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ダダミラクル
君がいさましく千切る 君が書きつけたラップ詞の散り散りが 怨念を手に変え、足に変え、 這いつくばっている 僕と君はこの日、その子達を「鬼」と名づけて、畳の上で息を引き取るまで、じっと、蝋燭の光の下で、待つだけの性交をした。ヒトはそれをプラトニック・ラブと呼ぶのを脳裏によぎらせて、この苦痛とこのうしろめたさとこの秘密を、二人は性交だと思って。 君が濡れた手を差し伸べようとして、 だめ 僕は言葉だけで君を抱き留めた。「鬼」に命を吹き込めば、この村はひとたまりもなく滅されることだろう。誰も僕と君と命にならない者達の祈りを知ってはならない。 危険を冒してでも、僕は都会へ行きたかった。そのためにはどうしても作詞家の力が必要だった。村の門には政治的な呪いがあり、通るには祝詞を身にまとわねばならず、断絶の村を出るにはどうしても作詞家の手を借りるしかない。村の唯一の未成年である僕が一人暮らしするための唯一の方法。 君に近づくため、身も心も装って十年。村随一の好青年となった僕は、数度となく君と小屋で親睦を深めた。成年の者達へは、鼠と蚕の繕いと告げ、よりべなく。 君には生まれつき無線技術という都会のシステムが備わっていて、その力でラップ詞を書いていた。書くたび、君はうなり、僕にはわからない何かと戦っていた。こんなんじゃだめだと繰り返し、ふっと糸が切れたようにおぞましい笑顔になり、ラップ詞を千切るのだ。 かつて、復讐に全てを捧げた母がそうだったように、三百六十五日を一度、二度、三度と一つの事に費やすと、自分というものがわからなくなる。きっとこの村の生き物は総てそうだった。なぜこのような感情を持つのかなんて、誰も考えなくなる。愛は習慣になり、秘密は寝食となった。 君が射精し終えて僕は目が醒めた。 今日は、津波が来る日。 僕は、ふらつく足を捨てて、 広場の中央でしゃがみこんだ。 揺れが終わるまで、 泣いた。泣いた。泣いた。 君の発狂音がちょっと遠くから聞こえて、 高台にいかなきゃ、 高台に行かなきゃ、 だめ 君が言葉だけで僕を気圧すと、村の門がぐあああと開き始めた。 もし、総ての生き物が、優しかったら、 言葉はもっとあたたかい世界なんだろう。 小屋からあふれた「鬼」達は、 涙の溶けた水達に触れ、命を得た。 千切れた僕の這いつくばる様を見下ろして、「鬼」はビッグバン しました。 ・ガスもこもこ期 不安定な意識のなか、僕は「鬼」が布団となって長い人生を共に過ごしていたことを思い出しました。 布団とずっと性交していたんだと思ったら、芯からあたたかくなってきた。自分の体温で、自分をあたためるための夜のほとぼり。 ・質量形成 過去を改変することも記憶を改変することも意味を喪失する。僕が捉えた認識で僕は僕を愛するようになるだろう。僕と君はきっと恋愛関係だともう言い切ってしまっていいと思う。君のラップ詞と僕の涙で命を得た「鬼」は僕達の出産だと言い切ってしまっていいと思う。今からその世界を生きていきます。 ・高温度の懐 母は、誰も憎まずにいられるならその方が生きやすいと囁いた。 僕は君に都会で耳にした卑猥な言葉を囁いた。 僕と君は「鬼」のいない世界で、物理的な初夜を迎えたあと、もう知らない同士。 全員、魅惑の一人暮らしをやっとこさ。 修羅が始まる朝のちょっと前 僕はぢぃぃぃぢぢぢぢぢと 喉を鳴らした 七十度の真っ直ぐな紅茶を しゅしゅしゅとすすり 舌に空気を送り、香りのする 東京の暮らしが身丈にそぐわず 日本の暮らしが心情にそぐわず 地球の暮らしが信念を打ち砕いても もうこのようにしか生きれまい 思いや性格はゆらりと変わっていっても このテロメアに寄り添って 優しさとジェノサイドの 生き物だ僕は。 僕は 電車で泣き叫んだ 通勤のパニックも 悲しいフラッシュバックも 誰かの慰めも むなしくなりすぎた そして、 電車から降ろされ、 落ち着くように救護室に導かれても まだ泣けた まだまだ泣けた まだ泣けた もうなんで泣いてるのかもわからなくなった それでもかなしくて 涙も声も唾も鼻水も出続けた もうやめよう もうかえろう もうやめよう もうかえろう もの「鬼」 うの「鬼」 やの「鬼」 めの「鬼」…… また泣いて また優しい世界が終わります。 うんざりしても、 また電車は遅れを取り戻します。 そしてこの村で唯一の未成年の僕は この村を出るために 君とあぁだこうだして―― これ以上のむなしさがあるだろうか。 修羅が始まる。 「鬼」達が、 高台から降りてきます。 僕は、少しだけ 頬を赤らめてしまいますが、 それでも修羅は始まります。
ダダミラクル ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1209.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2019-01-07
コメント日時 2019-01-08
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
改行センスがずば抜けています。みずみずしい詩です。
0わかりやすかったというか、相変わらずかるべさんの世界観がわかりにくいのですが(笑)、ただ、なんとなくなんですが、今作が入り込みやすかったです。なぜだろうかと考えた時に、おおまかなプロットがわかりやすかった感があった気がします。
0オオサカダニケ様 普段あまり改行しないので、多分改行はそれこそ短詩を参考にしてる面があります。 みうら様 わりと今後も宇宙は出てきます。宇宙が滅ぶという衝撃をプラネタリウムで喰らった幼少の衝撃は、永遠だと思います。 今作はふだんのやさしさ節があまりないタイプなので、プロットで読める構造があると思います。個人的にはやさしさ節の方が書きやすいのですが、北九州は修羅の国、というローカルネタが頭から離れず、自分に落とし込んで書きました。ありがとうございます。
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