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夜、そして
青い青い夕暮れ、イチョウの葉が金の鳥となり羽ばたいてゆき 「おつきさま こんばんは」と絵本の言葉で 三日月指さす この子の目はきらきらしている 月のおそばにいる あかるい星は 燭とり童というんですって 月の灯をロウソクにいただいて、頬の産毛が光っている童子はね、 ね、 いつか、ひとりぽっちの大人になるの? 夜……夜、オイルヒーターが カチ カチ カチと秒を刻み 部屋は、乾いた布の香り、昼間外で干されたすこうし、 冷たい冬の香りが温められて 甘くなっていくから、 枕に頬をうずめて、くうくう、という寝息を聞きながら どこからかやってくる 夜が器を満たしきって溢れ出す音を 薄うい、半透明の花びらのような鼓膜がふるえていることを おもいながら、体をお布団に、沈みこませていく ゆっくりと どこまでも、どこまでも、数万キロも 夜……夜、私の頭蓋には、 うすくれないの小さな、異国風の天幕があって 飾りのばら色とみず色のポンポンがかかっていて 燭とり童の置いてった、月の光のろうそくが 天幕を内側から照らし出した、と、消えた。 ふっ と 消したのは しびと 愛しいひと、振り返っては、だめ と、私の体が闇になり、とろりと、とろけだした あたためたチョコレートみたいにゆるやかよ 夜……夜、寝室・階段・居間・台所・扉の外へと滲みだす私 ほら、夜で満ちているでしょう 月の光のろうそくは、天に舞い戻り数え切れぬ星と散り 鉄道の汽笛がきこえる このステーションもだいぶ、ひとが変わってしまいました お連れを心配しながら、来ないように祈りながら ずうっと突っ立って、お待ちになっている方も多いのです 車掌さん、 夜……夜、やがて夢想のいましめは、 お別れの船のリボンのようにほどけて うつつへの小舟に乗って、白い花の咲く岸にもどる 星々の宮殿でぐっすりとしていたあなたがたは いつもの寝床で目が覚めて 私のぬくもりの名残があるでしょう まだねむい目の裏の夜に、しびとが 明けの明神となって佇むのです ほら、あくびの涙
夜、そして ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2200.8
お気に入り数: 1
投票数 : 1
ポイント数 : 2
作成日時 2021-01-21
コメント日時 2021-02-15
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 1 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 1 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 2 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 2 | 2 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
夜の、しんと静まりかえった生活空間を思いました。 日常の喧騒も、なにもないような。 日々の日常のなか、時々、ふと我にかえって ひとりで時間を過ごしている、 我にかえった時、人はとても心穏やかである時がある。 反面、その時の気持ちと、普段の生活していく中での自分。 そういった、さまざまなものが、しんしんと降り積もるように感じられました。 降り積もる時間の中で、ふと我にかえる、 寂しいけれど、丁寧に時間を編んでゆく。 そんな印象を受けました、以前僕は暇だったので、 誰もいない公園で、缶チューハイを飲みながら、 ベンチに寝転んで、空に向けて瞼を閉じていました。 手で瞼を覆うと視界は青くなり、 手を引き離すと日光が瞼の裏側で、 赤やオレンジ色に光っていました。 その時、僕は日頃接しているだれとも切り離されていました。 その時の記憶のような印象を受けました。
1こんにちは、ご返信、ありがとうございます。 ツイキャスで、お話ししてしまって、ずるいのですが、でも、その前からお気に入りに入れていてくださったとのことで、感謝します。 ツイキャスで申し上げたのですが、私は、自我の細やかな部分、というより、このところ自分の中にある、不思議な感覚を表してみたくて、これを書きました。 きちんと生活を送りながらも、ふとぼーっとしているとき、自分の中から星を含んだ夜があふれて、現実を侵食していくような感覚に襲われることが、おおいです。 これは、何かしらの自分の感情の比喩ではなくて、感覚、こころにみえる情景とかに、近いです。 白昼夢とか、空想の世界に入り込んでいる、に、近いかもしれませんね。 ですので、ryinxさんのコメントに、とても納得することが、できました。 つまり、ryinxさんの、その時、確かに現実にあられて、現実の行動をとっているのに、 「僕は日頃接しているだれとも切り離されていました。」 という、非常に感覚的な部分と、共振したのだと、思います。だから、お気に入りに入れてくださったのかなと、思います。 ところで、この詩は、ryinxさんだけでなく、お読みになった色んなかたに伺いたいのですが、「閉じている」でしょうか。 できたら、表現として開いていて、かつ、あの自分の中から星を含んだ夜があふれて、現実を侵食していくような感覚のなかへ、読者の皆様を突き落とすような詩に、したかったのですが、それは、叶ったのだろうか。 たぶん、それだけ、力づくで引きずり込むものをかけたのであれば、もっと反響があっただろうから、引きずり込むことは、できなかったんだろうな。どうやれば、できるのかな。 これが、この詩を推敲していく、作者の課題に、なりそうです。 ryinxさん。ryinxさんがご覧になられて、かつ、感じられたことを教えてくださり、ありがとうございました。 少しだけ、なにかと、誰かの過去の、一瞬の感覚であろうと、そこに、つながれているかもしれない感覚に、なりました。
1上の返信は、ryinxさんへ、差し上げた、ものでした。ミスを、失礼いたしました。
0小林素顔さま ありがとうございます。 「非常に母性と母体の肉体性を感じさせる詩だと思いました。」ということで、私は、私の意図しなかった読み解き方があるのだ、と、興味深く、思いました。 もちろん、詩の、読み解きかたは、自由で、読む人によって、無限の可能性が、あります。 なので、作者が、「実はこう書きたかったんだ」と言うのは、ずるというか、国語の授業じゃ、ないんだからと、思います。 ただ、ryinxさんへの、コメントの返信に書いた通り、実は私の表現したかった、ものは、 「きちんと生活を送りながらも、ふとぼーっとしているとき、自分の中から星を含んだ夜があふれて、現実を侵食していくような感覚に襲われることが、おおいです。」 という感覚。その、白昼夢のような、空想の世界に入り込んでいるような「感覚」を書いて、できたら読む人を、夜の中に、引きずり込んでしまいたかったので。 私としては、母性とも、母体の肉体性も関係なく、この作品を、書いたのでした。 私の書きかたのどこかで(たとえば、子、が登場しているところで)、母性や母性の肉体性を感じさせてしまうことを、してしまったのだろうか? と、思って、どうしたら、私のあらわしたかったものを、もう少し正確に伝えられるのだろう、というのが、この作品の推敲の課題、のような気がします。 また、これは、批評とは、関係ないですが、ryinxさまは、この作品から、母性、というものは感じられず、個人的な感覚を呼び起こされることになった。 素顔さまは、母性を感じられた。 この差異は、どこから、くるのだろう、という興味も、私のなかに、あらたに、くわわりました。 興味深いコメント、また、今後の課題をいただき、ありがとう、ございました。
0技術は凄い。筆致は確かで予め詩的である単語も連ね、そうでない単語も組み合わせの妙により詩情をかもすことに成功している。しかしこの詩が描いているのが一見した限り「夜眠れない女性の夢想」であるのが惜しい。そのせいで「いつか、ひとりぼっちの大人になるの?」などの効果的なフレーズが、眠れないから不安になったのかなくらいの重みしか持たなくなっている。返す返すもこの詩の着想、スタート地点を「眠れない夜」にしてしまったのが惜しい。着想、スタート地点が違えばこの詩はもっと大きな広がり、例えば自分だけでなく家族や環境や過去、未来へと縦横に飛躍して描けただろう。と感じます。
0stereotype2085さま コメントを下さり、ありがとうございます。 stereotype2085さまのコメントの、「夜眠れない女性の夢想」の部分を拝読し、私は、詩の深い沼に、突き落とされたような気がしました。 というのも、この作品は、不眠の女性(あるいは、不眠の私)が書かせたものではないからです。どちらかというと眠りすぎる時期の感覚を書きました。何回か読み直しましたが、そういった時期に書いたものなので、私としては、不眠の女性を想起させる言葉はいれていないはずなので。 といっても、もちろん、詩の読みは自由だから、stereotype2085さまの読みも「誤読」ではない。 この作品は、三人の方にコメントを頂き、そのうち二人の方に、私の思ってもいなかった読みを頂きました。 すなわち、小林素顔さまの「非常に母性と母体の肉体性を感じさせる詩だと思いました。」と、stereotype2085さまのコメントの、「夜眠れない女性の夢想」です。 作者本人の感覚としては、 ryinxさんの、その時、確かに現実にあられて、現実の行動をとっているのに、 「僕は日頃接しているだれとも切り離されていました。」 という、非常に感覚的な部分を書きたかった、というのと、自分が飲み込まれていく圧倒的な眠り、体内から溢れ出す夜のイメージに、読者を飲み込んでしまいたかった、というのがあります。 読者を飲み込むことに失敗したのは、小林素顔さまの「大きな存在感を詩の中で表現できればよかったのではないか。」stereotype2085さまの「この詩はもっと大きな広がり、例えば自分だけでなく家族や環境や過去、未来へと縦横に飛躍して描けただろう。」という二つのコメントから、狭く終わってしまっている、ということが分かりました。 そこが課題の作品です。 考えてみれば、私がしたかったのは何より「読者を飲み込むこと」だったから、主体が母性的であることやや不眠症である、という、私の思ってもいなかった要素は、色々自由に読者に読んでもらえた要素として喜んでいいのかもしれないですね。 いつかは分かりませんが、推敲して、読者の方を夜に引きずり込むことのできる作品に仕上げたいと思います。 コメント・批評を下さり、助かりました。 ありがとうございました。
0投稿されていることに気づいたので、拝読して感想を。 コメント欄も読ませてもらった上での感想です。 僕としては、閉じた感じはしなかったですよ。 むしろ開いていると感じました。 感覚としては、閉じているというより遊離している感じですね。 田中さんの狙いとして読者を飲み込んでしまうものを書きたいということですが、それは飲み込みたい作者と飲み込まれたい読者の暗黙の合意がないと難しい気もしますね。 方向性として全ての読者を飲み込むものをというのは、ちょっと違うかもしれないと思ったりします。 まあ、僕はそう思うということですが。 個人的なことを言えば、僕の現実はもう昔に食べ切られているので。 食べたのは僕の妄想想像、そういったものです。 まあ、それはそれとして、この作品の夜は画面の中にとどまって、そこからあふれてくるまでは感じないかな。 でも、それはそれでその中にEnterすればすむ話しでもあります。 思わず手にしたくなる「餌」を用意するか、ホラーハウスのように、ちゃんと出口のある安心感を担保するか、他にも方法はあるかもしれませんけれど。 あと、僕も女性性を感じました。 理屈ではないんですけど、女性的だな、と。 言葉使いやイメージの作り方というのももちろんあるのかもしれませんが。 それはたぶん、男性である僕とは感覚がなにか違うと、感じたからかもしれません。 男性は女性にはなれないし、女性は男性になれない。 少しスピリチュアル的な話しをすると、男性の魂は女性的で、女性の魂は男性的みたいな話もあります。 だから、身体と心で、男性性と女性性のバランスをとっているという話です。 まあ、男はけっこう女々しくて、女はけっこう雄々しいというのは、少し人間をしていれば気づくと思いますけれど。 と、まあ、性別の話しは地雷にになりやすいので、このへんで。 一つだけ言うと、僕は男性なので、女性の感覚は自然には出てこない(ように思う)ので、女性的感覚というのは、興味深いです。 僕は思うんですけど、人一人が生きてきた現実って、そんなに軟らかかったり不確かなものじゃないと思う。 作品の中で読者を飲み込もうとしたら、その読者の人生を丸ごと飲み込むくらいの思いや度量がないと難しいじゃないかな? なんて思ったりもしました。 話し相手がいないもので、ついつい長くなってしまいました。 このあたりにします。
0「私」は直感でロマンティックな詩だなと思いました。ちょっぴり銀河鉄道999の影響も受けているんじゃないかと思います。想像して速くコロナウイルス終息させて温泉に行きたいとおもいました。あと、私は好きな詩です。
0こんにちは。こちらの作品はたしか匿名投稿でしたね。ぼくだけでなく修子さんの作品だと気づいた人はいると思います。言葉の選び方、繰り出し方、つなげ方が修子さんでした。即興朗読の際の語り口を思いだしました。
0まろやかで美しい童話のような詩というだけでなく、しっかりと心に染み込む寂しさという甘い毒がある強い作品だと感じました。
0夜の優しさや穏やかな空気を感じました。せかせかして忙しい日中の賑やかさが去って、後は眠りに落ちるだけ。その一瞬を惜しんで、明日再び朝が来るまでの時間をゆっくり味わいたい、そんな気持ちに寄り添う作品だと思いました。
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