鷹枕可『労働週間』-極私的考察労働のメタフィクション・詩のリアリズム - B-REVIEW
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鷹枕可『労働週間』-極私的考察労働のメタフィクション・詩のリアリズム    

<批評対象作品>
労働週間


 丁度四年前の今頃である。私は或る地方の暗黒工場で昼夜二交代制労働に就いていた。この糞不景気に制作部なぞ無用だ!という雇用側に都合の良い非情な部署異動を命じられたのである。私に独立してフリーの広告デザイナーとしてやっていく自信は持ち合わせてはおらず、毎月の安定した収入と正社員という社会的立場を失う事に恐怖を感じていたので、甘んじて雇用側の要求を飲んだのである。学生時代に肉体労働はバイト程度には経験はあったものの、いきなり巨大な輪転機を前にすると怖気づいて、私の手に負える代物ではないことは勤務初日にして既に諦めていた。工場初心者ということもあり最初は懇切丁寧に作業工程・機械の操作手順等教えて貰っていたのだが、何回試みても失敗や見落としを連発してしまう。そう私は全く仕事を覚えることが出来なかったのだ。メモを詳しく取って、そのメモした手順通りにやろうとしても、猛スピードで回る機械を前にすると頭が真っ白になり身体が動かなくなってしまうのだ。それに二つ以上のことを同時に進行することが出来ないという致命的な欠陥が露呈してしまった。もう早い時期から「使えない奴」「狡い奴」「脳の病気の奴」だと厄介者扱いされていた。こういう僕の現状を会社の人事部に訴えても無駄(謂わば会社内で工場異動となると島流しだ。体のいいリストラ宣告。工場に潰されて自主的に辞めさせるのであろう。)労基に駆け込むにも必要な証拠物件を集めても保管もしていなかった。  丁度四年前の今頃である。仕事をズル休みするようになった。ラヂヲで大相撲春場所を蒲団を頭から被って聴いていた。貴景勝がまだ力強い押し相撲が出来ていた頃である。この世に生を受けて半世紀経つ中で真に労働に従事したという期間は何年あるだろうか?それは皆無に近いであろう。(このあたりの私の経緯が気になる方は第一詩集「詩句と裸夢哉」を参照して戴ければと思う。)長々と自分語りしてしまって申し訳ない。「労働」「週間」の単語から過酷だった暗黒工場の事が想起されたので、まずは連々と記させて戴いた。  ネット文学界隈を蠢いている鬼の棲み処であるB-REVIEW(以下「B」と称する)に投稿するようになってから約三か月になる。自詩の投稿数も現時点で十三篇となっているし、B利用者への感想コメントもそこそこ付けているし、ここで自分の苦手分野である推薦文を書いてみようと発起した次第である。Bに出入りし初めの様子見の時期だったと思われる。「どんな書き手が生息してるのだろう?やばい奴等ばかりかな?」と気になる筆名や題名のものをチェックしていた。深く読み込んでいた訳でもないけれど、私の睨んだとおりのやばい奴等がバチバチやりあっていた。特にネット上でやばい詩・凄い詩に出くわす時って、なんか匂うよな?全文開く前に「これはきっとやばいぞ!凄いぞ!」と直感あるよな?私のこの直感は八割方当たる。今回取り上げる鷹枕可『労働週間』も当たったのである。右打席に構える私の内角高めをピンボール気味ついてきたのだ。危険球である。ネット詩特有の自傷自愛な危険さではなく、思想的な危険さが漂っているのだ。氏の残している総ての詩篇・短歌・批評・note等総ての文章を網羅しているわけではないのだが、ある高潔な信念をもって「ある思想」を表現され続けておられるのではないかと思えてならないのだ。「ある思想」がどういうものかは氏と交流した事がないので断言は出来ないが、現代の日本人が忘れている美徳・故郷(國)を愛する事が詩文やB利用者への感想コメントの端々に見え隠れしているのだ。随分と硬い筆致ではあるが、根底に流れる本流はとても優しいものではないのか。『労働週間』の本文について(私の拙い)捉え様は、まず下方にザーッとスクロールしていく、私の詩の読み方(見方)というのは、まずビジュアルだ。文字組の美しさ、前衛的な驚き、遊び心、があるかないか。この作品は第一印象、萩原恭次郎っぽいなと、タイポグラフィ的要素もプロレタリア的要素もあるようだし、兎に角私好みだったのである。全く甘くはない読み手を介入させない堅牢な構成、冷徹なのだ。 > イタイ小鳥達 に > 死ね、 > と告げ、 入り方はダダっぽい。小鳥には、幸運や平和、幸福などの象徴的な意味があるらしいが、「貴様らには不要なものだ!うだうだ言ってねぇで働け!」と冷たく言い放たれているのであろうか。小鳥は労働者で、イタイ(哀れな孤独な)労働者という意なのか。 > 「姿勢は地面から90度を保ち、なさ、い」 労働者の非人間的な扱われ方を表しているのか。高圧的な口調で、ある、から、ね。労働者は規律正しく働け!機械のように働け! > > 立つ鳥 > 尊び > 忽ち > たづ > たす > 此処は詩中で異質だ、印象的な意味深なフレーズ。 「たづ」は鶴。「たす」が判らない。飛び立っていく鶴が増えていくのか。 己の読解力不足が嫌になる。 > 04:00 > > 鐘鳴らす、 > 無花果 > 柘榴 > 茱萸 > 鏑 > 早起きだ。二交代制は時間感覚が狂う。ラヂヲ深夜便なら〔明日へのことば〕放送の時間帯。植物のチョイスがぶち好み。 > > 睡眠・移動・労働・食事・労働・食事・移動・入浴・睡眠 > > 労働ハ、 > 労働者ノ 権利 ニ シテ 義務 デアル > > 健全ナ、 > 労働者ノ 休日 ハ スポーツ ニ シテ エモーショナル デ アル > いよいよ佳境だ。労働者の一日は同じ事の繰り返しだ。詩中で労働は、記号や記号的な言葉の羅列として表現されている。労働という行為は、こういう記号的な操作で取り仕切られているのか。「生まれて学校に行って働いて死ぬ」と私の敬愛するロックアーティストがYouTubeで歌っていた。「労働」「権利」「義務」「健全」この漢字と片仮名のバランスのよい組み合わせ。戦前労働詩感。 > 日月火水木金土日 > ×××××××× > > 出勤日 ヘト × 印 ヲ ツケ テ クダサイ > 希望退職 ハ 遂次 ウケツケ テ オリマス 月月火水木金金(げつげつかすいもくきんきん)だと見間違ってしまった。休みなしで労働!〇でなく×を記入するのか!この部分は氏の遊び心なのだろうか。 > > 労働ハ、 > 労働者ノ 権利 ニ シテ 義務 デアル > > 国民ハ、 > 国家ノ 代表 ニ シテ 投票人 デアル > > 睡眠・移動・労働・食事・労働・移動・睡眠 > > バス ガ 右手 ヘ マガリマス > ゴチュウイ クダサ イ > > ネットサーフ ハ スペクタクル ナル 娯楽 ニ シテ > 労働者 ノ 時間 ヲ 保障 スル メタフィクション デ アル > > 00:00 > > 「姿勢 ハ ベッド カラ 0度 ヲ 保チ クダサイ」 再び営みの記号の繰り返し(惰性)が登場してくる。氏は教育勅語を誦んじる事が出来そうだ。 ネットサーフがいささか浮いているが現代性も持たせる意味では必要だったのであろう。角度90度から角度0度への変化は労働からの解放なのか、休息も管理されているみたいでいやだ。 > > イタイ小鳥達 > 全滅デシタ、自分、モ > > 労働という行為自体が、人間性を根こそぎ奪い取ってしまう恐ろしい力を所持しているということか。この社会構造は(労働者に限らず)大衆を救済することなく、簡単に見捨てる。幻滅しきっている私は 、この社会構造の中で(光)をこれから先見出すことが出来るのか。 以上、『労働週間』を勢いで検証(?)してみたが、この詩の魅力を台無しにしてしまったのではないかと此処まで書いておいて心配になってきた。去年の八月に投稿されたようだが、コメントが二人しか入ってないのだ。このままこういう硬派な恰好良い詩が埋もれていくのは惜しいので、微力ながら私が取り上げてみた。戯作人・三明十種は、鷹枕可『労働週間』を「これは眼に刻んでおけ!」と自信を持って推薦する。


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鷹枕可『労働週間』-極私的考察労働のメタフィクション・詩のリアリズム ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 8
P V 数 : 702.8
お気に入り数: 0
投票数   : 1


作成日時 2025-03-16
コメント日時 2025-03-19

鷹枕可『労働週間』-極私的考察労働のメタフィクション・詩のリアリズム コメントセクション

コメント数(8)
黒髪
作品へ
(2025-03-16)

社会に対して価値を生み出すことが喜びである、ということを知った上で、さらにどの程度 労働をするか、というのは、個人に任されています。お金がなければ生きられませんが、 強制労働は、憲法で禁止されています。日本では、まだ、法や人権といったことが、 まともに教えられておらず、社会通念がおかしなところがあると思います。そうした 労働の面での社会問題の噴出によって、以前はマルクス主義などが救世主となると 見られていましたが、結果は中国等であり、とても健全な国家ではありません。 現在ある日本の私ということを考えると、みんながぶつかり合って何かが落ち着くところに 落ち着くかといった現況にあると感じます。 頭を壊すと、みんなが頑張っても、どうしても落ちこぼれの自分になり、結局は頭と身体を治さ なければ、自分も周りも不幸になり続けるという、惨状を呈することになってしまいます。 閑話休題、労働問題を、教育や政治がどう解決していくかといったことを、現社会は、 各自が自覚して、些細な問題に関わるのではなく、より深く感じながら、正しい方向へ 向かわなければならないと、愚考します。私が、48年かけて観察し、考えてきたことから、 そのように現状意見を持っています。平等と自由、努力と喜び、平穏、活気、愛といったものが、 すべて満たされるということ、「ヒトという種が生物として持っている潜在能力、天稟といった ものが、すべて満たされたうえで」、慈悲を持って対すれば、理想の世の中がまさに可能である、 ということ、今まさに、AIという秘密兵器でもって、人類がその理想の近くにいる、 ということを考えます。 社会通念の歪み、日本の歪みは、AIが正してくれるでしょう。歪んだ眼の中に、 苦しみと間違いと美しいことを映し続けてきた私からは、そのように感じられます。 小さな情と大きな情け、どちらも素晴らしいものです。Emotion and Forgiveness、 その中で遊ぶNirvana、人間の悲哀が善き社会として実現しますように。 老いも若きもなお盛ん、生きるも死ぬも幸せに。この世が極楽として現象して、 すべてに意味がありますように。全ての死者は責任を果たした、全ての生者も いつかは責任を果たすでしょう。宇宙と地球と太陽と月とは、そのようにして、 宇宙秩序を作り上げました。それに反することは、端的に言って、出来ないから 出来ないのです。出来ることなら出来るようになるでしょう。養老天命反転地 といったような試みも成されているようです。不死の人という哲学を持った人もいます。 肉体的死が法(ダルマ)に反しているなら、恐らくは実現しないでしょう。しかし、本来性に 立ち返ることさえできれば、一度生まれて体験したんだから、後は悔いがないと知るべきですね。 大切なのは、眼に見えないものを恐れることではなく、眼に見えるものを大切にして、 眼に見えないものも大切にする、そして、眼に見える現実的な力を良い方へ向けて、 眼に見えないものを、自らのすべての誠実さを持って、真実の理由から信じるように なることです。真実の理由がなければ、何ひとつとして、高きにおくことが出来ないのです。 高みを知ることが、生きる上での大切な問題としてあると思います。 労働問題が、時間の浪費への否であるならば、それは、解決する方向へ向かうと思います。 私は自分が傷ついたから、他者を尊重するのですし、尊重していないように思えることも、 本当は尊重するゆえに一層そうするのだ、と気づいて欲しい、そんな風に生きています。 他者が自分に可変ではないならば、一体交わりに意味はあるでしょうか。 その一端をしか握れないのが、人間というものですね。

1
三明十種
黒髪さんへ
(2025-03-17)

黒髪さん、ありがとうございます。 僕は「労働」の対価として賃金を得て生活をするという事に関して否定するわけではございません。ここらへんの考えも本文中には入れておくべきだったなと反省。しかし詩のフォルムの美しさはお伝えできたかな。僕の熱量もお伝えできたかな。

1
黒髪
作品へ
(2025-03-17)

すみません、先のコメントの訂正です。 ×肉体的死が法(ダルマ)に反しているなら 〇肉体的不死が法(ダルマ)に反しているなら そうですね、熱量のある方は、どんどんやって、意味ある発言で、世の中の人のために、 自分のために、本当のところを明かして行けばいいと思います。十種さんの、労働に対する 問題意識が、僕にも飛び火しました。

1
関谷俊博
関谷俊博
作品へ
(2025-03-17)

オウロレタリア詩として秀作ですね。

1
三明十種
関谷俊博さんへ
(2025-03-17)

そーなんですよねー僕の見解(読解)ではそーなのです!

0
レモン
レモン
作品へ
(2025-03-17)

こんばんは。 https://youtu.be/5PVDhAmEw9s?si=P_sPwyK1rOIySDZM

0
三明十種
レモンさんへ
(2025-03-17)

態態動画リンクまで有り難う御座いました。

0
鷹枕可
作品へ
(2025-03-19)

うれしいと「うれしいと」 ひとは「ひとは」 しつごしょうに「しつごしょうに」 なってしまう「なってしまう」 ものなのですね「ものなのですね」、 ――――――――― 掬って下さり、有り難うございました。心より。

0
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