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孫兵衛の顔
怒れば父に似ていると言われ 黙っていれば父の父に似ていると言われ 笑っていると母に似ていると言われる 母方の田舎には老人ばかりで 外を歩けば何処のもんやと わらわらと集まってきて ほお、ほお、ほお…… なんとも孫兵衛の顔じゃ そうだ孫兵衛顔だと母の父に 似ているとうろ覚えの祖父の顔を 押し付けてくる、その顔たちが ひどく安心しているから ぼくは何も言わず笑う そんな顔がひどく孫兵衛らしい 孫兵衛の家は祖母で終わる 跡継ぎの叔父は早くに死んだ 怒れば父に似ていると言われ 黙っていれば父の父に似ていると言われ 笑っていると母に似ていると言われ そういえば、泣き顔は誰に似てるのか 自分ではわからない、やはり孫兵衛の顔か 孫兵衛の孫は孫兵衛の顔らしい ひとり、山の茶畑にのぼり ごとん、と斜面に居座る岩に腰をおろす この茶畑は百年も前に 何代目かの孫兵衛が植えたものらしい その茶葉を幾らか摘んで 春は新茶、秋は番茶を 楽しんできた ある画家が この谷の土を喰い この谷の風に吹かれて生きたい、と言った 彼はぼくにとっては栃餅をくれるおじさんで 絵がうまい人だった いつだったか、幼い頃に田舎で飼っていた クロという黒猫の後を追っていると 遠くでおじさんが手を振っていた 自宅の廊下に飾られている おじさんが描いた田舎の風景に 黒猫と馳ける少年がいる あれは孫兵衛の孫だろうか 画家はこの谷で死んだ この谷の風に吹かれて生きて この谷の土を喰い、やがて死んだ この岩に座って 風の音を聴いて 村を眺めていると それも悪くないと ほんの少し、この地に根を張ろうと 心が動くのだけれど、数時間後には 祖母に見送られ谷を出て行く 町ではだれもぼくを 孫兵衛とは呼ばない
孫兵衛の顔 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2417.7
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 21
作成日時 2019-11-16
コメント日時 2019-11-25
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 7 | 4 |
前衛性 | 1 | 0 |
可読性 | 6 | 4 |
エンタメ | 3 | 2 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 3 | 2 |
総合ポイント | 21 | 13 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1.2 | 1 |
前衛性 | 0.2 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0.5 | 0.5 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0.2 | 0 |
構成 | 0.5 | 0.5 |
総合 | 3.5 | 3.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
沙一 様 ご指摘の箇所はまさにその通りだと思います。一連の流れとして一、二などと分けてしまうような工夫してもいいですね。 ただそこからの後半を含めて完成品だと思うのは、後から鑑賞しているとこの詩は日本の村落共同体?がまさに陥っている状況で血は繋がっているが外からやってきて、去る他者を描いているために欠かせないのではないかと感じたからです。分けて書けばいいのだけれど。 ちょっと哀愁が支配的というのは僕の悪い癖かな?
0タイトルがまず面白いですよね。 そして田舎に住んでいるぼくにも覚えのある内容が書かれていて、可笑しかった。 それが >孫兵衛の家は祖母で終わる > 数時間後には/祖母に見送られ谷を出て行く というあたりで主人公の心が揺れ動く背景がわかって、後半の画家のくだりの意味が染みてくるように感じました。
0afterglow様 画家は実在の農民画家で水上勉さんなどとも仕事をされていた方でした。栃餅が本当にうまかった 笑。タイトルは自分でも結構、お気に入りです。 yamabito様 散文詩的、たしかにそうかもしれないです。最近は特に散文の可能性を探っているので。この詩は抽象表現や比喩を減らして平易な言葉で書こうという課題を課して書いたので余計にそうなってる気がします。 たぶん、僕は難しい哲学的な思索よりも生きていくなかでのことしか書けないのだと感じています。そこがひとつの長所なのか、限界なのか。悩ましい。 コメントありがとうございます。
0二連目、三連目の「らしい」、四連目の「だろうか」はもったいない。語り手の心の動きの表れとしてはわかりますが、言い切ったほうが全体が引き締まると思います。 導入のしかたが良いです。一人語りから具体的に移行していくところ。落語の枕から内容みたいに違和感なく語りのなかに入れました。 語り口が淡々としていて、湿っぽさも感傷もかんじさせないところが好きです。孫兵衛のマチの人間ぽさがでていて。
0孫兵衛と言うインパクトのある名前。水上勉さんですか。散文の可能性と散文詩とは関係があるのかないのか、わかりませんが、詩の可能性を追求していると思いました。
0藤 一紀 様 全体の引き締めと自然な心の動き、さてどちらを選ぶか難しいところです。改稿するときに考えてみたいと思います。 孫兵衛の孫は結局、町の人でしかないんですよね。田舎に属してないけど繋がりはある。記憶や血縁。断ち切れないものに後ろ髪を時折引かれるようです。
0エイクピア 様 詩の可能性かはわかりませんがこれを書いた時は頭だけで考えた抽象的な詩に陥らないという課題もありました。散文の可能性と書いたのはあくまでも自身がどれだけ散文的に書けるのか、ということです。書き方が悪かったですね。失礼しました。 詩の可能性。大きな話しですがチャレンジはしていきたいものですね。
0私も「孫兵衛の孫は孫兵衛の顔らしい」という〆でも良かった気がしますが、 「町ではだれもぼくを 孫兵衛とは呼ばない」 を見てしまうとこの後味を捨てるには惜しいなあという気もします。 インパクトのある孫兵衛という名前のリズムと、そこに流れるゆったりとした情緒が美しいです。
0楽子 様 分割して連作にするなりすればまた違うのでしょうね。地縁血縁みたいなものば良くも悪くも、色々と考えさせられるものですね
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