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平成最後の冬
布団は寒いから被るのではない。 侵入してくる刃物から身を守る甲羅だからだ。 震えていないといけないのは、生きている実感が湧かないからだ。 躁鬱病の彼女は、仕事を辞めた途端に「息ができる」と泣いた。 新しい元号と一緒に、新しい人生が幕を開けるのだ。 愛想の良い仮面は、足元でバラバラになっていた。いつの間にか猫背になっていた彼女は、背筋を伸ばして天井に手を伸ばし、仮面を何度も何度も、泣き笑いしながら踏みつけていた。 躁状態のときは嬉しい半面、悲しくなる。 鬱状態のときは悲しい反面、安心する。 躁状態の、延々と続くダンシング・カラオケ大会。 鬱状態の、延々と続く号泣と自傷行為。 泣き疲れて腫れぼったい顔で、ぼーっと暗い天井を見つめる彼女の横で、悲しく微笑む無力な僕。 そして思い出す躁状態の彼女。 延々と続くダンシング・カラオケ大会。初雪に跳ねて喜び、上を向いて口を開けたままウロウロする彼女。そこに重なる、延々と続く号泣とひび割れの壁。 刃物になった風がひび割れから漏れて侵入してくる。怯えた彼女に布団をかければ、こもった嗚咽が聞こえてきた。 鬱状態のときは悲しい反面、安心する。数日すぎればまた笑ってくれるから。 躁状態のときは嬉しい半面、悲しくなる。数日すぎればまた泣くから。 そしてこの詩を、ハイになってよく分からないテンポでゲラゲラ笑いながら歌唱する彼女の前で、明日が来なければこの詩も最高のポップスになれたのにね、と微笑む僕は、彼女より数日早く泣いていた。
平成最後の冬 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1303.0
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-12-12
コメント日時 2018-12-14
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
拝見しました。 自分は鬱にはなったことはありませんが、パニック発作になったことがありました。「息ができる」というのはまさしくその通りで、その原因から解消されることでスっと息が出来るような凄く楽な感覚になります。逆に言うと、原因が解決できない状態では生きた心地がしないと言いますか、殺してくれと叫ぶゾンビのような感覚に陥ります。 ダンシング、カラオケ大会も中々言い得て妙な感じですね。 彼女の深刻な鬱状態を上手く表現出来ています。愛想の良い仮面、も好きな表現ですね。
0ふじりゅうさん>コメントありがとうございます。パニック障害?でも同じような感じなのですね。今回はまっすぐ、ストレートな表現で、今までの彼女を思い出しながら、上手く昇華できればなと思い作品として残そうと思いました。
0はじめまして。 躁と鬱を行き来する人とそれに寄り添う人の様子が、シンプルでリアルに描かれているなと思いました。 「息ができる」は私にも経験があり、その瞬間の空気感を瞬時に思いだしました。
0TO-Yさん>はじめまして。コメントありがとうございます。実体験に基づくとやっぱりリアリティがでますね。TO-Yさんの「こきゅう」のなかにもある“午前五時の呼吸困難”もその経験から来ているのでしょうか。彼女の「息ができる」の言葉からこの作品が生まれたので、それを中心に組み立てていってよかったなと思います。
0感じた事ですので、決めつけとかでは無いですー。 ※布団は寒いから被るのではない。 ※侵入してくる刃物から身を守る甲羅だからだ。 ※震えていないといけないのは、生きている実感が湧かないからだ。 寒くないけど寒いのは本当だけど、感覚的な恐怖で、寒さを感じない。幻覚からの表現かなと感じました。生きている実感が湧かないからだ。には、他の感覚が感受する感性が追い詰められて、感じない事が多いのかなと感じました。刃物が風なんですね。話者には風だけど彼女には違う。 ※①躁鬱病の彼女は、仕事を辞めた途端に「息ができる」と泣いた。 ※②新しい元号と一緒に、新しい人生が幕を開けるのだ。 ※③愛想の良い仮面は、足元でバラバラになっていた。いつの間にか猫背になっていた彼女は、背筋を伸ばして天井に手を伸ばし、仮面を何度も何度も、泣き笑いしながら踏みつけていた。 ①一つの呼吸困難生体器官関係と回復者さんの状態を感じました。人間関係からの解放からの呼吸困難からの解放を感じました。しがらみからの解放から自由を手にして息ができる感じがしました。 ②③には複雑な感情の混ざり合ったモノを感じました。 ①躁状態のときは嬉しい半面、悲しくなる。 ②鬱状態のときは悲しい反面、安心する。 ①②鏡合わせで見ている感じがしました。そ虚実と虚構に見える延々と続く鏡だけの世界ですが、目で見える事実ですね。本当の鏡が、という意味で、作者様には見えてるモノが有るのだと思います。 ①躁状態の、延々と続くダンシング・カラオケ大会。 ②鬱状態の、延々と続く号泣と自傷行為。 ③泣き疲れて腫れぼったい顔で、ぼーっと暗い天井を見つめる彼女の横で、悲しく微笑む無力な僕。 そして思い出す躁状態の彼女。 ④延々と続くダンシング・カラオケ大会。初雪に跳ねて喜び、上を向いて口を開けたままウロウロする彼女。そこに重なる、延々と続く号泣とひび割れの壁。 ⑤刃物になった風がひび割れから漏れて侵入してくる。怯えた彼女に布団をかければ、こもった嗚咽が聞こえてきた。 ⑥鬱状態のときは悲しい反面、安心する。数日すぎればまた笑ってくれるから。 ⑦躁状態のときは嬉しい半面、悲しくなる。数日すぎればまた泣くから。 ⑧そしてこの詩を、ハイになってよく分からないテンポでゲラゲラ笑いながら歌唱する彼女の前で、明日が来なければこの詩も最高のポップスになれたのにね、と微笑む僕は、彼女より数日早く泣いていた。 全体を通して、無力感が前面に出ている感じがしました。想うからできる事をできるだけしている感じがします。けれど、何も出来ない無力感を感じます。書かれていない。健康になってほしい祈りが聞こえるようです。おもう気持ちがあるほど。苦しんでいる感じがします。
0柿原さん、詩作に自信がついたのだなと書き出しからして分かる。安定して長い期間詩作品を投稿してきたユーザーの詩のようにも感じる。ただよくあることだけど上達し、洗練されていく内に小さなコミュニティにスポイルされたり、その他の猛者たちの中に埋没したりということがあるので、初めての閃きとビーレビューというある種の居場所を見つけた喜びを忘れないでほしい、と運営の一人としても思ってやまない。内容は「仕事を辞めた途端に『息ができる』と泣いた」のためにある詩作品とでも言えるかもしれない。この一節の美しさは半端ではない。そして最後に笑い合う僕と彼女。ぜひとも幸せになって欲しいと願わずにはいられないステレオさんでもあった。
0w
0つきみさん>コメントありがとうございます。細かく深いところまで読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます。感じていただいたこと一つ一つがまさに僕が書きたかったことそのもので、伝わってよかったなと思いました。治ってほしいとか、元気になってほしいっていうのは自然と文字に起こそうとは思いませんでしたね。不思議ですね。
0stereotype2085さん>コメントありがとうございます。自信なんてまだまだ無いですよ(笑)ないからこそここで批評されるのをたのしみに投稿しているのかもしれません。まだまだ手探りですよ。 内容についてはおっしゃるとおりで、そのひと言から想像と現実を組み合わせてまとめてみました。 最後に「僕」が泣いたのは確かに笑い合う中で表面上微笑みながら泣いているのもありますが、実は躁状態のピークがここなんだと悟ってしまって「明日」に待っている鬱状態を悲しむ描写でもあります。この躁と鬱の繰り返しの日々なので、この詩はある種この先の人生そのものなんですね〜。ちょっとした補足兼自分語り、失礼しました。
0オオサカダニケさん>w
0誤タップ失礼しました。 躁鬱などはわかるので、わかるわかるとなりました。
0かるべまさひろさん>コメントありがとうございます。共感して理解してくださって嬉しいです。
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