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少年ジャンプ
その日 少年は跳び上がって喜んだ 残り3個のビックリマンを買い 見事「ヤマト爆神」を引き当てたのだ それは 小さな町の駄菓子屋 学校帰りの遊び場のような場所で見つけた宝物だった 年季の入ったショーケースの中に並ぶ お菓子やおもちゃたち 時折 隣で大人たちが買っていくビールや煙草の匂いが漂う中 少年の心には そこだけが夢の聖域だった ポケットの小銭はぎりぎりで 冷えた硬貨を握りしめながら 賭けに出る気分でレジに並んだ もしダメだったら またいつか手に入れると強がっても 小さな胸はドキドキと鼓動を高鳴らせる 包みを開ける瞬間 少年の指先には まるで未来への扉がそこにあるような感覚が広がった ふわりと 銀色の光がちらりと覗くその瞬間に 「これだ!」と心の中で叫ぶ声が響いた ああ その日 青い空の下で まっすぐ伸びた歓喜の声が町中にこだました 少年は小さなシールの輝きを 誇らしげに掲げて歩き 日が暮れるまで友達に見せびらかしては 一緒に叫んだあの瞬間の高揚感が 今でも胸の奥に残っている *** あれから幾年が過ぎたのであろう 四十代の夕暮れ時 男は一日の仕事を終え 重たい鞄を肩にかけたまま 静かな道を歩いている もうあの頃の町とは少し様変わりしていて 馴染みの駄菓子屋も いつの間にかビルに変わってしまった あの青空に響いた歓声も もうどこか遠くに消え ただ 冷えた街の灯りが微かに道を照らすだけだった 誰かと共有したい喜びも薄れ 心の奥にぽっかりと空いた隙間を埋めるものは ただ仕事と日常の繰り返しだけになっていた 「あの日の少年は、今も夢を追い続けてるのかな…」 ふと 男は曇った駅前のガラス窓に映る自分の顔を見つめた かつての少年の輝きは そこにはない 鏡越しに見る自分の顔には 少し疲れた表情と いくつかの白髪が混じり しわも増えていた けれど―― ポケットの中 まだ残していた「ヤマト爆神」のシールが かすかに指先に触れたとき 少年時代の記憶が心の奥で再び息を吹き返した あの頃の自分が蘇る 未来が無限に広がり どこへでも行けると信じていた そんな気持ちが戻ってくる そのとき感じた 無条件の喜び 純粋な冒険心 そして「自分ならできる」という力強い確信 年を重ね 心にフィルターがかかってしまった今の自分は それらをいつの間にか手放してしまったのだろうか 夢は消えたわけじゃない ただどこかに眠っていただけ ポケットの中の小さなシールが教えてくれる あの時の少年の情熱は まだ自分の内に息づいているのだと 「もう一度、跳び上がってみないか?」 静かに心に語りかける声が 胸の奥でこだまする そして ふと自分の口元がほころんでいるのに気づく 跳べる―― まだ終わりじゃない 夢の続きを歩くための道がここにある 大人になった今だからこそ 届く場所がある 男は改めて背筋を伸ばし もう一度 空を見上げる あの日 青空に響いた歓声が心の奥から蘇り 新たな一歩を踏み出す準備が整ったのを感じていた *** 次の朝 いつもの駅前に足を運びながら 男は静かに胸の奥で新しい決意を固めていた あの少年のように もう一度高く跳び上がる それは現実の中で新しい夢を見つけること 少年時代に抱いていた冒険の感覚を 少しでも取り戻すための旅が 今から始まる もうあの小さなシールを手にすることはないかもしれない けれど その輝きは きっと自分の人生の道標として これからもずっと胸の中に残り続けるだろう かつての自分に恥じないように 今の自分を生きるために ジャンプ 夢の続きがまだ私を呼んでいる
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少年ジャンプ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 283.7
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2024-11-06
コメント日時 2024-11-11
項目 | 全期間(2024/11/15現在) |
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叙情性 | 0 |
前衛性 | 0 |
可読性 | 0 |
エンタメ | 0 |
技巧 | 0 |
音韻 | 0 |
構成 | 0 |
総合ポイント | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
シールよりもともだちが捨てたウェハースを拾い食いしていたぼくは超のつく現実主義者だったのかもしれない。なんでもいいよ、うまかったし。
1よんじゅうさん、ご感想ありがとうございます。 この詩文は、ほぼほぼ実話を題材にしています。その日三つだけそのお菓子が売れ残っていまして、僕は友人に「それを買ったらヤマト爆神が出るよ」と嘯きました。友人は僕の言葉を信用せず一つも買いませんでした。手持ちが無かったので家まで帰り、祖母から百円玉をおねだりして店へ戻り残りの例の菓子を三つを買いました。帰り道に、封を開けてみると本当にそのシールが出てビックリしたのを今でも鮮明に覚えています。 あの頃は、たった30円で人気者になれました。そんな時代の空気感を何らかの形で残しておきたかったんですよね。
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