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わたしの風の又三郎
よるの海を見にでかける。咲き沈んでゆく夕方の光りの奥で、いまにも散ってしまいそうな花びらが海面へと積もるように落ちつづけている。わたしはそれを拾おうと、よるの海へ飛びこんだ。 言葉に嘘はない。わたしはいつだって、そう思うのだ。ただし、声にだした途端、その言葉が嘘に変換されてしまうことがある。だから、わたしにとって、すべての物語はノンフィクションなのである。 幻想の住人としての自覚こそ、まだないが、明らかに生きにくさ、という強固な防具を身につけている。わたしはいまもワンルームアパートメントで、ひとり、心細く息をしているところだ。 しらないうちに季節は夏へと前進していた。海の彼方にあるものは、いつだって、あなたのお家であればいい。山の向こうに存在する風景はすべて空であるといい。街の木陰で儚さを演じる若者は薔薇色の憂うつをかかえながら、夜ごと身悶えするといい。住み処をなくしたジョーカーはトランプとトランポリンの違いについてかんがえることなく、言葉遊びを愉しんだあと、公園のベンチで夜空をみあげ、思いきり泣くといい。 空に浮かんだ無数のヒコーキ。いまでも飛ぶことなく、浮かんでいる乗客たちのそれぞれの想い。天国へと繋がる道しるべとしての感情が、わたしからいまを奪い去ってゆく、瞬間。 やわらかな喪失感にとらわれ、未知の孤独を相棒に、わたしはきょうも一日のはじまりを罪深く犯しはじめている。 誰も死なない日ってあるのかい、かつてのわたしのそういった未熟な疑問が、まるで、ひとさらいにでも遭ったあとのように、時とともに鈍麻化され、いまとなっては死でさえ、なぜか懐かしいもののような恐れのなさで、みつめる自身のこころが胸を巣くうばかりだ。わたしは確実に歳をかさねている。想い思いのひとやものものに、夢中となれた時期は過ぎ去った。 速さへと舵をきったわたしの人生の速度は、もはや、ゆったりなどしておらず、一日のあまりにもの味気のなさに乾いたワライさえ、ひとり、浮かべてしまう。 口元の未熟な赤さは誰を求めることもない。股ぐらの異常な感性さえ、わたしはすでに信じることをやめてしまった。セイヨク、という征服欲は、今後、わたしからどこへおでかけしてゆくのだろう。 しかし、どうして風は言葉遊びをこのむのか。ぃや。とつぜん、話をかえてすまない。けれども、さいごまで聴いてくれ。風は海を知っている。海の表情を知っている。海の泪をしっている。 風にこそ、我が人生を託したいのだ。風は泪を乾かす。また、風は歌をうたう。風は風邪をひかない。けれども、手を伸ばそうとも、風はわたしの手を握り返してはくれない。ただ、そこにいて、いつのまにかやんでしまう。そして、時折、想いだすかのように、わたしを包み込んでくれる。気まぐれな友人。 わたしの泪を乾かした途端、スィっと他の誰かのところへと駆けだしてゆく。それぞれの、それぞれのための風の又三郎。 誰のちからも借りることなく、わたしたちは自然にシヌことができる。だから、誰の命も奪ってはならないのだ。自然と訪れるものを受け容れること。それが、生きるという生きにくさの正体なのだよ。 うつくしい夢をみつづけてゆきたいな。そんな夢をみつづけて、あの世へと頭ごと飛んでゆきたいものだな。 きっと、きっと、死がわたしを待っていてくれるんだ。こわくなんかないよ。ただ、あなた。命を大切にしてね。だって、死は逃げも隠れもしない。だから、ね。誰も殺めないで。自分を責めないでね。生きつづける勇気を得て、いって、いってよ。 誰も死なない日ってあるのかい。かつてのわたしの幼さが胸を刺激する。わたしは応える。恐れるな、死んでからのお愉しみだって、きっと、きっと、あるはず、さ。
わたしの風の又三郎 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2394.3
お気に入り数: 2
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-07-29
コメント日時 2018-07-31
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
- 物語をノンフィクションと断言できる人 (三浦果実)
読まさせる、と言えばいいのでしょうか。言葉を、考えながら置いていく、たぶん、読点とひらがなのバランスで、読まさせる力を感じました。 うまい連と、不要に感じる連とが混ざっていて、全体を読むとシンプルな答えへ共感させようと語っているための長さ。でも共感させる語が並んでいるわけではないので、個性を感じるのに最後はありきたりなのか、と肩透かしを感じました。 決意を持って書いていくのは絶対に必要だとは思うのですが、柔らかい連とタイトルから、最後がもったいなくなっていると思いました。「未熟な疑問」に最後もどってくるのが、あまり引き込まれませんでした。文体に個性はあるので、必要な語と息抜きの語とバランスを推敲してみてはどうかな、と思いました。
0かるべまさひろさま ご感想、どうもありがとうございます。素朴な疑問に満ちた毎日をお送りしております。この作品に生きることの矛盾や衝動を描きたく思いまして、最後まで、幼さの片鱗を残すよう気を配りましたのが、裏目にでてしまいましたね。かるべさまがご指摘なされた、結末のありきたりな未熟さ、改善すべき要素を見いだしてくださり、どうもありがとうございます。成長に気を配りつつ、精進いたしますね。
0追記;かるべまさひろさま 自作詩を再読しまして、かるべさまのおっしゃることの意味がよくわかりました。推敲するなら〜 >きっと、きっと、死がわたしを待っていてくれるんだ。こわくなんかないよ。ただ、あなた。命を大切にしてね。だって、死は逃げも隠れもしない。だから、ね。誰も殺めないで。自分を責めないでね。生きつづける勇気を得て、いって、いって。いってみせてよ。 〜までに留めようかと思います。どうもありがとうございます。しっかりとしたご感想、励みになります。書くための勇気が内から湧きいでるようです。
0拝見しました。 反戦詩、というより、死についての詩といった感じでしょうか。 ヒコーキの辺りは面白い表現だと感じます。「1日のはじまりを罪深く犯しはじめている。」もいいですね。 いい表現も沢山あるので、確かに推敲次第でもっとよくなると思います。
0とても引き込まれました。私は長い詩だと読んでいるうちに飽きてしまったり、あらやクセが出たりするように思っていたのですが、この詩はただ浸ることができました。特に最初の連が素敵だと思いました。
0ふじりゅうさま ご感想をいただき、どうもありがとうございます。そうですね。わたしたちと同じく、この作品も死の物語です。死から再生へと向かい、さらなる死のさきに生をかいまみるようなウロボロス的、生命賛歌としての小品となりました。これからも無邪気さを忘れずに、試行錯誤しつつ、創作をつづけようと思います。ふじりゅうさま、どうもありがとうございます。
0佐原砂漠さま 素直なご感想、どうもありがとうございます。わたしの言葉はしょうしょう冗長ですので、佐原砂漠さまに、最後まで、おつきあい頂けましたことが、大変うれしいです。お暑くなりましたが、こころのオアシスなどで涼しく夏をお過ごしくださいませ。ありがとうございます。
01連目の現実界と幻想界を美しく重ねていく入り方と、2連、3連の説明的過ぎるような連とのギャップについて、まずは考えさせられました。歌いたいことと、言いたいことが、そのままあふれでてしまっているようにも思います。 4連目、5連目の比喩と心象が巧みに織り成されていくところが良かったです。そら、が、くう、とも読めることも含めつつ・・・「住み処をなくしたジョーカー」が効いていますね。語り手の拠るべない心境を、自嘲気味に、でも愛惜を持ってとらえている。 6連、「やわらかな喪失感」とまとめてしまうのではなく、そこをこそ、心象に造形していって欲しいと、思います。 7連は、ここも説明的、懐古的ではありますが、もうひとつのテーマの提示と読める部分ですね。 8、9連で感じたのは、カタカナでニュアンスを変えたり、「おでかけ」とおさな言葉を用いることによって生々しさや苦しさを昇華することが出来ているのか・・・それは言葉の上での「たわむれ」に過ぎないのではないか?ということでした。 しかし、10連以降に「風」が登場し、語り手に「言葉遊び」をもたらしたものについての流れが始まる。なるほど、自問自答の中身をそのまま(過程も含めて)文字化していった、といううとなのかもしれない、と、腑に落ちるものがありました。 13連以降は、自分で問に答えてしまっている感もあります。 説明的な部分や、自問自答(特に自分で回答や解答を与えてしまっている部分)を整理して、読者に作品を手渡していくようにすると、より多くの読者の心に響く作品となるのではないかと思いました。
0まりもさま 丁寧なご感想をいただき、ありがとうございます。いま、とてもうれしくかんじています。以下、みなおすべき創作スタイルについて。いつも、何のイメージもないまま書きはじめてしまうため、明滅するような意識がそのままわたしの作品のなかにでてしまうのかもしれません。安定した作風とは、ほど遠いものですが、まりもさま一同のご感想やご指摘により、よりよき創作態度へと自らを導いて、さらなる明日へと、こころごと導かれてゆけそうな予感がいたします。ありがとうございます。詩作、復帰……しまして、ひよっこに出もどりました。これからも、よろしくお願いいたします。
0簡素なサイトではありますが、この作品を推敲したものをTumblr にあげることにしました。よろしくお願いいたしますね。 https://senjuouija.tumblr.com るび
0ごめんなさい。上記のリンク、きれています。 https://baby-da-vinci.goat.me
0内容的に読み易い、長さが気に成らない。既視感覚にとらわれる内容が自家薬籠中の物に成って居る。海にふる何か。言葉や物語に対する自己言及。自分がこれからやろうとすることに言及しても硬さはない。むしろ軽やかに柔軟に流れて行く詩行。ワンルームアパートメント。山の向こうの空遠く(カールブッセ)やトランプ、トランポリンの時事的な話題が出て来もぶれはない。むしろ滑らかさは加速するのか。空のヒコーキ、天国へと繋がる道しるべとしての感情。何か又三郎ではなくて銀河鉄道さえ思い出されて。やわらかな喪失感。歳の重なり。死への懐かしさの言及を経て、やっと股ぐらや風などタイトルの内容が出て来ました。風は海の泪を知って居る。表情も知って居る。海自体も。詩が自然との合一を経て屹立して居ると思いました。
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