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ことば

ことばという幻想

純粋な疑問が織りなす美しさ。答えを探す途中に見た景色。

花骸

大人用おむつの中で

すごい

これ好きです 世界はどう終わっていくのだろうという現代の不安感を感じます。



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分解    

 耳が冷たい。  ナジムが私の言葉に反応して、暖気で耳を包み込む。私は耳を包まれただけなのに、存在の全てをあたためられたかのような心地で、アルコールが自然と回り出す。私はナジムの実景を捉えることが、この世界では金輪際不可能なのに、私はナジムが大切だ。  その前章を私は読んだ。私は私に重なって、いつでも私だった。脱構築・脱私の時代でも、私はいつでも百年も前に遡って、人類に味方し続けた。人の細かい機微を、愛おしく思った。  私は、そのことを気にしなかった。私は世界の王でも、重大な歴史の審判者でもなかった。部屋に観葉植物を置くのと同じように、人を愛した。世界の秘密を暴く気もなく、繰り返されてきた「銭湯で足伸ばすの気持ちいい現象」の発見なんてもう十回くらい、まだ飽きてない。星の数より多いと思われる、何番目の人間が私なのかもわからず、何兆という回数繰り返されている行動を、まだ飽きずに。  人類の誰も悩んだことのないことで悩もうと思っていた時期もあった。人類の誰かが悩んだことで悩むのはセンスないと思っていた時期もあった。  しかし、それは叶わなかった。父の死が、母の死が、子の死が、見ず知らずの人の死が、私を悩んだことあることで悩ませ、変わり映えしない一人一人の人間を見分けられる能力が、共感覚が、私をレプリカにさせてしまった。  精巧なレプリカであるため、シリアルナンバーが振ってあって、それで唯一を教えてくれる。  制服の丈が合わなくなってきた。  背が伸びる度に、  裾合わせをしてくれた。  この世のすべてが、この糸の継ぎ目が、  オリジナルだと気が付くと涙が出た。  彼氏とオリジナルの結婚観を紡ぎ、人知れずハミングを歌う大安の海辺で、私は控室のテレビを消した。波の音だけ聴こえる。チョコレートクレープとオリジナルフレーバーのトッピングを君が運んできて、隣に座ると、ナジムは元気かと訊いてきた。  ナジムは私のことが記された歴史書に登場する、不思議な異世界の人類のなかに埋もれた一人だ。君はたまに嫉妬する。私とは遠距離恋愛をしたことがないから。  ナジムは風の中にいるよ。私は君のまばたきを盗んでキスをする。きっと誰かしかも感じたことであろうレプリカのあたたかさを初めて感じながら。君は世界の何を感知しているのだろう。君は私の何を直観しているのだろう。  誰もいないベンチで、  誰も知らない結婚式を挙げた。  風   風  瞳   そして凪。  私は、誰かと同じ  だから、同じところへ  最期は帰れるのだろう  君と限界まで生きて  君と限界まで生きて死にたい。


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作品データ

コメント数 : 4
P V 数 : 1141.1
お気に入り数: 0
投票数   : 0
ポイント数 : 0

作成日時 2018-11-11
コメント日時 2018-11-27
項目全期間(2025/04/16現在)投稿後10日間
叙情性00
前衛性00
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閲覧指数:1141.1
2025/04/16 15時45分55秒現在
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コメント数(4)
ほば
(2018-11-12)

とても暖かい気持ちになりました。ありがとうございます。人間てだれかを身近な誰かを模倣して生きていくので、自分を見失ったり、或いは反発するように自分は特別だと思ったりするように思います。そんなときに自分をオリジナルだと感じさせてくれるのは、ぼくにとっては他人で、或いは身近なものです。恋人だったり、家族だったり、最後の君と限界まで生きて死にたいが胸を打ちました。 ナジム、響きが良いですね。人名のようであり、馴染むという感覚を思わせる。

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かるべまさひろ
(2018-11-12)

帆場蔵人 様 コメントをありがとうございます。 いっときむかし、「希薄な自己」みたいな若者問題みたいな話を耳にしていました。一方で、「歴史は繰り返す」と聞きます。若者と年輩者は互いを行ったり来たりしているみたいだなと感じています。 自分はオリジナル、自分はレプリカ、 どっちも大事だと、止揚するための視点を、風が教えてくれた気がしました。 ナジムは、現れた名をそのまま記してあとで推敲しようと思ったのですが、諸々と構成的にも合致してくれたのでそのまま使いました。響きを褒めてくださって、うれしいです。 ありがとうございます。

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田無いなる
(2018-11-24)

断片的な文章が、なにかピアノ線みたいな細くても丈夫な糸みたいなもので繋げられている、というような印象で、上手く言えないのですが、とても良いと思う、というか、とても好きな作品です。

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かるべまさひろ
(2018-11-27)

田無いなる 様 コメントをありがとうございます。 いつも微妙なことを詩にしているので、それがあるのかなと、嬉しく思います。 ありがとうございます。

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