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ノリ・メ・タンゲレ
あ、わたしマリアって名前でデリヘルやってるんですけど、最近めっちゃやばい客に会ったんで、今日はその話しますね。 どのくらい前だったかは忘れちゃったんですけど。デリの仕事入って、行ってみたらめっちゃやばい庭付きの一戸建てで、「ヤバ、金持ちじゃん」とか思いながら入ったらなんかの教祖っぽいおっさんがいて。で、変な匂いの油? みたいのを足に塗ってくれって言うんですよ。「え、何のプレイ?」って思うじゃないですか? でも仕事だしとりあえずやったんですね。そしたら「君の髪の毛で拭き取ってほしい」とか言い出して、「ぶっちぎりの変態キターーーーーー」とか思いながらもやったわけですよ。プロですし。 で、そのあとちょっと話したんですけど、話の内容もめっちゃやばくて。で、あたしってやばい人好きじゃないですか。もうめっちゃ気に入っちゃって、その場でガチの連絡先交換して、それからプライベートでほぼ毎日会ってたんですね。いや、マジでほぼ毎日。あ、でもヤってはないですよ。油塗ってただけ。これ友達に話したらめっちゃ大爆笑で「ヤバ、その塗られ夫面白すぎ」ってことで、なんとなくそいつの名前は「油塗られ夫」になったんですね。 で、そうこうしてるうちにコロナあったじゃないですか。それでしばらく疎遠になっちゃったんですね。連絡も返さねーし、なんとなく「あいつ死んだんじゃね」とか思ってたら、この間返信きて、それで久しぶりにあの家行ったんすよ。 でもピンポンしても出ねーんで、とりあえず敷地ん中入ったら、なんか庭師っぽい人いて。で、引き返そうかなと思ったらその庭師さんがわたしの名前呼んだんですね。そしたら、ぶふ(笑)、その庭師が「塗られ夫」だったんすよ。いや、お前庭師みてーな恰好してんじゃねーよと。コスプレかよと(笑)。 で、久しぶりだし、おもろいしでテンション上がっちゃって、ハグしにいったんですね。そしたら塗られ夫が「触るな」って言ってきて。え? って思うじゃないですか。ちょっと前まで変態プレイに付き合ってやったのにそれはないんじゃない? って思いますよね? したらあいつそそくさと出ていきやがって。で、わたしに「僕がいたってこと、友達に言っといて」とか言いやがって。いやいやと。こっちは頭ん中「?」なんだよと。で、あいつそのままどっか行っちゃったんですよ。マジで。 なんですかね。私なんか嫌われるようなことしたんですかね。なんか冷たい言い方だったんで気になっちゃって。それともあれですかね。ソーシャルディスタンス? 的な。「君がコロナに罹らないように」的なやつですかね。でも、わたしらちょっと前までは毎日会ってたわけですし、それはもう家族枠でいいんじゃないですかね。ダメですか。 「触るな」とか、そんなのないと思うんですよ、私。愛って触りあうことじゃないですか。「私はあなたを傷つけるかもしれないけど、私はあなたに触りたいの。あなたが私を傷つけるかもしれないけど、私はそれでいいの」って、それが恋愛じゃないすか。 あーあ、ちょっと好きだったのにな。
ノリ・メ・タンゲレ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2126.7
お気に入り数: 4
投票数 : 0
ポイント数 : 22
作成日時 2021-01-18
コメント日時 2021-01-24
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 5 | 5 |
前衛性 | 2 | 2 |
可読性 | 4 | 4 |
エンタメ | 4 | 4 |
技巧 | 3 | 3 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 3 | 3 |
総合ポイント | 22 | 22 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1.3 | 1 |
前衛性 | 0.5 | 0.5 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 0.8 | 1 |
音韻 | 0.3 | 0 |
構成 | 0.8 | 0.5 |
総合 | 5.5 | 5.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
コメントありがとうございます。
0現代版「イエス・キリストと〈マグダラのマリア〉」といった感じでしょうか。マグダラのマリアがデリヘル嬢なのはすんなり入ってきましたが、キリストさんがヤバいおっさんという価値の転倒と今風の語りが合っています。
1コメントありがとうございます。おっしゃるとおり、ヨハネの福音書20章11節からの話がモチーフになっています(「ノリ・メ・タンゲレ」はよく絵画のモチーフになるのではよく知られていますね)。最近読んだジャン=リュック・ナンシー『ノリ・メ・タンゲレ――私に触れるな』(萩野厚志訳)に触発されて書きました。
1これは笑うしかない(現役信者) マタイかな? マルコかな? 「あなたが私を傷つけるかもしれないけど、貴方に触れたい」というのは、神の座を捨てて受肉したあたり、お互い両思いということですね。てぇてぇ。
2イエス・キリストが下地になっている作品だとお恥ずかしながらあとでしりました。&さんの作風は色んな顔を持っていて、今度はどんな表情を見せてくれるのかとても楽しみになります。
2私も聖書の逸話が作り直される作品は好きなので、とても面白く拝読しました。 途中まで笑いながら。でも、最後真顔になりました。デリ嬢マリアちゃん(マグダラのマリアの生まれ変わりでしょうか)のこの言葉。 『「触るな」とか、そんなのないと思うんですよ、私。愛って触りあうことじゃないですか。「私はあなたを傷つけるかもしれないけど、私はあなたに触りたいの。あなたが私を傷つけるかもしれないけど、私はそれでいいの」って、それが恋愛じゃないすか。』 聖書だったりイエス・キリストの物語だったりはどうしても「イエス・キリストがすごかったんだぞ物語」として語られることが多いわけですが、私はある時期からイエス・キリストは機能不全家族出身の精神疾患手前のメサイア・コンプレックスの持ち主で、まあちょっとした超能力を持っていたのかな~と思うようになりました。ちなみに母・マリアへの愛情をこじらせたマザコンで、だから母を連想させるマリアという名前のつらそうな女性を見つけては救おうとするから、彼の周りにはマリアが十数人いるんじゃないの? とか。身もふたもない読み解き方ですけど。で、そのマリアたちのなかでも、特に娼婦で人の心の闇を見てきたこともあろうマグダラのマリアちゃんとか、堅苦しくない、普通の恋愛を彼に教えたかったんではないかとね。で、その言葉を&さんの作品のマリアちゃんが、変な人をいつの間にか真剣に愛してしまった一人の娼婦として呟いているのが、なんだかものすごくじ~んときました。 笑えたしじ~んときました。面白い作品をありがとうございます。
5風俗嬢の独白でだらだらと語られるどうでも良い話が、都会の片隅感を醸していて良い味を出していると思います。
1コメントありがとうございます。現役信者の方に笑っていただけたのでしたら一安心です(笑)
0ありがとうございます。かなり意識して色々な変化をつけているので、そこを好意的に受け取っていただけるのは嬉しいです!
1コメントありがとうございます。最近読んだ本に「キリスト教は触れる宗教である」というような記述がありました。何かに触れることで奇跡を起こすキリストと、あらゆる男に触れられたために低く見られるマグダラのマリアというのはある意味対照的なのかもしれませんね。病理についての考察も興味深く拝読しました。
0コメントありがとうございます。「悲劇のような喜劇のような」というのは嬉しい感想でした。僕はチェーホフの戯曲が好きなのですが、彼の作品(特に「かもめ」「ワーニャ伯父さん」)は悲劇であり喜劇でもあるような気がします。そういった作品群に少しでも近づけていれば嬉しいです。
1コメントありがとうございます。「都会の片隅感」という言葉が出てくるのは意外でしたが、面白いですね。
1タイトルをググったらイエスとマグダラのマリアのエピソードらしいね。 聖書的な「愛」と現実の「恋愛」を対比したような、そしてとても軽快な作品。 節の頭に「あ、」「で、」「あーあ」とか感嘆詞を置くことで軽快さが引き立つ効果があったように思います。
1コメントありがとうございます。「軽さ」は忘れそうになりがちですが、時々思い出しては意識するようにしています。
0口語での会話がとってもおもしろかったです
1コメントありがとうございます
0コメントありがとうございます。人が生きていく過程で、個人の「名前」はシンボルとしての意味を獲得していくのかもしれませんね。
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