2025年2月のBレビュー - B-REVIEW
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2025年2月のBレビュー    

本文は、2025年2月に、ビーレビューに投稿された作品を査定したものである。 【上位3選(順不同)】 鯖詰缶太郎 「なー、つー、」 https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=14284 この書き手には、良くも悪くも「品の良さ」を基盤とした美学があるように思う。 全体的に掴みどころがなく、それでいておもしろいが、それは単に井上陽水という存在が醸し出している「ワカンナイ」に由来するばかりではない。むしろ、作中で意図的に仕掛けられた「ほどよい異変」によって、表象の世界が絶妙なバランスを保ち、結果として読者に「爽やかな」ポエジーを感じさせるからだろう。 こうした「異変が生むことによりむしろ安定する」という逆説的な構造は、一定以上のレベルの書き手ならば理解しているはずの技法であり、問題は、それをどこまで「ほどよいもの」として調整するか、その志向性の是非にかかっていると思われる。 例えば、 >ああ 僕らは蹂躙されたのだと >素面の時には >ふと目の当たりにしてしまうのです。 話者のこういう気持ちは単なる個人の感傷ではなく、時代の大きなうねりの中で「巻き込まれた」感覚として共感しかない。もう「狂う」くらいしか、選択肢がなかった。(おそらく作者と筆者の世代は近い) >パソコンのキーボードを叩く >あの規則正しい、よわよわしい >じつによわよわしい >ピアニッシモの、音階のない >無機質な水気のないテクノ音に むかし聴いていた音楽が、今や「キーボードを叩く、規則正しい、よわよわしいテクノ音」にのまれ、かつての熱量が失われてしまった。「もうクワガタムシたちの音に こらえきれなくなり 少年時代を 自ら がなり始めて」も、「少年時代」のあの頃に戻れるわけではない。 >のまれきり、僕らは >かわききり、ひからび、 >歯車になれました、というよりは >歯車に巻き込まれて、ぐにゃぐにゃの >やはりその身体、メンタリティーは >それはねじれてはいるが >まるみはなく >骨身も、肉も、返り血も >ちらかりきっていて >連続殺人事件が三歩、歩くごとに行なわれかのように >凄惨極まりなく、 >ああ 僕らは蹂躙されたのだと >素面の時には >ふと目の当たりにしてしまうのです。 機械的な秩序によって押しつぶされる感覚を「歯車」と表現する。抑圧され、乾ききり、やがて歯車へと変容する身体。それは無痛、無自覚なままシステムに飲み込まれる事態を指すのではなく、「蹂躙された」と自覚しつつも抗えない痛みを伴う。 問題は、ここに潜む「狂気」が、単なる素材として配置されているに過ぎないのか、それとも作品の骨格そのものを軋ませ、揺るがすほどの力を持っているのか、という点にあるだろう。 作者の「志向性」を問うならば、それは、こうした狂気が言語表象機能の役割にとどまらず、どこまで作品の制御を超えて暴れ出すのか、という一点にかかってくる。 作者が「ほどよく異変を起こすことで、むしろ表象空間を安定させる」という、意識的なバランス感覚の中にとどまる限り、読者の了見を揺り動かす決定打にはならないのではないか。むしろ、「ほどよさ」を破壊することでしか到達できない地点があるのではないか。本作が、あえてその臨界点を踏み越えないことを美学とするのか、それとも、より鋭利な表現へと突き進むのか。 作中に、突出した「詩」が一行でもあればいいのだが。 完備 「sex, sex, sex,」 https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=14299 作者は、界隈ではその直言パワーで広く(?)知られている人物であるが、その作品世界はというと、なぜかいつもひどく内向的である。 >ぼくはあなたに嫌われたくない >セックス、セックス、セックス、いいえ、 >心が一番やわらかい、人生のわずかな季節に好きだった >あなたにぼくは嫌われたくない いったすぐそばで自分で否定する。繊細さの極みである。 >ストレートだよね。私もそう思う。そう書いたつもりだから。 とは本人の弁だが、この作者はけっして「ストレートに書く」タイプの書き手ではないし、(作者本体も決して「いいたいこという」タイプではないのではないか) 作品の背景に、じつは奥の方に、美しい関係が潜んでいる(た) そのように「ストレートに」読めればいいのだろう、 しかし、 >セックス依存症というのもありました。 >承認欲求を満たすためにsexに依存するそうです。 >「ちょっと奥さん......」 >とみのもんた心の疼く詩でした。 >鬱だなぁ。 >ただ自分の思いを書いて、それが作品になってしまうなら >それに越したことはないよね。 >練られた形跡を全く感じない。 >文字通り一発描きだろう。 というようなコメントもあるように、届く人には届くが、そうではない人にはまったく届かない。そのような性質の作品であると思われる。 常に平均を上回る有能な書き手であるが、課題があるとすれば、そこではないか。 田中宏輔 「骨。」 https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=14249 この詩は、一見すると「不具」や「狂気」といったフェティッシュな解釈を誘発するかもしれない。しかし、より本質的なものとして感じられるのは、「静けさ」だ。 「首がない」=「意思がない」。それは、決して決定することのない存在であり、動かず、音もなく、ただそこにある。「首のない鳥」「首のない蛇」「首のない魚」もまた、意思や主体性を持たず、ただ物として存在する。しかし、それは単なる「無」ではない。むしろ、意図的に形づくられたものだ。 骨をつなぎ、鳥や蛇や魚の姿に似せて作る。しかし、それらは飛ばず、這わず、泳がない。「首がない」から、「意思がない」。そして意思がないものは、動かない。だが、それは「死」の象徴ではない。石のようにじっとしているが、完全なる無ではなく、形として残り続ける。 作品の実際に即して考えると、これらの描写が(例えば)「フリークス」というようなつきなみな倒錯に淫しているようには思えない。そうだとしたら、あまりにドラマ性がない。 むしろ、それらはそうした枠組みを超えて、より本質的な「静けさ」そのものへと向かっているように感じられる。音もなく、動くこともなく、それでいて確かにそこにある。この詩が形づくるのは、そうした絶対的な沈黙の場なのではないか。 最終連で「objet」が、言葉としてはっきりと現れる。単なる死のメタファーではなく、「意味の失われた形」そのものを主題にしていることが強調される。それは祈ることすらしない。神の前でさえ、沈黙を守る。では、この「首のないものたち」は、世界のどこへ向かうのだろうかといえば、動かず、音もなく、意志もなく、それでも形を変え続けること。そのものを指している。それを「進化」と呼ぶべきだろうか、それとも。


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2025年2月のBレビュー ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 5
P V 数 : 812.8
お気に入り数: 0
投票数   : 0
ポイント数 : 0

作成日時 2025-03-02
コメント日時 2025-03-28
#現代詩 #ビーレビ杯不参加
項目全期間(2025/04/07現在)投稿後10日間
叙情性00
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エンタメ00
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叙情性00
前衛性00
可読性00
 エンタメ00
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構成00
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閲覧指数:812.8
2025/04/07 04時38分40秒現在
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    作品に書かれた推薦文

2025年2月のBレビュー コメントセクション

コメント数(5)
rona
rona
作品へ
(2025-03-03)

いい作品を選びますねぇ。田中さんの『骨。』は読んでなかったから、ここで読めて良かったです。どれも秀作ですねー 私的には2月は『逆さま』がダントツでしたが。運営がどう取り上げるか楽しみです。 一点、『sex, sex, sex,』 >課題があるとすれば、そこではないか。 課題だろうか…? 私は届かない人には届かないという前提で考えてしまうんだけど(それは万事に対する私のスタンスでもあり)考えさせられました。

0
筆者
ronaさんへ
(2025-03-03)

ronaさん、ありがとうございます。 先月だと田中氏の「骨。」こそ読まれるべき作品として推します。erotic。この実力者3名を論じる機会があったのはよかったです。 作品を単体で論じるより、レベルの高い作品をならべてみた時に、はじめて個々の奥行きのあるなしが見えてくるように思います。ためしに「なー、つー、」と「sex, sex, sex,」と「骨。」をならべてみると、わたしにははっきりとテーマが見えた。レベルの高い作品を並列して論じると、そういうことが起きる。 「届く、届かない」っていう話は、いうまでもなく、マーケティングやコピーライトの次元の話でもあるわけで、文芸にはそれを凌ぐ創意とか技術があると思っています。

1
筆者
作品へ
(2025-03-03)

今月も「腹筋褒めコンテスト」のままでしたね...(白目) みんな腹筋が好きだねえ... こちとら今後もルール上問題ない男として邁進していきたいね。

1
rona
rona
筆者へ
(2025-03-03)

返信ありがとうございます。 >「届く、届かない」っていう話は、いうまでもなく、マーケティングやコピーライトの次元の話でもあるわけで、文芸にはそれを凌ぐ創意とか技術があると思っています。 そうなのだろうね。 ガチですね、選出された作品群も書き手さんも筆者さんも。良いもの読ませて頂いて感謝。

0
三明十種
作品へ
(2025-03-28)

三つとも素晴らしい作品ですなーそれぞれ「私」をどう描くかなんですかねー3月は誰のどの作品が選ばれるのであろうか…楽しみです。

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