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Swan song
睨んでいた。浴室から綾を成し五線譜と棘の群れを往なして飛散する羽根を。両翼は朽木に挿げ替わり泥を飲み込んで散大した瞳は自ら爆破した羅針盤の切先を縫い合わせてゆく。円を描く時。歯車は淀みなくピアノの白鍵をばら撒かせながら扉は頑なに閉じようとしなかった。刺青に埋もれた彼の指が非常通話のプラスチックを破る。ねぇ、触らないで。傷と誇示するには浅いって云うなら。筆の海を泳ぎ切るのに酸素が足りないって云うのなら。なんてこと。なんてことなの。もう既に疑いようもなく血は凍りきっているのに。どんなに探しても墓守は見つからないまま、私はLED灯の下に繋がれて二度と動けなくなるのだろう。だからさよなら。 ……でも、本当にさよならするのは、ずっと先の話だけど。そのときはもっと、困らせてあげる。ふふ。
Swan song ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 821.7
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-05-16
コメント日時 2017-05-21
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
『浴室から綾を成し五線譜と棘の群れを往なして飛散する羽根を。』の一節の前に『睨んでいた。』という始まりを置くことによって、人の情を持たせた情景に、イントロが仕上げられており、その後の流れから不自然さを感じさせない。『ねぇ、触らないで。」と、再び、人の情が入り、その情が剛性を増してゆく流れ。情景描写の流れが、読んでいると、よじれてゆくようで、不思議な感覚になる。そのよじれかたが、『困らせてあげる。ふふ。』とフェイドアウトする。凶暴さと誘惑が交る踊り子のような、視線を感じながら。 ひいらぎさん、毎度投稿有難う御座います。
0いや、はっきり言ってしまえば、このお姉さんについていきたいというか、恋をしてしまいますね。僕は自称Mで、「困らせてあげる」なんて言われたら、「困らせてください、そして、振り回してください」と頭を下げてみたくなります。そして、一体どのような世界に連れて行ってくれるのか、そんなことを期待してしまいます。ただ、最初にこのようなことを書いてしまったのはいけないことで、この作品の結末しか鑑賞していないことになってしまいますね。ただ、それだけインパクトがあって、僕はもう恋をしてしまったわけです、このいけないお姉さんに。どういけないのかって、本当かどうかしらないですけれど、主導権を握っているということ。「さよなら」をするタイミングを知っているのもお姉さんで、それも綺麗な「さよなら」じゃなくて、困ってしまうような後味の悪い「さよなら」なんですね、やっぱりいけないお姉さんですね。 でも、僕は意地悪をしたくなります。こういったお姉さんははったりなんじゃないかって、表面上のいけなさなんじゃないかって。だから、「僕をどれくらい困らせられますか?」と挑発したくなります。こう思うと、僕はやっぱり自称Mでしかないんですね。 「さよなら」を告げるということは、主導権を握るだけでなく、何かから逃げることでもあると表裏一体なんじゃないでしょうか。作品をよーく読むと、ああ、実はこのお姉さん、弱いんじゃないかって思いました。他者との交流を拒んで、薄暗い部屋で自死してしまうんじゃないかなって。だから、「本当にさよならするのは、ずっと先」って、本当のさよならが来ることを知りながらも、それを「ずっと先」って言ってるのは、どれくらい先のことか知らないんじゃないかって。で、多分なんですけど、誰かに向けたこのメッセージは、お姉さんしか知らない自意識の話で、相手は知らなければ何も困らないかもしれない。 繰り返しになっちゃうんですけど、最後の行があるとないと全く違っていて、なければちょっとひ弱なお姉さんだけど、あることによってはったりをかましているよりひ弱なお姉さんなんじゃないかなって、本当に直感ですが、思いました。だから、むしろ、守りたいと思わされました。墓守になってやるぞー、って。でも、多分それは誰でもいいわけじゃないですよね。
0息の長い、うねるような文体の迫力を感じました。 往なす・・・「いなす」って、こう書くの!(すみません、調べました)と無知を恥じつつ、「白鳥の湖」と「眠りの森の美女」のバレエ作品を幻視しているような、不思議な感覚に引き込まれる冒頭部分です。「挿げ替わり」すげかわる、これは、文法的には造語になるのでしょうか・・・挿げ替える、他者が替える、イメージ。替わる、は自ら変化するイメージ。両翼が朽木に変化してしまった、そんなメタモルフォーゼの悲しみ(飛翔できない、ボロボロと崩れていく感覚)の、心の眼による視覚化、のように思うのですが。 「自ら爆破した羅針盤の切先を縫い合わせてゆく」かっこいいフレーズ。進路は自ら決めるのよ、という意思表明のようにも感じます。朽木のイメージが廃船のイメージに重なるような、もう一工夫があれば、羅針盤の唐突感が上手く全体に馴染むように思いました。 「円を描く時」先に進めないような、円環の中に閉じ込められているような感覚と、浴室という狭い空間に閉じ込められている感覚が重なって、面白いと思いました。円から歯車のイメージに移るのは、飛躍しているけれども連続しているともいえ、飛び石を飛んでわたっていくような軽やかさを感じます。 鍵盤(心理的な音楽)がバラバラに崩壊していく感じの後に、「扉は頑なに閉じようとしなかった。」この扉って、なんだろう・・・浴室のイメージを引きずっているので、浴室の扉、という物理的なイメージに占領されてしまうのですが、心の扉、と読むべきなのか・・・とは言いつつ、閉じない扉ってなんだろう、と戸惑った部分。 「非常通話のプラスチックを破る」赤い非常ボタン(押してはいけないもの)を押し破るイメージと、語り手の触れられたり破られたりしてはいけない部分に傍若無人に踏み込んでくるイメージが重なって、インパクトのある表現でした。 筆の海・・・ずいぶん古風なイメージだな、と思いながら、全体を「詩の創作」その海に重ねていくなら・・・刺青の指を持った彼は、荒れた海で船(廃船)となりかかっている語り手を操る、荒っぽい船乗り、そんな読み方も出来そうだな、と思いました。 血が凍っている、墓守・・・死のイメージに収束していく「感じ」は伝わってくるのですが、ムードに流されていないか、という印象もありました。 全体に、バレエによって表現された、男と女の葛藤劇(創作の海を迷いながら、滅びていく作者)という印象を受けたのですが、言葉のない世界を言葉で表現しようと無理している感覚も受けました。(実際のバレエを視覚化した、ということではなくて、心の中の騒擾をそのように表現した、という感覚・・・という説明で、つたわるかな、どうかな・・・)
0現代の詩ですね。あらゆる意味で。 すべてが室内、というより浴室で進行してゆくからそう感じるのかも知れません。 そこに、時折「羽根」「羅針盤」「ピアノ」と言った、洒落た半抽象的な言葉がないまぜになって、都会的な雰囲気を醸し出している。 でも、この詩の本質はおそらくは、「私はLED灯の下に繋がれて」という一節の辺りにあるんじゃないかと。 密室に(あくまでも浴室ですが、ここでは・・・)閉じ込められてあるいは自ら奴隷的境遇を選んで出られなくなる自分。 もし、この詩になんらかの可能性があるとすれば、浴室を非常通話のプラスチックで破るしかないのかなぁと。 切ない詩ですね。切ないメッセージです。
0すみません、返信がだいぶ遅くなってしまいました。 三浦さんコメントありがとうございます。不自然さを感じさせないとのこと、嬉しく思います。単語間の距離と言いますか、少し離しすぎたかなぁと感じておりましたので。 なかたつさんコメントありがとうございます。作中主体のこの子は、色んな意味でただそのままさよならは言わないだろうと思います。守ってあげてください。 まりもさんコメントありがとうございます。間違いなく「スケッチ」ではないのですが、かといってゼロから組み上げた作品でもない、というのが作り手の認識です。 朝顔さんコメントありがとうございます。おそらくこの子は、連れ出して欲しいのかどうかすらわからなくなっています。
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