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雪の十字路
夜来降りしきる雪がひとびとを眠らせ、家々を眠らせ、山を、海を眠らせた。太陽は予報の通り氷結した。青藍色の夜は明けない、もはや。 鉄錆びた幽暗の巷、欺きの十字路が、眠つてゐる万物の血と夢と祈りとを飲み干しながら夜の底を伸びていく。降りしきる雪を背に、白く。 それら四方へと発しやがては循環するリニア・ラインが交差するこの純潔な点、歴史以前の晴れた日に神々が昼下がりの座興に定め、死すべき生命が際限なく送り込まれ続けたこの牢獄の起点に、この世のひかりを一身に蓄へた豊穣の烏がくろぐろとうづくまつてゐる。 彼は飛ばない、定めた時が来るまでは。 天の河に敷き詰められたあらゆる星々の軌跡と均衡と微細な破綻ならびに矛盾を突き止めたこの数学者が最終的に割出した簡潔無謬な公式は、すでに神々のいくつかの誤算ゆゑのすべての偏差を包含した完璧な力学へと至つた。 次に「光あれ」と彼が高く鳴いて飛立つ時、銀河はこの一点に収斂して零の零の波長へと解消し、新鮮な叡智が綴ぢた神話の第一頁がひらかれる。 七方向に飛散する純白の次元点が清浄な空間を措定したと見るや満天の雪となつて降りそそぎ、それが最初の時間と地平となる。 そして最初の美 ―― 彼の漆黒に濡れた羽根にうつすらと降り積む雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪。 魂が生じる。祝ひ祭れ。命よ、この十字路にはじめての血を注げ。
雪の十字路 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2069.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 17
作成日時 2019-03-18
コメント日時 2019-03-26
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 3 | 3 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 3 | 3 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 3 | 3 |
総合ポイント | 17 | 17 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 1 | 0 |
可読性 | 0.7 | 1 |
エンタメ | 0.7 | 1 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0.3 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 5.7 | 4 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
ルビが使えるようになって非常に嬉しいです。運営の皆様のご尽力に感謝。 それを記念?して、旧作ですがルビが使えないとお話にならない作品を投げてみました。
0やっぱりそうだ、と確信したような気がするのです。イシムラさんがなぜ旧仮名遣いにこだわれるのか。(あ、別の方とのとのやりとりもこっそり拝見しました。) やっぱりイシムラさんの言葉の多くはホラーとかタブーに触れていると感じる。 それで、旧仮名遣いになると、私には、あ、なんとなくロマンチックというワンクッションになるんだけど。 氷河期、黒い羽根の神さま、新しい世界、新しい命、そしてまた血塗られていく十字路。 やっぱり、怖いな~と思いました。
0修子さん、ご高覧並びに懇切なご感想有難うございます。 怖がってもらえて嬉しいです(笑)怖がらせるつもりで書いたわけではないのだが。 仮名遣いについては、すでに別のところでお答えしている話ですので、それ以上のことはご想像にお任せします(笑) ひとつ、今ぱっと思い付いたのは、例えば朔太郎の詩を現代仮名遣いで読んだらどう感じるか、現代仮名遣いだったら朔太郎はああいう詩を書けただろうか、ということです。で、今はほぼ誰もが現代仮名遣いで書いている。もしこれが正仮名のままだったら、今自分はどんな詩を書いているんだろう?何が違うのだろう?あるいは、違わないのだろう? 別に答えがあるわけではないのですが、近代詩を愛読した経験があり、自分でも詩を書いている人なら、一度じっくり考えてみてもいい問題であるように思います。
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