いますこし
あなたのかたわらで
あなたのつくる木陰に
わたしをやすめさせてください
かつて
あなたから遠く
遠くはなれていったわたしを
あなたの幹にもたげさせてください
あの日は
春の陽の光が
とてもやさしくあたたかでした
わたしはひとり巣をはなれました
見知らぬところへ
風がみちびくままに
ふたつのつばさをひろげ
わたしは飛んでゆきました。
いごこちよければとどまって
あきたころになればまた飛んでゆきました
ずいぶん遠くに飛んでゆきました
ずいぶんあなたからはなれてしまいました
そうこうしているうちに
わたしのつばさは病におかされました
りょうのつばさはばたかせて
遠くにまで飛べないようになったのです
そんなある日、わたり鳥の群れが
わたしのうえをとおりすぎてゆきました
それがあなたのうえをとおることを願って
わたしは群れのなかに飛びこみました
群れのうしろにつけば
遠い道のりを飛ぶことができるのです
それは遠く、遠く
はるかに遠い道のりを飛んでゆきました
何日も何日も飛びました
そのあいだもはねがぬけてゆきました
どんどんどんどんぬけてゆきました
目もすこうし見えなくなってゆきました
そうして、とうとう
ちからつきて落ちてしまったのです
ところがそこはあなたの枝のうえ
あなたの腕に抱きとめられたのです
あやまちをくりかえしくりかえし
わたしは生きてきました
もう二度とあなたのもとをはなれません
はなれることなどできないでしょう
つばさやぶれるまえに
病にやぶれるまえに
わたしはもどってくるべきでした
あなたのもとにもどってくるべきでした
いますこし
あなたのかたわらで
あなたのつくる木陰に
わたしをやすめさせてください
いますこし
あなたのかたわらで
あなたのつくる木陰に
わたしをやすめさせてください
─父に─
作品データ
コメント数 : 5
P V 数 : 228.4
お気に入り数: 0
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2024-10-01
コメント日時 1 時間前
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/10/02現在) |
叙情性 | 0 |
前衛性 | 0 |
可読性 | 0 |
エンタメ | 0 |
技巧 | 0 |
音韻 | 0 |
構成 | 0 |
総合ポイント | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
閲覧指数:228.4
2024/10/02 14時18分50秒現在
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近代詩的な構造の詩で、安心感があります!
0お読みくださり、ありがとうございました。 ぼくが27歳か28歳のときに書きました。
0より深く印象的に感情を伝えることができるものならば、そこには詩という言葉の力が起ち上がるのでしょう。比喩という技術もその一躍を担います。渡り鳥に喩えられた美しい言葉を配したこの文章を、例えば白紙に描かれるで解釈するならば優れた素描のようはものでしょう。 いまでは他文からの引用や形式的スタイルを中心に独特な言葉を繰り広げる筆者も、このような感情表現の基礎を通過してきたわけです。 おじさんもおばさんも歳を取れば老眼になり記憶力も低下する。そして舌も空回りする。悪意を表明する若い書き手たちはこのことを取り上げて老害などと評したりもする。当然新しき言葉は詩の書き手ならば憧れる。しかし忘れてはいけない。佳い書き手に成るにもちゃんと渡らなければならない道筋というものはあるのだ。
0アラガイsさんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
0渡り鳥の親子として、飛び続け、どこかへと渡って行った。子供の頃の生活は、空にふわふわ 浮かんでいくようなところがありますね。羽をなくし、木陰にやすらう。立派なお父さんを お持ちになられて、よかったですね。田中さんもそれに応えた。
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