編み物 - B-REVIEW
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PICK UP - REVIEW

ことば

ことばという幻想

純粋な疑問が織りなす美しさ。答えを探す途中に見た景色。

花骸

大人用おむつの中で

すごい

これ好きです 世界はどう終わっていくのだろうという現代の不安感を感じます。



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編み物    

君はある日から編み物に熱を入れはじめた はじめ一本だった糸を 互い違いに雄雌として名付けて それらで淡々と まぐわいを繰り返すこと それがたまらないのだと彼女は笑っていた はじめ きみが狂気にとりつかれたのではないかと思って 編まれたものをぼくは ハサミでびりびりに引き裂いたりもした 事実、かぎりない交配の果てに生まれたものは おどろおどろしい化け物ではなく ただの帽子やマフラーだったのに それを口にするたび ぼくらは殴り合ったりもした ぼくがその部屋を出て行ってから数ヶ月経つ 一人で生きることはそれほど 難しいことではないらしいが 自室はいつまでも片付かない たとえば皆に多角形のパラメータがあったとして くぼみを削ることで鋭さを誇っていたのは ぼくらくらいだったと思う そのくらい ぼくらは狂っていたと思いたい 人より少し 頭が弱いだけの ある日 強い酒でもなければ見ないほどの 愛おしい夢を見た 君の編む赤い糸に うなじを縛られていた それを悪いものではないと思いながら ぼくはゆっくりと 透明になっていった 彼女は今も 誰にあげることもかなわないマフラーを 捨てずにいるのだろうか 痛みに鈍感な性分だから 訳の分からない どす黒い毛玉になり果てても 君はそれを 歯磨きよりも良くできた習慣で 洗濯機で洗い続けるに違いない 一人暮らしに収まった ひどく肌寒い部屋の中で


編み物 ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 5
P V 数 : 2082.4
お気に入り数: 0
投票数   : 0
ポイント数 : 33

作成日時 2019-08-19
コメント日時 2019-08-20
#テキスト #アドバイス募集
項目全期間(2025/04/10現在)投稿後10日間
叙情性71
前衛性50
可読性71
エンタメ00
技巧83
音韻00
構成60
総合ポイント335
 平均値  中央値 
叙情性1.80.5
前衛性1.30
可読性1.81
 エンタメ00
技巧21.5
音韻00
構成1.50.5
総合8.32.5
閲覧指数:2082.4
2025/04/10 01時54分47秒現在
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    作品に書かれた推薦文

編み物 コメントセクション

コメント数(5)
舞浜
舞浜
(2019-08-19)

1、2連の「君」と「僕」の狂気、そして最後の連の狂気の描かれ方はとても鋭くこころを掴まれました。 「編み物」というあたたかい、言い換えれば、情念のこもったあつくるしいイメージを、最終的にどす黒いひんやりしたものに落とし込んでいるところが、とても良いです。そして、この作品を冬ではなく真夏に発表されているところにも、なんとなく狂気めいたものを感じてしまいました。

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舞浜
舞浜
(2019-08-19)

すみません。1行目、「僕」→「ぼく」に訂正します。失礼いたしました。

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鈴木歯車
(2019-08-19)

舞浜さん、コメントありがとうございます。なんとなく「狂気」を題材にしてはいたので、それを読み取っていただけて嬉しいです。

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ふじりゅう
(2019-08-20)

非常に良くできた作品だと思った。冒頭から、なぜ編み物をするのか、に対する「雌雄」「まぐわい」が、彼女が実際に発した発言であることを皮切りに、それをビリビリにした主人公、喧嘩しながらなおも編み物を止めない彼女の執着が淡々と描かれている。それは「淡々と まぐわいを」という詩句からも表されている。 いわゆる性的な語句も多く使われている中、それらが全く雑味を帯びていない点が非常にテクニカルであり、また尖り切った2人や自己への不満足、それをある種達観している様を「多角形のパラメータ」や「頭が弱いだけの」などの詩句で読み取れる辺りが大変魅力的。また、いわゆる狂気を捉えた作品とお見受けしたが、狂気による他者への一方的な被害、苦悩といった陰鬱な狂気ではなく、二人ともが狂気じみており、尖り切った二人だからこそ生まれるいびつな空間を描き出したことが素晴らしく面白い。 最後、誰にも渡すことの無いマフラー=自分用ではない、要は使用し汚れ洗濯するという過程を通らずに、使用しないのに洗濯をし続ける「に違いない」という主人公の雑感はさりげなく異常であるし、異常をさり気なく描き出していることで初読時、再読時両方でに読者を惹き付けることに成功していると考えた。 読み違えがあるかもしれませんが、悪しからず。

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鈴木歯車
(2019-08-20)

ふじりゅうさん、熱量のあるコメントありがとうございます。 登場人物の2人ともが異常性を抱えているところまでも読み取っていただけて、嬉しいです。 中島みゆきさんの「糸」という曲で 「縦の糸はあなた 横の糸はわたし 逢うべき糸に出逢えることを 人は仕合わせと呼びます」 という歌詞があります。ぼくはその歌詞からイメージを膨らませてこの詩を書きました。 そしてふじりゅうさんのおっしゃる通りですが、登場人物が恋仲であったことも考えて、釣り合いをとるために、性的な語句はあくまで人間的な情緒を抑えた、機械的な(あるいは動物的な)表現にとどめました。

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投稿作品数: 2