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待つこと
晴れた日には たくさん、 あんまりたくさん星が動くから 淡く青くなる まだ、もう 終わっていないすべてが 彼らになってそこを行き交う かつての去った雨を 待ち望んでいる ただ 君を涙するすべだけを知らない 空にも地上にも いい生き物たちがいる おかげで 辺りに見えるものが どれも そこにあるかのようだ 星はやがて辿り着いてしまう 森のように 黙り込むしかない その度に 開かれていく 空気が 花のように 昼にも夜にも いい生き物たちが 連れ立って 夢を捕食する 手足をねじ折って 喉笛を切る やさしく 骨も、内臓も 食べ尽くす 尻尾だけは食べない 食べないで、空に打ち上げる 何度も いつか、かつて 終わったすべてが そこを行き交う そしたら 思い出し笑いが 海に溶けていく かもしれない 日差しが 星が いい生き物たちに、彼らの眠りに 降り注ぐ ここでも、どこかでも いてしまっていいさ いてしまっていいさ そう口にする いつか 君を眠って君を目覚める * 道は、歩いた人たちの 言葉や思いを 飲んで 青黒く見えた 人は詩集を 開いて 「昔」を「音」に 書きかえていく だって形が 形が似ているから 澄んで 言くから そうしてそのまま 眠らないでいいのなら 人々は森に変わる 家々は雲に変わる 積み上げられる 空に 地上で木になった 微笑たちはやがて そこに引っ越すのだろう そしたらやっと 許せるのかもしれない 知っている人たちと 知らない人たちが 踊りつつ 新居の窓を 開いて 一人になる ここで見上げながら しかし歩き去る それだって 一つの季節だから 枯れていく台詞たちよ お前らなど 生きてしまえ、生きてしまえ 幸せに揺れる人よ お前など 生きてしまえ 生きてしまえ 物語に汚染された道の上を 小さな生き物が歩いてくる 一歩、一歩 知らないその生き物を これから どう知るのだろうか ただ繰り返し 何かが生まれていく 糸が くずほれるように ように、 ように、 そう言って また濁っていく いまはあまりに暗いから 夜が来て星が出るのを 待とう * 猫にも似た何か お前は世界のひずみを 一身に湛えて そのために 崩れて 息をしている お前が受け入れた傷が あたりを優しく染める だから お前はひどく歪んで 真っ直ぐだ 遠くとおくから お前を窓として 風が吹くほどに ある人にも似た何か お前はこちらを見ずに けれど鋭く刺さる ばらばらが 光って、お前を結ぶなおす 何度も 内臓に暗く、陽が満ちて だけれど 溺れることも 泳ぐこともできない もう、忘れることも 思い出すこともできない * 影をひたすら植えていくだろう ある色がない色に なる時も すべてがすべてでなくなる時も 瞬いた ある日には 葉を 開いた 体のなかに 樹の液が満ちていく 砕けながら 雲のように そうして 人の形を 知ってしまう 忘れようとしたものをも いつまでも ここにいたいのだから 歩きはじめてしまう 風をひとひら ひとひら ほどいていくだろう 書かれなかった 手紙のように 何もないように とても暗いよ、 いや明るいよ、 言い合いながら 二人の子どもが過ぎた いつの日か 少しずつ 影は昇っていった どこへも 届かないままに どこまでも * 夜に、 読点を打つような心で 砕けたものを 空気へ 返していく すまなかった すまなかった 何をも壊したくなかったと うそぶくように 頷いて 霞むから 寂しいほどに 水を てのひらに拾う その青はどんな海よりも 遠くに ある あるのだろう 種は 破片は 肺にしみた 新しいその形を ふたたび 知ることはない それでも 一粒、一粒 返していく * 君はうっすら 眼を 芽を開けて、 気付かずに、飛ぶように 池がある みなもを風が落ちていく 花のように 君のまわりに草がある 緑がそよいでいる 池をボートが落ちていく、 池の時間を 人たちが笑い合っている 人たちが笑い合って いる だろう あれはきっといい人たちだ 何せ、何せ、何せ 陽が昇る 君はそのまま みなもをさわる、 みなもの時間を 君がそよいでいる * 待つ人と待たれる人は いつからか 同じ人になった 息をするたびに 影の花を散らした 透んでまた、映じていった その小々波 海の時間
待つこと ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1131.0
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-03-21
コメント日時 2017-04-03
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
言葉から言葉へと飛び石のように渡っていこうとする時に、石の置き方に問題があると躓きがちになります。その点、この詩は軽やかに飛び渡ることができます。「いい生き物たち」たちが夢を捕食する描写は残酷なはずなのに、軽やかで美しいと感じる。これは言葉に力があるからでしょう。 文章の中にしばしば登場する矛盾した表現が、しっかりと説得力を持っています。ただ最終連は、これだけの長さを受け止めるにはちょっと強度不足な印象です。個人的には「その小々波」と「海の時間」の間に、もうワンフレーズ欲しいかなと思いました。
0一般論=当たり前であるかのように、淡々と語り手の見ている世界の成り立ちが表現されていますが、この語り手とは無関係な世界は確かに淡々と変化するのみですが、語り手と関係のある事物、つまり、「君」に関する事項については、躓きが表現されている気がしました。 「終わっていないすべてが/彼らになってそこを行き交う」「空にも地上にも/いい生き物たちがいる」といった表現は、おそらく語り手がいなくても成り立つ世界=一般論ですが、「君を涙するすべだけを知らない」というのは、語り手と君との関係性がないと成り立たない世界です。この詩において重要なテーマは、全体と部分であると捉えました。「物語に汚染された道の上を/小さな生き物が歩いてくる」というのもまさにそうです。 この詩において、その全体がどのように描かれているのか、語りにとってきっとよいものではないのでしょう。特に人々が生活を送る地上=道というものがそこに生きてきた人々の歴史に覆われていることがあり、人々の歴史に染まらないであろう空の世界に希望を見出しているように思えます。ただ、その空も結局は人々=「いい生き物たち」の住処であることは、「地上で木になった/微笑たちはやがて/そこに引っ越すのだろう」という表現からわかります。 様々なモチーフが交差しているのですが、でたらめなわけではなく、きちんと使い分けられており、人=木・森・植物であり、地上や道がそれらの人が住み着く場所であり、人が枯れてゆくといったモチーフもきちんと徹底されていて、この世界の見方というのはとても魅力的でした。 話は戻りますが、この詩における大きなテーマは全体と部分であると思いますが、全体の中における部分ではなく、部分と部分の交わり合いというのが重要なのだと考えられます。冒頭から何回か「行き交う」という言葉が出てきますが、これは交わることのない無責任な交差でしかないのでしょう。終わりに向かっていくまでの展開は実に見事です。風がみなもと交わりはじめ、緑がそよぎ、そして、君がみなもの時間と交わるのです。ただ、池の時間を笑い合っている人たちと君は、語り手にとって交わらないように見えていいます。 この語り手は、カメラアイ=眼差す人です。そして、フェードインやフェードアウトを繰り返しつつ、その焦点には君がいるのでしょう。すべての物事はフェードアウトして遠くから見ることで同じように見えてしまいますが、フェードインすることで、事物の違いを見極めることができるのでしょう。「透んでまた、映じていった/その小々波/海の時間」というのは見事なフェードアウトです。部分でしかない小々波の映像から見事に海全体の光景へと読者を運びます。そうしてまた、語り手も君もいい生き物たちの区別がない世界へと導かれていくのです。
0もとこさん、コメントありがとうございます。 評価していただいたようで、ありがたいです。「いい生き物たち」の描写に代表されるように、そして、もとこさんが言ってくださったように、この詩において重要になっているのは、本来矛盾した要素を渾然一体として語る、という試みです。こうした行為からは、二項対立において成り立っている論理性を溶かして行って、より自由な言葉の風景を作り出せないかと考えています。「いい生き物たち」の場面を美しいと感じてくださったのは、とても嬉しいですね。 最終連に関しては(なかたつさんが言及してくださいましたが)ある種のフェードアウトを狙ったのですが、言葉足らずだったかもしれません。詩的な結論は、言葉の意味が曖昧な状態で出されるべきだと私は考えがちなのですが、もしかするとより言葉の意味性に踏みとどまって、それまでの流れを受け止める必要があったかもしれません。その点については今後模索していきたいです。
0なかたつさん、コメントありがとうございます。 私の詩にここまで明快な論理性を見出し、批評してくださったことに感謝しています。ご指摘の通り、この詩の世界観というのは、世界と君、を提示することで成り立っています。君を見据える認識者は、(カメラアイというご指摘もここにつながるのですが)存在しつつも、自らを認証化しません。そのことによって私は、世界と語り手が渾然としつつも葛藤している状態の現出を試みています。君、というのはこの状態において一つの到達点であり、そのため、君とみなもの混じりというのは、語り手にとって決定的な瞬間になるように提示したかったのです。 「いい生き物たち」を「人」と捉えた点は、私の意図には本来なかった解釈であると感じました。もちろん、私の詩は私の意図以上に大きなものであるべきだと考えているので、なかたつさんのこのような解釈は私にとって嬉しいものです。「人」や「いい生き物たち」と語り手との関係は、相反する要素を持った関係であり、その点この詩において多用したアンビバレントなものが同時に語られるということにつながっていきます。彼らは美しく、残酷な存在です。つまり「いい」存在なんですね。(少し話がずれますが、「いい」という言葉の無責任さが気に入っています) ラストより一つ前の連をクライマックスと考えて書いたので、それを評価してくださった点は大変嬉しいです。部分と部分がいかに結びつくか、その上で、いかにすでにあってしまっている世界につながっていくか、そうしたテーマがこの詩には通底しています。私自身、このコメントを書きながら自分の中での論理を確かなものにできたように思い、喜ばしいです。
0あんまりたくさん星が動くから/淡く青くなる あ、の三連符。青空をこんな風に表現するのか、という新鮮な驚きがありました。第一パートを読んでいくと、星=いい生き物たち=死者たち、であるように思われました。 数パートに分かれているのですが、小品を連作として、オムニバスのように連ねている印象があり・・・一つの作品として読むには長いかな、とも思うのですが、アステリで区切られているので、無理な長さではない、という気もします。難しいところです。 「人は詩集を/開いて/「昔」を「音」に/書きかえていく」過去の出来事、過去の想いを、音という、今、そこにあるものにしていく、その場に立ち上げていく。それが、詩集を読むということ、そんな柔らかい詩論のようなものを感じる部分です。 「枯れていく台詞たちよ」「物語に汚染された道の上」など、語ること、物語ることを深く考えている様子が、幻燈のようなファンタジックな映像として映し出され、柔らかい語り口によって進行していく、流れが美しいと思いました。 後半も詳しく見ていきたいのですが、とりあえず、今はここまで。
0まりもさん、コメントありがとうございます。青空の部分、お褒めいただき幸いです。ご指摘いただいたように、この詩はいくつかの章段を持ち、その一つごとに違うシーンが現れています。私としては、この作品においては、詩でありつつも、物語の時間的経過ができないかと試みている点もあります。 詩論がある、流れが美しいという言葉は大変ありがたいです。どこかで常になぜ語っているかを裏付けられるような詩を書いて行きたいと思っています。 後半もよろしければぜひ笑
0るるりらさんの上記のコメント、黒鍵さんへのものが、自動的にコピーされてしまったようです。 私も、別の方にコメントして、すぐ後に別の方のコメント欄を開けて、いったん閉じて別の作品に移動しようとしたら、コメント欄に先に打ち込んだものが、コピーされていて、慌てて消しました。
0全体を通して読み、やはり少し冗漫かな、という印象はあります。 お前、君、といった呼称の変化は、本来は異なる作品として成立するものが、一つに緩やかにまとめられているから起きている事なのか、お前、と呼ばれる存在が君、と変化していく流れを作りたいのか(私には、同一の呼びかけられる対象の呼称の変化というよりも、別の人称の導入のように思われるのですが)判断がつきかねる部分がありました。 体内に樹木が育っていくような感覚、外部から得たものが自分の中で育っていく感覚は、言の葉が形を得ていく感覚のアナロジーであるように思いました。
0個人的に凄く好きというか、泣きそうになってしまった。 感想言いたくないなぁ。 色々どん底で、落ち込んでいた時の心に染み込んでくるような詩句の数々、逆説のばらまかれた詩句の数々、、、という感じでしょうか。星が打ち上がり、それを最後の >透んでまた、映じていった >その小々波 >海の時間 静かな波の打ち返す夜の静寂を見つめている語り手の視線で閉じていく。個人的には技術的っていうより心に来たという意味で傑作です。詩を読んでこういう気持ちになったのが本当に久しぶり。なんというか、そうひさしぶりに詩を読んで僕は泣きそうになった。細かい話もしてみたいけど、一ヶ月くらいはこの気持ちを大事にしてたいなぁ。。。
0まりもさん、コメントありがとうございます。 確かに少し冗漫さがあるかもしれないです。個人的に、詩の中で時間が経過していく、それによって一つのテーマがどのように語り直されるか、という点に関心があり、このように長く書く試みをしています。(ただ、うまくいかなかったかもしれないです) 呼称について君と、お前は違う存在として書いたつもりなのですが、そういった部分があったことについて、ご指摘ありがたいです。もちろんそういった差異はわかるようにすべきだとは思うのですが、説明はなるべくしたくないので、難しいものを感じています。 最後の感覚について、私はかなり抽象度の高いイメージで描いていたのですが、より具体的な感覚につなげてくださり感謝です。言葉が紡がれていく時の感覚は詩自体に投影されるべきではないか、と個人的に思います。
0hyakkinnさん、コメントありがとうございます。 hyakkinnさんのように私の詩を受け止めてくださった人に、私から言い得ることはあまりないかもしれません。ただ、この詩が私自身大切に思っているこの詩があなたにも大切に思ってもらえたようで、とても嬉しいです。
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