●鎌子
じゃりじゃりとおとをたててひんまがる
路地裏の猫又
足裏からゆらりとたちのぼってくる
ベロニカの色相
短い踵をたくし上げた
ヒールの影は
瓶ビールに甘く歪んでる
指で挟んで溶かした
ココアシガレット
踏みつけて壊す
遊びをした
机の引き出しにしまった
二つ折りの携帯電話
ハンマーで壊したら
高校時代のプリクラが出てきた
小さい顔の群がりにむしゃくしゃして
次の燃えるゴミの日に出した
●霧乃
顔が覆われてしまうくらい
膨らんだ泡でふやかした肌を
さらにぬるま湯でとうめいにしたら
後は彗星のように
水道水で流すだけ
今日も寝坊したから
いつも通りの服装で街に出る
家に帰る時に
つけていた指輪の位置を間違えたことに気がつく
簡単な5月
五月雨はいつも蒸し暑い
だんだんと薄着になる
動物園の飼育員さん、
こんにちは
公園の鯉に
きつい匂いのついた
100円の餌をあげる
みたいに、
笹をあげるね
と、なんとなくインスタにあげた
●狂夏
おじさんの妄想につきあわされて
つかれた
ファミレスで寝る
というか、外出したのが久しぶり
というとの金がない
文句を言うだけの時間はある
だから呟いてしまうけど
別にたのしくはない
過ぎ去る店員を横目で追う、
それだけ
ドリンクバーを頼んだけど、
何も飲まなかった
そもそも、
喉は何も疲れてない
唐突に電話したくなった
ラインを送っても
誰も返事してくれない
既読機能は早く滅びろ
というか
周りがやめてしまったんだから
だれも見ないか、そりゃそうか
とりあえず呟く
そしていいねがついたから遡る
遡る事に飽きて投げ出す
人間にうまれてこなきゃよかった
死んでもいいや
●栗菜
夏だけど
未だにこたつを出している
水出しの麦茶を
1日1本1リットル
寿命をかけて飲んでいる
飛行機雲が
のびていく
照明が差す
ことのない部屋
久しぶりに
隣駅を歩いたら
パワーストーンが売っていた
バイオタイトを買ってしまった
これが1000円くらいの豊かさか
眺めてる、
内にマンションの皆んながねたから
私もねた
鈴虫が聞こえる
●系羅
髪を短くして、
ワインレッドのメッシュを入れて
レディースのクラッチバックを片手に
寂れた故郷の街並みを歩く
半年に一度里帰りして、
姉の息子と手を繋いで
昔遊んだ公園のブランコを漕ぐのが
好きだった
微かな皺の刻まれた
花柄のウィメンズシャツが
より深くなっても
また帰りたくなる
帰りたくなく頃には
誰もがこの町を捨てて
いなくなっていたとしても
●孤子
こどくとかいて孤独
みんな静か
静かなことはいいこと
そしておしゃべりはとても
たのしいこと
たまに自転車を漕いだり
ちょっとしたワインを飲んでみたり
ふと入った映画館で
あくびをかいたり
涙を流すこと
日々の生活で感じるオンショア
膝を抱えて暗闇に浸るオフショア
波打つ綱渡りの雨の中で
一人で傘をさしていた
誰かに入れてもらう必要は
特に感じないけど
Twitterを開いて撮った写真を載せた
珍しく加工しないでのせた
ひとつだけいいねがついた
だれがつけたかなんてどうでもよくて
スマートフォンの電源を落とした
線路の上に壊れたビニール傘が
転がっていた
●過子
もう一度書かれたカ行の文字
私がこれをかいたのかもしれないし
そうじゃないのかもしれない
ただ、
そんなことはどうでもよくて
思い出すように
またかいてしまった
後書きのような振り返り方をしているのに
誰も気づくこともなく
気づかれることもない
具体的なことは何もかいてないので、
誰かに聞いてもどうしようもないけど
ふたたび
といかけてしまう
ああ、
此処はどうでしたか?
水浸しの台所で
電気が切れた台所で
錆びた包丁を持って
自分の指を切り落とそうとしなくていいのに
と推敲するように
明かしている
最後にこうしてかいている
(そんなことする必要なんてどこにもないのに)
裏庭に咲いた、
ハルジオンの花
摘み取ったら
罪滅ぼしになるかな
なんて、
小さな呟きを込めても
駄洒落で押し込んでも
韻を踏みつけても
イメージで溶かしつくしても
落書きの線描で顔を覆いつくしても
更に冷たくなっていくだけなのに
こんなもの、
書かなければよかった
作品データ
コメント数 : 4
P V 数 : 1642.6
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 7
作成日時 2020-09-30
コメント日時 2020-10-03
#現代詩
#ビーレビ杯不参加
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 2 | 2 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 7 | 7 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0.5 | 0.5 |
技巧 | 0.5 | 0.5 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0.5 | 0.5 |
総合 | 3.5 | 3.5 |
閲覧指数:1642.6
2024/11/21 22時51分26秒現在
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エッジが効いてますね! それぞれのどうしようもないものが良く表現されています。 >水出しの麦茶を >1日1本1リットル >寿命をかけて飲んでいる これとかすごい状況ですよ。
1俺の乏しいポエム経験によると、たぶん00年代になったあたりから、何すかその名前!って感じの、変な(特に)女性の名前がポエムにちょくちょく現れるようになった。ライトノベルが想像力に影響するのか、それかエヴァ的な君と僕の世界観の流行のせいなのか。いずれにせよその奥の層にある根本的な社会の感情というものだろうが、ともかくオリジナルな名前というのは、よくある名前とは違う。どこか特殊性みたいなものがつきまとうのだ。入れ替えることのできない何かが、その特殊な音に込められることになる。相手に名前を教えると魔法をかけられてしまうのは、西洋の物語によくある話の型で、そこにはある示唆が隠れている。と思う。つまり何が言いたいかというと、変な名前のキャラがでてくると、どこか作者、あるいは、地の文の声が、そのキャラに対して親密な情やトーンというようなものを作品に添える。と思う。 翻ってこの作品は、カ行の変な女子たちの名前は、鎌子、霧乃、狂夏、栗菜、系羅、孤子、過子で、か、き、き、く、け、こ、か、という順番で並んでいる。あいうえお順で考えればなぜか重複しているものもある。なぜシンプルに、かきくけこ、でないか?それは分からない、まあそうでなくてはならない理由もないんだけど。すこしヒントになりそうなのは、過子の、もう一度書かれたカ行の文字、という書き出しと、こんなもの/書かなければよかった、という書き終え方だが…… 名前がたくさん並ぶことによって、ある同時的な、ひとりの世界でなく、それぞれの寄り合いとしての世界が構築されている。しかしやっぱりその意趣はよくわからない。というか書いてあることもぶっちゃけよくわからない。というかすごくよくわかる部分とぜんぜんよくわからない部分がごちゃまぜになっている。だから、そのカオスチックなイメージが剥落して、なんだか切なくて、ものうい感情だけが伝わる。それはテキストとしてのクオリティがあるからだと思う。 これはこの前、夕狩に言ったことなんだけど、たぶん文体にも、早熟や晩成といった、ある程度の完成を見るまでに、時間差があるんじゃないかな。っていうこと。考えれば当たり前だ。みんなそれぞれの文体がある。夕狩の文体は晩成だったんだなあと思う。百均の文体もそういうことが言えると思うな。何食ったらそういう複雑な文章になるのかな、と俺はずっと思っていたが、洗練され、その複雑性を過不足なく表現している様をみれば、ただただ自分の不明を恥じるしかない。俺はできないけど逐語的な解釈をすればもっと興味深いものになるだろう。やっぱり人の読み方ってのはさ、その人の書き方なんだね。
1羽田恭さん コメントありがとうございます! エッジが効いてるとのことで、嬉しいです。 エッジ効いてないのに短く書いてもしゃあないと思ってるんで、ほっとしました。敢えて描写する意識削ぎ落としてる所何点かあるんで、ちょっとだけうまくいったかなとおもってます! 引用いただいた部分が、一番最後に推敲した部分なんですよね。栗菜が一番難しかったです。あんまり気取らないように、うまく調整するの大変なので嬉しいコメントいただけたかなとおもってます。 ありがとうございました。
0パスワードを忘れ続けるさん コメントありがとうございます。 なんか頂いたコメントの方が仕上がってる文体やん。。。みたいな感じなので、文体に触れていただけたのは嬉しいというよりは、むしろ恐縮です。みたいな気持ちになりました。ともあれ、これだけのコメントいただけたのは素直に僥倖です。ありがとうございます。 文体については、百均の名前にしてからより追求しているテーマであるので、あんまり僕も記憶がよくないですので、誰か触れていだたけていたら申し訳ないのですが、多分パスワードを忘れ続けるさんが初めて言及してくれたのかなとかなんとか思っております。ですので、繰り返しになっちゃいますけど嬉しいです。 結局の所今僕が出来る最前線の行為は、自分の身の丈に合った文章に預けるしかなくて、それは、語彙力であったり、知識であったり、細やかな文章のテクニックとは別のベクトルの要素だと思ってます。無論それは、内容だとか、自分の中のナラティブな感情の肥大さとか、それらを突き放してみてしまおうとする、ダークトライアドな気持ちっていうんですかね?そう言ったもののすり合わせの最前線みたいな部分ですね。 そこら辺をうまく出し続けることみたいなのが百均でやっていることなのかなぁとか、コメント読んで思いました。そこから派生させて色々百均を語り直す事も可能かもしれませんが、大抵の場合陳腐になるし、それが出来るなら正にそれを書いた意味はまじでなくなってしまうので、控えようとは思いますが、色々な所で刺激をいただいたということはお返事としてかかせていただきます。 無論読み返すと色々詰めが甘いなぁと思う箇所ばかりなので、これからも意識する、せずとも書いていくしかありませんね。 ありがとうございました。
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