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命名
汚れない柔肌に蒼い墨を彫り込むように 尖ったペン先を白い紙に押し当てる 命名儀礼 幼き者よ、甘やかな陽射しの中で まどろんでいる場合ではない 今こそ思い切り泣き叫ぶがいい、 ひとつの罪もひとつの過ちも犯したことなく 抗うすべも知らないあなたへの これは最初の暴力だ たとえ痛みを忘れても 生涯消えることのない創を 私たちは今、その身に刻もうとしている せめても美しい意匠であればと 画数やら字面やら響きやらに凝ってみたところで 所詮それはあなたのためのものではなく 世界があなたを識別するために強要する 記号に過ぎない いつかあなたは自ら選んだ異名で この創痕を塗りつぶそうとするだろうか しかしどんなに忌避しても 刺青は真皮の奥にまで浸透している、 やがてあなたは燃えさしの薪を手にとり この宿命を己の肌ごと焼き捨てようとするだろうか いにしえの流刑者たちのように、 あるいはかつての私のように 私たちの手は震えている、 だが非情にも あなたに断りなく選んだ音の連なりで まさにこの瞬間からあなたを呼べるということを 私たちは悦ばずにいられないのだ 幼き者よ、あたたかな腕の中で まだしばらくはまどろんでいるがいい そのあどけない額に烙印を捺す代わりに あなたの名に冠すべき私たちの姓を 朱々と印し 今、世界へ突きつける 出生届
命名 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1089.1
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-07-17
コメント日時 2018-07-29
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
二条さんの詩はとても緻密で読みやすくて丁寧でやさしいのでいつも楽しみに読ませていただいております。 最後の行など、本当にはっとしました。 三連目だけ、少し見慣れた表現に感じられましたので「あなたは~だろうか」でも何かはっとさせられたらもっと好きになりそうです。
0>かるべまさひろさん コメントありがとうございます! ご指摘はごもっともで、三連目はやや甘いなと自分でも感じるところです。 拙作は全般的に、詩を読み慣れている方には今ひとつ表現的な面白みが足りないのではないか……と思いつつ投稿していますが、いくらかでもお楽しみいただけているなら嬉しい限りです。
0名付け、について、私も良く考えます。いつか形に、と思っていましたが、御作にはそれを見事に書いて頂いた、と思いました。 名前の意味を聞かれるのは、避けて通れない道ではありますね。それでも私は、まだまだどうなるか分からないひとりの人生を決めつけ、押し付けたりなどしたくない、と常々思います。 > 所詮それはあなたのためのものではなく 世界があなたを識別するために強要する 記号に過ぎない 寧ろその程度(単なる記号だ)と思ってほしいとさえ思います。名前に込めた思いはそれなりにありますが、あまり言いたくないなというのが本心です。 とても私の感覚にフィットして、それでいて刺青との表現が格好よくて、好きです。 ひとつだけ...これは私も詩を作るうえでとても悩む部分であるのですが、最後の「出生届」をあえて書くか、書かないか。無くても「今、世界へ突きつける」で終わってもかっこいいし、じゅうぶん伝わるのではと思いました。
0>杜 琴乃さん コメントありがとうございます! 日本でもおそらく戸籍法が成立する前は、名前を変えるのは特に珍しいことでもなく、人と名前の関係はもっと緩やかだったのではないかと思います。でも今は、よほどのことがない限り一生背負っていかなければならないものになってしまっていて、(そこに愛情があろうがなかろうが)「押し付け」にならざるを得ませんね。 その部分をご理解いただけたのが、とてもうれしかったです。実はこの詩をアップする少し前に、とても純粋で善良な友人から、「名前は親からの最高のプレゼントだから、誇りを持って名乗らなければならない」的な発言を聞いて、ちょっと疎外感を覚えていたもので…。 最終行の「出生届」は冒頭の「命名儀礼」と対をなすものとして、始めから着地点として決め打ちして書いたためか、無くても伝わるとは考えてもみませんでした。ご意見、感謝いたします。
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