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陸でおよぐ
焼却炉を見つめているあなたが、ながーいトングを持って、カチカチ待っている。尽きるのを。雨でも、しないとね、って。白いワイシャツに白めの灰が散らかって、わたしは、こんなの業務時間じゃないしと私物をポケットから右手に滑らせて、舌打ちをした。 この感じ、嫌だなぁ。もっと高級品でいたい。わたしたちは安い。お金を払うから、他の人に委託したい。 靴下はより気持ち悪く、ぐより、ぐよりと平衡感覚をたぶらかしていく。 あなたにはわたしの……は見えない わたしがたおれる瞬間に わたしは見えてしまった 錆びた鉄塊に押し込んだ わたしの初詩集の背表紙 (めらめらとなんて、燃えない) ぼぶす、ぼぶす、と くしゃれてくろくなる あかでもあおでもなく 焦げと煤と灰の単色系 だめ、暑いよ。 ――メカジキなんて好きじゃないよ。食べさせないで。口をこじ開けないで。それに、その、メカジキは、彼が、半年の漁から帰るとき、釣り上げた、高級な、やっとわたしたちが、少しだけ、神様に赦された日の、くもつ がっと掴んだ……と思ったら、あなたのワイシャツを引きちぎっていた。あなたは、驚いた顔? というより性的な顔をしていて、わたしは現代人相応のパニックを催した。まさに、わたしたちは催事場と書いて修羅場と読んだ。人が熱でうなされてるのをいいことに、なに手ェ出しとんじゃわれぇ! と叫んでみた。わたしは、どこ出身だったっけ? ともうひとつの口は言っていたけれど、あなたはそれどころではなく、保健室のドアを蹴破って(蹴破って?)、その逃げ方の賑やかたること転売ヤーの如し、とわたしは呟いた。 わたしのファン第一号さんから、大丈夫? 怪我とか警察とか、と返信があって、とりあえずなにも起きてないみたい、むしろ被害者はワイシャツくんだけっぽいとだけ返して、 わたしは、そうして、制御できなくなって、とりあえず保健室を破壊した。 (誰か、わたしたちに、不漁に苛まされる、わたしたちに、祈って下さい) (誰か、わたしたちを、台風に脅かされる、わたしたちを、監視して下さい) 早退した。 そして電車に乗った。 いつもの電車なのに、 時間が外れてるから、 がらんどうで座れた。 雨など止んだ。わたしはいつ雨が止んだか知らずに、生きてきたこの数時間がほんとうに人生だったのか信じられずに、それでも人生でない時間などないという事実にうちひしがれて、泣いて、 男になろうと思った。 彼は、 いいね! と刺身を差し出した。 あぁ、お金が欲しい。
陸でおよぐ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 970.6
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-06-11
コメント日時 2018-06-14
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
かるべさん、こんばんは。 先ほどはコメントどうもありがとうございました。お礼に、コメントさせていただきます。 作品、読ませていただきました。 すごく、すごくいいですね。 >まさに、わたしたちは催事場と書いて修羅場と読んだ。 ここの主語を「わたしたち」と持ってくるところ、述語を「読んだ」とするところ、非常に言葉の選び方にセンスを感じます。 ただ全体的に何が言いたかったのかを考えると、ちょっとわかりづらかったです。 個人的には「よくわからないもの」が割と好きな方なので最後のオチも面白く読みましたが、 たいがいの人は「よくわからないもの」は「よくわからないもの」としてあまり面白がってくれない気がします。 ここから先はかるべさんが「誰に読んで欲しいのか?」という問いになってくるのですが、 わたしは詩を書かない人に読んでもらいたいと思っているので、できる限り「わからないもの」は書かないように徹底してきました。 ただそうすると言葉遊びの面白みがなくなったり、小難しいものが好きな人からの評価は失われるのかな、なんて思ったりもします。 その辺り、かるべさんがかるべさん作品をブランディングしていくにあたって、どのように書いていくのかが気になります。 また別の作品も読みたくなりました。 次の作品も、ぜひ読ませてください。
0柴田蛇行 様 コメントをありがとうございます。 そして褒めていただいて、本当にありがとうございます。 次に、「よくわからないもの」と認識してくださったことがこの上なく嬉しいです。 心の触手が反応しない時、人は「よくわからないもの」と位置づけてくれない、 ということを経験で思っておりまして、 此度も「よくわからないもの」を表現できたのだな、というのはとても自分を慰めてあげられます。 「何が言いたかったのか」と「ブランディング」について、以下私情を綴ります。 まず一点目についてですが、二つの方針があります。 ・これが言いたいことだと気付かせて、その結論への想像力を限りなく刺激させて視野を与えるもの ・なにが言いたいことなのか考えさせて、そのもやもやを思考者の人生に仕掛けて視野を与えるもの この二つが、“質的に優れている”と僕が名付けているものになります。 (論理的には、視野が広いほど人は笑顔でいられる、という程度の浅はかなものですが) なので、柴田蛇行様が「何が言いたかったのか」を考えてくださって嬉しいのです。 たぶん、「何」なのか少し心当たりを付けてくださって本当に嬉しいのです。 でも結論や答えといったものは特にはないです。なぜなら、これは教訓系ではないからです。 人の微妙な感情に触れる機会の一つが、最近のかるべまさひろのつくる1篇の詩になっています。(目指しております) 谷川俊太郎ではないですが、本当にシンプルに「この気持ちはなんだろう」と思わざるを得ない気持ちが9割で人間なんて構成されていると思っておりますので、ただ純粋に自分の気持ちを表現したいな、というのが今年度の取り組みです。 二点目の「ブランディング」ですが、残念ながら、僕にとっては、世の中の「わかるもの」の方が、「わからないもの」であることが多いのです。 この自覚を持てたからこそ、自分の素直な感情表現が、世の中から「よくわからない」と称されるのをポジティブに捉えられたのですが。 「詩を書かない人に読んでもらいたい」という気持ちは僕も同様に持っております。 なので、友人に家族に大切な人々に届けるところから取り組んでいて、 そこから少しだけ踏み出してみて、「投稿」というスタイルに取り組むようになった近頃でございます。 「わからない」から読めないとする人々をもちろん多数として認識しておりますが、 「わからない」けど読んでくれる人々が少数でもいるのも同時に認識しております。 今は、その少数の人々のためにも、自分のためにも、自分が書きたいと思う詩を、純粋に丁寧に精進しながら、書いております。 書く技術もより一層身につけて、それこそ谷川俊太郎のようなものへ辿り着いたときからでも、多数の人々へ届けるのは遅くないと思っております。 (同時に、きっと知名度が多数へのアプローチの近道だとも考えております。ただ、個人的な第一目的ではなかったということです。) なので、きっと「わからない」と「わかる」が混じり合うところへ詩を投じることが僕の当面の目標になるのかなと思います。 長くなりましたが、本当に、読んでくださってありがとうございます。
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