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相対性地獄理論-日記
朝。私の体の中には密度の大きい夜がまだ潜んでいて、きっとそれが体を重くしてるんだな。気怠さを切り裂くようにしてカーテンをひらけば、朝日すらも疲れたみたいに日に日に起き上がるのが遅くなっていて、多分ですが、間もなく冬至なのでは? 季節はあっという間に過ぎ去っていくけれど、私はいつまでも平行線の上に横たわって、宇宙、点O上で永遠に静止しながら地球の公転を眺めている気分。でもはっきり言って、顔を洗えば、歯を磨けば、制服を着ればそんな思考もどこか薄れて消えてしまって、後に残るのは女子中学生。全ての大人が欲しがるような物を軽々と浪費する青春デイズ。そこそこに楽しくて辛くてエモい生活を送って、ウィーアーハッピー世界。そう叫べるくらいには元気。 今日も朝ごはんがシャケで、何かの命を消費して生きて行くことを、平凡。と思えるくらいには、私は麻痺してしまっているのだろうか。お母さんは今朝もヨガをしていて、チャクラを開いて健康増進。ユーチューブから流れるうるさいヒーリング音楽withうるさい広告。 テレビで特集されたのはこの前の台風の被災者たちで、私の地域は平和で良かったな。なんて、本当にそうなの? 私みたいな人なんて、生きていても、いなくてもどうせ大して変わりはしないことは十分に知ってるし聞き飽きてるから、テレビでは被災地出身のスポーツ選手が被災者にエールを送って、それは私にはエールは送られていないということ。に感じてしまう、悪い子、だなんて知ってる。 思想の自由が私に与えてくれたのは、現実の不条理で、私は今日も、弱くもなく、強くもなく、1万人単位、もしくはそれ以上で扱われるような準・人類として生きてて、扉を開いて今日の天気予報。そういえば、最高気温9度。誰にも平等に、こうやって冷たい風が吹き付けられるような瞬間が、肌の震えの行く末を想像する瞬間が好きだったけれど、それすら嘘で、今北極では、シロクマさんが困ってるんですってよ。そう、私と同じくらいの女の子が叫んでるのを見た。その子は性的マイノリティでもあるんだって。かわいそうに、無敵に生まれたんだね。心の中でだけ、あくまで、心の中でだけそう思って。 さあ、駆け出せ、少女。女子中学生。全身全霊で、今日も学校。嫌だなあと思いながら、行ってしまえば平然と友達と笑い合ってしまう自分が嫌いだ。私は何者でもない、なんて、ツイッター見れば何万人も同じこと思ってるけど。透明で、それでいて、少女で、中学生で、思春期で、普通だった。そういう何重にもなったスカートで自己防衛をしている。私はその度に、冬の空気に溶け込んだ何者かの命に怯えて鳥肌を立てて。 好きな季節はなんですか? 冬です。雪が降るから。雪は、地上で最も冷たい愛の象徴だと、妄想をするのは危険。臆病さが、時空を歪ませて一瞬が、1秒に、1分に、1時間に、永遠に膨らんで、その分だけ私は縮小してしまう。ちっぽけた善悪とか好き嫌いとか、そういう命題の精算が私というものなら、消えてしまった方が楽だと、思ったのはいつからだったっけな。 通学路が姿を変えないまま距離だけが学校に近づいて行く。おはよう、私の優しい友だち。けして、親友とは呼べないような友だち。それでも友だちと名付けて、今日も会話をする。 「おはよ」「おはよー」「寒いね」「うん、やばいよね。体育館とか絶対凍え死ぬって」「それ。昨日の朝練とか、ついにマイナス行ったらしいよ?」「本当!? もうさあ、そんな中でバスケとかやったら凍傷になるじゃん。痛いってレベルでなく生死に関わるタイプの奴じゃん」「わかる〜」「せめて朝練さえ無くなってくれれば……」 白い巨大な建物との近づきがついに最高潮に達して、やがて私と同化する。今日も平凡な1日が始まって、きっと終わるんだろうね。なんて、未来の想像ができない。それは、未来がまるで今みたいな顔をして私を見つめるから。いたたまれない気持ちになって、自分が自分であることの証明、美しい鳴き声で表現できるような動物に生まれたかった。 ここは地獄だ。 私は一人で、そう思って、また同時にこの世界のどこかでは、厭世的な若者が同じように、思っていて、また同時にこの世界のどこかでは、私みたいな普通の人が、同じように、地獄だと、思っているんだろうね。隣の君も、思っているのかもしれないね。その事実が地獄です。地獄が、地獄と名づけられて、一般化されて、私たちがそれを自衛の道具みたいに振りかざすこと。私は何者でもない、という考えそのものが、私を何者にしている。実は、世界中で、もっと、もっと地獄みたいなことが起きていることを知っています。もっと、もっと苦しんでいる人がいることを知っています。破廉恥ね。誰か、私を罵ってください。この相対的地獄に、何か、絶対の終わりを、与えてください。 嘘よ。今日もどうせ、のうのうと生き延びてしまうのだから。
相対性地獄理論-日記 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2310.0
お気に入り数: 2
投票数 : 0
ポイント数 : 27
作成日時 2019-12-15
コメント日時 2020-01-06
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 8 | 5 |
前衛性 | 4 | 2 |
可読性 | 4 | 2 |
エンタメ | 4 | 1 |
技巧 | 4 | 3 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 2 | 2 |
総合ポイント | 27 | 16 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1.6 | 2 |
前衛性 | 0.8 | 1 |
可読性 | 0.8 | 1 |
エンタメ | 0.8 | 1 |
技巧 | 0.8 | 0 |
音韻 | 0.2 | 0 |
構成 | 0.4 | 0 |
総合 | 5.4 | 5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
ごめんなさい。これを詩に昇華させることが今の私にはできないので、日記、短編小説、エッセイとしてお楽しみください。よろしくお願いします。
0こんにちは。作者の方は今現在中学生なのでしょうか。もしそうなら、とんでもないリアリティが迫ってきます。もしそうでないのなら、その鮮度ある魅力は失われてしまうように思えるのですが。 詩の「中身」の一つとして考えられるのは、この世の地獄っぷりをその人に即して明らかにすることだと僕は思います。幸福に比べて不幸のあり方はヴァリエーションに富んでいるそうですから。中学校時代の、ある種の不幸は、僕自身の生活に即してみると実に幸せな不幸だったと思います。この作品を読んでそんな感覚を思い出しました。
0右肩ひさしさん ありがとうございます。私は現役中学生です。
0夢うつつさん、僕が中学生の頃にはとてもここまで自分の生活を表現できませんでした。語彙力、しっかりついていますね。自分を、ある意味で、嫌味なく対象化できていることにも驚きました。 「白い巨大な建物〜動物に生まれたかった」は大人でもなかなかこうは書けません。本当に中学生ならどんな人の本を読んでいるのか気になります。 詩を書き続けてください。いや、書き続けなくてもいいから、しっかり自分のことを見続けてください。上から目線なものいいですが、ついそんなことも言ってしまう魅力を持っています。
0右肩ヒサシさん ありがとうございます、めちゃ嬉しいです。ヘルマンヘッセが好きです。これからも詩は多分書きます。
0率直に、とてもうらやましいと思いました。私が中学生の時にこんな語彙力はなく、渦巻くだけの思考を燻ぶらせることしかできなかったので。私はもう少しで高校生を終える身でありますが、その年齢になった時の貴女の作品がとても見てみたいと思うような作品でした。(?重複っぽいですね) 普通から外れたい人が大衆を占めてきている今の世をガツンと書かれているなあと思いました。 そういうことを書いている作品はほかにも星の数ほどあるのに、リアリティや貴女独特の言葉選びのおかげでしょうか、少なくとも私には埋もれる作品には見えない輝きがありました。
0とてもよかったです。好きです。コメント見たら、現役の中学生なのですね。中学生でこれだけ書けるってすごいことだ。と、素直に思いました。読めてよかったです。
0おなじく。 自分の時間軸を戻してみたところで、このような表現はできなかった。 ただただ言葉をパズルのように組み立てるのに精一杯で、自分ではなく、結局は借り物だったように思う。 心がワクワクしました。 ありがとうございます。
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