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mirage
文芸同人誌の表紙を描いてほしい、と学科の後輩に頼まれたのは3年の冬休みだった。私も後輩も帰省しなかったからいつでも会えた。詳しい話をしようということで、私の家で後輩と鍋を囲んだ。 私は詩も小説もほとんど読まない。絵やデザインが特別得意なわけでもない。ただときどき、衝動的になにかを作ることがある。絵であったり、彫刻であったりするそれらを、私は後輩にだけ見せていた。後輩も公開前の自作詩を、こっそり見せてくれた。そんな関係が始まったのは1年ほど前だったが、今その話はしない。私は自分の作ったものになんの固執もなかったけれど、後輩は私の作品に心底惚れているようで、なんだか申し訳ない気持ちになりながらも、ほしいと言われればどんな作品でも後輩に渡した。 原稿に目を通す。後輩の作品だけ読む。いつも、うすい光のなかでなにかを諦めている彼女の姿がある。たとえばこんな調子だった。 タイトルだけ知っている 夥しい本たちを わたしは 手に取ることすらないだろう それらがあまりにとおい 蜃気楼であることを わたしが 受け入れるための あまりにあかるい午後だった 意味は分かるがそれ以上はほとんど分からない。その場で私はデザインの原案をいくつもスケッチしていく。後輩は気に入ったものをいくつか選んでくれるから、また後日、よりアイデアを固めたものを後輩に見せることになるだろう。私たちには腐るほど時間があった。 その日はいっしょに寝た。後輩と同じ布団で寝るようになったのがいつか、正確には思い出せないけれど、彼女は気付けば私の布団に入ってくるようになっていた。私は別に気にしなかった。私が寝たと思うと、彼女はときどき泣いた。 その日も彼女はいつものように私の背中にぴったりと寄り添っていたが、私が眠りかけたとき、唐突に彼女は私の胸に触れ、揉みはじめたのである。それから私も体を彼女の方に向け、深いキスをした。私も彼女の胸を揉んだ。彼女が、乳首を弄られただけで声を出してしまうほどの女の子であることを知った。 彼女は執拗にキスをした。私はキスをすると疲れる。私はへとへとになり、たまらず彼女のパンツのなかに手を入れようとした。実際に入れ、驚くほど濡れているのを確認はしたが、彼女はそれ以上を許してくれなかった。彼女は執拗にキスをした。彼女はキスをし続けた。それからまた、彼女は私の胸を揉んだ。私はなにがなんだかわからなくなり、自分の手で果てた。それからのことはよく覚えてない。私は早起きして二人分の朝食を作った。たった今、後輩が起きたところだ。
mirage ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 974.7
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-09-17
コメント日時 2017-10-01
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
小説的な、丁寧な始まり方が、とても印象に残りました。〈私が寝たと思うと、彼女はときどき泣いた。〉このあたりまで、実に丁寧に、繊細に展開されていて、好感を持ったのですが・・・〈その日も〉から後、いささか、展開が乱暴ではないか、という印象を持ちました。事実を述べていく、というスタイルですが、前半の「小説」的な部分の「事実」の述べ方は(ここでいう事実、とは、実際にあったこと、ではなく、そのようなシチュエーション設定がなされている、という意味です)後半の伏線となる写実であって、即物的に、そのものを描くことが目的、ではないはず・・・終盤の両者の関係性に、中盤に挿入された詩や、後輩が先輩である語り手に求めているものとの、より緊密な関係性が感じられるような、陰影や抑制や、気持ちの推し量り・・・あるいは、その時の「事実」ではなく、「感覚」、喜びや悲しみ、といったことに触れていく作品であればよかった、と思いました。
0まりも様、コメント感謝です。まずはレスが遅れたことを謝罪させてください。 読み返してみるとやはり後半からいきなり雑になっていますね。ご指摘、尤もだと思います。
0森博嗣を思い浮かべながら読んでいました。途中に入る詩の部分が印象的です。淡々としている文体で正直とても好みです。貴方は理系ですか?
0加地さん。コメント感謝します。 理系が何を指している言葉か不明瞭ですが、大学では理系の学問を専攻してはいました。しかしそれだけの話です。20年ほど前の話ですね。
0まりも「様」と加地「さん」となっているのは、単なる不注意です。他意はありません。今後、気を付けます。
0個人的には、好きです。好きだなぁとしかいえない。タイトルもいいです。凄くシンプルそうに見えて少し考えると深く読めそうな作品でとてもいいです。 前半と後半の話にはズレがあって、要は後輩の話と彼女の話があるわけですが、彼女のパートの部分を読むと、普通に男女の話かと思った所に女同士の可能性の方がぶっこまれるところみたいなのが面白いです。ちゃんと性別について明記されてないのはわざとで、彼女から胸を揉まれる所から始まってるのがなんともおもしろい。タイトルも光ってきますね。そこから創作の話に、広げてもいいし、いやー色々な読み方ができる作品だと思わされました。 うまくいえないですが、完備さんの投稿された作品の中ではダントツに好きです。
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