かりませんが、痛々しい詩だなあと思いました。 ほんとに切ってたらどうしよう、っていう。なんとなくコメントがはばかられるのがわかります。 詩としての欠点は恋愛によって自傷する主体、というのは、ネット詩上ではありがちであるということでしょうか。 自傷の表現を省いてでも恋愛の痛みを感じさせるような、そんな詩であればいいのかなあとちょっと思いました。
0コメントありがとうございます!できるだけ「痛い」というイメージは出さないようにしていたつもりでしたが、やはり自傷の表現はそれだけ読み手にインパクトを与えてしまうものなのですね。気を付けなければな。。と思いました。 恋愛によって自傷する主体って、ありがちなんですね。私が最初、メモ書きのように書いたときは、多分そのありがちな痛々しいままの感じで終わっていました。その詩にstereotype2085さんが手を加えてくださったことで、悲しみや痛みを乗り越えたような、もっと前向きな女性の雰囲気の詩となり、救われたような気持ちになったので、思わず投稿してしまいました。今回、田中修子さんに読んでもらったこと、とても嬉しかったです!ありがとうございました。 (つつみ) 自傷の部分は つつみさんにお任せするとして 僕がこの詩を完成させた時 つつみさんが凄く喜んでくれたんですね。それでもう僕としては充分というか、こういう合評サイトに投稿しておいて言うことではないかもしれませんが、この詩はもう既に完結して幸せ者なのです。だから、修子さんコメを読むと。そうだよな、そういう見方もあるよな。ふうむ。というような反応に留まってしまって。すみません。 暗く悲しげな素材扱った詩ですが、この作品はつくづくも果報者なのです。読んでいただきありがとうございました。 (stereotype2085)
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