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美の原点
美を求めるものよ。美とは狂気である。言葉では語り尽くせぬ、人の智慧を超えた先にある者どもが語る言葉が、その姿が、その眼差しが、美の形を取って我々に響くのだ。 お前は巴里で、美しき絵の前で涙を流した。あれは絵の精緻さに、筆遣いの巧みさに涙したのではない。過去の画家たちにその精緻さを、時計の如き技巧を強いた狂気に恐怖して涙を流したのだ。 お前は維納で、壮大な演奏の前に涙を流した。あれは音の調和に、荘厳さに涙したのではない。作曲家に、完璧とも言える音の組み合わせを体を、命を削ってまで考えさせた狂気を畏れて涙を流したのだ。 人は恐怖を愛している。そして人は美を、狂気を求める。己の理解の、己の世界の外にある暗がりの中より出ずるものに怯え、求めるのだ。 全ての美と狂気を理解することはできない。明かりを灯し、夜を追い出したとして、己の中より這い出る己ならざるものをどうして追い出し得るだろうか?旅路の長さすら測り得ぬのに、どうして狂気を測り得るだろうか? 恐れよ。その時に流す涙こそ、お前が美を知った何よりの証左である。嘆くな、狂気を知り得ぬとも美は知り得るのである。狂気の姿を見たものはここに居ない。みなこの先へと消えていったのだ、狂気の腕の中へ。 振り返り立ち去るが良い。しかし忘れるな、去り際に狂気の口がお前に囁く言葉を。暗がりに沈む狂気の気配を。お前に刺さる狂気の目線を。それこそがお前の求めたものである。そして恐怖せよ。そうして初めて美を知るのだ。
美の原点 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1092.8
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投票数 : 0
ポイント数 : 5
作成日時 2020-01-21
コメント日時 2020-01-21
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 5 | 5 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 5 | 5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
読みごたえがありました。 「芸術とは狂気である」という言葉を見たことがあります。誰の言葉だったか…。 >人は恐怖を愛している。そして人は美を、狂気を求める。己の理解の、己の世界の外にある暗がりの中より出ずるものに怯え、求めるのだ。 この連が特に好きです。
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