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或る女の剖検
何処で道を違えたか 十五で親元飛び出して 二十二で好いた男と縁付くも 蹴られ殴られ首絞められて 安置されるは解剖台 どれほどの罪科重ねれば 脳天に鋸挽かれましょうか 後生大事な五臓六腑を 無影灯に晒されましょうか ならば全てを明かして下さい 私の身体は下賤でしょうか 蜷局を巻いた脳味噌は 優れた者と劣った者とで さほど大きさは違わぬと 聞き及んではおりますが 私が惨めに死んだのは その働きの為す業でしょうか 硬直した乳房を引き裂けば 心臓包む網目のふいご 社会の風を吸って吐き その冷たさを感じ取るのは さぞや辛い役目でしょう 故郷は遠く初恋は彼方 ネオンサインに純情溶かし 生き生き生きて夜の陰 死に死に死んで朝の露 この身果てても顧みる者なく 百万都市の片隅に 心は世間に煤けていても 身体は綺麗だったでしょうか もはや恨みは有りませぬ 無明の現世を生くるよりかは それではお暇いたします ホルマリンの棺なら 訪う者なき無縁塚より 立派な墓標となりましょう
或る女の剖検 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 857.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-03-02
コメント日時 2018-03-28
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
悲壮をありありと表現している。と、感じました。 この詩の語り手の潔さを、(この詩の世界に存在する)周囲の人間が負け犬の遠吠えと下したとしても、この詩を読んだ自分は何も言えない、そんな凄みを感じました。 つらつらと啖呵を切るように書かれている文がそう感じさせるのだと思います。 (この言葉が相応しいのかわかりませんが、「あっぱれ!」と言いたくなりました。) すごい詩だと思います。
0おはようございます。 たくさんの方よりコメントをいただいて 感激しております。 読んでいただいて、ありがとうございます。 短くはありますが、返信させていただきます。 熱帯 うりん様 私も、多分蹴りますね(笑) それはおいといて。 確かに、最後のくだりは二転三転しました。 そこを見抜かれてしまうのは、ひとえに私の 力量不足です。 最後に救済を匂わせる文章を入れてしまったので どこか中途半端な印象を受けたのだと思います。 最後まで闇を貫いたら、もっと別のものになって いたのかも知れません。 闇を描き切る覚悟が、私にはまだ足りないようです。 精進あるのみですね。 コメント、ありがとうございました。 蛾兆ボルカ様 監察医にとって解剖はご遺体との会話とも 言えるものでしょうね。 「首を絞められたの?苦しかったね。」とか。 静謐の中で行われるそれは、ある意味慈愛の 行為かも知れませんね。 コメント、ありがとうございました。 今後も、想像をかき立てるような文章を 書いていけるよう頑張ります。 社町 迅様 ちょっとつらつらし過ぎたかな…と個人的には 思っておりますが、それが逆に凄みに繋がった ようですね。 悲壮とか悲哀は、私が書き出したいテーマの一つで あるので、そこを感じ取っていただいたのは とても嬉しく思います。 「あっぱれ」の言葉は、大変励みになります。 コメント、ありがとうございました。
0饒舌で淀みのない語り口からは厭世観の裏に潜む、生への執着が感じられました。 献体となるのは禊の意味合いもあるのではないかと思います。 >生き生き生きて夜の陰 >死に死に死んで朝の露 という箇所で空海の言葉を連想させるなど、言葉選びから日本仏教的な死後の世界観を想起しました。そのことで言外の「もし来世があるのなら」という期待を感じさせるのかもしれません。 最終連が少し説明的に感じられ、「ホルマリンの棺」という言葉の存在感が弱まってしまった気がします。 >それではお暇いたします の差し込みの間が絶妙でした。
0斉藤 木馬様 生き生き生きて〜のくだりは、おっしゃる通り 空海の『秘蔵宝鑰』の冒頭部分をこの詩の雰囲気に 合わせてアレンジしたものです。 「この世は無明」という仏教的な世界観から 孤独な死というものを、私なりに捉えてみました。 ご指摘の部分についてですが、前2連が言わば 状況説明に当たり、3連目が主題と取るべき部分に なると思いますが、前2連と同じ調子で書かれて いる為、説明的になってしまっているのですね…。 この3連目を、もう少し分割、あるいは一部削除 していたなら、締め括りの最終3段がもっと際立つ ものになったのかな、と思います。 まだまだ、学ばねば。 コメント、ありがとうございました。
0それではお暇いたします ホルマリンの棺なら 訪う者なき無縁塚より 立派な墓標となりましょう だなんていわれたあと、チーンと 音がした気がしました。 初読では おもわず、ただただ ふるえました。 二度目に読んだときは、司法検視を行う人が、被害者の検視を行いながら 被害者の代わりにセリフを言っているような詩と受け止めながら読んで、この詩は愛だと思いました。 三度目に読んだときに、ふるえた理由が 解りました。正直いうと 検視が登場する小説やドラマは見ないことにしているし想像したくない分野のことなので 私の脳は この詩を まじめには映像化してないのです。ですが、「ホルマリンの棺」でイメージしたまいまして、私は ふるえたのです。 わたしの場合は、理科室にあった ホルマリン漬けの瓶をイメージしました。 それで 悪寒がしたのです。 すると、 疑問がわきました。これが実際の検視をモデルにした詩だとすると、 ホルマリンの棺に該当することは、本当に私が思ったホルマリン漬けの瓶に似た状態のことなんだろうか?そんな状態に死体をしなければいけない状況が 実際の検視にはあるのかなー。と疑問に思いました。 檜の棺とかと違って ホルマリンの棺は、 詩ならではの表現で す か? あー。きいてはならぬことを聞いております。なかなか引き込まれる作品でございました。
0るるりら様 読んでいただいて、ありがとうございます。 丁寧に読み込んでいただいたようで とても恐縮しております。 ご質問の件についてですが、現在では病理解剖後の 組織診断目的以外での、臓器のホルマリン保存は ほとんどないと思われます。 これは、私の過去の個人的な体験(?)を下敷きに しています。 随分と昔の話ではありますが、私は医療系の 専門学校に通っておりました。 そこで、某大学の解剖学教室の資料室見学が ありました。 その資料室では、理科室の標本と同じように 人間の臓器がホルマリン保存されていました。 臓器の収められた保存瓶は、その持主の墓標や 位牌などの『この世を生きた証に遺すもの』の ように思えました。 私は、その光景に気持ち悪さよりも物悲しさを 強く抱いたことを、今でも覚えています。 この見学の経験と、その時に覚えた物悲しさや 「この臓器の持主は、こんな暮らしぶりだった かも…」みたいな空想を織り交ぜて、この文章は できました。 たとえ一部であっても、遺体が収められているなら 『棺』と呼んで差し支えないだろうと思いました。 『ホルマリンの棺』は、私にとって詩的表現で あるとともに、実体でもあります。 ご質問の解答には、なりましたでしょうか。 私の拙い文章で、上手く伝わっていれば よいのですが。 コメント、ありがとうございました。
0解答ありがとうございました。 実は、わたし自身も死体に対して『この世を生きた証に遺すもの』という感覚で詩作に取り組んだことがあります。それで棺のディテールに興味を持ちました。 『ホルマリンの棺』は、私にとって詩的表現であるとともに、実体でもあること。よく理解できました。ありがとうございます。 ちなみに、わたしの扱った作品の場合は、青銅の含まれる棺に土葬されていた死体が 生前の姿を残したまま死蝋化し、七十年以上経って掘り起こされたときには、生きたままの姿であったという実例を元にした作品でした。 私の作品と比べて、この作品は 詩の骨格が明確で心に響くものがありました。おかげさまで とても勉強になりました。わたしに足りないものを鹿さんは 持っておられます。 鹿さんは、私が勝手にリスペクトさせていただいている書き手の 数少ない方の おひとりです。これからの作品も 楽しみにさせていただいております。わたしの素朴な疑問に解答していただき ありがとうございました。
0るるりら様 素直に嬉しいです。ありがとうございます。 るるりら様の作品は、何度か拝見しております。 その度に、心の中でいいねボタンを 連打しておりますが、いざコメントを残すと なると、「私のような者のコメントで この美しい作品世界を汚してしまう訳には いかない…。」と思ってしまいます。 恐れ多くてコメントは残せませんが 後光が差しているような眩しい気持ちで るるりら様の作品を読んでおります。 私も、読んでいただいた方に少しでも 何かを残せる文章を書けるように 精進していきたいと思います。 コメント、ありがとうございました。
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