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t(1)=【映劇の看板はもう見えない。“愛がなんだ”と滲みゆく汗。】 — δC — 靴底すら存在してはならない領域に 敷き詰まっているたいいく座り。 ちぐはぐになろうとする夜のために アスファルトは規制を受け入れている。 浴衣に染みついた可視光の余韻、 無限へと解放される炭酸のみじろぎ、 肩と肩とを隔てる一枚の酸素、 喧騒に馴染めない掌のふたつ。 明るいものだけが 一度きりの夜を構成していくから、 ほころびは濃くなっていく。 ぼくや、女性や、背景に溶けたみんな、 もちろんむきぶつからも、 いまか、いまか、がじわじわ湧き上がって。 翔けあがる光線、 飽和の予兆。 白夜がくる。 ─ δV ─ 照り返す白線を挟んでとことこ。 雲はいつも波しぶき、津波のようにまだ彼方。 遠回りは無限遠と無意味の重なりから生じた。 無限遠は真円のような透明さだから、 遠回りはいつだって手に入らない。 と、雲が怖い蝉たちのぼやき。 めいっぱい青空な爪の、その先端が、 くすんだアパートとまっしろな一軒家の間を見つめた。 通学路の標識から垂れ落ちた影が、 アスファルトの波間で揺れる。 熱風にからまるローズコロンのにおいが、 ふやけた脳幹からはなれていく。 白線にためらって、越えて、 陰にとけゆく髪を追う。 再び広がりはじめた、街。 ─ δP ─ ただしい街灯は、 夜と道、僕と彼女の混和を許さない。 羽虫を遠ざけて点滅する街灯の裏拍、 ぶつかった小指と甲。 ─ δT ─ なんか風流なことしたい、なんて 湿った風に流されたつぶやき。 コンビニの花火セットはたった100円で、 でも2本しか線香花火が入っていなかったから、 妙にそぐう爆心地が必要だった。 灼けきったアスファルトの上、 苗字がかすれて読めなくなった木札の前。 過ごしやすい夜は街灯もぼうっと涼んでいるから、 四等星もおそるおそる覗いている。 新品のライターは敗北の条件なんて口にせずに、 二つの火球をつくりだした。 火球たちは秘めた衝動を徐々に露わにしながら、 おのおのがやりたいように火花をやりとりして、 しかしその軌跡はねじれのままに、 火球は収束していく。 最近の線香花火は落ちない、 だから勝ち負けはつかないんだよ。 でも、そんなこと、 ずっと忘れたふりをしていたかったから、 左手に飛んだ火の粉に 気がつかないふりさえしたのだ。 t(2)=【太陽に腹を撫でさせる蝉を原点にして、弧を描く四つの足跡。】 ・・・・・・ ─ ΔS ─ ぜんぶ、ぜんぶだ。 ぜんぶが夏。 小さな小さなちがいを ふらついたうすらい足跡に あやうく残しながら、 あるく、 あるく。 あの人が紅葉の底に浮かぶあいだに、 ひとつひとつ祈るようにしながら 足跡から拾い集めたちがいが、 夏そのものになれ。 夜のように透いたアスファルトを 恐る恐る踏みしめながら、 重ねつづけている。
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作品データ
P V 数 : 2101.1
お気に入り数: 5
投票数 : 5
ポイント数 : 9
作成日時 2020-09-03
コメント日時 2020-09-05
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 4 | 4 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 9 | 9 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 1.3 | 1 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0.3 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0.3 | 0 |
総合 | 3 | 4 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
- 切り取られた部分的数式および完成形の解釈について (やめました)
なるほど。数学に詳しくない素人なのであれですが積分してるのですね。 δCからδTまで一つ一つ小さな思い出を描いていて最後ΔSで合計してるのかなと思いました。というより、ΔSはエントロピー変化を表しますし、VとPとTを使う数式はボイルシャルルの法則しか使わないし、これは数学というより物理現象の数式なのかななど考えさせられました。すごいです。
2くおんさま、はじめまして。 コメントありがとうございます。 > δCからδTまで一つ一つ小さな思い出を描いていて最後ΔSで合計してるのかなと思いました。 まさに、といった感情です。 ありがとうございます。 また、記号ひとつひとつにも意味を持たせてあるという点についても、深く考察していただいて大変嬉しく思います。 ΔSやボイルシャルルの法則に関しては私の初期構想とは一歩違う見方で、非常に興味深い解釈だと感じます。 たしかに、「δは微小変位量の記号である」とご存知の一部の方からするとそれらの知識は常識といった感覚もあると思いますので、前提とする知識の有無によっても読み方が変わる作品かもしれません。 一部とっつきにくいような印象のある作品かと思いますが、受け入れてくださって大変感謝しています。 興味深い考察をありがとうございました。
0【このコメントはくおん様の批評文に対する返信です。本来作者自身が明かすべきでない部分まで触れますので、苦手な方はご容赦ください】 重ねての返信失礼いたします。 批評文を書いていただいたこと、先ほど気づきました。ありがとうございます。これほどまでに読み込んでいただいて恐縮するばかりです。 さて、本来ならば批評文のコメント欄で連絡差し上げるべきかと存じますが、匿名で投稿させていただいている都合上、一応こちらで名前を伏せた状態で失礼いたします。 非常に興味深い批評文でした。 先ほどの返信でも申し上げましたが、ボイルシャルルの法則との関連性は私としても盲点でした。 夏、という季節は間違いなく開放系であるにもかかわらず、視界の中の物体・現象だけで世界が完結しているような閉塞感を覚えることがあります(不思議なことに息苦しくはないのですが)。 その点、特定の空間の気体状態を記述するボイルシャルルの法則は、確かに私がまま感じる「夏の密閉性」を記述するに十分であるような気がしています。 密閉空間における状態の微小変化、それこそが夏である。そのような解釈は私のコンセプトと通底しつつもそこまでの経路を異とするものであり、非常に興味深いものでした。 本来この作品は当初の積分というコンセプトを保持しつつ、記号知識がない方でも詩文と記号の雰囲気で楽しんでもらえたらいいな、という意図をもって制作しました。 数学記号は雰囲気の演出くらいに捉えてもらえれば、と思っていたのですが、ここまで構成を理解してもらえると、どうしても少しだけ喋りたくなってしまいました。 作者の自発的な説明は興ざめ、というのは重々理解しておりますが、今回だけ一部だけご容赦ください。 制作開始時、本作はくおん様の解釈と異なる構想が一部存在しました。それを以下に示します。 ・t(n)はTimeを表現したかったということ ・δCはdelta of Concentrationを表現したかったということ ・Sだけは、作品中においては科学的意味を一切持たない独自記号であること(ΔSだけで熱力学の話題に到達すると思っておらず、少し思慮不足だったと反省しています) つまり、私が想定していた式としては ΔS=∫(t(1)→t(2))δCδVδPδT という形になります。 科学者に見せたら泡吹いて倒れると思います。 科学への造詣が深い方だと感じましたので、うれしくなって少々しゃべりすぎてしまいました。 詩文は作者の手を離れた時点で読者のものですので、私のこのコメントはくおん様の批評を受容しないという表明では決してなく、あくまで2つの解釈を比較しようという意図のもとしたためました。 くおん様のおかげで、作品への解釈を深められたようでうれしく思います。 繰り返しになりますが、批評文をありがとうございました。
1批評文読んでいただきありがとうございます。ここまで解説して頂き、大変嬉しい限りです。なるほどと色々と紐解けました。 なのであの批評文について、少し裏話を。 実をいうとtとCだけは解釈に自信がありませんでした。 tは単純にtimeを思いつかず、Cは批評文で書いた気体定数が気体の種類によって、ちゃっかり変わるのでまとめて定数として良いのか?というより変数の中に定数がいるという違和感がありました。 空間と温度を示すボイルシャルルの法則は改めて言われると夏にフィットしてる感じはあります。冬だと萎んでしまいそうな。ΔSは多分積分のあれだろうなとは思いましたが何処かで見覚えがあるなと思って調べたら、エントロピーだったのでもしや?と完全に熱力学に捉われておりました。 私が化学系出身なものでB-reviewで数式ましてや熱力学などを感じられることはないと思っていたので今回は興奮してここまで長々と批評文を書いてしまいました。本当に良い刺激になりました。ありがとうございます。
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