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宝島
知ってる? さあ、知らない 知らない? まあ、知らない 胚が落ちてくる山間のベッドタウンの夕暮れるは、無人のリビングで中学生の、 ひらかれたままのノートを埋めていく。廃業寸前のデパートのプレイランドと名 づけられた屋上にはトランポリンの風船かいじゅうと、100円で1分30秒作 動する飛行機の遊具の陰でセックスする社員とアルバイトと、メープルシロップ をかけたソフトクリームと、ソフトクリームのコーンをかじれない男の子 夕暮れを完全に理解しました。夕暮れるはこれから理解するつもりですました。 橙色に染まりゆく空からは今にも胚が落ちてきそうで、閉店間近のデパートで最 後に傘が売れたのは今年最初の大型連休の最終日、誰の気もそぞろな18時過ぎ のこと。これから暑くなりますものね、暑くなりますからね、できれば晴雨兼用 のがよろしいんですけど、ですけど、それだとちょっと割高ですものね、え、だ からこちらの、坊やと手をつなぎながらさせるくらいの大きな傘を、坊やはね、 今屋上で待っていますの、え、かいじゅうの中で遊んでいなさいって、ほら、あ れってお金がかからないでしょ、本当は乗り物がいいんでしょうけど、あっちは どうしても、ねえ、え、それで、おいくらでしたかしら? 1分もかからずに射精して、社員はアルバイトの臀部にだらしなく落下した。男 の子はかいじゅうの傍らで、夕暮れるを見ていた。橙に縁どられていく稜線を、 人さし指で隠してみて、鼻先がつきそうなほど近づいたら飛行機の遊具があって、 遊具の錆はわずかな臙脂色を帯びて微笑んでいる。視線に気づいて、社員は男の 子に100円を手渡す。アルバイトはもういない。楽な仕事だけど、今日を最後 に辞めるつもりでいる。男の子は1分30秒の単独飛行に飛び立とうとしている。 まだ飛んだことはないし、飛び方を教わったこともない。事務所に戻って社員は、 いすに腰を下ろして煙草に火を点け、燃え尽きるまでの間、くそったれ風船かい じゅうの遠く向こうがわ、忌々しいほど見慣れた山並を睨む。それから、夏が終 わる頃、いろんなものの燃え尽きた、今朝、トースターの中で焦土と化したレー ズンブレッドみたいな風景を夢想する。焼け野原のまん真ん中で、傘もささずに 男の子がつっ立っている。そして胚が降りはじめる。煙草の長い灰が床に落ち、 社員は立ち上がる。あのガキにソフトクリームでも買ってやろう、と考える。彼 に子どもはいない。 夕暮れる。B5のノートを埋め尽くしていく。橙の山並が熟柿のように蕩ける。 おかげで都会が透けて見える。急行が減速しながら停車中の各駅を追いぬく。付 箋つきのページをめくり、付箋の意味を思い出せない。大事な箇所ではテロップ が流されるから、余計に分からなくなる。無人の事務所の窓ガラスを叩く無数の 白い胚。鉛筆の芯が折れてもなお夕暮れるノートの行間は隈なく橙に、そして、 わずかな隙間を縫い、飛行機がわずかに仰角で空に、その少し下に、テロップが。 ソフトクリームのメープルシロップがけ400円 大事なことを理解するのは難 しいし、信じこむのはまたさらに難しい。上に参ります。上に参りますのは、眼 下は死体ばかりだからです。母親という母親はベッドタウンへ夕暮れるに帰って いく。男の子たちは夢見ている。もし空を飛ぶなら、ソフトクリームで変身する ヒーローみたいに、風船かいじゅうと手をつないで、学校もデパートも一家団ら んも破壊して、夕暮れるの/夕暮れるの?)向こうがわに 知ってる? 今も リビングでは 輪郭だけの 家族が 家族のまねごとして その縁を 柱時計の 振り子の音が なぞって 空に 降り注いでるって
宝島 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 872.0
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-03-25
コメント日時 2018-04-06
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
記録映画を観ているようで、とても惹かれます。 なのに、誰もいないような寂しさも感じました。
0くつずり ゆうさん 読んでいただきありがとうございます。 記録映画のように見ていただけたのは、多分この作品のお行儀が良すぎるせいでしょう。 誰もいない・いなくなるのは僕の作品に繰り返し現れるモチーフで、今後も形を変えて現れてくることだろうと思います。
0さびれた、少し安っぽい屋上プレイランド。気だるいような、投げやりな社員は、いわゆる出世コースから外れてしまったのか。 胚が降る・・・降灰のイメージと夕暮れていく景色が火に呑まれていくイメージが重なり、社員が見ているディストピア的な世界・・・希望を奪われた社会を象徴しているような気がしました。 プレイランドでの情景を、孤独な中学生(家族という欺瞞にうんざりしているような)が記しているノートに描き出された物語、と見ることもできそうです。 幼い頃の自分、あるいは、近い将来の自分を投影した登場人物が、夕陽に照らされるノートの中に描き出されていく。 胚とは、そこから芽吹き、萌え出すもの、あるいは命の原型的なイメージがあるのですが、その「胚」が、終末を暗示するような「灰」のイメージに重ねられているところが新鮮でしたが、胚という言葉の持つ強さや意味が邪魔をして、胚が降る、という景が、なかなか腑に落ちてこない、納得いくものにならない。 最初は はいが降る、とひらがなにぼかしておいて、いつのまにか胚や灰へとずらしていくことで、読者を「知らぬまに世界に連れ込む」ようなギミックを仕掛けてもよいような気がしました。
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